第12章 破皇の再臨【5】

「ちょっとコヨミ? コヨミってば!」


 隣に居たルーナの声が聞こえ、僕ははっと我に返った。


「あ……ああ、ルーナ」


「ああじゃないわよ。大人しく待ってたら待ってたで、ずーっと黙り込んだままなんだから」


「ああ……ごめんごめん」


 はてさて、せっかちなルーナがどれくらい待てたかは別として、しかしライフ・ゼロ(仮)と会話をする時は、常に意識の内側に集中してしまうため、こうやって誰かから声を掛けられたりしない限りは、外のことがまったく見えなくなってしまう。


 現に今だって、ルーナの待ってる姿なんか全然見えてなかったし……彼女が大人しくしてるところなんて珍しいから、是非この目に収めておきたかったのだが……。


「なによ、わたしのことジロジロ見て」


「いや……なんでもない」


「ふうん……そう。それでアンタ、何か訊きだせた?」


 ルーナは腕を組んで仁王立ちをし、僕に問いかける。


「ああ……どうやら探し物は、意外と近くにあったらしい」


「どういうことよ?」


「まあまあ、ちゃんと教えるから。おーいマジスター!」


 僕は岩の間を覗いてみたりしているマジスターを、大声を出して両手を挙げて呼び寄せる。


 それに気づいたマジスターは走って僕達の元に戻って来た。


「どうしたコヨミ? 何か見つかったのか?」


「見つかったというよりかは、太陽の剣がある場所が分かった」


「そうか……それはライフ・ゼロがそう言ったのか」


「ああ……」


「むむむ……」


 マジスターは眉間にしわを寄せて、右手で頭を掻くような仕草を取る。


 彼も僕と同様、ライフ・ゼロのことについては、まだ完全には信じていないからな……そういう複雑な心境になってしまうのは、痛いほど分かる。


「……それでコヨミ、その場所はどこだと言ったんだ?」


 だが、しかしこれも僕と同様、マジスターもヤツの言葉に騙される覚悟で、乗ってみることにしたようだ。


「それが、僕達がバイクを止めた場所らしい」


「バイクを止めた場所? あの場所に太陽の剣が落ちてたということか?!」 

 

「正確に言うなら、あの場所にある岩のどれかに下敷きになっちまってるらしい」


「下敷きにか……だがバイクが見えるくらいだ。もしかしたらあの場所にわしらが行けば、ヤツからわしらの姿が見え、どの岩の下敷きになっているか特定することは、容易いことだろう」


「そうだね……よし、戻ろう!」


 僕達は爆心地から少し離れた場所にある、バイクを停車した岩場まで歩いて戻ることにした。


 しかしユスティーツフォートがあった爆心地からあの岩場までは、数百メートルどころか数キロ単位で距離が離れている。


 それほどまでに物体を吹き飛ばす元素爆弾の威力も相当なものだが、しかしその威力に耐え抜いて、更に数キロ吹き飛ばされても耐え抜いている太陽の剣の耐久力も、相当なものだ。


 そういう意味では、まさに伝説の剣と呼ばれるに相応しくはあるんだけどな。


 そんなことを考えながらしばらく歩いている内に、僕達はバイクを止めておいた岩場にまで到着した。


 しかし先にも言っていた通り、ここには無数の大小の岩が転がっており、物によっては数メートル単位の物もある。もしそんな大岩の下敷きになっていたら、はたして僕達三人だけでそれをどかすことができるのだろうかという一抹の不安が僕にはあったのだが……。


「大丈夫よ! その時はハーミットでわたしがぶっ壊してやるから!」


 などと言って、ルーナはホルスターから赤い拳銃を取り出す。


 そういえばあの拳銃、魔力で弾丸を大爆発させることができるんだっけ……確かにそれなら大きな岩も砕けそうだし、心強くはあるな。


 しかし何故だろうか……ルーナにそういう役目を任せると、なんとなくマズいような気がするんだよな。


 まあ、ただの僕の思い過ごしならいいんだけれど……。


「コヨミ、わしらの姿がヤツから見えるか訊いてみてくれ」


「分かった」


 僕は意識を内部に集中させ、ライフ・ゼロと名乗るアイツを呼び出そうとしたその時。


『見えとるぞ』


(うわっ!? 聞こえてたのか……)


『うむ。うぬらの声が聞こえるほど、我とうぬは接近しておる』


(そうか……それで今、僕達はどう見えてる?)


『横向きだな。右の半身が見える』


(なるほど)


 僕は意識を外側に戻し、右に振り向く。


『うむ、うぬが正面になった。そのまま真っ直ぐ進め』


 指示通りに一歩、二歩、三歩と進み、しかし四歩目に差し掛かろうとした時、僕は足を止めた。


『どうした?』


(進めない……というか、多分この岩の下だ)


 そう、僕のすぐ目の前には岩があった。しかも、ここら辺で最も大きいだろうと思われる巨大な岩が。


 高さでいったら、五メートルはあるだろう。とてもじゃないが、人間三人ではどかせようのないスケールの岩だ。


「コヨミ、その岩の下なのか?」


 マジスターの声が聞こえ、僕は踵をめぐらせ、振り返った。


「ああ、この岩の下らしい。でもさすがに、これを押すことはできないだろ?」


「ふふん! やっぱりわたしとハーミットの出番ね! さっさとそこをどきなさいコヨミ!」


 水を得た魚の如く、顔に満面の喜色を浮かべ、ルーナはハーミット・レッドの銃口を、僕のすぐ背後にある巨大な岩に向けた。


「ちょっ! 分かった! 分かったからまだ撃つなよルーナ!」


 あのルーナの目の輝きは危険だ……今すぐにでも引き金を引きかねない!


 僕はなりふり構わず、全力疾走してルーナの背後にまで戻る。彼女の後ろであれば、何が起こったとしても被害を受けるのは最小限で済みそうだし。


「ルーナ、一気に崩そうとはせず、岩を削り取るような感じで、岩の角を狙うんだ」


「えっ? どうしてよマジスターさん、一気に崩した方が楽じゃない」


 トリガーに指を掛けながら、ルーナは片眉をあげ、顏だけをマジスターに向ける。 


「崩す上では楽かもしれないが、その後、砕けた無数の岩石の欠片の中から剣を探すとなってしまっては、それ以上の面倒がかかるだろ?」


「うう~ん……そうね……」


「カッカッ! それにただ岩を狙って爆発させるのは容易だが、しかしその角を狙い、更に爆発で岩を削るというのは、なかなかのテクニックが必要だぞ? 今こそ師匠として、射撃のテクニックを弟子に見せてあげる時なのではないか?」


 そう言ってマジスターは僕の顔を一瞥する。


 ああ……その弟子っていうのは僕のことっすか。


「フッ……そうね! コヨミ、師匠の射撃を瞬きせずに、よおおおおおおおおおっくしっかり目を引ん剥いて見ておきなさい!」


 再び機嫌を良くし、ルーナはサイトを覗きこんで、目の前の巨大な岩の角を狙う。


 マジスターは本当にルーナの扱い方を熟知してるよな……僕だと必ず、言葉の裏があるんじゃないかって疑われるのに、何も疑われることなく、ルーナを上手い方向に転がしているからな。


 僕ももうちょっと弁が立つならば、それくらいできるのかもしれないけれど、そうなるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。


 拳銃の扱いより、この子の扱いの方がよっぽど難しいからね。

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