第11話 告白(1)

「おいどういう事だよ! なんでお前と二人で海に来たことになってるんだよ! 那月や山田はどうしたんだよ!」

「そんなにも突っかかって来んなよ、俺のせいでもないんだし。あいつらの自己責任だろ?」

「黙れ黙れ黙れー!」


 とある海でなぜ俺と志賀が喧嘩をしているかというと、三時間前に遡る。


 ──三時間前


「今日から夏休みだな、もちろん海に行くだろ?」


 朝七時、補習をくらった那月と山田を慰めるべく、家の近くの喫茶店へと足を運んだ。


「行きたいんだけどさ、流石に補習に行かないわけにもねぇ? ここで引くも勇気ってね!」

「うちも行けないかなあー。浩介は楽しんできてね」


 おいまじか、志賀になんて言えばいいんだよ。

 志賀にこの事話した時、女子のことしか興味無さそうだったぞ……。

 ……なるようになるかな?

 それより。


「お前達の補習はなん教科あるんだ? 確か二教科までなら午前に終わるんじゃなかったっけ」

「三教科」

「全部」


 ……こいつら、もう救いようないな。

 俺は財布を取り出し、自分の分のお金を机に置いて……最大限の哀れみを持った顔で二人を見て喫茶店を後にした。

 そんな俺に二人は。


「なにあの顔! すっごい腹立つ! 山田さんもそう思ったでしょ!?」

「確かにそうですね! でもうちの場合は那月さんを見ればストレスなんてどっかいってしまいます!」

「そうよね……って今私のことを見ればって言った? なにそれ、めっちゃ気持ち悪いこと言うじゃん。百合だから? 百合だからなの!?」


 騒がしいなあ。

 俺のせいかもしれんからとりあえず関わらんことにしようか。

 喫茶店を出た足でそのまま志賀の家へと向かった。

 インターホンを押し、ピンポーンと志賀の家に響き渡る音が鳴った。


「はーい、誰……あ、浩介っちか! 海の件だよね? ちょいと待っててねー!」


 ……これ、那月と山田来れませんって言えないよな?

 なるようになるって甘い考えをしていた俺を殴りたい。


「おっす、今日の為に新しい水着買ったんだあー! 玄関で話すのもなんだし、早く電車乗ろうぜ!」

「お、おう! 行こう行こう! 早く行って早く帰ろう!」

「なんで早く帰るんだよ……」


 やべっ……つい口が滑っちまった。

 ……志賀は勉学は出来るが、他にはとんちんかんだろ、きっと。

 強引に連れ出して行っちまえばさっきの事も忘れるだろう。

 俺はそう思い、志賀の手を引いて電車に乗りこんだ。

 そんな電車内にて。


「そういや那月っちと山田っちはどこにいるの? 現在一緒じゃないよね?」

「!? いやー、あいつらはもう先についてるぞ。あぁ、きっとそうだろう」


 無責任なこと言って後に責任取れるのか?

 ……アニメならここで大イベント来てこの事を無効にしてくれるんだが……。

 それに期待しよう、そうしかない。

 何事もなく二時間かけ、海へと着いてしまった。


「きたああああああ!! 浩介っち見てみろ、あの綺麗な海! 今から四人でここで泳ぐんだなあ」

「……あのさ、本当は今日山田達は……」

「多分俺さ、山田っちのこと好きになっちまったかもしれねえ。今日告白してしまおうかなあ」


 もう切り出せんわ。

 本日三度目の、なるようになれ!

 パッと水着に着替え、砂浜へ飛び出した。

 そして俺は、禁断のあの事を打ち明けることにした。


「志賀、大人しく聞いてくれ。今日山田と那月は来ない」



 で、話が戻るわけだが。


「もう浩介っちなんて知らん! 俺は俺なりのナンパでもしてくる!!」


 そういい志賀は、ビーチで遊んでいる美女達に寄って行った。

 暇になった俺は大切なものを入れていたビニール袋を取り、その中からスマホを取って叶美に電話をかけた。


『もしもし? エロゲーしてるから切っていい?』

「ちょいちょい! そんな早く切ることないだろ!? お兄ちゃんが嫌いか?」

『全然嫌いじゃないし、むしろ……って、何言わせようとしてるの!』

「えぇ!? 何を言いたいのかさっぱり分からんがすまん!」


 一人砂浜でブルーシート敷き、暇さ寂しさのあまり妹に電話する変態兄貴。

 だが、俺はそんな自分を変える気はない。

 暇なのでまだ電話を続けると。


『兄さんって今日海行くとか言ってなかった? その件はどうしたの?』

「それがさー、那月さんを山田は来れないし、志賀は水着美女を見つけて走って行くしで暇なんだよ」

『そ、そうなんだ……。じゃあ兄さんも追いかけに行ったりしないの? 水着美女を』

「追いかけるわけないだろ? 俺には好きな人がいるんだから!」

『!? だ、誰なの!? ねぇ、誰なの!?』

「ちょっ、ちょい落ち着けって!……ゴホン、では、発表します! 俺の好きな人は……叶美、君だよ!」

『…………冗談なんていらないよ! ……ばか/////』


 そう言って叶美は電話を切った。

 ……待って、超絶可愛いんですけど!

 傍から見れば一人ブルーシートでニヤニヤしてる奴って映るかもしれないが、今の俺は気にしない。

 なにしろ叶美の可愛い声を聞けたんだから!

 携帯を握りしめて三十分、海にも入らずずっと空を見ながらニヤニヤしてる俺の元に志賀が現れた。


「何かあったのか? ものすごく気持ち悪いんだが」

「んん!? なんもねーよ、それより彼女は作れたのか?」

「それがさ、俺の自慢の腹筋を見せつけたら逃げてくんだよ! 腹筋見て逃げる女子なんて女子じゃねー!」


 いや、見せつけるように寄ってったらそらみんな引いて逃げるだろ。

 そんな筋肉自慢をしている志賀に俺は。


「もう三時だしさ、帰らないか? 夏休みは一ヶ月以上あるんだ、また女子誘って来ようよ」

「……そうだな、こんな所で意地張っても仕方ない。次はプールか祭りか……そん時に告白するから応援してくれよ?」


 無邪気な笑顔を見せながらウインクをする志賀を見て俺は、少し気持ち悪いなと思いつつも良い奴なんだなと思った。

 帰るため再び電車に乗り、家に着く時には五時だった。


「じゃあな! 俺はもう帰るわ!」


 俺の家の前で志賀が帰ろうとしているのだが……ここは友達として。


「おい志賀! 今日家に泊まっていかないか? 友達とお泊まり会ってのはお約束だ……」

「浩ちゃん! 家の前に立って大声出してどうしたの?」


 俺の言葉をさえぎり、那月と山田が帰ってきた。

 そういや志賀以外は家近くなんだっけか。


「いやな、今から志賀とお泊まり会しようかなって。後ろに志賀がいるだろ? なんか帰らすのもあれだし……」

「へえーそうなんだ、じゃあ私も一緒に泊まっていい? 山田さんも泊まるでしょ??」

「えぇっ!? 那月さんがいるんだよね……うち泊まる! 浩介、うちも泊まるよ!」


 こいつら、ちゃんと俺が男子ってわかってんだろうか。

 俺の理性が壊れたらどうなる事やら……。

 俺達の会話を聞いて志賀は。


「なんか合コンみたいになってるなっ! じゃ夜七時に浩介っちの家に集合ってことで!」

「「おーっ!」」


 那月と山田が威勢よくそういった。

 ……叶美に許可取ってないな、絶対断るだろうが、許しを得るまで粘るか。

 皆は家に帰り、当然俺も。


「ただいまー! 叶美、用事があるんだ、部屋から出てきてくれないか!?」


 家に帰り大急ぎで叶美の部屋の前へと向かった。

 もちろん許可を取るためだ。


「きっと今はイヤホンしながらエロゲー中だろ!? なあ、二時間しか残されてないんだ、出てきてくれないか!?」


 部屋の戸をドンドン叩きながら叫ぶ俺の後ろから、


「兄さん……? 何してるの?」


 階段から登って、俺の後ろに立っている叶美を見て俺は。


「……な、なんで部屋にいないんだ……? いつもなら部屋でエロゲーしてるのに……!」

「叶美だってトイレに行くことあるんだよ? それより、そんな大声出して近所迷惑とか考えなかった?」


 自分の行動が急激に恥ずかしくなる。

 誰もいない部屋に大声出したうえに、戸を思いっきり叩くとか……!

 顔を赤くしながら引くに引けない俺を見て叶美は呆然と俺を見ていた。

 何か言わねば!


「あーのさ、あれだあれ、えー、今日大丈夫か?」

「えっ、 何が?」


 テンパりすぎて主語が足りなかったか。


「今日家でお泊まり会をするからさ、その件について大丈夫かなって」

「何言ってるの? 絶対ダメだよ」

「そうかそうか……って予想はしてたけどなぜ!?」

「うるさいしめんどいし……それより誰が来るの?」


 それ言うの忘れてた……え、こいつそれ聞いてないのに断ってきたのかよ!


「志賀と山田と那月だよ。那月が嫌だとか言って拒否るなよ? もう確定で来るんだし」

「確定なんだったら叶美の意見採用されないじゃん! もう知らない、叶美に近寄らないで!」


 ……マジですか!?

 コツコツ積み上げた俺の好感度をたった一回のお泊まり会で失っていいのか!?

 よくないな、ここは中止に──


「おーい浩介っち? ちょいと用事あって一時間前に来ちゃったー」


 なんということをしてくれるんだ……!

 居留守の使えないこの状況で、中止なんて言えない……。

 テンション下がったままドアを開け、志賀を中に入れてリビングのソファーへと座った。


「なんかテンション低くないか? 俺はアドレナリン出まくってるぜ!?」

「お泊まり会でそんなに興奮するとか気持ち悪いな……。何でもいいが、女子に卑猥ひわいな事するなよ?」

「勝手に話を進めるなっ! 俺は興奮してるんじゃなくて、緊張してるんだ! 山田っちに告白するから……」


 告白か、まだ諦めてなかったんだ……って、


「まさか今日のお泊まり会でか!? 振られたらお前寝れなくなるんじゃないか!?」

「不吉なことを……。だけどさ、仮にも付き合えるなら早く付き合った方が得だと思わないか? 早いとそれだけ長いこと付き合えるんだからな!」


 ……俺に言ってるのか?

 と、問いたくなってしまうくらい今の俺に合ったことを言ってるくなあ。

 こういうことを聞いてしまうと、俺も早く叶美に告白すべきなんだろうか。

 でも、志賀とは違い、俺はすぐに会えるんだ。

 時期が来るまで待とう。


「どしたの? なんかさっきから浩介っち考え事してない? 親友の俺になんでも聞いて」

「いや、大丈夫だ! 俺も吹っ切れたからな!」


 どことなくぎこちない顔になってるのが自分でわかる時点で、まだ未練があるんだなあって思わせてくる。

 そんな俺達の元に。


「やっほー! あーけーてー!」

「那月さん、インターホンを押さなくていいんですか?」


 押したほうがいいに決まってるだろ……。

 夜七時に外で大声出すバカどこにいるってんだよ。

 仕方なく家を開け、志賀も連れて二階の俺の部屋に入った。


「今日は両親の了承も得てお泊まり会をしている。両親はいつもリビングで寝ているので、四人でこの部屋一室だけで寝ること」

「他にも部屋あるだろ? そこは使えないのか?」

「いい質問だ志賀君。だがしかし、リビングと叶美の部屋と俺の部屋以外物置と化しているのだよ」


 そう、俺の家は物で溢れかえっている。

 理由は簡単、両親が捨てるの勿体無いと思うタイプの人間だからである。


「みんな風呂には入ったか? 沸かしてあるから自由に入っていいぞ」

「そんな事よりお腹減ったんだけど。浩ちゃんなんか作ってー」

「……? 家で食べてきたんじゃないのか? 家には何も無いぞ?」

「「「腹減ったよー」」」


 全員腹減ってるのか……。

 しょうがない、あれを作るか──



「出来たぞ! チャーハンだ!」


 那月以外みんな満足そうでよかった。

 アイツ、最近俺の作ったやつ食べたから満足じゃないんだろうな。

 風呂も入り、夜十一時、お泊まり会でやることといえば?


「みんなで恋愛トークしようぜ!」


 ……志賀はノリノリだなあ。

 これに乗じて告白する気なのだろうか。


「じゃあまず、山田っちからで!」

「えっ! んー……恋愛ってしたことないからわかんないなあ」


 ドンマイ志賀。

 完全脈無しだし、もう諦めろと言おうとした時。


「そっかそっか! こんなモデルのような美少女はまだ清いままなのか!」


 なんだ、なんでこんなにも元気でいられるんだ?

 謎が深まる中、那月の番となった。


「私はちゃんと恋愛してるよ! 現在進行形で。相手は……浩ちゃんです! 浩ちゃん、私と付き合わない!?」

「……えぇ!? 恋愛トークで告白する奴なんて頭おかしいだろ!」


 あ、志賀ごめんな?


「いいじゃんか、付き合おうよー。ねっねっ!?」

「前にも言った気がするけど、俺好きな人いるから無理だ」


 頬を膨らませながらもまだ駄々をこねる那月を尻目に、俺の番になった。


「俺はちゃんと好きな人いるぞ。恋愛トーク=名前言うって訳じゃないだろ? なんで秘密でーす! 那月の知ってる人物だったらそいつの命が危ういしな」


 冗談交じりに那月をからかうと、そんなことしないよ! と、涙目になりながら言うのでこれまた面白い。

 俺、エスだなあ。

 そして、俺の中でのビッグイベント、志賀の番となった。


「じゃあ次は俺の番か。今日は恋愛トークをするっていうか、志賀衿木、語り継がれる恋愛トークを作ります!」

「えっ! なになに!? 物凄くかっこいいふうのこと言うじゃん!」


 ……謎の緊張感が……!!

 落ち着け俺、志賀のが今緊張してるだろ。

 志賀は布団から出て、山田の前に行き。


「山田っち……いや、山田・カトリーヌ・ドゥクシさん、俺と付き合ってください!!」






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