第13話 あの時の真相

「なんだ、改まって」


 俺がそういうと、那月は山田に帰ってと言って帰らし、こちらを向いて耳元で小さく呟いた──


 呟き終えると那月は赤面し、走り去るように一人で帰っていった。

 当の俺はというと、那月の言ったことが本当なのかって事で頭がいっぱいになっていた。

 俺も一人で帰りながら小さく呟く。


「仮に本当なら、学校で顔を合わせたくないな……」


 家に帰り、いつもなら叶美に会いに行くところを行くのはやめ、そのまま会わない日が続き気付けば始業式を迎えていた。

 校長先生の話も終わり、宿題テストも終わり、俺は家に帰ろうとすると。


「家真反対だけど、一緒に帰らないか?」


 志賀が真顔で俺に言ってくる。

 家真反対なのにどうやって帰るのかものすごく気になる……。

 すると、俺の肩にチョンチョンと指を当ててくる人がいたので、誰かと振り向くと同時に山田が。


「一緒に帰らないか? 家も同じ方向なんだし」


 何この板挟み!

 右には志賀、左には山田。

 二人は目も合わせないし、口を聞こうともしない。

 曇りなき眼で俺の方を見る二人を見て俺は、


「三人で帰らないか?」

「「絶対無理!」」


 あれ、山田ってなんで無理って言ってんだ?

 志賀は嫌ってる、それは知ってるがなぜ山田までそういうのだろうか。

 那月とのあの一件から俺の頭の中はぐちゃぐちゃで、他の事なんて考えたくないのに……。

 ハッと今の状況を思い出し、結論を迫られる俺は答えを出した。


「家真反対の志賀と帰るくらいなら、山田と帰るわ。じゃな、また明日」

「浩介っちの裏切り者ー! もう何もかも信じれねーよ!」


 志賀は疑心暗鬼になりながら教室を後にした。

 俺と山田も廊下に出て、家に帰りつつ夏休みの経緯を話し合おうと言い合っていると、目の前に那月が現れ、


「浩ちゃん、こんな私でも大丈夫?」

「…………ちょっと後にしてくれ……」


 那月と顔を合わせるのも辛い俺には、これくらいしか言えなかった。

 盆踊りでのあの一件、やはり俺には相当のダメージになっていることを改めて痛感させられた。

 そんな俺を見て山田が心配そうな顔をしてくれたので『大丈夫だよ』と、言って学校を後にした。


 帰り道、俺の家まで十分程度なのでそこまで時間はないが、今これを話すのは山田が適正だと思い、那月との事を話した──


 ──盆踊り終盤。


 俺と那月が夜二人きりになり、打ち明けたのは最初の方の遅刻なのに罰を受けなかった理由だった。

 那月は俺の耳元で小さく呟く。


「私、あの時……してたの。先生とね。先生がそんな事をすれば逮捕されるし、私は三年に上がれる。ウィンウィンの関係ってヤツだよ? こんな私を……嫌いにならないでね」


 そう言って去っていった。

 俺の思考が追いつく頃にはもう居なく、成績の為だからといってもキモ先生とセ○クスなんて出来るのか?

 そんな感じで頭がいっぱいだった──


 ……そして。


 山田の方を向き、真剣な表情で。


「那月を許すべきなのか?」


 俺にはもう考える能力すらもなくなったのかもしれない。

 今は他人の意見を全て聞き入れてしまうような気がしてならない。

 俺の質問に山田が。


「その質問を答えるのはいいけど、私情入るっていう前提でいい?」

「あぁ、何でもいいから答えてくれ」

「うちは……許さない方がいいと思う」


 やっぱりそうだよな。

 高校生が援交だなんて許してはならないし、法律を知らないが、きっと危ういだろう。

 ……山田の私情が気になるので、聞かない方がいいような気がしながらも聞くと。


「うちは……汚されていない美少女が好きの! 他人の精○で汚されたことある人なんてうちは嫌だ!」


 本当に私情だ……って、ん?


「中○しされたなんて言ってなかったぞ? まぁ、されたのかもだが」

「そうなのか!? 今から聞きに行くぞ! まだ後ろにいるだろう」

「待って! 俺たちはさっき会った時にあんな言い方してたんだ、無理があるだろ」


 ようやく落ち着きを取り戻した山田はシュンとしている。

 俺だって訊けるなら訊きたいが、流石に時間を開けた方が……、


「浩ちゃん!」


 後ろから俺の名前を呼ぶ声がする。

 この呼び方は一人しかいない。


「な、那月……。あ……この状況下の中話していいのか?」

「ハッ……ハッ……違うよ、私は話があったから急いできたんだよっ!」


 那月はこんな俺でもまだ話をしようと言ってくれるのか……?

 俺が俺がだった自分が恥ずかしくなる。

 少し頬を火照らせながなら那月が本題に入った。


「話っていうのは、浩ちゃんが仮に何かを誤解していた場合、全て真実を答えるから付き合ってって言いに来たの!」


 ……さらに頭が痛くなったぞ?

 なんか、俺が付き合いたいと思ってるって雰囲気になりつつあるんだが。

 蚊帳の外に居たと思っていた山田が唐突に。


「中○しされたのか!?」


 そのセリフに那月は赤面し、大きく首を横に振る。

 呼吸を整え、俺たちの方に向かって那月が大声で叫んだ。


「されてないよっ! 私は……決めてるから! ……ちょっと浩ちゃんと二人にしてくれない?」

「また除け者にするのか!? まぁ幼馴染だから話したいこともあるんだろう。じゃあ家近いし帰ることにする」


 やけに潔い山田に何か違和感があったが、きっと志賀ではなく山田と帰ったことによる優越感的なものだろう。

 それよりも那月の話が気になるので、続けてもらうことにした。


「私が妊娠する時は絶対……浩ちゃんの精○でって決めてるの!」

「じゃあ何でセ○クスなんてしたんだよ。何があるか分からないんだ、先生と一回ヤった時に妊娠する可能性あったろ」

「それが……もう何回かヤったことあるんだよねぇ」


 こいつ……ただの尻軽女じゃねーか。

 ダメだ、これ以上聞くと那月を嫌いになりそうだ。

 俺は耳を塞ぎ、目に見える家へ向かって歩き出すと。


「聞いてよっ! 浩ちゃんの為のセ○クスなんだから!」

「いや、もういいよ。俺には好きな人がいるって言ったろ? もう諦めろ」


 少し言い方がキツいかもしれないが、本命じゃないだけでなく、汚されまくった女とは俺は無理だ。

 踏ん切りがつき、家に帰って叶美と仲良くしようと家の方へ足を踏み出すと。


「待ってよ、私は浩ちゃんの為に中には誰にも出されたことない清潔女だよ! 浩ちゃんの為にテクニックを手にして喜ばせようと……」

「俺の為俺の為っていってさ、本当は自分の為なんだろ!? いい加減にしてくれ!」


 俺はそのまま家に入り、玄関の戸をバンッと、力強く閉めた。

 リビングのソファーに弱々しく寝転がり、今日の事を整理した──


 現状はこうだ。

 山田と志賀の関係は良くない、俺と那月の関係も悪い。

 俺と山田は悪くなくて、志賀とは微妙。

 那月と志賀は元から悪い……と。

 全部の事を考えて俺は、


「一体どうしたらいいんだよ……。まだ一年半残ってるのにこのまま学校生活送るのは至難だろ……」


 涙を零しながら手で顔を覆っていると、隣から声が聞こえる。


「兄さん、大丈夫?」

「か、叶美ぃー! お兄ちゃんは……お兄ちゃんは一体この先どうすればいいんだよぉぉぉぉぉ」

「え……兄さんキモいんだけど」


 状態を起こし、中学校の制服姿の叶美を見て、涙をボロボロ零しながら。


「キモい!? 何でもいいから嫌わないでくれぇぇぇぇ!!」

「ほ、ほんとにどうしたの!? 兄さん今日おかしいよ!?」


 自分でも自分がキモいことがよく分かる。

 知っていてこんな事をしている自分が嫌で仕方がない。

 こんなキモい俺を見て叶美は、俺をリビングのカーペットの上に座らせて、面と向かって話をしようと言ってくれた。


「兄さんは何故そんなにも自分を追い詰めているの? 何が追い詰めているの?」

「人間関係が主で、自分を追い詰めているのはきっと自分だよ。そこは自覚している」

「じゃ、ここにおいで」


 叶美は自分の膝に手をポンポンとして俺を誘ってくれた。

 多分膝枕をしてあげるから寝転がってという意味だろう。

 俺にはこれほど嬉しいことはないが……、


「叶美、それは俺が叶美と付き合えた時にしてもらいたい。まだ叶美が異性として俺を好きでない以上それはまだ早い」


 こんなことを言うとキモいだのなんだの言われそうだが、俺は特に気にしていない。

 自分が妹を好きで何が悪い、異性として見て何が悪い。

 俺は自分にそう言い聞かせながら叶美の方を向くと、ちょっと残念そうにしながらも微笑みながら。


「大人だね。その約束は守ってよ?」


 叶美がそう言ってリビングを出ていった。


 俺が今の言葉の意味を知るのはまた少し先だ──

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