第20話 期末テスト再び
人間という生き物は、面倒な事は基本手を抜いて生きている。
が、しかし、テストは違う。
授業中の態度が悪くても、テストさえやればどうにかなる。
授業態度が良くても、テスト一つで成績が5付くことがなくなったり。
と、言った具合で、面倒ながらもみんなテスト勉強をして、テストに挑むものである。
そんな中俺は、昨日いきなりテストと言われ、勉強時間もない中テストに挑むのである。
──一限目数学。
「テスト開始です!」
先生の一言でクラス全員が解答用紙と問題用紙をひっくり返す。
当然俺もひっくり返し、問題を一通り眺める。
「何これ、難しすぎないか?」
周囲にも聞こえないくらい超小さな声で呟く。
顔を青ざめる俺をみんなが知るはずもなく、空気も読まずに。
「カリカリカリカリカリカリ」
シャーペンで文字を書く音がここまでうざいものだとは知らなかった……!
やばい、こんな所で0点なんて取ってみろ、那月に合わせる顔がないぞ?
……こうなったら、とりあえず記号問題を勘で埋めて、数字を適当に書いてやる。
──休み時間、俺は机に突っ伏していた。
そんな俺の元に一人現れた。
「どうしたんですか? テストが出来な……ハッ! 渡すの忘れてました、これが無いから出来なかったんですね!?」
そう言って師匠が取り出したもの、それは蒼いカラコンだった。
当然未使用で、自分で言ってなんだが貰うには少し気が引ける。
「ええっ!? 何で受け取らないの!? さては
仮に変装できるヤツなら、俺みたいな何の取り柄をないヤツにはならないと思うんだが。
いや、待てよ?
こいつはテスト出来たのか?
「師匠、テスト出来たのか?」
「クックック……愚問を言わないでもらいましょうか! ギラつけ炯眼! 滅ぼせ殲滅! ブレイク・ザ・ワールド! の、持ち主である我にかかれば余裕です!」
唐突に技名言うからビビったあ……。
クラス全員が師匠に注目する中、俺は目を輝かせていた。
「し、師匠! その技名やっぱりかっこいいな! 俺には何かないのかな?」
「むむっ! それは考えていなかったですね……。では、近々考えついたのを教えます」
嬉々としてありがとうという俺に、満面の笑みを浮かべたまま去っていった。
さて、勉強しますか──
「キーンコーンカーンコーン」
もしかして師匠は俺の点数を下げようとしたのかな!?
──三日掛けて九教科が終わった。
昼食時、師匠を加えた五人でご飯を食べていた。
「テストってマジ面倒何だけど! 何あれ、イジメ? 最新のイジメじゃないの!?」
「テストは昔からあるから、イジメとかではないと思うぞ? 後、テストの話しないでくれ。俺ヤバいんだよ」
俺のテストは結局殆ど勘でやってしまったのだ。
神様、本当に存在するのであれば、俺のテストの点数を那月より上にしてください。
空を見上げながら願う俺に、山田が訝しげな顔をしながらこっちを見る。
「いきなりどうしたんだ? 弁当が不味かったのか?」
不躾に失礼な事を言う山田を睨みつけながら、俺は話題を変える。
「もうすぐ二学期も終わりだなあ。今年は何も無いかと思ったが、濃い一年だったな」
「えっ! 浩ちゃん何言ってるの? 今二学期なんだから、三学期待たずして一年って……頭悪くなったの!?」
人がいい話してる時に、空気の読めないことを……!
第一にこいつとは話が噛み合ってない気がするんだが。
「今年というのは一月から十二月を指すものであり、決して今年度と言ってるわけじゃないからな? 理解してるか?」
「ハッ! なるほど、そういう意味だったのか! 私理解能力ないなー! あはははは」
やっぱり陽キャラって生き物、この御時世において最強じゃないか?
ストレス社会と言われる日本。
しかし、陽キャラという人物はそれをものともせず生きていく。
何度もなりたいと思ったことはあったが、走った先は『中二病』だったなあ。
と、俺が考え事に耽っていると、それはもう本当に唐突に大声をあげ、満面の笑みを俺に向けて師匠が言う。
「『メモリー・イレイズ』ってかっこよくないですか!? 技名これにしましょう! 絶対かっこいいですから!」
口に含んでいた米粒を俺の顔面に飛ばしながら言う師匠に、顔の米粒を拭いながら答える。
「イレイズってなんだよ。英語かなんか知らんが、意味も分からず使いたくないぞ」
「クックック……単刀直入に言いますと、記憶を抹消する的な感じですかね? まー、間違ってたらすみません」
「謝られても困……って、なんて怖いセリフを言わせようとしてるんだ! 俺そんなこと言ってたら、常に職員室送りだよ!」
俺が激昂しながらそう言うと、素直に落ち込む師匠を見て少し気が引けてしまった。
ヤバい……ここで泣かせたとかいうあだ名がついてしまっては、後々面倒事になってしまう。
ここはどうにか取り繕って……、
「何で師匠が敬語で弟子が敬語を使わないんだ? 不自然じゃないか?」
ここまで静かだった山田が、いきなり的を得た事を言ってくる。
薄々勘づいてる俺の前でそれ言うの?
慌てふためく俺とは正反対に、師匠が堂々とした顔つき、声で。
「キャラ作りです!」
「んんー! やっぱり女子が敬語を使うって萌えるよね! 分かる、分かるぞ、うちみたいな長身が言ってもあまり効力はないが、推定145センチくらいの橘さんには適正だよな! うちにも敬語を……!」
「お前さっき使われただろ」
息を荒くし、はあはあ言う山田はどうしようもない百合だと言うことが分かった。
さて、本題だ。
俺はこのまま『メモリー・イレイズ』をセリフにしていいのだろうか。
どことなくかっこいいこのセリフを使いたいという気持ちはあるが、流石にどうしようか悩む。
手に顎を乗せ、遠くを見ながらボーッとしていると、
「叶美ちゃんに聞いたら?」
「なるほど、その手があったわ」
ここ最近頭が切れる那月を見て思う。
なんか変なもの食べたんじゃ……?
と、思う反面、感動もしている。
ウザいと思った時期もあったが、今になってはここまで成長したんだなあ。
俺が目尻に涙を浮かべ、感動に浸っていると、未だにハアハア言っている山田が、頬を赤く染めながら、
「敬語を使わせるなんてやるじゃないか、浩介。うちは感動したぞ。ロリに近い子に敬語を使わせるとかやはりお前も発情期か!」
「お前『も』ってなんだよ。俺は違う──」
「発情期なの!? じゃあ私が抜いて……」
「ナチュラルに下ネタをぶっ込むな。……それと、那月さ、その手を上下にする動きやめよか」
別に俺は発情期でも何でもない。
ただ勝手に師匠が敬語使うだけなのに、なぜ俺に非があるようにならなければいけないのかが分からない。
そんな俺達の会話を無視するかのように会話に入ってきた。
「明日文化祭ってよ」
今日何度目かわからないが、言わしてほしい。
唐突かよ。
気を取り直して考えてみると、おかしくないか?
「なんで俺達には聞かされてないんだよ」
「うちも知らなかったんだが」
「私も知らなかった」
「我が眼を持ってしても知らなかったです」
那月はともかく、俺達三人同じクラスなのに知らないっておかしいよな。
何せ志賀は知ってるんだから。
そんな俺達の疑問はすぐに解決した。
「どうやらクラスの浮いてる人、問題を起こしそうな人には声を掛けてないらしい。俺だって含まれてたが、先生に教えてもらったからな。一応クラスのムードメーカーと思われたらしく」
なるほど、全てが理解出来た。
簡潔にいうと、
「俺達邪魔者なんだなあ」
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