第14話 那月と山田の関係(1)

 数日間話をしないままの日々。

 時は過ぎ十月上旬、俺は山田にある相談をした。


「仲直りをしよう」

「また唐突な……。誰が誰とだ?」

「俺と山田と那月と志賀が全員仲良く喋れるようにだ」

「却下だ」


 志賀が入った時点で絶対にそういうと思ったが、ちゃんと想定内だ。

 今日の天気は雨、現在昼休みで山田と教室で昼食を食べているわけだが……。


「なんか、俺たちカップルみたいじゃないか?」

「全然見えないだろ。てか、今カップルとかそういう話はやめないか?」


 志賀と付き合ったことにより、恋愛の怖さを人一倍受けたことからくる

 俺がまだ受けたことない感覚、それに対し忘れろなどといった曖昧な事を言えるはずもない。

 怒りと悲しみを背負った眼をしながら黙々とご飯を食べる山田に俺は、何かしてあげれないかと先にご飯を食べ終え考える。

 暫し無言の状態が続く中、先に口を開いたのは山田だった。


「少し話が変わるかもしれないが、那月さんと話せる環境を作ってくれないか? 少し女子同士で話したい」


 いつになく真剣な表情をしながら言う山田に俺は、自分にもちゃんと出来ることがあったんだとホッとする。

 ポケットからスマホを取り出し、那月の電話番号を見つけて掛けようと──


「おい、俺今那月と喧嘩中なんだ。電話なんて掛けれない」

「何を馬鹿なことを言っている! 今はうちが話したいだけなんだから、電話掛けたらすぐうちに渡せばいいだろう」


 なるほど、その手があったのか。

 昼食時間あと十分、その間に全てを済ませるためにもう一度スマホを手に取り、那月に電話を掛ける。

 即で繋がり少し動揺したが、焦らず冷静に山田に渡した──


 話は五分弱で終わったらしく、山田は俺にスマホを返した後に内容を大まかに教えてくれた。

 内容はこうだ。

 山田から那月を放課後にゆっくり話したい事があるから時間を取れるか聞いて、軽い雑談をした後に切ったらしい。

 時間を取れたことにより山田はウキウキしながら自分の席へと着き、授業が始まった。

 大人しく五限目を受けていると、バイブレーション機能により電話が来たのが分かった。

 先生にバレないようにコソっと誰からが見てみると。


「那月じゃないか。疑問点が二つあるんだが……」


 疑問点その一、こいつ今授業中のはずなのに何故電話を掛けてきたのかってこと。

 疑問点その二、俺と那月の間にはあんな事があったのに何故まだ話しかけてくるのかってことだ。

 俺が逆の立場なら絶対に話しかけないし、これ以上の悪化を避けるためにも話しかけない。

 ここで話しかけてくるのはある意味那月の才能なのかもしれないな。

 やがて電話は切れ、スマホをポケットに戻し前を向くと、


「おいこら浩介。授業中だというのに携帯を手にするとか馬鹿なのか? もちろん没収だ、寄越せ」


 強面教師が目に怒りを宿しながら手を差し出す。

 ここでスマホを出してしまえば取られるだけでなく説教もくらってしまうだろう。

 教室中の視線を浴びながら俺がとった行動、それは椅子の上に立ちながら右手にスマホを掲げるように持ちながら。


「これは携帯ではありません! スマートフォン、略してスマホと呼ばれるものなのです! 恥ずかしいですねー!」

「恥ずかしいのはお前だ。携帯というのは身につけているものをいうのだ。わかったか、この馬鹿が!」


 俺が赤面させていると、クラス全員が大爆笑しはじめ、当然スマホも取られた。

 先生が『生徒指導室へ来い』と言い残し立ちさ──


「先生! それは困ります! うちは今日浩介に用事があるので、説教とかされて何時間も取られては本当に困るのです!」


 突如として立ち上がり、山田が大声で宣言する。

 みんなが驚きを隠せないようだが、一番隠せていないのは俺のようだ。


「山田、お前今日那月と話すんじゃ……?」

「……先生、少し失礼します」


 俺の服の袖を引っ張りながら廊下に連れて行く。

 扉をガラッと閉じると山田は軽く壁ドンをしながら、


「ねぇ、うちに合わせてくれないか? うちだってちゃんと後の事を考えているのだからな」

「お、おう……。すまないな、ちゃんと合わせるから……その……壁ドンをやめてくれない……か?」

「ちょっ、何が壁ドンなんだ! 軽く壁に押し倒しただけじゃないか!」


 えぇ……それを壁ドンって言うんですけど。

 気を取り直し教室に戻り話を戻す。


「失礼しました。さっきの話の続きですが、説教の居残りをやめさせてくれないですか?」

「……先生は一言でもなんて言ったか?」


 盲点でした。

 確かに言ってない、こっちの早とちりだ。

 爆笑の渦の中五限目が終わった。

 休み時間、俺が山田にありがとうを伝える為に席へ向かうと。


「お前さ、強制的に別れたくせにすぐ他の男に寄っていくとか痴女か?」


 嫌味を交えながら山田に話しかけている男、そいつは紛れもなく志賀だった。

 俺は山田に向かう為に動かしていた足を止め、自分の席に着きながら盗み聞きすることにした。


「い、いきなり話しかけてきてそんなこと言うのか? 失礼にも程が有るだろう」

「何が失礼だ! 誰がどう考えてもお前のが失礼だろ! 俺が身を粉にする思いでデートプランを考えても楽しまずにボーッとやがって」

「楽しくな……むぐっ」

「おい山田、そこまでだ」


 ギリギリのタイミングで山田の口を押さえることに成功した俺は、志賀の方に体を向ける。

 さっき山田にされた事同様、服の袖を引っ張って廊下に連れて行った。

 多分誤解をしているであろう志賀に対し俺は、


「なぁ、俺は山田とは付き合っちゃいないし、変な関係にもなっていない。説教阻止したのはその前に軽い約束があったからだ。だからに気するな」

「おおおお、お前なんで俺の考えていることがわかるんだ!?」


 二年間同じクラスな上、よく話している奴の事を知らない訳なかろう。

 でも、性格があまり変わってなさそうで良かった。

 これなら山田と仲直りさせられるのでは?


「それを聞けてよかった。じゃ、今後は山田と関わらんようにするわ」

「うんうん、それでよ……くないよっ! 関わって仲良くなれ!」


 志賀は首を横に振り、少し悲しそうな表情をしながら教室に戻っていった。

 内心は仲良くなりたいと思っているって事なんだろうか──


 六限目も終わり、放課後になった。

 集合場所は屋上らしい。

 学校終わり次第すぐに向かうと約束していたらしく、俺が生徒指導室にスマホを取りに行ってる間に山田は屋上へ向かった。

 山田に言われて急いで屋上に行き、ドアを開けると、山田と那月の姿を見て小さく呟く。


「これは……現実なのか?」




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