第12章 破皇の再臨【7】

(ところでお前、僕を同類なんて言っていたけれど、それはどういう意味なんだ? 性質が同じとも言っていたが……)


『ああ、そのことか。なに……我と同じ、うぬも使命を最初から持って生まれてきた者という意味だ』

 

(使命を?)


『そうだ。数多くの生物はこの世に生まれて、いくらか成長してから自分に使命を課すようになるのだが、しかし我もうぬも、この世に発現したその時から、そうなる使命を宿されて生まれてきた者だということだ』


(……ちなみにお前にはどんな使命が?)


『我はこの世界を破壊する使命を持って生まれた。破壊が無ければ創世は無い。この世界の創世を生み出すために、我はこの世に降り立ったというべきか』


(破壊……だから人間を滅ぼそうとしたのか?)


『そうだ。この世界で最も繁栄しているのは人類だからな。人類を一度滅ぼすことによって、世界は再び新たな創世を始める。そうなるはずだったのだが……どうやら計算違いが生じた』


(ワーハイト・ルージか?)


『ふん、あの男はそこら辺にいる人間と変わらん。我の計算違いは奴ではない、その剣だ』


(太陽の剣が?)


『そうだ。それは元々、この世界に存在しないはずの剣なのだ。しかし我がこの世界に発現すると同時に、その剣も発現しおった。我はその剣を見てはっきり分かった、我は神にそそのかされたのだと』


(神様自身がお前の破壊活動を妨害してきたということか?)


『うむ。というより、全てを破壊するのではなく、ある程度破壊させた時点で我を封印し、その後人類が復興を遂げ、更なる繁栄をするためのキッカケを作りだしたのだ。この我を使ってな……実に腹立たしいことだ』


(お前は人類のために利用されたってことなのか)


『結果的にはそうなるな。そしてうぬも我と同じ、神に利用されし者ということだ。うぬは今、何か成し遂げようとしていることがあるのではないか?』


(この世界の……暁の火という規範を壊そうとしている……)


『キッキッキッ……これは奇遇にも、我と同じ破壊を志しておる者というわけだな』


(そうかもしれないが、僕はお前と違って、人間を滅ぼすために破壊するわけじゃない。僕達は、僕達の意思で生きていける世界を作るために、暁の火を滅ぼすんだ)


『そうか……さしずめ、革命家といったところか?』


(そんな綺麗なものじゃないよ……僕は嫌われ者だからね)


『キッキッ! 人類に嫌われながらも、人類のために解放を目指すか。うぬはなかなか面白い奴だ』


(そうか、元祖嫌われ者の代表に言われると冥利に尽きるよ)


『キッキッキッ!』


 表情は見えないが、声色から心底笑っているように思えるライフ・ゼロ。


 しかしそれは今までのような、嘲けるような笑いではなく、面白可笑しいような、愉快な笑いだった。


 今までは人類の敵だと毛嫌いしていたのだが、こうやって互いのことをじっくりと話していると、意外と分かるやつなのかもしれない……そんな気に、僕は今なりつつある。


 だからといって、完全に心を開いたというわけでもない。あくまで相手は破壊の皇と呼ばれて、畏怖されてきた存在には違いないのだから。


(それでこれから僕はどうしたらいい? この太陽の剣は、僕がもらってもいいのか?)


『キキッ、それはうぬ次第だ』


(どういうことだ?)


『試しにその剣に触れてみろ。そしたら分かる』


(…………)


 何かあるのではないかという一抹の不安があったものの、しかし僕はライフ・ゼロの指示通り、太陽の剣に触れてみる。


「いって!!!!!」


 瞬間、太陽の剣から鋭い衝撃波が発生し、僕の手にはまるで、鞭のような物で手を引っ叩かれたような激痛が走り、僕は反射的に太陽の剣から手を引っ込めてしまった。


「どうしたコヨミ!」


 そんな僕の様子を見て、マジスターが僕の顔を窺う。


「この剣……触れない。触れた途端、もの凄い衝撃波が僕の手を弾いてきた……」


「なっ!? 触れない? 何かこの剣に罠のようなものが施されとるということか?」


「分からない……」


「ちょっと! せっかく伝説の剣を見つけたのに、触れないんじゃどうしようもないじゃない!」


 ルーナは眉間にしわを寄せ、頬を膨らませる。


 確かに彼女の言う通り、これでは手に入れるどころか、手にすることすらもできない。


 一体これは何なんだ……。


『キッキッキッ! やはりそうなったか』


 ライフ・ゼロの笑い声が聞こえてくる。まるでそれは、イタズラを仕掛けた無邪気な子供のような笑い声だった。


(これはどういうことだ)


『そんな怖い声を出すな。それをやっとるのは我ではない。その剣自体に仕掛けられた一種の罠だ』


(罠? そんなもの誰が……)


『うぬら人間が勇者と仰ぐ、あの男だ』


(ワーハイト・ルージ……)


『そうだ。あの男は他の者にこの剣が手渡らないよう、このような小細工を仕掛けたのだ。もし誰かの手に渡り、我がこの剣に封印されているなんてことを、何かの拍子で知られてしまっては、大騒動になってしまうからな』

  

(なるほど……だけどこれまでこの剣が子孫に受け継がれてきたってことは、ルージの家系なら大丈夫ってことなのか)


『そういうことだな』


(じゃあ僕にはこれを手にする余地がないじゃないか!)


『そう感情的になるな、たわけ者。抜け穴はある』


(どんな?!)


『あの男の家系の血が流れている者のみをこの剣が受け入れるのならば、今頃我は外に追い出されておる。つまり我も、この剣に受け入れられておるというわけだ』


(なるほど……それでどうするんだ? まさか僕の体をお前が乗っ取るなんて言うんじゃ……)

 

『キッキッ、それもできんことはないが、我はもう数百年前にその使命をまっとうした。今さら現役に戻るつもりは無い』


(隠居でもしたつもりか?)


『余生は使命に囚われない、幸せな暮らしを送る。どの生物も思うことは同じだということだ』


(フッ……その割には僕に手を貸してくれる気満々じゃないか?)


『老人からのお節介と思えばよい。気まぐれだ』


(気まぐれね……)


 つまり僕に手を貸すのは、リタイア後の、老後の趣味みたいなものということか。


 それにしてはやけに過激な趣味だと言えなくもないが……まあ、また気まぐれを起こしてやめるなんて急に言いだしかねない相手だから、ここは素直に協力してもらうことにしておこう。


 老人の趣味に付き合うのも、若者であるが故の仕事だ。

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