BACK TO THE OCEAN Chapter4
第23章 フォースネットワーク
第23章 フォースネットワーク【1】
アクトポートの南端にある、トップハーバー。
僕はマンハットとライフ・ゼロの三人で、ある施設の前にやって来ていた。
そこには巨大なパラボラアンテナが設置されており、その隣には四角い箱型の建物があったり、更にその先では、大規模な工事が行われている。
この施設は以前、マジスターがこのトップハーバーで船乗りを探している最中に見つけた場所であり、どうやらここは、マグナブラの海軍基地が設立される予定地であるらしい。
そしてこのパラボラアンテナはおそらく、フォースネットワークの回線とやらをキャッチするためにここに設置され、隣の四角い箱型の建物の内部で、マグナブラとフォースネットワークを通じて、直接的なやり取りを行っているのだろう……というのがマンハットの予想であり、僕達はそのフォースネットワークから、レイカーさんの留置されている留置場の情報を手に入れるため、ここへやって来たのだ。
ちなみに僕達以外のメンバーは今頃、前自治区長である、スティード・トルカロスを仲間に引き入れるための交渉を行っている最中だろう……僕達も負けてられないな。
「いやはや……なんだかこういうのは初めてだから、ドキドキするなぁ……」
そんなことを言いながら、終始そわそわしているのはマンハットだった。
ちなみに今僕達は、パラボラアンテナのある施設から、少し離れた物陰から息を潜め、侵入をする機会を窺っている最中だった。
「キッキッ、そうか、こういうのは初めてか?」
「ああ。創作の世界で見たことはあるんだけどね……まさか一練魔術師である僕が、こんな立場に立たされるなんて夢にも思わなかったからね」
「人生とは数奇だ。我だってまさか、かつて敵対していた人間どもと、こうして世界を変えるために危険な橋を渡ることになるなど、予想もしていなかったからな」
「まさに、事実は小説よりも奇なりということだね?」
「キッキッキッ! そういうことだ!」
ライフ・ゼロとマンハットの二人は、そうやって話に花を咲かせ、緊張感を緩ませている。
まったく、お気楽な奴らだな……。
そんなお気楽二人組が何故、ここまで緊張感を欠いているのかというと、それはこの侵入作戦に、先程からまったく進捗が無いからだ。
施設の警備は二人だけなのだが、しかし唯一の侵入経路である正面の扉から、二人の兵士が離れてくれそうな気配が皆無であり、行きたくても行けないような、そんなもどかしい状況が続いていた。
「どうだうぬ? 侵入はできそうか?」
二人の会話に入らず、ずっと見張りの兵士の様子を窺っていた僕に、ライフ・ゼロは呑気に状況の確認をしてきやがった。
「まだ無理だよ、見張りが全然持ち場を離れようとしない……というか、お前も見ておけよ」
「様子見など、一人やっておけば十分だろう? 三人で揃ってジロジロ見てる方が、逆に相手に怪しまれる可能性が高まるではないか」
「まあ……そうか……じゃあ交代でやっていけば……」
「うむむぅ~? 急に目が霞んで、我、何も見えなくなってしまったなぁ~」
「おいっ! 偵察するのが嫌だからって急に視力が下がるなんて、どんだけ器用な目ん玉持ってんだ!」
ライフ・ゼロのあまりに雑な言い訳に、怒るどころか僕は、奴に突っ込みを入れてしまった。
「たく……お前背が小さいんだから、お前が偵察した方が僕より見つかりにくいだろ?」
「フンッ! 背が小さいからとて、我は魔王だからな。うぬよりも存在感があり過ぎてしまって、それでばれてしまうのだ!」
「なんだその言い訳……」
見た目通りの、子供らし過ぎる支離滅裂な言い訳に、僕は溜息を吐いてしまう。
こんなのにかつて、人類は滅ぼされそうになったのかと思うと、ホント情けないな……。
しっかりしろよ、僕達の先祖。
「まあまあ二人とも……ん?」
そんな、僕達の小競り合いをマンハットが仲裁しようとしたその時だった。
遠くから鈍い金属音と共に、何かが総崩れするような、そんな轟音が唐突に聞こえてきたのだ。
するとその直後、パラボラアンテナのある施設を見張っていた兵士達が焦るようにして、走ってどこかへ行ってしまった。
もしかしたら工事現場の方で何かがあったのだろうか……しかしこれで施設の周りには警備が居なくなった……侵入するなら、今がチャンスだ!
「ほれうぬらっ! ボサッとしとらんで、さっさと行くぞ!!」
そう思っていた矢先、真っ先に飛び出したのはライフ・ゼロだった。
「言われなくても分かってるよ! マンハット、行こう!」
「う、うん!」
僕達は数百メートルの距離を全力疾走し、施設に向かって急接近する。
ちなみに今日はどんなに走っても、スカートが翻る心配はしなくていい。何故なら今日の僕は、ズボンを穿いているからだ。
マグナブラの施設に潜入するんだったら、マグナブラの兵士の服装の方が良いだろうと思い、僕は今朝、一人で宿屋へと向かい、着替えてきたのだ。
やはりいつも着用している服は動きやすいな……スカートも、決して悪いというわけでは無いのだが、やっぱり着用している年月が長い分、このズボンの方が落ち着く。
そんなことを考えながら走っている内に、施設の扉の前までなんとか無事、到達したのだが、しかしさすがに本気で走ったこともあり、比較的体力のある僕とライフ・ゼロでも息を切らしていたのだが、しかしマンハットに至っては、その場に屈みこみ、肩で息をしてしまっており、息を切らすというよりかは、すっかり疲弊してしまっていた。
「はあ……はあ……大丈夫かマンハットさん?」
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……な……なんとか……でも……こんなに必死に走ったのは……久々だよ……」
息も絶え絶え、苦笑いを浮かべながらマンハットはそう言ってみせる。
まあ練魔術師っていうのは、研究をするためにずっと研究所に籠ったりするらしいから、こうして必死になって外を走る機会なんて、滅多に無いだろうからな。
やはり彼は実働向けでは無く、バックアップ向けだな。
「ほれうぬ、さっさと扉を開けんか」
「えっ? ああ、うん」
ライフ・ゼロに催促され、僕は施設の扉のドアノブを握る。
鍵はかかっておらず、ドアノブを回すと扉はすんなりと開き、施設の中には人っ子一人見当たらず、そこにあったのはモニターのついた機械が一つと、箱型のよく分からない、ランプがチカチカしている機械が複数台、施設の四方八方を囲むように設置してあった。
単純に内部が狭いというのもあるが、しかしこうやって機械が囲むように立ち並んでいると、ここがすごく息苦しい空間であるように、僕には思えた。
「ふぅ……やっぱりあったか……ネットワークターミナル」
息を整えながら、マンハットは正面にある、モニターのついている機械の方へと歩み寄って行く。
僕は一応見張りが戻って来ることを警戒し、扉の鍵を閉めてしまってから、マンハットの元へと向かった。
「これがマンハットが言っていた、フォースネットワークってやつなのか?」
僕がそう尋ねると、マンハットはうーんと、ちょっとだけ首を捻ってみせた。
「いや……これ自体がフォースネットワークっていう物じゃなくて、エレクトロニックネットワーク……長いからネットって言うけど、ネットはあくまで情報をやり取りするための通信網のことなんだ。この機械は、そのネットに接続してやり取りを行うための端末機器。だからネットワークターミナルって呼ばれているんだよ」
「ほほう……」
まあ返事はしてみたものの、よく分からないが、とりあえずこの機械を使えば、フォースネットワークの情報を見ることができるってこと……なんだよな?
「さっきからマンハットはそう言っておるだろ。物分かりの悪い奴だな」
フンと鼻息を立て、僕の思っていることに答えてみせるライフ・ゼロ。
チッ……コイツ理解してるのかよ。なんだかライフ・ゼロに先を越されたことだけが、異常に悔しいな。
「ははは……さて、じゃあ起動しよう」
マンハットは僕達のいざこざを見て、苦笑いを浮かべた後、ネットワークターミナルの電源を入れ、起動させる。
黒い画面には、白いよく分からない数字が無数に表示され、しばらくすると、マンハットが作ったテレパシーバーのように、メニュー画面のようなものが現れた。
「とりあえずまずは、レイカーさんの留置されている留置場の場所の特定と、彼がどのような状況に陥っているのか、それを調べてみよう」
マンハットはそう言って、モニターの前にある板状の物を叩く。
ちなみにその板状の物は、キーボードというらしく、文字を入力するための物らしい。
そしてその隣にある、マンハットが今右手で握っている、丸っこいネズミのような形をしている物は、マウスという、形そのままの名前の物だとか。
マンハットがそれらの物を使って、ネットワークターミナルの操作を続けていたのだが、しばらくして、彼のカタカタというキーボードを叩く音と、マウスのクリック音が急に止まった。
「あった見つけた! チャールズ・レイカー氏の処分データだ!」
それまで画面を見るフリだけして、ぼーっとしていた僕だったが、しかしマンハットのその一言でハッと我に返り、画面に詰め寄った。
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