第12章 破皇の再臨【8】
(それで、お前を使って、どうやってこの剣を僕が使用できる状態にするって言うんだ?)
『我の魂の一部をうぬの中に宿らせる。そうすることによって、その罠の効力を無効にさせるという方法だ』
(お前の一部を僕の中に入れるというのか……)
『不安か?』
(いや……そうするしか手が無いのなら、やるよ。僕にはまだ、まっとうしなくちゃならない使命があるからね)
『そうか……キッキッ、ではいくぞ!』
すると太陽の剣から小さな紫色の光が出てきて、僕の中にスッと入ってきた。
『よし、これでうぬの中に我の一部が埋め込まれた。もう一度太陽の剣に触れてみよ』
(えっ……こんな簡単なことでいいのか?)
『そうだ。ほれ、はよせんか』
先程の痛みがまだ手に残っているせいか、恐怖心で剣に触れるのは若干の抵抗があるのだが、しかしこの程度の恐怖、今まで味わってきたものに比べればなんのこっちゃない。
男を見せろ、僕っ!
「…………だ……大丈夫だ」
剣に触れても、何も起きない。さっき起きた衝撃波は、発生しない。
僕は太陽の剣のグリップをしっかり握り、そして持ち上げた瞬間、僕はこの剣が普通の剣と異なることを、実感した。
「お……重さが無い……なんなんだこの剣は!?」
そう、まるで空気を掴んでいるような、そんな感じ。
これほどの大きさの剣なら、数キログラムはあってもオカシクはないはずなのだが……これが伝説の剣と呼ばれる
「おお! コヨミ……握れるようになったのか!?」
マジスターが歓喜の声で僕にそう訊いてくる。
「ああ、見ての通りな」
「おおおおおおおっ!! これで伝説の剣はわしらの手に渡った!! これは大きな一歩だ!!」
そうして万歳をして喜ぶマジスター。
だがその後ろで、ルーナが僕の顔を見て厳しい目つきをしていた。
もしかして、僕が太陽の剣を手にしたことを不服に思っているのだろうか?
「……アンタ、何でさっきまで触れなかった剣に、突然触れるようになったのよ」
うっ……痛いところを突かれた!
「太陽の剣が使えるようになりました~」みたいな感じで、なあなあなまま話を流してしまおうと思っていたのに、どうやらルーナは、何か僕が隠し事をしていると嗅ぎつけたようだな。
なんでこの子には、僕の隠し事が分かるんだよ……何か魔法でも使ってるのか?
「確かにルーナの言う通り、わしとしたことがつい浮かれてしまった……コヨミ、どうやって使えるようになった?」
マジスターも気づいてしまい、八方塞がりに。
これはもう誤魔化さず、弁明するしかないよなぁ……。
またそうなったらそうなったで、面倒なことになりそうだけど。
「……実は僕、ライフ・ゼロの一部を自分の中に埋め込んだんだ。だからこの剣が使えるようになった」
「んなっ!!? ライフ・ゼロを取り込んだだと!!!? お前それで、大丈夫なのか!!」
「うん……今のところは大丈夫みたい。それにライフ・ゼロも、僕を乗っ取るような気はないみたいだし」
「う……む……そうか。しかし相手はかつての侵略者だ。気を抜くな……って、うおっ!」
僕に用心を促すマジスターの間に、突如割って入ってきたルーナは目を輝かせ、僕の両肩をギュッと唐突に握ってきた。
「な……なんだよルーナ!?」
「すごいじゃない!」
「え?」
「だってこの世界を滅ぼそうとした魔王を取り込んだんでしょ!? ということは、魔王の力を手にしたも同じじゃない!」
「あ……ああ……まあ、そうなのかな?」
「きっとそうよ! あーあ……伝説の剣に魔王の力なんて……なんでアンタばっかり、すごいものを手に入れれるのよ」
「と言われてもなぁ……」
僕だって別に、好きでこんな色々と手に入れているわけじゃないしなぁ……。
流れといってしまえば、多分そうなんだと思う。
『キッキッ……流れではなく、うぬが力を望んだ結果だろう?』
ライフ・ゼロの声が聞こえる。しかし感覚としては、以前はどこからか聞こえてくるといった感じだったのだが、今はしっかりと頭の中から聞こえてくるような感じがした。
(おい! 僕の中に入ったからといって、思っていることを全部覗くなよな!)
『キッキッ、すまんな。しかしこの通り、うぬとは文字通り一心同体だからな。もし我の悪口を言おう……いや、思おうものならば、こうやって我にも聞こえておるから注意せよという、警告のようなものだ』
(ちっ……やっぱりマジスターの言うように、気は抜けないな)
『キッキッキッ! それで、その二人はうぬの仲間か?』
(ああ)
『ふむ、我としても、これから共に戦う者達に挨拶をしておきたい』
(挨拶? いやに律儀なヤツだな。でもどうやって?)
『うぬが我を召喚せよ』
(召喚? そんなことできるのか!?)
『うむ。うぬはもうこの剣の所有者となった。だからこの剣から我を出すのも引っ込めるのも、うぬの自由だ』
(……お前、何かよからぬことを考えてないだろうな? 例えば脱走とか……)
『たわけ者が! 今言っただろう、出すのも引っ込めるのもうぬの自由だと。我はもうこの剣の中に、完全に魂を捕らわれておる。それに肉体はもう存在せん。逃げる場所など無いのだ!』
(そ……そうか……それはスマン)
『フン! 分かればよい』
どうやらライフ・ゼロの機嫌を、かなり損ねてしまったようだ。
確かに僕も、何の根拠も無くコイツを疑ったりして……悪いことをしてしまった。
(それで、どうやって召喚したらいい?)
『太陽の剣を鞘に収めたまま地面に突き刺せ。それだけでよい』
(そんなのでいいのか……じゃあ)
僕は外に意識を戻す。
「ルーナ、マジスターちょっと下がって」
「な……なによイキナリ?」
「ライフ・ゼロが直々に、二人に挨拶したいみたいなんだ」
「挨拶ぅ? でもどうやってするのよ? まさかアンタが、そいつを今からここに呼び出すなんて言うんじゃ……」
「そのまさかだよ。ほらルーナ、ちょっと下がって」
「ルーナ、こっちに」
「あっ! もう……」
ルーナはマジスターに連れられて、二人は僕から距離をとる。
「それじゃあ……おらっ!!」
僕は両手で太陽の剣を握り、鞘に収まったその剣を思いっきり地面に突き刺した。
すると鞘が突き刺さった地面の場所から紫色の光が輝き、拡散し、僕の周囲がどんどん紫の光に包まれていき、そしてヤツは僕のすぐ目の前に姿を現した。
破皇の封印された魂が、僕の手によって再び、この世界に来臨したのだ。
「キッキッキッ……初対面だな、うぬよ」
その姿は、言ってしまえば小さな子供。
歳でいえば十歳くらいの子供だろうか……背丈は百五十センチ前後。紫と白が混じったような色の髪をしており、肩までかからないショートカット。そして肌は透き通るほど白く、美白というには相応しい色白さだ。
性別は男の子にも見えるし、女の子にも見えるし……中性的といえばいいだろうか。
兎にも角にも、人間には無いような、そんな妖しげで、不思議な魅力を持った子供だった。
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