第22章 決断の時【4】

「な……なんだよ、また笑って……」


「ははは……いや……前ならこういう感じで責められてたら、アンタ、すぐによく分からない言い訳をしてたじゃない? それが無くなって、まず謝れるようになったのが成長したなぁ~って思って」


「あー……そういえば、そんな時期もあったなぁ……」


「そんな時期って、ちょっと前の話じゃない」


「そうだっけ?」


「そうよ! だけど……うん……」


 するとルーナは突然、僕の手をぎゅっと握ってきた。


「本当に大切な人だからこそ、わたしもアンタのことを信じてあげないといけないわよね……アンタなら無事、一人で任務を成功させれるって……」


 そうは言っているが、やっぱり完全に不安を拭えないのだろうか、ルーナの表情は少しだけ強張っていた。


「……うん、そう信じていてくれ。僕もルーナが交渉に成功するのを信じてるから」


 だから……彼女が僕のことを心配しているからこそ、僕は強気にそう言ってみせた。


 僕にはルーナの心配ができるほどの余裕があると、そう彼女に思ってもらうために。


「そう……ふふっ、そうよね。わたし達も大概無茶なことをしに行くんだし、アンタの心配ばかりしてられないわね?」


 僕の意図が伝わったのか、ルーナの硬い表情は和らいでいき、口元をニッコリと緩ませ、僕に微笑んでくれた。


「そうだよ。トルカロスさんとの交渉が決裂したら、それからクルーを十四人集めるなんてほぼ不可能だからね。責任はそっちの方が重大だぜ?」


「そうねぇ……でもアンタだって、せっかくこっちがトルカロスさんとの交渉が成功しても、アンタがレイカーさんを連れて来なかったら、テティさんの条件をパーフェクトにこなせないんだから、そっちも重大よ?」


「まあ……そうだな。どっちも同じくらい、重大だな」


「そうそう」


 どちらが危険とか、どちらが大切とか、そんなものは無い。どっちともそれなりのリスクを孕んだ、大仕事なんだ。


 だからこそ、互いの仕事を完遂しよう。両者が成功することを信じて……。


「さて……明日から忙しいし、そろそろ寝よっか?」


「そうね……ふぁ~あ……」


 双方の不安を解消し合い、安心したのか、急に眠気が湧き起こり、どうやらルーナも僕と同じように眠たくなってきたのか、小さな欠伸をしてみせた。


「戻ろ戻ろ……ふあ~あ……」


 ルーナの欠伸が僕にもうつり、それから僕達は、遠くで煌びやかに輝く夜景を背にして、今晩の寝床であるハンバーガーショップの長椅子へと戻って行った。


 尿意で目覚めたというのもあるが、しかし僕の中にも少なからず、今回のことを不安に思う気持ちがあり、そのせいで熟睡することができていなかったのだろう。


 だから用を足しても、真っ直ぐ寝床には戻らず、気を紛らわすために、外に出て夜景を見ていたのかもしれない。


 しかしそれからは一度も起きること無く、僕は深い眠りに着くことができた。


 何故ならそれは、どんな不安も、妥協をも寄せ付けない決断を、僕は、僕の中で下し、そして今までの迷いを全て断ち切ったからだ。


 今の僕の念頭にあるものはただ一つ……必ず自分の任を果たし、ルーナの元へ、みんなの元へと帰る……それだけだ。


 例えこれから、どんな難航する場面に直面しようとも、この決断だけは、僕の中で決して揺らぐことは無いだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る