第20章 はばかられる船出【5】

「ただしわたしは紹介をするだけです。実際にその方が、お客様方に着いて来るかどうかは、お客様次第です」


「んん? つまり交渉は自分達の力でどうにかしてくれということか?」


「どうにかしてくれというよりかは、わたしがその方に、お客様方の仲間になっていただくよう勧めたとしても、そう簡単に心が動くような、そんな相手ではない……ということです」


「なるほど……一筋縄ではいかぬ相手ということだな?」


「そうなります」


「ふうむ……交渉か……」


 マジスターは腕を組み、眉をひそめる。


 交渉を行わなければならないというのは、こちらとしては手間にはなるが、しかし紹介をしてくれるだけでも、今の絶望的状況に陥っている僕達にとっては有り難いことだ。


 その時ふと、船乗りというワードで僕は、三日前のこのハンバーガーショップで、デモに参加していた男達に僕が絡まれた時のことを思い出した。


「そういえばロベルトさんは、元海賊だったんですよね? ということはその船乗りって、その時の知り合いだったりして?」


 僕が冗談半分で訊いてみると、ロベルトは僅かだが目を見開き、「ほお……」と驚嘆をしてみせた。


「勘が鋭いですね……しかしご安心してください。紹介相手は元海賊ではありますが、今となっては一般市民も同然の御方なので。まあ……あの御方はわたしのような、ただの元海賊というのとは少し異なる立場の人物ではありますが……」


「普通の海賊とは異なる? ……ロベルトさん、その人ってどんな人なんですか? 紹介される側としてはその……最低限、相手の素性くらいは知っておきたいところなんですけど……」


 僕はロベルトの恐い顔に怖けず、しかし内心ドキドキしながらも、精一杯の気持ちで、これから交渉を行うであろう相手の情報を探りにかかる。


「分かりました。わたしがこれから紹介する相手、その御方は……」


 するとロベルトは何の抵抗も無く、これから僕達が交渉するであろう相手の簡単なプロフィールを紹介してくれたのだが……しかしその相手は、そのプロフィールを聞いただけで、僕とライフ・ゼロ以外のメンバーが騒然としてしまうような、そんなトンデモナイ相手だったのだ。


 そう……その相手とは……。


「ターミルオーシャンの全ての海賊を従え、この街を生み出した大海賊、ネプクルス・ロジャース船長の、たった一人の御息女です」

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