第15話 チハエモンの結界術講座
次の日の夜。
通話越しに話を聞いた泉チハルは、隠すこと無くケラケラと笑ってみせた。
「あはは! それで結局、二日続けて五連敗しちゃったんだ。やー、それは残念だったね」
気遣いどころか容赦の欠片もない笑いっぷりだった。
それをテレビ通話越しに見たコウヤは、しかめっ面をして黙り込む。
もとよりチハルのこの反応は予想できたものだったが、予想できたからといって気分がいいわけではない。
渋面で口をつぐんでしまったコウヤの代わりに、背中越しにテンカが顔を出して口を挟む。
「チハル! あんまり馬鹿にしないでくださいまし。コウヤは連戦で万全じゃなかったですし、どの試合も殆ど嫌がらせだったんですのよ。あんな足を引っ張るような真似、卑怯にもほどがありますわ」
「やめろって、テン」
コウヤはむっつりと口をへの字に曲げたまま、不機嫌そうに言う。
「そんなの言い訳だ。万全じゃなかろうが、負けは負けだ」
「でも、コウヤが弱いなんて思われるの、我慢なりませんもの」
ぷんすか、と怒りを見せながら、テンカは後ろからコウヤの首に腕を回し、ギュッと抱きついてみせる。
彼女の大胆なスキンシップを見てチハルは目を丸くする。
「……ねえ。テンカちゃん、なんか近くない?」
「そうですか?」
「そうか?」
もはやこの程度の接触は慣れたもので、テンカだけでなくコウヤも平然と答える。その反応に、チハルにしては珍しく言葉を失う。
二年前は幼女の姿だったのでまだ微笑ましさがあったが、今のテンカは大人の姿なので、バカップルがいちゃついているようにしか見えない。
用事があってゴールデンウィークに帰省する事ができなかったチハルは、帰国したコウヤとテンカのバディを見るのはこれが初めてだった。
休眠から目覚めたテンカが随分とコウヤを慕っていたのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。
「えっと……それで」
深く追求するのが面倒になったチハルは、あっさりと話題を戻す。
「僕に何をして欲しいの? コウヤくんのことだし、ただ愚痴を聞いて欲しいってわけじゃないでしょ?」
「力を貸して欲しい。俺だけじゃ、勝ち筋を見つけられそうにない」
生真面目そうに、コウヤはチハルに向けて頭を下げる。
内心の苛立ちは、自分自身の不甲斐なさに対するものだった。全力を尽くして、その上で敵わなかったのならば単純な実力差だからいい。しかし、勝てると思った試合を落としたのは、原因をしっかりと追求しておかないといけない。
インターハイ予選開始から、二日。
その間に行われたマギクスアーツは七試合。
そのうち、五試合において、コウヤは敗北を喫していた。
マギクスアーツは専門ではないと言いはったところで、結果として負けている事実は覆らない。さすがは日本最大の魔法学府と言うべきか、単純戦闘であるマギクスアーツのプレイヤー層の厚さは半端ではなかった。
もっとも、コウヤが相手をした選手は、ほぼ全員が三年生だったので、その組み合わせに作為を感じるのは確かだった。
「うーん、確かに聞いた名前が多いね。ほぼ全員が神咒宗家の関係者、しかも自然派の系列ってことを考えると、敢えてぶつけてきているんだろうとは思う」
この二日間における対戦選手の名前を提示しただけで、チハルはすぐに誰がどこの出身なのかを把握した。さすがはチハエモンである。
相変わらずな情報通に、コウヤは期待を抱きながら言う。
「俺自身の実力不足はもちろんだが、学院ぐるみで仕掛けてきているのも確かだ。だから、少しでも情報が欲しい」
「なるほどね。それで急に電話してきたってわけか」
納得したようにうなずきながら、チハルは困ったように眉根を寄せる。
「うーん、でも、どこの出身かくらいはわかるけど、流石に個人のパーソナルデータは分からないよ。学校が違うと、そこまでの情報は入ってこないし。どっちかと言うと、サッちゃんとかに聞いたほうが良いんじゃない? あの子、去年のインハイの為に、学内の情報集めまくったって自慢してたし」
「そりゃそうなんだが……」
キサキの名前を出されて、コウヤは目をそらす。
代わりに、コウヤに抱きついているテンカが答えた。
「連敗中のコウヤに、キサキに限らず、クラスメイトたちは全員が気遣いモードですの。なんだか、そういう話ができる雰囲気じゃないんですわ」
出だしこそ良かったが、あと一歩のところで負けを重ねていくコウヤの姿に、誰もがどう声をかけてよいかわからず、気まずい空気になっているのだった。
コウヤとしては、普通に接してもらって良いのだが、結果として一日の中で連敗を重ねているため、はれものを扱う態度になるのは仕方ないだろう。
まして、インハイ予選の時期はどうしても全体的にピリピリとした空気が走っている。単位のために参加しているような生徒はともかくとして、本気で出場を狙っているような生徒は、馴れ合いを避ける傾向がある。
「なるほどねー。その辺は、テクノ学園でも似たようなものだから分かるよ。ま、サッちゃんも去年のトラウマがあるだろうし、軽々にそういう話はし辛いか」
相変わらず、気を使っているんだか使っていないんだか分からない様子で言いながら、チハルは話を戻すように言う。
「とりあえず、今後の対戦相手の話をすればいい?」
「それもお願いしたいけど、まずは俺が負けた相手の話を聞きたい。マギクスアーツのシングルはもう本戦出場は絶望的だけど、シューターズとレースはまだトップだ。それに、バディ戦で当たったときのことも考えたら、一度対戦している相手のことも知っておくべきだ」
「了解。そんじゃ、家柄の事くらいで良ければ」
そう言って、チハルは一つ一つ、予定されているコウヤの対戦相手について教えてくれる。
そうやって上げられる名前は、神咒宗家の本家だけでなく、分家も相当数含まれる。魔法関係の家柄がここまであるのかと、驚くばかりだった。
神咒宗家とは、古来、日本において魔法を伝えてきた大家である。
島国という閉鎖的な場において、これほど多種多様な魔法系統が成立したのは世界的にも稀で、それ故に神咒宗家は、魔法界において強い力を持つ。
「ま、と言っても、四十八家中、三割くらいは情報隆盛期に没落しちゃったんだけどね」
情報隆盛期である二十世紀から二十一世紀初頭において、多くの魔法家系は時代に取り残されることになった歴史がある。
四十年前に始まった異界との戦争によって、科学と魔法の融合という
そうした中、今でも影響力を持つ家系は、過去から続く伝承を現代にも発揮できるという意味で、絶大な力を持っているのだ。
「三割の没落に対して、逆に七割の家は更に勢力を拡大しているっていうのが、今の神咒宗家の現状だね。だから、分家とかじゃなくても、傘下に入っていたりする魔法系組織は、その家の影響をかなり受けていると考えていいよ」
「その最大勢力が自然派ってやつか。……昔、チハルからいろいろ聞きはしたけど、実際に経験するとやっぱり面倒くさいな、こういうのって」
「でしょー。だから僕、オリエント行くのやめたんだよね」
「…………」
おいその話は初耳だぞ、と言いたいのをぐっと堪える。
ハクアといいチハルといい、内部事情を知っているのなら、進路選択の段階でもうちょっとはっきりと教えて欲しいものだった。
そんなコウヤの内心を読み取ったのか、チハルは含みのある笑顔で言う。
「ま、そういう派閥争いの面倒臭さはあるけど、同時に名家が揃っているから、実力だけで言うとトップクラスなのも間違いじゃないよ。インハイでは例年、オリエントは上位入賞人数最多だし、ゲームの実力を磨くんなら、最高の環境だと思う」
「そうだなー。正直、ちょっと舐めていたところもあるから、ここ二日の連敗は目が覚めた気分だ。ラフプレーや反則なんかじゃなくて、ちゃんと競技としての戦術が身についてる」
コウヤが海外で学んだのは、どちらかと言うと実戦における立ち回りで、ゲーム的な戦術ではなかった。それくらい、アマの大会は無法地帯だったのだ。
オリエントにおける競技としてのウィザードリィ・ゲームの在り方は、魔法をふんだんに使った純粋な技術勝負だ。
戦えば戦うほどに、魔法を専門的に学んでいるプレイヤーの実力というのが見えてくる。
「特に、魔法の家系に生まれた子供は、昔から魔法の練習として競技をやらされているからね。サッちゃんや、龍宮兄妹なんかはその最たるものだけど」
「魔法を真面目に勉強したら分かるけど、お前らがガキの頃から頭良かったのって、そういう風に実戦の上で身につけていたからなんだな」
昔は無駄に劣等感を覚えたものだが、今思えば当たり前の実力差だったと納得する。
そもそも、環境が違いすぎたのだ。
コウヤもこの二年で、魔法にどっぷりと浸かる生活をしてきたが、他の連中はそれを生まれたときからやっているのだ。そのハンデは、生半可な覚悟では埋められないだろう。
「うーん、でも、魔法の家系だからといって、英才教育を施している家と、そうじゃない家ってのもあるから、一概には言えないけどね」
コウヤの言葉に、チハルは曖昧にうなずく。
「けどまあ、確かにコウヤくんの敵になりそうな相手は、そういう英才教育を受けた子供なのは確かだね」
「そういう意味じゃ、龍宮先輩なんかはまさにその典型だよな。聞いたぜ。去年、インハイ本戦に全競技出場して、殆ど上位入賞してるって。あと、一月のユースカップじゃ、準優勝だって話だろ?」
「そしてその妹は、海外留学でいち早くプロ入りだもんね。あの兄妹、ほんとおかしいよ」
苦笑いをしながら、チハルは軽い調子で言う。
しかし、そのすぐ後に、彼は声のトーンを落とした。
「でも、龍宮クロアに関しては、単純な実力差の問題だから、そんなに気にしなくていいと思うよ。あの人は正々堂々強いから、勝ちたかったら精進すればいいだけの話だし。でも――」
チハルは目を細めながら、一つの名前を出す。
「神夜カザリ。こいつはちょっと、警戒したほうが良いと思うね」
「……あいつか」
コウヤは苦々しそうに顔をしかめる。
神夜カザリ。
元を言えば、彼に負けて連敗をしてから、コウヤの調子は狂ったのだ。
しかも恐ろしいことに、カザリは一歩も動くこと無くコウヤを倒したのだった。
「地面を隆起させて、槍みたいに連続でぶつけてきた。魔法自体はそう珍しいものじゃないけど、何より数が多かったし、それに障壁を簡単に突き破ってきやがった」
カザリとの試合を思い出しながら、コウヤは苦虫をかみつぶした顔をする。
本当に、彼との試合では何もすることができなかったのだ。
「ただの物理属性じゃないってのは分かるけど、それ以外はさっぱりだ。結局、何をされたかわからずに負けたって意味じゃ、龍宮先輩より厄介な相手だった」
「うーん、実力で言えば、クロアさんほどじゃないと思うよ。ただ、使っている魔法が特殊だから、対策を取らないとかなり厳しいと思うけど」
コウヤの言葉をあっさりと否定しながら、それでもチハルは、緊張の面持ちを保ったまま続きを話す。
「神夜家ってのは、結界術の家系でね。それも、日本神道の中でも古くから伝えられている『
そこですぐには内容を説明せず、チハルは一呼吸おいて、確認をとってくる。
「コウヤくんは、結界術の知識ってどれくらいある?」
「確か、人為的に聖域を作り出すってやつだったか。向こうで、
「あー、西洋魔術をベースに習ったのか。うん、確かに、オーバークラフトとしては、その考え方で間違いないよ」
コウヤの答えにうなずきながら、チハルは更に補足をする。
「基本的に結界ってのは、空間を区切って、内と外を分ける術式のことを指すけど、これは日常的に行われていることと同じなんだ」
例えば、と。
チハルは指で線を引く仕草をしながら、簡単に説明する。
「建物の扉や壁は、それだけで家っていう一つの結界を作っているといえる。更に概念を拡大させて、門や敷地、衝立や暖簾のように、明確に場を区切るのも、理屈は同じ。結界ってのは、外と内を分けた、小さな世界の創造につながるんだ。こういう小さな世界の認知は、東洋呪術における『界』の概念にも通じる部分があって、それが統合されたのが、オーバークラフトにおける結界術だね」
場を区切る、という魔法儀式は、世界的に見られる
どの宗教においても、神聖なものを世俗が毒するという考え方は下地としてあり、だからこそ、浄化された場や存在には、大きな力が宿る。
そこまで説明されて、コウヤはふと昔のことを思い出す。
「そういや、ハクアが言ってたな。対人距離、パーソナルスペースは、もっとも原初の結界だって。そっか、別に魔法式で区切らなくても、人間が普段から行っている『内』と『外』の区別が、そのまま結界術なのか」
「むしろ、そういった自然に行われている距離感を解析して制御するのが、現代魔法における結界術で、そのハイエンドが、情報界と現実界を区切る『霊子庭園』ってことになるかな」
そこまで語ったところで、チハルは小さく息を吐く。
長くなったが、ここからが本題だった。
現代における人工魔法では、世界各地に伝わる空間認知の伝承を取り込んで術式として成り立っているが、その上で、個々の文化圏における概念の差異もまた、重要になってくる。
「結界は『世界』を『結ぶ』って書くように、日本神道では、聖域と世俗、常世と現世をつなぐって考え方がある」
「ん? 結界は区切るものなのに、つなぐのか?」
思わず疑問を口にしてしまったが、しかし熟語の成り立ちを考えると、チハルの説明の方が腑に落ちる。この差異は一体何なのだろうか。
そのコウヤの疑問に、チハルはあっさりと答える。
「本来つながっていないものをつなぐっていうのは、空間を区切る結界の概念とは相反するようにも見えるけど、実はそうじゃない。ここで言う結界は、『
「……ああ、なるほど。タブーを明確にしてまとめることで、聖域を作り出すのか」
なんてことはない。
その考え方は、魔法円の浄化の概念と同じものだ。
聖なる場所を作る一番簡単な方法は、不浄を定義づけることだ。
ある要素を不浄であると確定させれば、それ以外は清浄であると言うことが出来る。その時に必要なのは比較であり、それは区切られた空間が連続していなければ成り立たない概念だ。
本来見えない概念を明確にし、つながっていない存在を連続させる。
それが、『界』を『結ぶ』――結界術。
結界術という概念の考え方がだいたい分かってきた。つまりは、連続と境界を操る概念属性のオーバークラフトなのだろう。
そこまでわかったところで、コウヤは話を最初に戻す。
「それじゃあ、神夜の『
「それがね。まあ結界術の一種なんだけど、コウヤくんの言う通り、ちょっと特殊でね」
トントン、とテーブルを叩きながら、チハルは慎重にその概念を説明する。
「『
「時間に――結界?」
ふと思い出すのは、三年前に襲われた土蜘蛛のことだ。
吹雪で雪山に結界を張り、地続きのはずの空間に時間的ズレを起こした。A級霊子災害だったあの土蜘蛛は、まさしく条理そのものを覆す化物だった。
そんなものが相手では、今の自分では歯が立たない――と、口惜しさを覚えたところで、チハルが「いやいや」と口を挟む。
「理屈は同じだけど、流石に個人じゃ、あんな化物と同じことはできないよ。時流操作は殆どが八工程以上の大魔法だしね。やるとしても、単独ではほぼ無理だし、かなりの準備が必要になると思う」
「そう、か……そりゃ安心した。けど、だったらどんなことが出来るんだ?」
わずかに安堵しつつも、コウヤは神夜カザリとの試合を思い出しながら尋ねる。
あの時、次々に襲ってくる土の槍を、コウヤは為す術もなく受けた。
青い外套も、他の魔力障壁もまったく意味をなさず、まさにめった刺し状態になって負けたのだ。
「まあ、簡単な話だよ。時間流を表現するには、一次元時間と三次元空間を組み合わせたミンコフスキー時空――いわゆる時間軸を四次元と捉えた概念だね。それを使って上位次元から干渉するから、概念的影響力が大きいんだ。例えば、物理的にガチガチに防御を固めても、そこに四次元的な時間の流れってのを与えるだけで、簡単に吹き飛ばすことが出来る」
「……んー。なんとなく、イメージはできた」
まだ高校物理を完全に履修していないコウヤは、単語の端々を拾うようにしてなんとかチハルの話を理解する。
要するに、概念的強度――いわゆる情報密度の差というわけだろう。
例えば、物理的観点から見ても、バリアに対して、時間の流れを与えて消耗した所に打撃を与えれば、通常よりもたやすく壊すことが出来る。話としては単純で、防御を固定と捉えると、神夜の攻撃は流動的――無理やり流れを作るものといえる。
「なるほど。そりゃあ、対策取らないとまったく歯が立たないってのは確かだな」
「でも、この『端境』の対策は結構簡単でね。三次元的な物理防御だと相当な強度が必要になるけど、時間を一次元と捉えて『流れ』って概念で対抗すれば、一次元同士で対応できるんだ。だから、物理属性じゃなくて概念属性単体で迎え撃つのが、一番の対抗策だね」
「概念属性か……俺苦手なんだよな、あれ」
物理属性に概念を加えて強度を上げるような運用はよくやるのだが、概念属性単体で魔法式を組むというのがコウヤは苦手だった。だからこそ、昨日のカザリがやった『端境』を加えた攻撃にも気づかなかったのだろう。
さてどうしたものかと考え込んだコウヤに、付け加えるようにチハルが言う。
「悩んでるとこ悪いけど、僕が本当に忠告したいのは、『端境』のことじゃないんだよね」
「え? だって、もったいぶって『端境』はやばいって言ったじゃないか」
「やりづらいっては言ったけど、やばいとは言ってないよ」
そこでチハルは、彼にしては珍しく、言いよどむような反応を見せる。
「今のコウヤくんが本当に注意するべきなのは、もっと別のこと……神夜家が、『結界術の大家』であるってことの方だよ」
彼はちらりとコウヤを盗み見て、肩をすくめながら言った。
「コウヤくん、一ヶ月くらい前に襲われたって言ったでしょ。霊子庭園に引きずり込まれて」
「……まさか」
「可能性は高いと思うよ」
慎重に言葉を選びながら、チハルは続ける。
「神咒宗家には、特殊な結界術を伝えている家が五つ。神夜家と仁々木家、菊理家、磐戸家、そして比良坂家。この五つは、今の霊子庭園の術式の構築に一役買ってるから、より大きな影響力を持っている」
「比良坂家もそうなのか?」
「うん。サッちゃんの弱体視の魔眼なんかは、もともと比良坂家の『生死の境界』を、存在の情報密度の操作という形で再現したものだからね。でも、サッちゃんはもちろん、その犯人から除外するつもりだよ」
後遺症以前に、そういうことする子じゃないしね、と。チハルはサラリと言う。
「あと、仁々木家の息子は去年テクノ学園を卒業した。磐戸家は陰陽専科で、菊理家は今年、魔法学府の在学なし。そんな中、神夜家の息子は知っての通り、オリエントに通ってる」
「……そう、か」
感情を抑えた声で、コウヤは小さく頷く。
それに、チハルはあくまで冷静に、忠告をする。
「これはあくまで僕の憶測だから、違うかもしれない。けれど――神夜家は、自然派の中でも、特に祖霊崇拝が強い家柄だ。魔法は、特殊な血筋によってのみ使われるべきだという、差別意識の塊でもある。気をつけるに越したことはないと思う」
チハルへの相談は、そんな忠告を受けて終わった。
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