第10話 とある台風の日

 テストも終わり、六月の下旬。

 普通に起き、学校へ行こうと思った時。


「今日の風すごいな……。何これ、台風でもきてんじゃないのか?」


 そう思い、テレビをつけて天気予報を観ると。


『今日は突然の台風が来て、暴風警報でていますねー。これは今年で一番やばい台風ですよ』


 一番やばいって今年初の台風なんだから当たり前だろ。

 そんなこと思ってた時、一本の電話が。


『もしもし、高梨さんのお宅ですか?』

「はい、そうですけど……誰ですか?」

『私は祖中そなかです。貴方の前の出席番号の者なんですが……。それはそうと、今日休みですので、連絡網回してもらえますか?』

「それ先生の役目なのでは……?」

『そんなの私に聞かないでください。ではさよなら』


 何あの人、めっちゃ自由人じゃん。

 それにしても連絡網回すって次誰だっけ。

 適当に調べ、適当にぱぱっと済ませた俺は、暇になったのでゲームをしていた。

 すると、いきなり雷が鳴った。


「ちっ、雷かよ、うるっさいから鳴り止まない……」

「兄さーん!」


 ドアを勢いよく開け、ソファーで座っていた俺に抱きつくように飛びかかってきた。


「ど、どうしたんだよ叶美。俺の事が好きになった……のか? って、何泣いてるの!? 俺何かしたのか、ど、どうしよう! ご飯か? ご飯作ればいいのか!?」

「うっ…うっ……落ち着いて兄さん、叶美は別に兄さんのせいで泣いてた訳じゃないから……。ただ雷が怖くて……」


 雷が怖いなんて……可愛いこと言うじゃないか……!

 前々から思ってたけど、俺はいつ叶美に自分の意見を告げよう。

 今? でも振られたらこの先話せなくなるんじゃないか?

 それだけは絶対嫌だな、うん。


「兄さん、叶美とお話……しよ?」

「あ、あぁいいよ!」


 エロゲーのしすぎで、エロゲーのヤられる側の人間みたいになってるぞ叶美。

 仮に俺の理性がものすごく弱かったら確実にやばいことしてるぞ。

 自信もって言えるな!


「じゃあ何を話そうか」

「兄さんの高校生活を知りたいなあ」


 俺の高校生活……だと?

 何を話せばいいんだ?

 志賀が童貞って事? 山田・カトリーヌ・ドゥクシが百合だってこと? 那月がうるさいこと……様々だが何を教えればいいんだろうか。


「無理なら他の話にする?」

「いやー待て、話す内容を考えてただけ……なんだよ。あーえーと、俺の友達は個性的だぞ!」

「……何それ、具体的に知りたいんだけど」


 ですよねー!

 そういうとは思っていたが、何も考えてないぞ。

 どうしようか……。


「じゃ、じゃあ別の話しよ? 最近ハマってるエロゲーはね……」

「ちょっと待った! 俺だってちゃんと話せる人いるんだぞ? 例えば那──」

「その人の話はやめて!」


 えっ……?

 仲が悪いからか?

 だからと言って一番知ってる奴は那月しかいないだろ?


「叶美にとってその人は魔女……。大好きなキツネさんの作品を貶してきたし」

「……でも根は良い奴なんだ。勉強だって教えてくれたし。あ、俺あいつのお陰でオール平均点取れたんだぜ?」

「じゃあ那月は?」


 ……。

 言葉に詰まるとはこの事を指すんだろうな。

 ソファーに座りながら長考する俺に叶美が。


「悪いんだね」

「ストレートに言うと……そうなんだが、まああまり言わんでくれ。願わくば叶美と那月が友達に……」

「絶対無理!」


 そういうとは思ってたけど……。

 てか、なぜ陰キャラと陽キャラで仲が悪くなるんだ?

 タイプが違うからか?

 それにしても……叶美は俺の所に近づいてきてからずっと膝に座ってるなあ。

 可愛い……、目尻に涙溜めてるところとかものすごく!

 そんなこんなで台風収まるのを待っていると、眠気に襲われソファーで二人眠った。


 気がつけば昼食時、ソファーで寝ている叶美を起こさぬようにし、昼食の準備に取りかかった。

 台風はまだ止まないので外には出れず、楽なのでチャーハンを作った。


「叶美、ご飯出来たから食べよう」

「んんー……、ご飯? そんなことよりゲームしたいー……」


 寝ぼけてるのかな?

 昼食食べさせず寝かせて変な時間にご飯食べられても困るしなあ。

 やっぱり起こそう。


「起きろ起きろ、冷めちゃうぞ? チャーハン冷めたらきっと美味しくないだろうなあー」

「……………」


 無視かよ!

 しょうがない、起こすのはやめて一人でご飯食べよっかな。

 ご飯を食べ終え、暇になった俺はテレビを見ることにした。


『今日紹介する商品はなんと、本日十二時発売の“俺のこと好きなら妹だろうと何でもできるでしょ”です。これはかの有名なキツネさんの作品なのです!』

「キツネさんって叶美の好きなヤツじゃないか。これ聴いて叶美は何も言わな……」

「キツネさーん!! 忘れてた、今日発売日だったんだー! 早く、早く買いに行かなきゃ!」


 そう言い残し叶美は、財布の入った鞄を手に取り、家を出ようとしたが……ガシャーンと急に雷が鳴り出した。

 これ、近くに落ちたな。

 すると叶美は慌ててこっちに来て、


「兄さん……! 怖い怖いよおー……」


 我が妹がこんなに可愛いなんて……!

 神様、俺のようななんの取り柄も無い平凡男にこんな可愛い女の子を近くに置いてくださり、本当にありがとうございます。

 天井を見るかのように上を見上げ、感謝を告げた。

 しかし、雷の中に買い物行くのは俺には無理だ。

 宥めるしか……。


「兄さん……一緒に行こ?」

「……もちろんだ! 行こう!」


 立っている俺に、目尻に涙を溜めながらお願いされたら断るのは無理に決まっている!

 自分の意に反しているが、そんなことはお構い無しだ。

 俺も支度を済ませ、家を出た──


 が、雷に怯み一瞬にして家に戻った。

 俺の意気地無し!

 なぜあそこで行こうって言ったのに、足が止まってしまうんだ!

 当の叶美はというと。


「雷怖い……あんなのが現実世界に存在するとかもう現実世界崩壊だ……」


 我を忘れている感じだった。

 うまくアシストしてうつ病にならないようにしてあげなければ。


「叶美、明日一緒に買いに行かないか? 土曜日だし互いに休みだろ?」

「そうだけど、兄妹でエロゲー買いに行くの? 店員さんからしたらエロゲー家族って思われ……エロゲーって子供買えたっけ?」

「……言われてみれば無理だな、いつもどうやって買ってるんだ?」

「え、ネットだけど」


 なぜ今日はネットで買うという発送に至らなかったのかものすごく聞きたい。

 聞こうと思った頃には叶美はリビングに居なくて、自分の部屋に戻っていた。

 ……俺の楽しい時間はもう終わってしまったのか。

 そんな時、叶美が上から勢いよく降りてきて、


「兄さん! お金ちょうだい! 後三千円でいいから」

「三千円は後って言い方をして貰う金額じゃないよ? しかも俺は学生だ。未来への投資という意味であげるが、これ以上はあげないからな?」

「未来への投資ってどういう意味なの?」

「……気にしなくていいことだ!」


 鞄からお金を取り出し叶美にあげると、大喜びしながら二階の自分の部屋に戻った。

 たまにはこんな日があってもいいかなー。

 リビングに戻り、暇なのでテレビをつけようとしたら。


「浩ちゃーん、台風の中来てあげたよー! 開けてー開けてー!」


 なぜ那月がここに?

 とりあえず言われた通り家を開けてやると、


「いやぁ台風って困ったもんだねー。私昼ごはん食べてないから昼ごはんちょうだい!」

「もう二時だぞ? とっくの前に食べ終えたよ。欲しけりゃ何か頼めば? ここに電話帳あるし」

「そうじゃないじゃん! 久しぶりに浩ちゃんの料理が食べたかったんだよー」


 そんなこと言われたって材料も何もないし無理な話だな。

 さっさと帰ってもらお……。


「あ、ジャガイモあるじゃん! 卵もあるし、なんでも作れるんじゃない?」

「勝手にキッチン行ってんじゃねーよ! 幼馴染だからってなんでも出来ると思うなよ!?」


 って言うことも聞いてないんだろうなこいつは。

 落ち着け俺、ストレス溜めると自分を保てなくなるぞ。

 平常心平常……。


「まだ作ってくれないの? 早く作ってくれなきゃキレちゃうよ?」

「だあああああ!! 分かったよ、作ればいいんだろ作れば!」


 大声を出した直後、一本の電話が掛かってきた。


「もしもし」

『兄さんうるさい』


 ツーツー……切れた。

 そうか、叶美上にいるから丸聞こえだったのか!

 大人しく、叶美に怒られない程度に料理を作るか──


「ほら出来たぞ『ポテトサラダ』が」

「……ポテトサラダか、まあいいやいただきまーす!」


 まあいいやのうざさハンパねーな。

 ポテトサラダで笑顔になっている那月の顔を見て少しホッしたように息を吐き、叶美の様子を見に行った。


「おーい、何事もないか? 大丈夫なら返事くれないか?」

「………なんであの人連れてきたの?」

「連れてきてない、勝手に来たんだよ。俺を信じてくれ!」

「そうだよー、私からこの家に来たんだよー」


 ん? ……んん!?

 なんで那月が叶美の部屋の前に!?

 驚いた俺は、思わず那月に質問をした。


「ポテトサラダ食べていたんじゃないのか!?」

「美味しかったよー、ご馳走さん! 洗い物しといて」


 普通の丼一杯分のポテトサラダ作ったのに、短時間で食いやがった……。

 やばいなこいつ、人間とは思えないことしてくれるよ……。

 叶美もきっと驚いたのだろう、声を震わせながら。


「い、いつの間に!? というか帰って、邪魔だから」

「叶美ちゃんの意見を聞かなきゃいけない理由がわからないなあ。私だって幼馴染なんだから普通に来るでしょ」

「っ……! に、兄さんは思春期なの! こんな時に来たら普通に考えてダメでしょ!」


 俺が欲情してしまうとか思ってくれてるのかな?

 那月に対してそんなことないに決まって……。

 高校に入りたての頃欲情してましたー!

 そういうことを踏まえて叶美は心配してくれてたのか……!

 俺の感動を潰すかのように、那月と叶美の口論は続いた。


「毎回毎回出ていってって言ってるんだから、早く出てってよ! この家に来ること自体が邪魔なんだよ!」

「あー嫌だわあ、感情的になる奴はウザイやつしかいなくて嫌いなんだよ。さ、浩ちゃんも一階で一緒にテレビ見ない?」


 そう言いながら俺の服を引っ張りながら下に連れていこうとする。

 そんな那月に俺は服を引っ張る手を払って。


「ちょっと言い過ぎじゃないか? お互いに謝り合うのが一番いいと思うぞ」

「浩ちゃんはもう慣れたかと思ってたなあ。もはやこれは、挨拶みたいなものじゃない?」

「違うよ! ただあんたがウザイだけじゃん! 兄さん、早くそいつを追い出して!」


 那月と話す時はやけに感情的になるんだな。

 キャラの違いでそこまで仲悪くなるのか……?

 俺が卒業するまでに仲良くしてやる!


「那月さ、エロゲーやってみないか? ハマるかもしれないぞ?」

「えっ……あ、浩ちゃんと本番する時になれててくれた方が嬉しいってこと!?」

「勝手に補正入れるのやめてもらえる!?」


 昔叶美に借りたエロゲーを那月に貸した。

 叶美が陽キャラになるより、那月が陰キャラになった方が手っ取り早い気がした。

 エロゲーを手に取り、少し困った表情を見せる那月に俺は。


「じゃ、頑張ってクリアしろよ。最後は兄が妹と付き合えばクリアだから」


 なんか、俺の人生みたいだな……。

 これはどうしてもクリアしてもらいたいもんだ。

 那月に挨拶をし、家に帰らせた後に夜ご飯を作り寝ることにした。


 ──夏休み前の最後の学校。


「今日終われば明日から夏休みか! 那月、山田、志賀と俺でさ、海に行かないか!?」


 学校の登校時、志賀はいないが山田と那月にそんな提案をした。

 すると。


「うちはさんせーい! 那月さんももちろん行きますよね!? はぁはぁ……」

「え、う、うん行くよ。けど、何でそんなに息が荒いの……?」


 そらもちろんこいつが百合だからだろ。

 でもこれで華は揃った、夏休みよ、早く来てくれ!


 教室に入ると、志賀が一人でいたのでさっきの提案をしてみた。


「──つまり華やかになったけど、男子いないと気まづいってことか? けどさ、浩介っちは忘れてるんじゃないか?」

「……? え、何を?」

「今日が成績表渡しだろ」


 いやいや、流石に大丈夫……待て、こいつら赤点組じゃねーかー!

 そう簡単にはならないだろう、きっとならない──


「──で、山田の成績はどうなんだ?」

「国語、数学、英語が赤点で補習か。妥当だな、が、こいつはハーフだろ? なんで英語まで……」

「英語なんて分かんないよ! 難しすぎるんだよ! 日本でそんなに英語を難しくする必要ないよ!」


 日本の英語全否定しやがったな!?

 俺も嫌いだし、分からなくもないんだが。

 それより那月はどうなんだろうか。

 放課後、那月のクラスに三人で行き、成績を見せてもらうと。


「オール赤点かよ」

「うちより酷いじゃん!」

「浩介っちの幼馴染だからって学力までは伴わなかったか」


 あぁ、華やかさが全部消えた──


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