閑話 フリーターによる魔法指導
久良岐魔法クラブは、基本的に、子供が少ないクラブである。
一番歳が若い人でも、二十代の社会人であり、コウヤたちのような小学生は珍しかった。
特に三人を可愛がっていたのが、
理系でメガネなシノブと、オタクで関西弁のアキラ。二人は、よくキサキのトレーニングに付き合ってくれていたらしい。
コウヤも加わることで、二体二のタッグ戦を行うことが出来るようになり、よく勝負をするようになったのだった。
ちなみにこの二人、非常に癖のある二人である。
どんな風に癖があるかというと、こんな風である。
「鏑木くんは筋がいいですね。実に柔軟な動きを見せる。見ていて思わず興奮してしまいそうですよ。もっとも、まだまだ到底、俺の正確で官能的な連続射撃には敵わないけれどね!」
「うはは! サッちゃん、その歳で男二人も侍らかして、将来有望やんな! 悪女待ったなしやで! きぃつけや、コウやん!」
「それはそれとして、比良坂くんはスパッツで運動をするというのはどうかと思うよ。君にはセーラー服という素晴らしい武装があるのに、何を捨て去っているのです? それは決して、外してはいけない装備だと言うのに!」
「なんや! 今時の小学生は土手でお宝拾う喜びを知らんのか。よし来た、今度ワイのお宝見せちゃるから、時間作りぃ。んで、チハルンが巨乳好きなんは知っとるんやけど、コウやんは何が好きなん? ここだけの話や、言うてみ?」
とまあ、こんな感じで。
完全にダメな大人二人に可愛がられているのだった。
とぼけているのか、あるいは純粋に知識が足りないのか、そんな二人に対しても物怖じしないキサキと、持ち前の胡散臭さで一緒に楽しむチハルの姿を見ていると、コウヤもいつの間にか、自然と会話を交わせるようになってしまっていた。
※ ※ ※
さて。
この二人であるが、一応社会人である。
それなのに――
「なんやコウやん。全然当たってないやんけ。ヘッタクソやなぁ、ギャハハ! ええか、銃ってもんはな、当てるんやない、当たるように撃つんや」
「鏑木くん、銃というのは精密機械なんだ。だから丁寧に優しく扱わないといけないよ。そう、まるで壊れ物を扱うよう、大事に、大事に……女性の体のようにね!」
「……うるせぇ」
心底、うるせぇ。
平日、午前十一時。
場所は、射撃訓練場である。
久良岐魔法クラブの中にある射撃訓練場は、五十メートルほどの広さのフロアで、三十メートル先の的をエアガンで狙うための施設である。
魔力を使わず、距離感と射撃能力を鍛えるための訓練場なのだが――もっぱらエアガン射撃の娯楽用途で使われることが多く、いつも混み合っている。
だからこそ、夏休みを利用して、平日の朝から特訓をしていたのだが、そこにうるさい大人二人が、いろいろと口出しをしてくるのだった。
「プー、くすくす! コウやんってば、いつまでたってもサッちゃんに勝てないもんやから、焦ってやんのー。ええぞー、負けて悔しがってる男の子、ええぞー」
「奇遇ですね、夕薙さん。俺もそういうのは大好物ですよ。未来ある若人があがいている姿は、とても官能的で、目の保養になりますね。せっかくなので、このまましばらく見守るとしましょう。さあ鏑木くん! もっとあがこう!」
「あんたら平日の昼間から暇なのかよ!」
思わず怒鳴り散らすコウヤだった。
八月中旬。
学生ならば夏休み真っ只中であるが、世間的には普通に平日である。
社会人であれば汗水たらしながら労働に勤しんでいる時間に、この変態二人は一体何をしているのか。
そんなコウヤの叫びに対して、スーツをビシっと着こなしている柳シノブは、柔和な笑顔と共に、中学生に向けて語って聞かせる。
「俺は外回り中。ほら、外って暑いだろう? アテもないのに馬鹿みたいに歩き回って、汗だくになるのって嫌じゃないか」
「要はサボりってことっすか?」
「うん、そうだね」
平然と言い切るダメ大人だった。
最も、彼の場合は、営業ノルマを達成した上でサボっているらしいと、少し前に聞いたことがある。中学生のコウヤには、仕事に対する実感はわかないものの、シノブの様子を見ていれば、彼が優秀なのは嫌でもわかる。
問題は、もうひとりの方だ。
「ん? ワイ? ワイは――」
「聞かなくても分かるから黙っててくださいよこの糞ニート」
「に、ニートじゃねぇし。ちゃんとバイトしてるし! 今はシフトの時間じゃないだけやし!」
そんな風に、二十七歳フリーター彼女なしは、血相を変えて言い訳をし始めた。
普段のコウヤなら、目上の人に対してこんな口の利き方はしないのだが、ことアキラに対しては、普段からさんざんいじられているので、特に辛辣だった。
平日の日中。
久良岐魔法クラブに顔を出すのは、平日が休みの人か、高齢者が軽い運動のつもりでジム代わりに来るくらいで、大体は閑散としている。シノブにしても、今日はサボりに来ているが、さすがに毎日ではない。
だが、アキラは違う。
この似非関西弁の男は、ほぼ毎日、ジャージにサンダルという姿でフラフラとやってきては、冷房のきいたクラブに入り浸っているのだった。
「こ、この。コウやん、最近ワイに対する当たりがきつすぎひん? もうちょい、目上に対する敬意ってもんをなぁ」
「だったらせめて大人らしいとこ見せてくださいよ……。毎日毎日、後ろでヤジ飛ばすだけの大人を、尊敬なんて出来ないですって」
結構切実な話だった。
しかもたちが悪ことに、この夕薙アキラという男、魔法の実力だけは一流なのだ。
専業プロでこそないものの、プロのライセンスを持っているらしく、たまに行われる公式戦では上位入賞を軽々となしていると聞く。クラブ内でやる模擬戦では、キサキですら歯が立たないくらいだ。
そんな人なのに、模擬戦以外では、いつも野次を飛ばしてゲラゲラ笑っているだけのフリーターである。尊敬したくてもできなくなるに決まっている。
ジロリとジト目を向けるコウヤに対して、「うっ」と声をつまらせるアキラ。
そんな二人を、ニヤニヤと面白そうな顔で見ていたシノブは、「やれやれ」と肩をすくめながら、上着を脱いで射撃場に入ってきた。
「鏑木くん。ちょっとそれ、貸してくれる?」
「え……あ、はい」
戸惑いながらも、コウヤは素直に、手元のエアガンをシノブに手渡す。
小銃タイプで、特にモデルとなったものはなく、強いていうならば魔法デバイスに似た形のエアガンである。クラブ内で貸出をしている備品であるが、込めるプラスチック弾は自腹で購入する必要がある。
シノブはポケットから自身の弾を取り出すと、マガジンに装填する。そして、無造作に片手で構えると、射撃台の前に立つ。
射撃台においてあるボタンを押すと、三十メートル先に人型の的が現れる。
「それ、ほいっと」
軽く言いながら、シノブは片手でその的の胸部を撃ち抜いた。
エアガンと言え、その重量はかなりのものである。魔法デバイス自体、銃型のものは最低でも二、三キロの重さがある。ましてや小銃型なので、片手で持つようには出来ていない。
それを片手で軽々と持ちながら、正確に射撃してみせるのだから、大したものである。
「と、まあ。三十メートルくらいならこんなものか」
「……さすがっすね、シノブさん」
「うん、まあね」
コウヤの言葉に、シノブは当然と言った風に軽く流す。
それから、にやりといたずらっぽく表情を歪めてから、脇にいるアキラを示しながら言った。
「俺は夕薙さんに習ったよ。君も頼んでみたら?」
「…………」
シノブの言葉に、胡乱げな目で返すコウヤ。
そんなコウヤに、シノブは優雅にウインクをして、上着を着ながら外に出た。
「さて、そろそろお昼だし、俺は一旦戻ります。というわけで、夕薙さん。俺の時みたいに、少しはその子に教えてあげたらどうです?」
「あ、あー……そ、そうやな」
気まずそうに頬をかいたアキラは、すぐに居住まいを正して、嘘くさいほど真面目くさった様子でコウヤに向けて言った。
「ワイの指導は厳しいぞ。ついてくる覚悟はあるか、コウやん!」
「……いや、まだ頼んでないっすけど」
「そこはお願いしますやろ!」
ずっこけながら、アキラが叫び声を上げた。
その様子を見ながら、シノブは可笑しそうに笑いながら帰っていった。
※ ※ ※
「ちゅーわけで、射撃講座、第一回や!」
「……ほんとに真面目にやってくれるんスか?」
「なあコウやん。さすがのワイも、ここまできて信用されんのは、若干凹むんやけど」
逆立てた金髪をナヨナヨさせながら、二十七歳フリーター彼女なしは、力なく崩れ落ちる。
そういうところが信用ならないんだと思いながら、コウヤはため息をつく。
しかし、である。
ちらりとコウヤは、三十メートル先の的を見る。
そこには、用意された人型が、粉々になるまで砕けているのが見えた。
紙で作られた人形の的は、プラスチック弾によって穴が開けられている。
粉々になるほど砕かれているのは、的確に何発ものプラスチック弾を撃ち込んだ証拠である。
つい今しがた、夕薙アキラが実演してみせた結果である。
右腕から始まり、左腕、胸部、首、頭部と、細切れになるまで丁寧に撃ち込まれた弾丸は、一発たりとも無駄のない射撃だった。
シノブと違って、アキラはちゃんと両腕で構えて、模範となる型で実演してみせたのだった。
それを複雑そうな表情で見ながら、コウヤは独り言のように言う。
「これ、どんくらい意味があるんすかね?」
「ん? どういう意味や、コウやん」
「だって、実際のシューターズでは、魔力弾を使うわけじゃないですか」
魔力を固めた、霊子属性の魔法こそが、シューターズにおける弾丸だ。
デバイスによっては軌道補正や速度調整の機能などもついているため、止まった的を当てる程度のことは、そう難しくない。魔法式を組む技術こそ必要だが、単純な魔力弾程度なら、専門的な知識がなくても暗記できるくらいだ。
実際コウヤにしても、最近ではフラッグ程度なら、落ち着けば簡単に当てられるようになった。動く的は、まだ移動しながらでは難しいが、それだって、魔法式の勉強をする方が先のようにも思う。
そうした疑問を口にすると、アキラは頭をガシガシと掻きながら、困ったように言う。
「んー、まあコウやんの言うとおりっちゃ、言うとおり何やけど……。やったらなんで、自分はこんな訓練やっとったんや?」
「……魔力が足りないからっすよ」
不承不承、コウヤは答えた。
そう、コウヤには、圧倒的に魔力が足りない。
この久良岐魔法クラブでシューターズの練習をしようと思ったら、霊子庭園の展開に自身の魔力を使う必要がある。
一応、施設で保有しているエネルギーを利用して、少量の魔力で展開することも出来るが、それでもコウヤのような未熟な魔法士見習いからすれば、馬鹿にならない魔力量だ。加えて、練習中にも魔力は消費する。実際に全力で練習できるのは、三十分ぐらいが限度だと、最近わかってきたのだ。
「だから、せめて射撃の腕だけでも上げておこうと思ったんすけど」
「なら、それが理由で十分ちゃう?」
コウヤの迷いに対して、あっさりとアキラは言ってのけた。
「別にこれが無駄やとは、ワイは思わんしな。リアルスキルって、結構大事やで? 距離感と射撃精度は、魔法なしで出来るようになれば、その分、デバイスに別の魔法を組み込めるし」
「でもキサキは、これやるの、意味ないって言ってたっすけど」
むしろ彼女は、「射撃訓練やると実戦での感覚が狂う」とまで言っていたくらいだ。魔力弾とプラスチック弾では撃った時の感覚が違うから、そう思うらしい。
それに対して、アキラは苦笑いしながら言う。
「そりゃあ、あの子は天才の部類やからなぁ。射撃が上手いんやなくて、魔法がうまいんや。それと比べるには、もうちっと、魔法になじまんとな」
「なら、魔法の勉強の方が重要ってことっすか?」
「アホ。コウやんは魔力が少ないんやから、馴染むには時間がかかるに決まっとるわ。いくら知識を詰め込んでも、実際に使わないことには、魔法は上達しぃへんからな」
そう言って、アキラはエアガンをコウヤに手渡してくる。
「今やるんやったら、魔力を増やす訓練と、それ以外の基礎トレーニングやるんが、一番近道っちゅうことや」
「分かりました。無駄じゃないのなら、やります」
そう素直に言って、コウヤはエアガンを構えて的を狙い始めた。
そこからは、ただひたすら、射撃をするだけの時間だった。やるべきことが定まり、目的が明確になってからは、時間の感覚を忘れた。
そのコウヤの集中力は凄まじく、横で見ていたアキラは、驚いたように目を丸くした。
「すごいなぁ、コウやん。まさか、一時間休み無しでやるとは、思わへんかったわ」
「……え? そうですか?」
アキラの言葉に、汗を拭いながらキョトンとして返す。
弾の補充以外では台から離れず、ただひたすら的を狙い続けた。一時間という時間は決して短くはない。特に中学生にとって、基礎トレーニングのような単調作業は、すぐに飽きが来るものだ。
にも関わらず、コウヤは片時も集中力を切らさなかった。
「トレーニングが不満みたいやったから、すぐに音を上げると思ったんやけどなぁ。バカにしちゃろうと思っとったんに、全然やめへんから、びっくりしたわ」
「いや、トレーニングが大事なのは分かってますけど……やっぱ馬鹿にするつもりだったんすか……」
妙に静かだとは思っていたが、案の定である。
しかし、アキラは本当に感心したように、コウヤのことを褒める。
「精度も徐々に上がっとるのを見るに、ちゃんと考えながら撃っとるなぁ。自分の歳でそれやれるんは、一種の才能やわ」
「……べ、別に、普通っすよ、こんなの。リトルの時は、二時間ぶっ通しで練習してましたし」
練習量で言えばまだまだだと思っているだけに、こんなところで褒められるのは、少しだけ不本意だった。
しかし――大人であるアキラから見れば、コウヤのこのストイックさは、年齢のわりに、少し過剰であるように思えた。
(この辺が、コウやんが魔法のチャンネルを開いた理由なんかもな。こりゃ、ちゃんとトレーナーつけとかんとあかんわ。あとでタカミちゃんに言っとこ)
素人の過剰な訓練ほど、危険なものはない。
ましてや子供のやることだ。しっかり大人の管理がないと、またぞろ故障しかねない。
久良岐魔法クラブは、施設内での活動に対して自由度が高いが、希望すればトレーニングの管理もしてくれる。弱小クラブなので専門のトレーナーが少ないのが残念だが、練習メニューを組む程度の仕事はしてくれる。
コウヤたちはまだ中学生なので、本格的な訓練はなく、あくまで遊びとしてのクラブ利用が主であるが、これは早々に訓練としての魔法鍛錬に触れさせたほうが良いようだった。
「そういや自分、よくシューターズでは
「いや、別に……比良坂が使ってますし。なにより、射程調整の魔法式がついてるんで、俺の腕でもそこそこ的を当てられるのが理由っすね」
コウヤのプレイスタイルは、大体がキサキの模倣である。
そもそも、シューターズに限らず、この久良岐魔法クラブには、まともな競技トレーナーがいない。あるとしても、週に二回、土曜日と日曜日に、講習という形で専門のトレーナーが外部から来るくらいだ。
それも、シューターズの講習は月に二回ほどで、なおかつ中級レベルの魔法式を利用した戦略ばかりなので、今のコウヤにはほとんど役に立たない。
その現状を話すと、アキラは少し考えるように顎に手を当てる。
「まー、全体講習やし、ほとんど遊びやから、そんなもんか。だったら、銃型デバイスの区別なんかもあんま知らんやろ?」
「えっと、
現代で魔法を扱う場合、魔法式をプログラムとして組み込むことの出来る魔法デバイスは、ほぼ必須の装備と言える。
その中でも、ウィザードリィ・ゲームに利用するデバイスには規定が設けられており、競技に即したメリットや、特殊効果が付いているものが存在する。
例えば、コウヤが今言った三つは、シューターズでよく使われるものだ。
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・
小型の銃型デバイスで、片手で扱うことが出来る。メインでも使われるが、サブデバイス用が多く、携帯して補助魔法を込めることが多い。
魔力弾の魔法式が初期装備されており、他の銃型デバイスより、作成魔力が少なくて済む。
・
長い銃身を備えた銃型デバイス。主にメインデバイスとして販売されており、メモリスロットが少ない代わりに、魔力弾と射程調整、威力強化の魔法式が初期装備されている。
シューターズのプレイヤーが基本的に利用するデバイスであり、よほどプレイスタイルにこだわりがない限りは、このデバイスが推奨される。
・
小銃型の内、威力強化と射程調整がない代わり、射程拡張と照準の魔法式が組み込まれたものを呼ぶ。小銃型をカスタマイズして狙撃型として利用するプレイヤーもいるが、市販デバイスとして発売しているものもある。
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コウヤの言葉を聞いて、アキラは苦笑いを浮かべる。
「あー、やっぱ知らんかったか。なら、いい機会や。あと二つ、騎銃型と散弾型を覚えといたほうがええで」
そう言って、アキラは自身の電子端末に、画像を表示させながら説明する。
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・
小銃型より銃身が短く、取り回しのしやすさに特化したデバイス。
初期付属の魔法式が魔力弾しかない代わりに、要素部が8、変換部8と、銃型デバイスでは最大のメモリスロットを持つ。
なお、便宜上、カービン型と呼ばれているが、現実のカービン銃に比べると小型で、片手で取り回せるような重量となっている。
・
小銃型より銃身が短く、騎銃型より大型のデバイス。
初期付属の魔法式は、強化魔力弾。自動的に威力の高い魔力弾が射出される代わり、射程があまり伸びないため、主に中距離専用のデバイス。
精密な射撃は出来ないものの、大雑把な的を狙うのに適しており、シューターズになれないプレイヤーにおすすめされる。
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「カービンは、拳銃型のちょっと大きめのやつやな。いろいろ魔法を組み込めるから、玄人好みのデバイスになる。こっちはまあ、将来的に使えるようになればええんやけど。知っておいてほしいんは、こっちや」
「ショットガン……ですか。でも、これって魔力消費がでかいって聞きましたけど?」
「まあそうなんやけど、実際は微々たる差や。全弾強化弾になるから、なれない内はとまどうんやけど、むしろ、慣れたら無駄撃ちが減らせる分、ライフル型よりも安定するくらいやで」
通常の魔力弾が、二、三センチ、せいぜいが五センチ程度の大きさであるのに対して、ショットガン型は、十センチから十五センチくらいの大型口径である。
実体としては、レーザーガンでもぶっ放したような弾道を描く。大雑把な射撃でも、十分に当てやすいというメリットがあるのだ。
「コウやんは普段、クラブの貸出デバイスを使っとるんやろ? 確かショットガンはいくつか種類があったはずやから、一回使ってみ。付き合っちゃるから」
そのアキラの提案によって、すぐに模擬戦ルームへと移動することになった。
実際、ショットガン型はコウヤにとって使いやすかった。今までかすりもしなかったクレーをどんどん撃墜できて、爽快感があった。
もちろん魔力の消費は激しかったため、数十分もするとバテてしまったのだが、これまで正確さばかりに気を取られていて、全く試合にならなかったことを考えると、これからの戦略の幅が広がると思った。
その後は、アキラからいろんなことを教わった。
試合での立ち回りのコツだとか、魔力配分の目安、相手の意表を突く方法などなど……今のコウヤには難しいことも多かったが、どれも効果的な手法で、ためになった。
アキラは始め、冗談混じりで厳しく指導する、などと言っていたが、その教え方は丁寧で優しかった。これまでまともな指導を受けていなかったコウヤにとって、驚きの連続で、アキラへの印象が覆るくらいだった。
休憩の雑談の中、アキラはぼやくように言った。
「まだ魔法競技が出来て、二十年位やからな。ルールがしっかり固まったのもここ十年の話やし、これからどんどん発展していくんやろうな、て思うよ。だから、他の歴史のあるスポーツに比べて、『今』が一番期待されてる競技でもあるんよ」
魔法競技という性質上、勝敗は個々人の魔法の才能に左右されると思われがちだが、立派な競技として成り立っているからには、それなりの戦略や戦術が存在する。そうした基礎を知らずに競技をやっても、上達はしないだろう。
ちなみにアキラ自身は、魔法の才能としては、平均より少し上程度らしい。
自己申告なので実際は分からないが、あくまで彼は、競技者としては、大したことないそうだ。
そんな彼は、キサキのことを指して、楽しげに言った。
「あの子は才能がある。それも、とびっきりや」
「そう……っすか」
「魔法競技はまだ新しい競技やから、たまに競技のシステム自体を一気に進化させる、化物みたいなプレイヤーが現れるもんや。五年前にも、
ニヤリと笑って、彼は言う。
「サッちゃんからは、それと似たもんを感じる」
「まあ、比良坂がうまいのは、知ってますけど」
かすかな嫉妬と、言い表し難い焦燥を覚えながら、コウヤは苦虫を噛みつぶしたように顔をゆがめる。
それに対して、アキラはケラケラと笑いながら、コウヤの肩をたたいてみせた。
「なんや、悔しがっとるんか? ギャハハ! そうしょげんなや。俺が言いたいんは、魔法の才能のことやない。……確かに、サッちゃんは神咒宗家の出だけあって、魔法の才能も十分にあるんやけど……あの子の見どころは、そんなところやない。あの子は、誰にも負けない、本当にすごい力を持っとるんや」
「……? どういう意味です?」
アキラの言いたいことがわからず、コウヤは疑問を返す。
それに、彼は「きしし」といたずらっぽく笑って、どこかキザっぽく、大仰に言ってみせた。
「それは、シューターズが好きって気持ちや」
「………」
ベタだ、と。肩を落としながら、コウヤはがっかりした。
しかし、その後に続くアキラの言葉は、意外なほど心に染み入った。
「気持ちのこもった人間の行動は、強いんよ。あの歳で、あそこまで一つのことに夢中になれる、ゆーんは――それだけで、圧倒的な才能や」
そう、どこか遠い目をして言った後。
アキラは不意に、こちらを振り返って言った。
「なあ、コウやん。もし、サッちゃんに勝ちたいなら、それを、覚えとき?」
それは、普段おちゃらけているアキラが、珍しく真剣に言ってくれた助言だった。
そしてその一言は、コウヤの心の奥底にある、柔らかい所をそっとなでた気がした。
中学一年の夏休み。
コウヤの夏は、そうやって過ぎていった。
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