第16話『S・N・D』
S・N・Dを決行する日。
登校中の俺と那月には少しの緊張がみられる中、山田が陽気なことを言い出す。
「今日どうなると思う? ま、どうでもいいけどなー」
「「よくない!」」
久しぶりに那月と息が合うことにお互い笑みを浮かべながら、ハイタッチをした。
山田は俺らに少し戸惑いながらも、ちゃんと仲直りしようという気はあるように見えた。
さっきの山田の発言で那月の表情が明るくなったので、プラマイで言えばプラスになったかな。
学校へ到着すると、眉をしかめた明らかにキレてる先生が校門に立っていた。
ずっとこっちにがんを飛ばす先生に近づかないよう、先生から少し離れて学校に入ろうとすると。
「なぜ離れる? 用事があるからもう少し近づけ。もちろん三人ともな」
「え、俺は用事ないんで行かなくていいですか? それにもうすぐで授業──」
「いいから来いって言ってんだろうがああああああ!!」
昨日の俺の声を遥か上回る怒鳴り声を出し、教室に入っている生徒が窓から覗くぐらいレアなケースに遭遇してしまった。
これが他人だったら笑い話だったなあ。
怒鳴られ後、放課後に職員室へ来いといわれた。
これがどういう意味を指すかというと、つまりは『S・N・D』が、決行出来ないということ。
三人はテンション下がりながら各教室へと戻った。
すると、最近ほとんど関わりを持っていなかった志賀が、訝しげな面持ちで山田ではなく俺の腕を引っ張り廊下へと連れていった。
教室内がざわめく中、志賀はそれを意に返さず俺に話をする。
「友達の作り方を教えてください」
「いきなりお前は何なんだよ」
あまりに唐突すぎる質問に、思わずツッコミをいれてしまうが、志賀は気にせず続ける。
「浩介っちに山田っちと話さなくなってから、俺と話してくれる人がいなくなったんだよ。俺はクラスのムードメーカーだと思っていたが、そうではなかったみたいで……」
「だからってなぜ俺に訊く? 俺だって話しているのは那月と山田くらいだし。2人か0人かの差じゃないか」
「どう見ても大きな差だよね!?」
どう見てもではないが、言っていて確かに差がでかいな……。
だがしかし、この状況を好都合と言わざるを得ないだろう。
元々『S・N・D』を成功させるべく志賀には遅かれ早かれ話す気でいたんだ。
よし、このまま上手く話を持っていければ──
「あ、でもやっぱり山田っちとは仲良くしたくないかな」
俺の考えを読んだかのような回答。
俺自身まさか初手で潰されるとは思っていなかったので、驚きを隠せずにいると、
「浩介っち大丈夫か!? みみみみ、水をあげればいいのか!?」
「いや、大丈夫だ。まず第一にお前が落ち着け」
顔を青ざめながら水を持ってこようかキョロキョロしている志賀に、俺は逆に落ち着きを取り戻すことが出来た。
そこについては感謝だが、山田と仲良くはしてくれないのかあ……。
落胆する俺に、志賀は訝しげな顔をしながら尋ねる。
「どしたん? ……とか言いつつ少しばかり予想ついてるけどさ、大方俺に山田と仲良くなってほしいんだろ? 俺は浩介っちと仲良くなれただけで充分だよ」
ある一つの言葉が俺の頭に残る。
それは、浩介っちと仲良くなれたという部分だ。
……志賀には悪いが、このセリフを利用させてもらおうか!
「俺はお前と仲良くなったとは思っていないぞ? 確かにまた前みたいに仲良くなれたらいいなとは思う、思うが、山田や那月と仲良くしない志賀とは無理だな」
「そそそそ、そんなぁ……。よし分かった、仲良くするフリをすればいいのか?」
「馬鹿じゃないのか!? いいわけないだろう!」
呆れたことをいう志賀に、大声を出していると。
「またお前かこらああああ!! 何時間説教されたい? 今朝の件を合わせると六時間といったところかなあ? おい、どうした? 返事してみろよ」
相変わらず先生とは思えぬ口調で挑発気味に話してくるので、少し頭がカチンとし、
「そんなこと言ってると学校辞めさせられますよ? いいんですか? まぁ、僕としてはどっちでもいいんですけどねぇ?」
「先生にその態度をとるとはいい度胸じゃないか。説教をくらいたいってのがよく伝わった。今日は授業に出なくていい、六限分ずっと説教を味わせでやろう!」
挑発すればいいようになると、安易な考えをした俺が馬鹿だった。
万策尽き──
「待ってくださいよ! この状況を作り出したのは俺の責任、つまりは俺を身代わりとして連れさればいい!」
自分の言ったことがカッコイイと思ったのか、ものすごいドヤ顔をしながら俺の方をチラッと向く。
……カッコイイけど、後のことを考えてるのだろうか。
俺の不安も虚しく、案の定志賀は泣き喚きながら先生に連れていかれた。
──放課後、俺達三人は先生に呼ばれたので向い、俺が先頭で職員室の扉を開けると。
「もういいじゃないですか……グスッ……そろそろ解放してくれたって罰当たりませんよ……?」
ずっと泣いていたのか、目の下が赤くなっており、今もまだ泣いている。
この状態の志賀を見たのはまだ俺だけ、山田達には見せないようにしないと……!
「浩ちゃん? 早く入ろうよ」
「待ちたまえ! 少々待ちたまえ! 本当に待ちたまえ!!」
語彙力皆無と化した俺のセリフに那月がクスクス笑いながら、次は山田が話しかけてくる。
「早く入らないか? うちは早く終わらせて、君達が言ってくるから『S・N・D』を遂行させたいんだが」
「山田さん? 僕が必死に入れないようにしてるのに、まだ話を続けるのかい? とりあえず職員室には俺が入り、状況を確認してくるからちょっと待っていてくれ」
俺が真面目な顔をして話したのが幸をなしたのか、二人はコクリと頷き後ずさった。
当然、職員室の前で長いこと話してたので注目の的は俺にあるわけだが、当の俺を怒るはずの先生は志賀を怒ってる最中なのでこっちには来れない。
……よかった。
胸を撫で下ろす思いでツカツカ先生の方に歩いていった──
「──おう、よく堂々と一人で来たなあ? 女子を庇っていたようだが、かっこよくも何ともないぞ?」
すぐ侮辱してくる強面の先生。
いつもながら腹立たしいが、ここは下手に出ようか。
「別に庇ってきたというわけではありません。それより、志賀を怒っている最中で悪いんですが、僕を怒ろうとした理由とは何か聞いても?」
事実俺は庇ったわけではなく、志賀の姿を見せないようにしただけだ。
さて、怒られる覚悟をしようか──
──あれから何時間経っ……つのかと思ったが、五分くらいで終わらされた。
何を話されたかというと、転校生が来るのであまり煩くしないでくれ、と言われたのだ。
勝手に怒られると勘違いした俺は、自分が恥ずかしくなったが、先生が怒りやすいんだから勘違いしても仕方ないよな!
……仕方ないはず。
志賀も解放され、涙に顔を汚されていたので洗面台で顔を洗っていた。
俺が職員室に出る前、志賀にはある事を伝えておいた。
『職員室前には山田と那月を待機させてある。顔を洗い次第、何を話すか心に決めておけよ』と。
俺達三人は職員室前にずっと待機し、今か今かと心待ちにしていると。
「や、やあ」
緊張混じりのせいか、少し上ずった声を出しながら、顔を火照らせながら出てきた。
この状況で俺達はどんな顔をすればいいのだろうか。
二人を見てみると、那月はそっぽを向き、山田は真顔で志賀に少し睨んでいた。
……山田、肝据わりすぎたろ。
硬直状態を破ったのは、山田だった。
「うちと友達になってくれるか?」
そのセリフを残したまま、スっと手を前に出す。
唐突すぎるだろ! なんてツッコミを今言うのは野暮というものだろう。
志賀は山田が差し出した手を見て、目尻に涙を溜めながら。
「お前は……こんな俺でもまだ仲良くしようと思うのか? ……あんな酷い俺でも……?」
「あ、あぁ。うちも別に気にしてないし、また仲良くしよう」
あ、こいつ、俺が仲良くしろって言ったから特に気にしてないって感じか?
那月と仲良くなれたから別に他の事はなるようになれって考えなんだろう。
百合パワー恐るべしと言ったところか。
──最終的には上手くいった『S・N・D』。
あれから何日か皆でまた仲良くなり、もちろん叶美とももっと仲良くなった。
そんな俺達の仲もつかの間、転校生により俺達の関係はまた崩されるのであった──
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