第21話 過去の文化祭
高校生の文化祭といえば、もはやそれは青春でしかない。
しかしこの状況、青春訪れるのか?
家に帰り自分の部屋に入ると、そこには叶美が部屋の真ん中に正座をしていた。
「えーと、何してんの?」
「兄さん明日文化祭でしょ? 叶美も行きたいなって思って。行っていい?」
どこかのホテルに行くのかって聞きたくなるくらいの、エロかっこいい黒のワンピースを着て、目を潤わせながら上目遣いをする叶美を見て、俺の胸は貫かれた。
──胸のドキドキを抑えるため、10分の休憩をもらった。
きっとまだ頬は火照っているだろうが、落ち着きを取り戻した俺は、叶美に話の続きをする。
「で、でも文化祭に来ても楽しくないぞ? 昨年の文化祭思い出してみ、嫌な事しか思い浮かばないだろ?」
「うぅ……確かにそうだけど、でもさ!」
こういった話をする時でさえ、いつもエロゲーの一つや二つは手元にあるのに、今日は持っていない。
これは真剣に言っているということなのか?
そして、叶美は話を続ける。
「行ってみたいんだよ、兄さんの通ってる高校に。昨年はすぐ帰っちゃったけど、今年は兄さんの他の友達だっているだろうし、行く!」
「か、叶美……! ようやく行動派の陰キャラに転生したんだな? このまま毎日友達と遊ぶようになったら、兄として嬉しいんだが」
「転生!? なんか言葉のチョイス間違ってない? いや、まぁその話は置いといて、行っていいの?」
断る理由がないのに、ここまで拒む必要あるのか?
俺よ、落ち着け、明鏡止水という言葉を忘れるな。
昨年のあれを忘れたわけじゃないだろ?
自分に言い聞かせるかのように、昨年の文化祭を思い出した。
──高校一年の文化祭。
真紅高校は公立校ということもあり、文化祭には家族を呼べるが友達は呼べない。
つまりは高校の友達か家族と行動する他ないということ。
……家族と行動するのは恥でしかないが。
この頃志賀と那月の仲が悪かったので、俺は那月と行動することにした。
「今日は文化祭だね! 二人で並んでたら、付き合ってるように見られるんじゃない? やったねー!」
「いや、それは困るんだが。俺は妹の叶美が好きなんだから」
「もー! シスコンは後に引かれて、面倒事になるよ? なら私と付き合おうよ」
「なななな、何でそうなるの!? 大体那月の場合はバスケでモテるだろ。付き合ったら俺毎日フルボッコにされるわ」
少し勿体無い様な気もするが、俺は別に浮気性ではない。
見るからに落胆している那月に、俺はクスッと笑いながら、手を差し出して。
「文化祭楽しもうか。高校一年生の文化祭なんて一回しかないんだ、有意義に過ごさなくてどうするよ」
「そうだねっ! 私が浩ちゃんよりテンション低いことなんてあっちゃいけないよね! よーし、楽しむぞー」
少し酷いことを言いながらも、顔に笑顔を取り戻した那月を見て俺はホッとする。
俺と那月には役割がなかったので、王道と言えば王道の体育館へ向かうことにした。
すると、
「兄さん? 何で……その人と行動してるの?」
俺のいる場所は学校の四階。
あまり足の運ばれにくい場所。
の、はずだったのに、聞き覚えのある声が聞こえる。
「どうしてここに……? 楽しくないからこなくていいよって言ったじゃないか」
「そんな事はどうでもいい、どうしてその人と一緒にいるの? ねえ? 答えて?」
怖い、怖い、怖い、怖い!
妹に恐怖心を抱くなんて、一生ないと思っていたが、意外と早かったな。
成長を感じ、喜びに浸っているのも一瞬だった。
「何で答えないの? 答えれない関係になったとか? 肉体関係にでも陥ったの?」
「ちょっ、ちょい! 学校内でそういうこと言うのやめて!? 俺の評判だだ下がりになるから! み、見ろ、周りが俺の見る目を変えてきてる! どどどど、どうしよう!」
一人慌てふためく俺に、那月が優しく俺の肩にポンッと手を乗せ。
「童貞でしょ? 私と正真正銘の肉体関係になる?」
「この状況下での惑わしやめてくれる!? というか、お前も自分の評判下がるぞ? モテるお前が、俺と肉体関係だって知ったらみんなキレるだろうよ」
那月は少し微笑みながら一歩引く。
そして、誰にも聞こえない声で、
「否定はしないんだね」
「なんか言ったか?」
「んーん、何でもないよ!」
互いに笑いながら、仲良く会話をしていると叶美が、激昂しながら近寄ってくる。
「無視しないで! なんで無視するの? 私の事が嫌いになったの?」
「待て、落ち着け、無視したわけじゃないんだ。それに今は文化祭、楽しむ場所だから、場所を変えよう」
全然怒りが収まらないのか、激昂している叶美を宥めながら俺達は場所を移した。
──他クラスの喫茶店にて。
三人用の席が用意され、飲み物を三つ頼んだ。
「で、兄さんどういうことか話してくれる? 私でも理解出来るように」
「どういうことも何も、俺の他の友達に志賀ってヤツがいるんだけど、そいつと那月の仲悪いんだよ。だから俺は幼馴染の那月と行動してたんだ」
「私はそいつと仲悪いんだけど」
「来るって知らなかったから……」
まだ少し怒りが収まらない叶美をどう慰めようか、考えている時に那月はニヤニヤしていた。
俺が訝しげな表情をしながら那月を見ると、ニコッと笑い叶美に話しかける。
「叶美ちゃんさ、嫉妬してるの? ヤキモチ焼いてるって言った方が正しいかな? ん? どうなの?」
「「な、何言ってんの!?」」
俺と叶美が同時に大声を出し、我に返りハッとする。
ここ、他クラスだったわ。
そのクラスにいた人、廊下に出ていた人全員がシーンとし、こっちを見る。
俺達は恥ずかしくなり、お金を払ってその店を後にした──
「ったく、どうするよこの後。折角良い喫茶店風の所を見つけたってのに。帰っちまうか?」
「それは無理だよ。私は母さんと来てるんだから」
あ、だから叶美は学校にいたのか。
というか、
「それは俺が送ってくから心配するな。よし、帰ってお話をしよう……」
「いや、そんな事しなくても平気だよ浩ちゃん。一言言ってくれれば終わるから。ねえ、私と叶美ちゃんのどっちが好きなの?」
俺はその質問に対し、驚きを隠せなかった。
きっと叶美もそうだったんだろう、吃驚仰天という感じだ。
俺は答えに迷う、なんせ俺は友達と家族を比べた事なんてない。
だが、友達と家族はイコールに近いようで近くないんだ、きっと後には答えなければいけない問題なのかもしれない。
「俺はお前達を価値中立と思っていた。が、今日ばかりは答えを出さないといけないようだ。よく聞けよお前ら、俺が好きなの──」
「おーい、叶美、仕事入ったからそっち向かわなくちゃいけないから帰るわよ? あら、浩介どうしたの? 変な顔して」
それはあんたのせいだよ。
と、言っても空気を読んでくれたようだ、俺の母さん。
心の中でホッとする俺に、ウインクをする母さんを見て俺は、やっぱり分かってやったんだなと思った。
興がさめたのか、那月もやれやれといった感じで深追いをしなかった。
……と、まぁそんな感じで色々大変だったわけだが。
「本当に来るのか? 今回は他にも友達いるし、大丈夫だとは思うが……」
「そう! きっと大丈夫だよ! それより、兄さんの中二病技見てみたいなあ」
そういや言ったんだっけ。
ここはかっこよく決めようか。
俺は右手を前にかざし、左手を目元にやると、
「『メモリー・イレイズ』ッッッ!」
きっと、家中に響き渡ったことだろう。
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