第22話 これが俺達の文化祭!

 ──文化祭当日。


 学校へ到達すると、自分のクラスだけでなく、他のクラスまでいろんな服装をしている。

 ……羨ましい。

 俺も素直になって青春を満喫すればいいだけの話なんだろうが、今はクラスの連中よりも──


「浩ちゃん、一緒にまわろうよ!」

「早く行こう、浩介!」

「楽しみましょう、蒼眼サファイア!」

「へいへい! もたもたしてたら置いてくぞ? 浩介っち!」


 ……俺はいい友達を持ったなあ。

 目に浮かぶ涙を手で拭いとり、


「ああ、行こうか、文化祭へ!」


「──で、何で屋上にいるんだよ」

「いやはや、あれはキツすぎるでしょー」


 文化祭が始まり五分。

 俺達はいつも通り屋上に来ていた。


「師匠! このまま屋上にいては良くないんじゃないか? みんなで楽しもうよ」

「そうは言っても出来ることと出来ないことがあると思います……。我が力を持ってしてもあの人集りはどうしようも……」


 確かに言ってることは正しい。

 俺もまさか、あんなに千客万来な学校だとは思っていなかった。


 ──数分前に遡る。


「とりあえずもう始まるし、どこ行くか決めとくか?」

「じゃあ六組来る? 確か喫茶店やってたと思うし」

「いや、ちょっと待ってくれ。もうすぐ来るはずなんだ」


 俺がそう言ってまもなく、彼女が現れた。


「あ、いた。探したよ、兄さん」


 そう、妹の叶美である。

 普段引きこもり系の陰キャラである叶美だが、何故か文化祭は見に来てくれる。

 叶美がいうには俺の友達を見たいんだとか。

 ……まさかとは思うが、俺に友達がいないとか思われてないよな?

 俺の友達を見てオロオロする叶美を見て俺は心配になるが、那月達はどう──


「かっわいいー! おい浩介、この子本当にお前の妹なのか!? これなら浩介と結婚してやってもいいな!」


 何言ってやがるんだ、こいつは。


「おお、まさか蒼眼サファイアにこんな可愛い妹がいたとは思いませんでした……。我は師匠という立場です、よろしくお願いします」


 何かみんな硬いなあ。

 だけどいい雰囲気を醸し出しているな。

 このままいけば那月も……、


「あれあれー? お兄ちゃん大好きシスコンちゃん、こんな所に来たんだー! 何? 兄が私に取られるのが嫌だったの? あれれ、怒っちゃったかな?」

「う、うるさい! 叶美は一言も兄さんが好きなんて言ってない! ……え、兄さんどうしたの? なんで落ち込んでるの?」


 くっ……思わぬ所から被弾を食らってしまった……。

 いや、でも好きと言ってないだけで、本当は好きなのかもしれない。

 そうだ、絶対そう、気に病むことはない……はず。

 俺は落ち込んでる場合ではないと感じ、立ち直りみんなの方を向くと、


「おっしゃー! お前ら、こんな屋上でグダグダやってないで文化祭行くぞ! 高校二年の文化祭は一生来ないんだ、青春を満喫してやろうぜ!」

「「「「「うん!」」」」」


 文化祭はあと五時間、俺達は一斉に階段を駆け下り、那月のクラスへと向かった──


「──どういう事だよ、何であんなに人がいるんだ?」


 気づけばまた屋上に来ていた。

 きっと家族連れが多いのだろう、どこの店も大行列だった。


「ありえないだろ、今日って木曜日だぞ? 平日の昼前に何やってんだよ。社会人は仕事行けやー!」

「落ち着いてよ。兄さんがどう言おうと、誰一人として聞いてくれないよ」


 激昂する俺に向かって、至って冷静に答える叶美。

 だがその表情は、どこか寂しそうだ。

 俺になにか出来ないのか?

 頭を冷やせ、フル回転で物事を考えろ!

 決してそうとは思わないが、俺もラブコメ主人公に近いような人生を歩んでるじゃないか。

 なのになぜ何も浮かばないんだ──


「もう一層の事、屋上に残り一時間くらいまでいませんか?」


 師匠の一言により、その場の五人が静まり返る。

 そして俺は目を輝かせながら師匠の元へ行き。


「いいアイデアじゃないか! 終わるのは三時、二時くらいから周れば人が少ないかもしれない!」

「その通りです! ようやく蒼眼サファイアが元気になりましたね」


 俺を元気づける為にアイデアを?

 師匠にはやっぱり適わないな。

 感心しながらコクコク頷く俺に、訝しげな顔をしながら叶美が聞く。


「何で兄さんが弟子なのに敬語使わないの? 普通逆じゃない?」

「いいことを教えてあげよう。あのな、世の中普通が全てじゃないんだ。わかった?」

「全然わかんない」


 そうか、そうだよな、俺も叶美の立場なら変に思う。

 が、時にはツッコミをいれてはいけない時もあるって事を教えこまなければ!

 俺が続けて言おうとした時、那月が口を挟む。


「叶美ちゃんの好きなお兄ちゃんはね? 学校では横行跋扈なんだよ? そんな人嫌だよね? じゃあ手、引こうか」

「何でそんなに突っかかって来るの? 叶美はあんたと話したくない、あっち行ってシッシ」


 声に出しながら人を追いやる人を見るのは久しぶりだなあ。

 と、俺がクスクス笑うと、隣からブツブツ小言を発しているヤツがいた。


「叶美っち可愛いな。俺と付き合ってくれるかな? 浩介っちの事が好きなら、もはや誰でもいいのでは? 俺は浩介っちと仲いいですって言えばいけるのでは? よし、それでいこうか。そうしよ……」

「お前にはやらないぞ?」


 俺にしか聞こえない声で呟いていたので、あらかじめ釘を刺しておいた。

 もしかして叶美ってモテるのか?

 一つ屋根の下にいる俺が好きになるくらいだ、モテないわけないよな。

 落ち込む俺に、少し遠くにいた叶美がわざわざ俺の近くに来てくれた。


「どうしたの? 何か落ち込んでるように見えたんだけど、気のせい? 気のせいならいいんだけど」

「気のせいっていうか、叶美が来てくれたから治ったっていうか。まあ何にせよ、ありがとうな」


 俺の一言に照れる叶美を見て、何故か俺も照れる。

 お互い顔を伏せ、じっとしていると、


「トランプしないか!? うち持ってきたんだが、どうだろうか」

「山田さん、何で文化祭にトランプ持ってきてるの?」

「文化祭とは何をするのか分からなくてな。とりあえずトランプが主流かと」


 こいつはどこの人なんだよ。

 今の時代にトランプが主流の国なんてないだろうに。

 内心色々言っているが、俺ももちろんやりたいので、山田に近づこうとすると。


「俺はやりたくないかな。や、別に山田を否定するわけじゃないが、気分的にな」

「そうか……」


 見るからに落ち込む山田を俺達四人が見守る中、志賀はとても気まづそうにしている。

 そもそも志賀は何を考えて、こんな馬鹿げた事を言ったんだろうか。


「折角なんだから、お話をしないか? 後二時間、叶美っちもいるんだしさ」


 ほう、ちゃんと考えてものを言った……、


「誤魔化せた……」


 なるほど、今考えたのか。

 ボソッと呟く志賀のセリフに、心の中でツッコミを入れながら、みんなの反応を見る。

 すると、


「いいアイデアじゃないか。うちは賛成だぞ」

「私もいいと思うよー」

「クックック……我が碧眼に反応するアイデアです。これはいいアイデアという意味ですよ!」


 ふむふむ、みんないいと思って……ん?


「え、師匠の右眼が碧眼になってる!? いつからなってたんだ?」

「なっ! 気づいてもらえてなかったとは思いませんでした……。この眼は蒼眼サファイアに青色のコンタクトをあげた次の日からですよ? 酷いなあ、我は師匠なのに」


 俯き落ち込む師匠を見て俺は思う。

 なんか、すみません!!


「──じゃあ気を取り直して、何か会話をしようか。誰か話すことある人、手を挙げてくれ」

「はーい! 我のアイデアを聞いてくれる者いませんかー?」


 この状況下で聞かないヤツ、まずいないだろうに。

 全員で円を作るように丸くなり、一人立ち上がった師匠の方を全員が見る。


「部活を作りたいと思うんですが、どう思いますか? 作るには高校二年生の間でないといけないっぽいんですよ」

「あーなるほどな、それはいいかもしれないな。ザ・高校生って感じもするしな」


 他のみんなも賛成してくれて、決定かと思ったその時。


「おれ、入れないんだけど」


 申し訳なさそうに手を挙げる志賀。

 自信がサッカー部として活動してるから、入れないのは当たり前なんだから、そんな風に申し訳なさそうにする理由がわからない。

 と、安易な考えをした俺が馬鹿だったんだと思い知らされる。


「俺はさ、こういった空気を乱すような事はあまり言いたくないんだよ」


 少しくらい表情でそんな事を言う志賀を見てみんな静まり返る。

 この均衡を破るかのように口を開いたのは那月だった。


「私もバスケやってるし出来ないから一緒だね。だけど私の場合は浩ちゃんが作って入るっていうなら入るけどねー」

「ええっ!? 那月の場合、バスケ取ったら進級出来ないんじゃないか? ちょっ、なんで下向いてるんだ? まさかとは思うが、当たったとか言わないよな? ねえ、否定してくれー!」


 全く反対しない那月を見て、図星だったんだと確信した。


 ──そんなこんなで話が進……、


「まないじゃないか。なあ師匠、どういう部にするかを決めないと難しいと思う」

「確かにそうですね。ハッ! 閃きました! 『中二部』ってのはどうでしょうか!」

「それだと俺らが中二みたいじゃないか」


 落ち込む師匠見て俺は思う。

 なんか今日みんな落ち込み過ぎじゃね!?

 今日って文化祭だよね?

 文化祭というのはワイワイ楽しむものだよね!?

 いいのか? このままで本当にいいのか!?

 今回こそ頭を使え、フル回転で物事を考えろ!


「『陰キャ部』にすればいいと思う。勝手に会話に入って言うのもアレだけど、折角この場にいるから、一言くらい……」


 妹よ、俺の立場がなくなってしまうよ。

 なんて情けない事を言う前にアイデアを……!

 俺が頭を抱え必死に考える中、話は進んでいた。


「それは確かにいいと思います。我が碧眼が反応しています……! 陰キャラという言葉に!」

「うちも賛成だ。美少女がいるとこうちありだからな!」


 これもう俺いらなくね?

 頭が切れないヤツって邪魔だなってアニメで思ったことあるが、仮にこれがアニメ内なら俺は俺というキャラを嫌っているだろう。

 と、そんな時、あの空気読めない代表選手が口を開く。


「『陰キャ部』とか、了承される訳ないじゃん。そもそも活動内容とかも決めれないだろうし、ある必要性がないよ? そんな変な部作るくらいなら、私の考えた『陽キャ部』にしなよ!」


 元気いっぱいにそういう那月を見て、多分みんな思っただろう。


 何言ってんだこいつ、と。


 そもそもそのアイデア自体が、叶美のアイデアとイコールで結べる様な気がするし。

 没だな……と、思った瞬間。


「確かに陰キャ部より陽キャ部のが、明るさがある気がします……。でも我は陰キャラ。悩ましい、非常に悩ましいです!」


 髪をくしゃくしゃしながら本気で悩む師匠。

 俺はそんな師匠に言ってやりたい。


 どっちでも良くね?


 だが、ここで水を差すのは野暮というもの。

 見守るが吉。


「何で叶美の意見に反論するの!? 陰キャ部にしてくれれば、叶美だっていつでも行けるし、ウィンウィンじゃん!」

「何が陰キャ部よ、そんなの学校を腐らすでしかない。要らないよ、そんな──」

「言い過ぎだ、那月!」


 涙目になり、今すぐにでも泣きそうな叶美の頭にポンと手を乗せ、慰めながら俺は那月に怒る。


「そんなにも言うことはないだろ。叶美が折角良い意見を出してるんだ、素直に認めるべきじゃないか? 師匠だって髪をくしゃくしゃにしながらも、必死に悩んでる。そんなギスギスした中で部活なんて作ったって、すぐ廃部になるだけだ!」


 俺が声を荒げながら那月に向かって言う。

 その場がシーンとなり、俺は頬を火照らせながらも雰囲気を壊すわけにはいかず、かっこつけたままのポーズを取り続ける。


「やっぱり浩ちゃんは叶美ちゃんの味方をする! 絶対そうだと思ったよ! でも……それでこそ浩ちゃんだなって思った。いいんじゃない? 陰キャ部、賛成するよ」

「な、なんか言い過ぎた気がするから、謝らせてくれ。すまなかった。時に俺は冷静でいられない時がある、主に叶美に関することだが。でも、賛成してくれるのは有難い、一緒に楽しもう」


 手を差し出すと、那月も涙ぐんだまま手を握る。

 友情……素晴らしい!

 そんな俺達の友情を見て刺激されたのか、師匠と山田も駆け寄ってきて。


「我を忘れるなんて酷いですよー! 作ってやりましょう、陰キャ部を!」

「ああ! 絶対良い部になる。何せ、こんなにも苦労したんだからな!」


 癖でお前は苦労してないだろって言いそうだったが、こんな良い雰囲気は壊したくない。

 叶美も交じり、みんなで友情を確かめ合っていると、志賀が。


「そろそろ文化祭行かない? 後、三十分しかないしさ」

「「「「「えっ……」」」」」


 絶句混じりに声を揃えた。


「とりあえずどこ行くよ、やっぱ那月のクラスか?」

「喫茶店だから、もう終わってるかも。行くなら体育館とか? 多分演劇やってると思う」

「よしそれだ! 時間が無いから早く行こうぜ!」


「「「「「おう!」」」」」


 息が合うなあ。


 駆け足で体育館へと向かうと、そこには桃太郎の劇をした演劇部がいた。

 劇は終盤、桃太郎が玉手箱を貰うシーンだった。


「これ、もう終わりじゃないか」

「本当ですね。どうします?」


 真剣な表情で質問をしてくる師匠に、俺は言葉を失う。

 残り二十分、どこか、どこかいい場所ないのか……?

 すると、今まで全然何も浮かばなかった俺の脳裏に、一つのアイデアが浮かんだ。


 そう、お化け屋敷である。


 みんなを体育館の外へ連れ出し、提案していると。


「いいですね! 賛成です」

「兄さん、叶美……楽しみ!」


 その他も賛成してくれて、いざお化け屋敷へ!


「──なぜ二組だけしかないんだ」


 全校18クラスもあるのに、一つしかないなんてありえるのか?

 俺達がお化け屋敷の前に立ち、入ろうとすると。


「二人グループで入ってくださーい」


 少し馴れ馴れしく話し掛けてくるのは、以前少しいざこざがあった奈楠だった。

 面倒事を避けるため、ちゃんと話を聞き二人グループで中に入る。


 ──第一陣、那月と師匠ペア。


「ワクワクしますね! ね!」

「何で浩ちゃんじゃないの? 私は浩ちゃんが良かったのに! 何で? 何で関わりのないあんたと??」

「そんなこと言われても知りませんよ。これ決めたの蒼眼サファイア何ですから」


 と、ブツブツ文句を言う那月を宥めながら、お化け屋敷を後にした。


 ──第二陣、山田と志賀ペア。


 入って早々思ったことだが。


 気まづい。


 付き合って別れて、そんな人と今お化け屋敷の中にいるのか? 俺は。

 どうしよう、何か話すべきなんじゃ……、


「今日は楽しかったな」


 優しく微笑みながら、少しぎこちないながらも話を振ってくれる山田っちを見てつくづく思う。

 もっと男らしく生きろ。

 俺だって楽しかったんだ、この最後のお化け屋敷というイベントをちゃんと遂行しなくてどうするんだ。


「俺も楽しかったなあ。来年もまた、みんなでまわれるかな?」

「きっと大丈夫だと思うぞ」


 ──俺の青春は、今始まったのかもしれない。


 ──第三陣、浩介と叶美ペア。


「怖い、怖いよ兄さん! 突然脅かしてくるんだよ!? 犯罪じゃない? ねえ、犯罪だよね!?」

「えっ、叶美ってお化け屋敷来たことないのか? それはきっとエロゲーのしすぎだ。今日から頻度を減ら……」


 俺が最後まで言い終える前に、腕に柔らかい感触が。


「きゃっ! 出よう、出ようよー……」


 腕に飛びつく叶美が可愛すぎる!

 お化けさん、どうもありがとうございます!

 この腕にある柔らかい感触を俺はまだ当分忘れませんから!

 叶美が怖がる中、俺はそれしか考えていなかった。


 外に出ると、みんな俺達を待っていた。

 そして、みんなの顔を見ながら俺は一つ質問をする。


「今日は楽しかったか?」


 おのおの頷くのを見てホッとする。

 その後、教室に戻り、先生に話を聞かれた。

 その内容は、お前達全然見かけなかったが、楽しめたのか? と、いうもの。

 その質問に対し、俺達は声を揃えた。


「これが俺達の文化祭の楽しみ方です!」


 そういって、今日を終えた──








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