第15話 那月と山田の関係( 2 )
目の前に広がる光景、それは紛れもなくみてはいけな──
「こ、浩ちゃん!? 誤解してないよね!?」
誤解も何もないだろう。
女子二人がブレザーを脱ぎあって誰もいない屋上でキスしようとしてたら誤解なんてしない。
「失礼しました」
「待ってー!! やっぱり誤解してるじゃん! これには深い理由がー!!」
──那月の言い分はこうだ。
呼び出されたから行ったものの、屋上には誰もおらず、ドアを閉めて屋上の真ん中あたりに行ったところを隠れていた山田に襲われたらしい。
そう説明されても尚、百合と思ってしまう俺はいけないヤツなんだろうか。
那月が頑張って弁解をしている中、『襲われた』『襲った』等のセリフが出るたびに頬を火照らせる山田を見てると那月が可哀想になる。
……可哀想?
ついさっきまで
この瞬間、俺は全てを悟った。
表面上ではウザイ、嫌い等の感情をぶつけていたが、内心はそう思っていなかったんだと。
この考えをしている間もずっと弁解を試みている那月に俺は、
「那月、俺はお前に謝りたい。すまなかった……!」
「えぇ!? い、いきなりどうしたの!? 何に謝ってるのか分からないけど、絶対今謝るのは浩ちゃんじゃな──」
「いいや、俺なんだ! あんなにも那月が俺の事を思ってくれていたのに、俺は俺の都合でお前のことを嫌っていた。これは謝らざるを得ない事なんだ! 本当にすまない……」
深く頭を下げ、自分自身の中でこれだけでは足りないと感じて土下座に移行しようとした時、那月が俺の肩を止めて土下座を止めた。
「浩ちゃんがそんなに謝ることじゃないよ。私が浩ちゃんに何の相談もせずに、自分勝手な行動から始まったんだからさ」
時々那月には驚かされる。
いつも馬鹿で空気が読めないヤツだと思った時、ふと優しくしたり相手の気持ちを読んだり。
根はいいヤツなのかもしれない。
そんないい幼馴染を持った俺の性格は?
自分勝手で相手の事も気持ちも考えずに傷つけるカス野郎。
こんな俺がこれ以上那月と仲良くする資格なんて──
「ねぇ、こんな私でも……まだ仲良くしてくれますか?」
そう言って手差し出す那月に俺は目尻に溜めていた涙を零しながら、
「こんな俺でいいのなら……これからも仲良くしてください!!」
「どええええ!? そんなに泣きながらそう言われると何か変な気分になるんだけど! ちょ、落ち着こうよ!」
少量ではなく、大量の涙を流す俺に那月があたふたしながらどうしようか考えている。
がっちり握手を交わし合う俺たちに、ここまでずっと黙っていた山田が。
「いいねー、いいよー? もっと何か感動をうちに与えないか!」
「何様だよお前! てか、折角の感動シーンが台無しだよ馬鹿野郎!!」
部活の掛け声より遥か大きな怒鳴り声が学校中に響き渡った──
俺たち三人は家が近いことから帰り道は一緒だ。
近所の公園にて、俺は二人が何をしていたのかを聞いていた。
「んー、うちはとりあえず浩介としか話せないのは苦痛だったから、那月さんと話せるくらいに仲良くなろうと思っただけだ」
「私は呼び出されて……」
簡潔に言うならば、何もしていないということか。
二人の話を聞き、コクコクと頷いていると。
「見てあの人、美女二人を両隣に置いてるよ。調子に乗ってるんじゃない?」
「かっこよくないのにな。あんな奴がモテて俺がモテないとかありえねー」
ベンチに座っている間、老若男女問わず通行人の文句が聞こえてくる。
確かに二人はハイスペックで俺はどこにでもいる普通の高校生だが、そこまで言われるか!?
俺はスっと立ち上がり、
「帰るか」
「「何で!?」」
いや、逆になんで帰りたくないんだよ。
こいつらには俺の悪口聞こえてないのだろうか。
座り直し、山田の方を向き質問をした。
「前から気になってたんだけどさ、何で志賀と仲悪いんだ? 志賀が嫌う理由はわかるが、志賀を嫌う理由はわからないな」
「まぁ、百合だからってのは嫌う理由にはならないか。理由は嫉妬深い人が嫌いだからかな」
嫉妬深い……はい、納得しました。
「うちが浩介と話すだけで『何話してた?』『俺とはなんか話さないか?』とか、うるさくてうるさくて……」
志賀君……もう少し人間としての完成度あげなさいよ。
俺は別に自分の事を嫉妬深い人間だと思っていないが、叶美が誰かと付き合った場合は……我を失うのだろうか。
「それでも尚、俺は山田と志賀は仲直りすべきだと思う。これまでの関係までに戻れないとしても一緒に年越しとかしたいじゃん?」
「別にうちはいいけど、衿木があんなにもキレてる以上難しいんじゃないか?」
確かにそうだ。
一番キレているのは山田ではなく志賀。
しかし、この前志賀はどことなく仲直りしたそうな節があった。
もしかしたら──
「私達二人で行けばいいんじゃない?」
突如降って湧いたような作戦を出す那月。
要は俺と那月で志賀の説得へ行こうというもの。
そんな上手くいくとは到底思えないが、それ以外に思いつかないしやってみるか。
「じゃあ明日、作戦名『志賀君仲良く大作戦』決行だ!」
「「長いわ!」」
改良に改良を重ねて決めた作戦名はさっきのを略して『S・N・D』ということで結末を終えた。
もう夕方というより夜のこの時間帯。
ベンチから腰を上げ、家の方角を向きながら。
「もうそろそろ帰ろうか」
「何で!? ……と、言いたい所だけどそうだね、帰ろっか!」
「もう少し那月さんと居たかったなー!」
山田を無視して家に帰ることにした。
家に帰って手洗いうがいを済ませた後にリビングへ向かい、机を見てみるとグロテスクなものが置いてあった。
近くに手紙があり、読んでみると。
『いつも作ってくれてありがとう。叶美が心からの感謝を表すとして、料理を作りました。全て食べたという証として完食した皿を叶美の部屋まで持ってくるように』
マジですか……。
叶美が作ってくれたものならどんなものでも食べたい。
が、しかし……アニメだと確実にモザイクがかかってしまうような料理を食べて、俺は生きていられるのだろうか。
そんな俺の元に一人の協力者が。
「こんちゃ! さっきのさっきでまた登場!」
……嬉しいが普通に家に入る那月を見て俺はビビる。
よくもまあズケズケと入ってこれるもんだ。
だがしかし、ここで利用しないのは馬鹿でしかないだろ!
「よっしゃあああ! 一緒にこのグロテスクを食うぞ!」
「オッケー! 私を頼りにして!」
一分後。
「──もう無理です」
「俺もだ……」
大皿いっぱいに盛られたグロテスク……いや、叶美の料理に少し手を付けただけで死にそうだ。
これ以上は食べれな──
「兄さん……やっぱり無理だった?」
「かかかか、叶美!? 何で部屋から出てるんだ!?」
「ちゃんと食べてくれてるのかなって思ったんだけど……って、那月さん!? 帰ってください!」
「第一声がそれって酷くない? それよりこんな『不味い』料理を作ってよく平気でいられたねぇ?」
「ま、不味くないもん!」
これはまずい状況になったなあ。
また喧嘩が始まる予感がする。
「じゃあ食べてみなさいよ! この『不味い』料理をさ!」
「いいよ! 食べてあげるよ! いただきまーす……うぐっ……がっ……不味い……水をください……」
「嫌だよー! バーカバーカ……いたっ! 何するの浩ちゃん……」
「水くらいあげてやれよ」
俺は叶美に水をあげながら那月と叶美のやり取りを見直す。
やっぱりこれが平和だなあ……。
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