BACK TO THE OCEAN 間章7 黒ヒゲの復讐
間章7 黒ヒゲの復讐
コンコン。
「はい、どうぞ」
ガチャ、コツン、コツン……。
「おお……これはこれはサッチ社長。お忙しいのにわざわざお越しいただき、ありがとうございます」
「いやいや、カレンダー殿こそまさに、多忙の極みだろう? マグナブラの大臣をやりながら、ここの州知事も兼任しているなんて、その若さで大した奴だ」
「フフ……いえ、こっちにはそうも長くは居られないので、基本的な部分ができあがったら、あとは後任に任せますよ。それよりサッチ社長、本日はどのような件で?」
「んっん~……いや実は奴のことなのだが……」
「ああ……元会長の」
「そう……実は俺が奴を嵌めたんじゃないかと、コソコソ嗅ぎ回るネズミ共がいてな。それが鬱陶しくて仕方がないんだ」
「なるほど……そういえばあなたとレイカー氏との間には、以前より溝があったとかなんとか噂されていますからね」
「ンハハハハッ! 所詮は三流のゴシップ記事。俺は最初からレイカーのことなど、眼中にも無い。奴の会社は、俺と俺の部下で乗っ取ったようなものだからな」
「黒ヒゲの一味……でしたよね?」
「そうだ……俺達は
「だからあなたがレイカー氏に、過激派デモ部隊に資金を送るよう仕向け、その情報を兵団に横流しにしたと?」
「ンハハ……そう、それが三下記者共がでっち上げている、ゴミのような情報だ。しかしそれは半分しか合っていない」
「半分ですか」
「俺は奴に、資金を渡すよう仕向けなどしていない。なんせ、レイカーが金を渡していたデモ隊の狙いは、アンタらマグナブラの連中ではなく、俺達だったのだからな」
「ほう……つまりレイカー氏は、自分の会社をあなた達から取り戻すために、デモ隊の連中と手を結んでいたということですね?」
「ああ……しかもただのデモ隊じゃねぇ。そのデモ隊のメンバーの一部は、ロジャースのところの元クルーどもだ」
「なるほど。確かレイカーさんも、ロジャース元総督の船のクルーだったはず……つまりは、古巣の仲間同士で手を組んで、あなた達を倒そうとした……そういうことですね?」
「んん~、カレンダー殿は理解が早くて助かる。そうだ、俺はただ、俺達に降りかかろうとする火の粉を、アンタ達兵団に、あくまで合法的に片付けてもらった……ただそれだけだ。しかし平民共はクダラナイ噂話が好きだからな。俺が奴を嵌めたという戯言を、信用する者もいる」
「それで、ボク達はどうしろと? さすがに市民に箝口令を敷くなんて真似はできませんよ?」
「ンハハハッ! そんな横暴なことはしなくていい。ただ、レイカーを必ずムショの中にぶち込んでもらいたい。もしあの男がシャバに出たら、どんなことを喋るか分からないからな」
「疑惑の波紋をこれ以上広げないように……ですか」
「そういうことだ。できれば一生その口を開けないようにして欲しいところだが、しかしデモ部隊に金を送ったくらいで、それほどの罰を与えることはできまい。だからムショの中に、このほとぼりが冷めるまでは放り込んでおいてもらいたい」
「ふむ……それくらいなら承知致しましょう。どのみち彼は裁判を受けたところで、有罪となる身ですから」
「ンッフッフッ……感謝する」
「……しかしサッチ社長、ボクがアナタの要件を受け入れる代わりに、こちらにも一つ条件があります」
「んん~? どんな条件だ?」
「あなたにボクの後任として、この街を治めていただきたい。それが条件です」
「んん~? ……ンハッハッ! 俺がここの州知事になれと?」
「そうです」
「ンッフッフッ……カレンダー殿は人が悪い。てっきり俺は、無理難題を押し付けられるのではないかとヒヤヒヤしたんだぜ? それに俺がこんな用件を頼み込んでこなくても、アンタは俺を州知事に担ぎ上げようと画策していたんだろ?」
「フフ……それで、受けてもらえますか?」
「断る理由もねぇ、こんな好条件。一つの会社の頂点の椅子程度では、せまっ苦しいと思っていたところだ。この街の頂点の椅子こそ、俺の座る椅子だ」
「それでは交渉成立ですね」
「ああ……これでこの街から、奴を消すことができる」
「奴とは?」
「この街に宿る幻影……俺の目に写る唯一の海賊……ネプクルス・ロジャースだ。トルカロスも、レイカーも、奴の意思を守るためだけに、この街のトップを守り続けていた。しかし今、その二つの防壁は陥落し、俺の手中に収まった……奴をこの街から完全に葬り去るなら、今しかねぇ」
「ほう……何か過去に因縁でも?」
「奴がまだここを統治する前、カリオプソの海でちょっとな……」
「なるほど、海賊同士のいさかいですか」
「いさかいどころではない、あれは戦争だった……奴のせいで俺は痛手を喰らい、カリオプソ統一の夢、そして海賊共和国建国の夢を、あと一歩のところで阻まれたのだからな。だから今度は俺が、奴の作ったこの街の理想を阻み、そして支配する番だ」
「仕返しですか」
「ンッフッフッ、
「そうですね。しかし彼の意思を消すのなら、彼の娘はどうするのですか?」
「んっん~、あのガキなど眼中にも無い。ロジャースの実子であろうが、奴はもう戦うどころか、生きる気力も無いくらいに落ちぶれていやがる。あの灯台から出てくることも無かろうて」
「そうですか。ではあなたの敵はもう、この街にいないのですね」
「そうかもしれんな……アンタが敵にならなければ……な?」
「フフ……あなたと対峙したところで、ボクにも、おそらくあなたにも、何のメリットも無いでしょう? それにその気があるなら、あなたを州知事にしようなんて考えませんよ」
「ンハハハハハッ! 確かにそうだな! それではお互い、仲良くしようじゃないかカレンダー殿」
「ええ、そうですね。仲良く致しましょう」
「ンッフッフッ……ではそろそろ時間なので、これでお暇させていただこう。州知事となるために、色々と後始末もしておかねばならないからな」
「お手間をおかけして申し訳ありません」
「ンフフ……では」
コツン、コツン、ギイ……バタン。
「さて……あちらが後始末をしている間に、こちらは布石を打っておきましょうか」
ガチャ、カチカチカチ……ガラララ……。
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