第12章 破皇の再臨【6】

「まずは一発!」


 ルーナはトリガーを引き、まず一発目を発砲する。


 弾丸は見事、岩石の右上端に命中し、ハーミット・レッドの能力である、魔力を使って弾丸を爆発させる力によって、当たった弾丸が炸裂し、それによって欠けた岩石の破片が落下する。


「よし、次っ!」


 調子を増したルーナは二発、三発と連続で発砲し、五メートルあった岩石は、約三メートル程まで崩れて、どんどん小さくなっていった。


「ルーナ、ストップ!」


 四発目を発砲し終えたところで、マジスターは右腕を挙げて、ルーナの射撃を制止させる。


 岩は思惑通り、綺麗に上手く崩れているが、何か問題でもあったのだろうか?


「どうしたのよマジスターさん?」


 ルーナは即座にトリガーから指を離し、ちょっと怪訝そうな顔つきでマジスターを見る。


「うむ、下に崩れた欠片が溜まってきたからな。一度撤去しておかなければ、邪魔になると思ったんだ」


「そう……確かにそうね。コヨミ、あの欠片どけてきてちょうだい」


「えっ!? 僕が?」


「そうよ。今手が空いてるでしょ?」


「あっ……ああ……いやほら! 僕は太陽の剣の位置を確認するって仕事があって……いってええええ!!」


 その刹那、ルーナは僕の右足を思いっきり踏みつけ、いつものように鋭い眼光で睨みつけてきた。


「行きなさい?」


「……はい」


 もう本当に僕って、彼女の尻に敷かれちゃってるよな。


 あんな目で見られたら、まったく逆らえなくなってしまう……こういう時の、自分の押しの弱さが嫌になってしまう。


 それに彼女、スレンダー体系だからお尻はそんなに大きくないし……どうせ敷かれるならもっと柔らかい方が……。


「いてっ!!! イダダダダダダダダッ!!」


 瞬間、ルーナは僕の右足をグリグリグリと、三回程えぐるような感じで踏みつけてきた。


「今何か変なこと考えたでしょ?」


「め……滅相も無い! そ……そう! これからどうやってあの欠片を撤去しようか考えてたんだよ!」


「…………まあいいわ、さっさとあれをどかしてきて」


「お……オッケー」


 ふう……危ないところだった。


 こういう勘は、何故か異常に冴えているんだよなぁルーナって……マジスターに上手く口車に乗せられていることには、まったく気がつかないくせに。


 それとももしかして、僕の方に何か問題があるのだろうか……?


「カッカッカッ! コヨミ、わしも手伝うぞ!」


「ああ……よろしく頼むよ」


 そんな僕達のやり取りを終始、まるで子供のたわいもない喧嘩を見守る親のような目線で見ていたマジスターが、僕のことを憐れんでかどうかまでは知らないが、協力してくれることになり、男二人で岩石の欠片を撤去し始めた。


 しかし岩石の欠片といっても、そのほとんどが弾丸の爆発によって粉々になっていたため、そんなに大きな塊は無く、作業は着々と進んで行く。


 その撤去作業をしている最中、マジスターから「女に相手にされている内が、男は幸せだ」なんてことを言われたのだが、僕にはその言葉の意味が全く分からず、頭の片隅で考えている内に、欠片の撤去作業は終わってしまった。


 岩石の欠片は綺麗に撤去できたのに、一体あの時、マジスターは何のことを言いたかったのだろうか……と、何かモヤモヤするものが僕の心の中に散らかってしまった。


「よしルーナ、引き続きもう少し削り取ってくれ。一メートル程になれば、あとは押してどかすことができるだろうからな」


「オッケー!」


 マジスターの指示を受けて、再びルーナはハーミット・レッドを構え、残り約三メートル以下となった岩石の端を狙い、削っていく。


 リスタートからルーナが四発目を撃ったところで、目の前の岩石の大きさは一メートルにも満たないほどの大きさとなり、また周りに岩石を崩した時に出た破片が溜まってきたので、先程と同じように右手を挙げて、マジスターはルーナの射撃を止めさせた。


「これだけ小さくなれば十分だろう。二人とも、周りの欠片を撤去してから、あとは岩を押して下敷きになってる太陽の剣を回収するぞ」


「ふう……全部破壊できないのは残念だけど、これだけ上手く撃てたら満足ね!」


 シリンダーの残弾を取り出しながら、ルーナは満面の笑みを浮かべている。


 どうやら岩崩しのおかげで、戦闘民族のお姫様の欲は十分満たせたようだ。


 これでしばらくは、射撃の才能を教えろなんていう無茶苦茶なことは言われずに済むだろう……心の底からほっとするよ。 


 それから僕達はマジスター主導の下、周囲に散らばっている岩の欠片を撤去してから、今まで削ってきた大元の岩を三人で押すこととなった。


「よしいくぞ、せーのっ!」


 マジスターの合図と共に、三人で一気に岩を押す。すると元々は五メートルもあった大岩が、ゴロゴロとたった人間三人の力で軽々と転がっていき、その下からは真っ青な金属の鞘に収められ、ガードから柄頭ポメルまでが赤黒い色をした一本の剣が姿を現した。


「これが……太陽の剣……」


 伝説でその名を聞いたことがあるだけで、どの資料にもその姿は記載されていない、まさに伝承の中の剣。それが今、僕の目の前にある。


 これで伝説の剣が存在するという、驚愕の事実を目の当たりにしたわけだが、しかしその代償として、僕達はこの剣を発見したことによって、その伝説自体を否定する真相を見つけ出してしまったわけだ。


 この剣の場所まで僕達を導いたのは、なにを隠そう、かつてこの剣で斬られ、魂ごと滅んだと今の今まで伝承されてきた、あのライフ・ゼロなのだから。


「マジスター……これで僕達は証明しちゃったわけだよね……」


「ああ……認めざるを得ないだろう、こうなってしまっては。ライフ・ゼロはまだ、この世に残っている。この太陽の剣の中にな……」


「…………」


『キッキッキッ……絶望しておるのか?』


 ライフ・ゼロの凍てつく冷笑が聞こえてくる。


(僕の顔が、そんな風に見えるのか?)


『ああ、そう我には見える。こうやってハッキリとうぬの顔が見えたのは初めてだがな』


(フン……初めてだってのに、表情だけでそこまでハッキリと感情を読み取られるなんてな……)


『そういう表情をした人間を、かつて山のように見てきた。そういう意味では初めてではなく、むしろ見慣れておると言ったところか? キッキッキッ……』


(悪趣味な話だ)


『まあそう怒るな、ただの昔話だ。今までうぬら人間を欺いておった、勇者の伝説とやらと大差ない』


(伝説なんかより、本人が語る昔話の方がよっぽど信憑性があるけどな)


『キッキッ……それは皮肉のつもりか?』


(そう聞こえたのなら、きっとそうなのだろうさ)


 実際皮肉で言ったつもりだし、否定はしない。


 だが僕は、肯定もしなかった。それは僕も、伝説に欺かれた者の一人だから。


 そしてその影響で、本気で勇者を目指した者の一人だから……。

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