第17話 叶美の心情
昼食時、仲を取り戻した俺達四人は屋上にて共にしている。
「いやー、また仲良くなれてよかったなあ」
「これも全て浩ちゃんのお陰だねっ!」
「確かに浩介がいなければ、うちも那月さんと仲良くなれなかったかもしれないしな」
「ッ!? 俺と仲良くなりたかったんじゃなかったのか!?」
山田の予想外の答えに慌てふためく志賀を他所に、俺は那月と語っていた。
「アニメとかだと幼馴染と喧嘩とかしないのに、俺達はしたんだよなあ。なんかレアキャラみたいじゃないか?」
「んー……アニメ見ないからなんとも言えないけど、喧嘩は珍しいかもね! イェーイ、レアキャラだー!」
一緒に笑い合いながら凄く思う。
陽キャラとは一緒に居て楽しいよなあ。
だからと言って叶美に陽キャラになってもらいたい訳では無い。
那月との会話中、昨日の叶美とのやり取りを思い出して俺は赤面させていた。
──昨夜。
いつも通り学校から帰ると、俺はソファーに座りながらテレビを見ていた。
ここ最近のお笑い芸人の面白さが分からず、気難しい顔をしていると。
「兄さん……部屋に来てほしい。来てくれる?」
「あ、当たり前だろ! 俺は何事よりも叶美を優先するからな!」
ソファーに座る俺の胸元に、しおらしい表情をしながら寄り添ってくる叶美に理性を保ちながら部屋へ向かった。
部屋に呼ぶほどの事って何なんだろうか、夜だし押し倒せば俺の好きなように出来るこの状況はやばい。
俺の下半身から変な汁が出なければいいんだが……。
そんな不安をよそに、遂に部屋へ到達してしまった。
「さ、入って」
叶美が自分の部屋の扉を開けてくれたので、遠慮なく部屋に入る。
その部屋は少し来ない間に物凄く変わってたので思わず、
「……本当にここが叶美の部屋だよな?」
「何言ってるの? 当たり前じゃん」
知ってるよ、知ってるけど認めたくないんだよ!
壁一面に置かれた本棚らしきものに敷き詰められているもの、それは紛れもなく、
「エロゲーとエロ本じゃないか……」
「フッフッフ……やっぱり兄さんはそこに気がつくよね! 流石我が兄といったところか、エロゲーに目がないとは! この前貸したキツネさんのやつを完成させれなかったみたいだけど、今回貸す『お兄ちゃんそれらめええええ!』は、難易度低いよ! さ、やろう、今すぐやろう!」
普段大人しいのにエロゲーになると、水を得た魚のように元気になるなあ……。
……いや待て、今叶美が貸そうとしたタイトルって『お兄ちゃんそれらめええええ!』とか言ってなかったか?
それを聞いて俺は、エロゲーなんてやめさせた方がいいと思うと同時に、そうされるのを期待してるのかって思ってしまう。
顔を火照らせながら自分の部屋の椅子に座る叶美を、今すぐにでも押し倒してしまいそうだ。
おい、俺の理性よ、しっかり仕事してくれ!
妹を襲ったらもう世に出れないし、那月には土下座ではすまないようになってしまうぞ!
あれ、よく見れば叶美の服が可愛すぎるんだが。
真っ白のワンピースに、水で濡らしてしまえば透けてしまいそうな薄っぺらい服装。
これはあれだ、誘ってるんだ!
よし、覚悟は決めた、後のことはなるようになれだ。
俺は叶美の肩に手を──
「さ、ゲームやっ……何してるの? 何で叶美に近づいてるの? え、本当に何してるの?」
ふぅと、息を整えて改めて思う。
これ詰みだわ。
言い訳なんて出来る状況じゃない、襲って少年法で裁かれるか?
叶美が何も言わなければ捕まることはないが、兄妹間でこんな事があれば絶対に伝わってしまう──
「兄さん、そこでやめたらこの先機会あるかわからないよ?」
顔を赤面させながら、少し息を荒くしながら叶美がそう呟く。
この先何が起こるか分かった上で叶美は言ってるのか……?
ラブコメ主人公を見てきて俺はいつも思う、明らかに相手に好意があるんだから自分の好きなようにしろよ、と。
だが、今この状況に陥ってよく思う、ラブコメ主人公の方々に土下座して謝りたい。
本当に謝りますので、この状況どうしたらいいか教えてもらえないでしょうか。
なんて思っていても仕方ない。
近くにベッドがあり、椅子に座りながらしおらしい顔をしている叶美を見て俺は、男らしく堂々とすることにした。
叶美を持ち上げてベッドに押し倒し、そのままの流れでヤってしまえば俺の勝ちだ。
椅子に座る叶美を、お姫様抱っこする様な感じで持ち上げようとすると、
──プルルルルルル。
俺のスマホに、誰か分からないが電話が掛かってきた。
どうせそんなこったろうと思ったけどね!!
ラブコメ主人公はいつもこう上手くいかないんだ。
……心の中でどこかホッとしている自分がいるのが情けない。
と、思いながらも電話の相手を見てみると。
「那月……か」
「ここまで空気が読めない人とは思ってなかった! やはりあの人は一回しめるべき」
「しめるとかどこで習ったんだよ……」
目を血走らせながら物騒な事を言う叶美を宥め、部屋を出て電話をしようとした所を叶美に止められた。
「何で止めるんだよ、内容聞きたくないだろ?」
「電話なんだから聞こえないでしょ」
「そういう意味じゃないよ。俺の声を聞いたら何となくで内容伝わるでしょうよ。まぁいいや、とりあえず電話する……って、切れてるッッッ!」
カーテンの隙間から光る月明かり。
その月明かりに照らされて可愛さが余計に引き立つロリっ子妹。
十数年間こんな美少女と一緒の屋根の下に居れたかと思うと、とても幸運の持ち主なんだな。
──ピコン。
電話が掛かってきて数分後、一通のメールが届いた。
メールの相手は那月。
『さっきの電話ミスだから気にしないでねー!』
なんか分かってて掛けてきたみたいな感じだが、助けられたのは事実だし良しとしようか。
唐突だが俺は叶美に一つ問いたい。
「叶美は俺の事どう思ってるんだ?」
我に返り、自分のした質問にハッとする。
答えが知りたいが、答え次第では俺は立ち直れないかもしれない。
俺が赤面させた顔を手で覆いうずくまっていると、叶美がクスリと笑いながら。
「そんな恥ずかしがる事じゃないんじゃない? 兄妹間で気になることは言い合うってのは普通だと思うし。ふふっ……叶美は兄さんの事──だよ」
「えっ。なんて言った? 聞き取れなかったからもう一回……」
「あー、眠いなー。もう十二時だよ? さ、出てって出てって」
事実なんて言っているか分からなかったが、顔を火照らせ、どことなく切ない表情をしている叶美を俺はこの時、何も分かってやれてなかった。
……結局俺は童貞か。
やっぱ好きなヤツとヤるのが一番だよな。
今日は四人で笑い合いながら学校を終えた。
家に帰り、叶美の顔を見ると少し気まづい空気が流れ、お互い微笑を浮かべながら部屋へ戻った。
……あれ、何で叶美は部屋を出ていたんだろう。
深く考えるのはやめてさっさと寝よう。
次の日、転校生が現れた。
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