2‐4 両生類とヌルヌル地獄



 翌日。

 鏑木コウヤと冬空テンカは、比良坂キサキと矢羽タカミのバディに、再戦を申し込んだ。


「昨日の今日で再戦するってことは、何か策があるってこと?」

「さあな。とにかくやろうぜ」

「そうですわ! 生まれ変わったわたくしたちに、恐れおののきなさいな!」


 自信満々な二人を前に、タカミは困ったような顔をする。


「昨日はちょっと調子に乗っちゃったから、あんまりよくないんだけどね。二人共、少し練習してからの方が良くない?」

「ほう。乳女が何かほざいておりますわ」


 心配したようなタカミの言葉に、案の定と言うべきか、テンカが挑発で返す。


「ねえコウヤ。どうやらそこの女、わたくしたちに恐れをなして逃げ出すそうですわよ。偉そうなことを言っておきながら、でかいのは乳と尻だけのようですわね! 男を誘惑するだけしか能のないビッチは、根性まで腑抜けですわ!」


 言いたい放題なテンカに、タカミは額に青筋を立てる。


「……良いわ。もう一度いじめてあげる」


 ちょろいお姉さんだった。



 勝負はソーサラーシューターズのバディ戦。

 ステージは、森林ステージ。


 山奥に作られた集落を模したもので、森林と木造建築で囲まれた、障害物の多いステージを使うことになった。


「ふぅ。さて……」


 ゲームスタート地点に立ったコウヤは、すぐさまデバイスの中に組み込んだ魔法式を使い、コウヤはテンカに向けて念話を送る。


(良いか。作戦通り、真っ先にあれを狙うぞ)

(良いですわ。最初はあの乳女を相手出来ないのは業腹ですが、弾幕娘の方も腹に据えかねていましたの。思う存分、遊んで差し上げますわ)


 そして、試合が開始した。



 ※ ※ ※



 プレイヤーとファントムが、それぞれ外周エリアと中心エリアに振り分けられる。


 中心エリアに召喚された矢羽タカミは、すぐさま木造建築の屋根へと飛び上がると、高所から周囲を観察し始めた。


(さて、と。挑発に乗ってしまったけど、どうしたものかしらね)


 バディ戦において、どのフィールドも、中央エリアは外周エリアに比べて低く作られている。ちょうどお椀のような形になっていて、基本的には外周から中心にかけて斜めに狙えるようになっているのだ。


 タカミは中央エリアにある一番高い建物――矢倉のようなもの――の上へと登ると、周囲をぐるりと見渡した。


 パッシブスキル『たか


 ファントムには、因子一つにつき、パッシブスキルが存在する。

 それは自動的に発動するスキルであり、因子が多いほどファントムが強い所以でもある。


 タカミの持つ『鷹』の因子のパッシブスキルである『鷹の目』は、彼女を中心とした五キロ圏内における、すべてのものを視認することができる。

 また、動的存在と静的存在の寄り分けをし、自身の都合のいいものだけを見通すという千里眼に近い力もある。


 それによって、フィールドに存在する全てのフラッグの位置を把握した。


(サキ。あなたの位置から狙えるフラッグは、中央エリアが三つ。外周エリアには五つある。視認はできる?)

(大丈夫だよー。他のは、少し移動しないとムリかな)

(幸先が悪いわね。まあ、こういうこともあるか)


 この念話は、キサキの魔法ではなく、タカミの持つ『狩猟』の因子を元にしたアクティブスキル『鳥笛』の力だった。


 ファントムには、パッシブスキル以外に、因子を元にして創りだしたアクティブスキルを四つまで使う事ができる。これは、魔法式と同じように、能力を自由に組み上げる事ができる。


 デバイスに組み込める魔法には限りがあるので、念話をファントムが使えることは、バディにとってかなりのメリットとなる。


(よし、じゃあゲームスタートね)


 オープニングにおける作戦が決まったところで、タカミは手に弓矢を創りだす。


 これもパッシブスキルで、『弓矢』の因子を元にした『刀折れど矢は尽きず』というスキルだ。

 自身の半径五メートル以内に人がいないかぎり、魔力消費をほぼなしで、弓矢を創造する事ができるという能力だ。


 これと『鷹の目』をあわせることで、シューターズにおいてタカミは、理論上全ての的を永久に狙うことができる。

 他の競技では、遠距離戦というのが難しいが、ことシューターズにおいて、タカミは絶大な力を発揮する。


(さて――はじめましょうか)


 まずは、キサキが狙えないフラッグを真っ先に壊してしまおうと、タカミは和弓に矢をつがえ、キリキリと引き絞る。



 と、その時だった。



「――っ!」



 タカミはその場から飛び降りる。


 すると、数瞬前までタカミが居た場所を、魔力弾が通過するのが見えた。


 魔力弾は、それだけではなかった。

 地面に飛び降りたタカミを、立て続けに魔力弾が襲ってくる。障害物を盾にしながら、タカミは逃げる。


(魔力弾ってことは、鏑木くんかな。まさか、ファントムの射撃得点を狙ってくるなんて)


 バディ戦において、ファントムを射撃すれば十点の得点になる。それを狙っての射撃だろう。

 これは、魔力弾がファントムの身体に触れるだけでポイント取得になるため、軽々に弾くこともできない。


 だが、ファントムの身体能力は高いため、魔法士がそれを当てることは至難の業になる。

 実際、タカミも逃げの一手ではあるが、一向に当たる気配がない。


 飛来するクレーすら、最近ようやく当てられるようになってきたくらいのコウヤが、逃げるファントムを狙って当てるなんてできるわけがない。


(それくらいのこと、鏑木くんもわかっていると思うんだけど)


 彼はバカではない。

 むしろ、年齢の割には頭がきれる方だ。


(となると、何かしらの目的があると思うけど――)


 タカミは物陰に隠れると、ちらりと、コウヤがいる位置へと視線を向ける。


 木々で作られた木造の足場を走る、少年の姿が見える。

 彼が持っているのは、小銃ライフル型の魔法デバイスだ。元から長距離狙撃用の魔法式が組み込まれているデバイスで、狙撃のための補助機能もついている。


 彼は少しだけ移動をすると、すぐに狙撃の体勢に入り、タカミを狙ってきた。

 狙撃自体は甘い。

 難なく避けられる程度であるが、それを見て、タカミは確信した。


(うまい。これは陽動だ)

(多分彼は、私に当てるより、私を自由にさせないことを選んでる)


 ファントムにうまく当てるのは難しくとも、『狙う』という行為だけでも意味はある。

 なぜなら、ファントムは魔力弾に当たった時点で、得点を奪われるのだから。


 力の均衡するプレイヤー間において、十点の差はかなり大きなものになる。例え服の袖にでも魔力弾に当たれば、そのポイントが奪われるのだから、自ずと慎重にならざるをえない。


 しかし――


(だけどそれは、あくまで力が均衡する場合においての話だよ。鏑木くん)


 相手の思惑に気づいてからは早かった。


 タカミはあっさりとその身を敵の前にさらけ出すと、すぐにキサキから見て死角になっているフラッグを破壊して回った。


 無論、その間に、タカミの身体に魔力弾が当たる。しかし、コウヤの未熟な魔力弾では、当たったとしてもファントムの霊子体を傷つけることもできない。


 ファントムを攻撃してポイントが取れるのは一回だけだ。十点の得点は取られたものの、それくらいなら、キサキがすぐに取り戻すだろう。


 そう思いながら、連続で三つのフラッグを破壊した所だった。





『モノリスが破壊されました。メインフェイズに移行します』





 フェイズ移行のアナウンスが流れ始める。


(え!? 嘘)


 自分はまだモノリスを破壊していない。

 ――ということは、相手側か。


(スコアは……?)


 すぐにタカミは得点板を確認する。


 4対10。

 まだ、キサキは四点しか取れてない。


 タカミはすぐに跳躍し、高台に上がって、全体を見渡す。モノリスの位置は最初に確認していたので、そこに視線を向ける。


 すると、そのそばを離れようとする、テンカの姿があった。


(あの子――そうか、このためか)


 もとより、鏑木チームは、オープニングフェイズで戦うつもりはなかったのだ。


 タカミをコウヤが引きつけている間に、テンカがモノリスを探しだして破壊する。モノリスを破壊さえしてしまえば、フェイズが移り、それ以上のフラッグでの得点はなくなる。


(サキ? そっちはどう?)

(むー。テンちゃん、あたしの邪魔ばっかりする。外周エリアの四つしか取れなかったよ)


 不満気にキサキがぼやいている。

 となると、中央エリアにあった三つは、テンカが移動しながら破壊していったということか。


 作戦としてはありがちだが、キサキを相手にその作戦がうまくいくということは、テンカの立ち回りもうまかったということだろう。


(まあ、仕方ないよね。メインを頑張ろう! ……って、ぎゃあああ!)


 気持ちを切り替えるため、キサキが気合を入れようとしたところで、女の子らしからぬ潰れたような悲鳴が、念話を通して響いた。


(ちょっとサキ? どうしたの?)

(うぅ、なんかヌメッとしたのが……って、きゃふん! なに!? 何なの!?)


 何なのか聞きたいのはこちらの方なのだが、その余裕もないようで、念話が一方的に終了する。

 その尋常じゃない様子に、慌ててタカミは、キサキのいる方へと視線を向けた。



 その時だった。

 ぐらりと、視界が揺れる。


「――え?」


 まさか、と思った時には遅かった。



 



 矢倉のような建物は、ぐらりと大きく揺れると、そのまま台座の部分が地面へと落下していった。

 屋根の上に立っていたタカミは、バランスを崩して一緒に地面へと落下する。


「くっ、――つぅ……」


 何が起きたのか。

 軽い痛みに顔をしかめさせながら、タカミはすぐに飛び上がろうとする。




 




「う、そぉ!」


 素っ頓狂な声をあげたタカミは、木造建築によって踏み潰される。


 建物の支柱が倒れると同時に、瓦礫木材が次々にタカミの元に降り注ぐ。

 このままでは、身動きが取れなくなってしまう。

 タカミは自身の持つ膂力を全力で発揮しながら、頭上の瓦礫木材をはねのけようとした。



 ――さらに続けて、その上から巨大なつららが連続で叩きこまれた。




「あーっはっはっはっは!!」




 高笑いとともに、瓦礫木材に楔を打つかのごとく、氷の槍は、タカミの周囲を囲っていく。


 仕上げと言わんばかりに、その全体を覆うように、表面が凍りついた。


「ごめんあそばせ! 『凍えろ、氷河よかなたまでアイスエイジ・グレイシャー』! 凍え死ぬが良いですわ!」


 口上をたれながら、凍りついた廃墟の上に、テンカが降り立つ。


 メインフェイズに入った直後から、テンカはフィールドを駆けまわって、タカミの周囲の建物を倒壊させる準備を整えていた。



 まず、巨大な氷の槍を創造する『棘』のアクティブスキル『凍れ、楔よ永久にパーマフロスト・アイスエッジ』によって、建物を粉砕、倒壊させ、タカミを生き埋めにする。


 その上から、物質を凍りつかせるアクティブスキル『凍えろ、氷河よ彼方までアイスエイジ・グレイシャー』によって瓦礫木材を凍りつかせ、脱出を困難にする。



 その二つのスキルを利用して、見事にタカミを無力化したのだ。


 フィールドの良さもあったが、的確な計算があっての戦果である。

 テンカは、最高に楽しそうな笑顔を見せながら、下敷きになっているタカミへと話しかける。


「ねえねえ、今どんな気持ちですの? バカにしていた相手に足蹴にされるのって、どんな気持ちかしら? あーっはっはっは! お聞きしても、よろしくって?」

「ぐ、このおバカ雪女。あんた、この程度で私を沈めたつもり?」


 僅かに見える瓦礫木材の間から、タカミがテンカを睨みつける。

 実際、身動きこそ取れないが、彼女は仮にもファントムである。この場から抜け出す方法など、いくらでも存在する。


 そんな彼女に、テンカはにんまりと笑う。


「もちろん、そんなつもりは、毛頭ありませんことよ?」


 言いながら、彼女は中空に巨大な氷の槍を複数作り出す。


「『凍れ、楔よ永久にパーマフロスト・アイスエッジ』。念には念を――串刺しになるが良いですわ!」


 嗜虐的な笑みを浮かべたテンカは、飛び上がると、身動きの取れないタカミに向けて、無数の氷の槍を連続で叩きつけた。


 普段なら大したことのない攻撃でも、無防備に受ければ別である。

 程なくして、霊子体の存在限界が来て、タカミの霊子体は消滅した。



 ※ ※ ※



 一方。

 キサキの方は、とんでもない目にあっていた。


「ちょ、なにこれ。ヌメってする! ヌメってする!」


 キサキが手をかけようとした木が、ぬめりけのある液体で覆われていたのだ。

 反射的に手を離してたじろいだのだが、そこで、足元が滑り、ゴロンところんだ。


「いっっったぁ~~。何なのよ、もう……」


 なんとなく既視感を覚えながら、立ち上がろうとした時だった。


 頭の上から、が、ダラダラとこぼれてきた。


「…………っっっ」


 顔面蒼白になりながら、ギリギリと、キサキはきしむ首を回して背後を見る。





 ――そこに、



「ひっ」


 思わず、息を呑む。

 およそ三メートルはあるだろうか。大木に寄り添いながら、巨大な両生類は、ゆっくりとキサキを見下ろしている。

 その口や体表からあふれる粘液は、ダラダラと垂れて周囲を覆い尽くしている。さながら、消化器官の中に迷い込んだような様相だった。


 見るからに嫌悪感を催す、その様子に。


 キサキは、戦意を喪失した。



「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」



 叫んだ。

 そりゃあもう、叫んだ。


 恥も外聞もなく、自身の性別すら忘れて、とにかく声のあらん限り、絶叫を上げた。


「やだ! やだぁ! 何なの!? 何なのこれぇええええ!?」


 必死で逃げようとするのだが、周囲が何故かヌルヌルとヌメッていて、うまく動けない。


 ズルズルと滑る斜面に、何度もずっこけながら、それでも懸命にカエルから離れようと努力する。

 這いずるその姿からは、もはや余裕というものが消え失せている。


「気持ち悪い! 気持ち悪いよぉ! 助けて、助けてタカミぃ!」


 正気を失ったキサキは、半泣きになりながら自身のバディに助けを求める。


 巨大カエルはと言うと、大きな口を開けて、ダラダラと胃液とも粘液ともつかない、奇怪な液体を垂れ流し続けている。

 やっていることはそれだけで、地面に広がった粘液に、キサキは勝手に転げまわっているだけなのである。



 ちなみに。

 このカエルの正体は、コウヤだった。


(……まさか、一発で成功するとは)


 半分冗談のような作戦だったのだが、思いの外うまく行っていた。



 ウィザードリィ・ゲームにおいて持ち込める魔法デバイスは、メインデバイス一つと、サブデバイスが二つまでと定められている。


 メインとサブの違いとしては、単純に組み込める魔法式の容量の違いだ。


 魔法式を構成するプログラムには、属性を組み込む『要素部マテリアル』と操作をするための『変換部コンバータ』の二つに別れており、それぞれを組み合わせて記述することで、魔法式は完成する。


 具体例としては、『火』というマテリアルを、『誘起』させるようコンバートすることで、魔力で作った火種を燃え上がらせる、と言った感じだ。


 サブデバイスには、その『要素部』と『変換部』のメモリスロットが最大二つまでしかないのだが、メインデバイスには、『要素部』が最大八個、『変換部』最大十個まで、メモリスロットがある。

 故に、大きな魔法を使う場合、このメモリを多く消費する。


 無論、その場で一から十まで自身で魔力を記述し変換すれば、魔法は使えるのだが、実戦においてそんな暇は早々無い。デバイスの役目とは、すでに使える魔法式を記述するのを、簡略化する役目である。



 そして、今回の魔法である。

 マテリアルには『概念・カエル』『物理・粘液』『概念・擬態』と言った要素の属性を組み込み、それを『巨大化』『増量』『自己付与』といった風にコンバートした魔法式。



 三工程。

 粘液散布型巨大カエル擬態魔法。


 チハルがシャレで作った、対キサキ用の最終兵器。


 両生類が得意な女子などそういないので、こんなものを喰らえば、泣きわめくこと必至である。


 今のコウヤにとってはかなり複雑な魔法式であり、すでに組まれている式を読み込んで発動させるのもかなり大変だったのだが、昨日から練習していたので、本番では一発でうまく行ったのだ。


(昨日は三回に一回しか成功しなかったのになぁ。本番ってすげぇ)


 そんなわけで、キサキは完全に戦意を喪失して、逃げ回っている。


 ちなみに、粘液で滑って転びまくっているので、ダメージが半端ないだろうが、コウヤの魔力による直接攻撃ではないため、マイナス得点はされない。

 ルールの穴を突いたというほどのものではないが、改めて、えげつない戦法であると思った。


 コウヤは、擬態魔法を解除すると、すぐにサブデバイスの拳銃を構える。


 ソーサラーシューターズにおいて、プレイヤーへの直接攻撃はマイナス得点になる。

 しかし一発だけであるが、プレイヤーへのダメージが得点になる弾丸が配られる。


 一ゲームにつき一発のみ。

 霊子弾。


 魔弾の名を関する銃弾をデバイスに装填し、まっすぐに構えると、悶え苦しんでのたうち回っているキサキへと、銃口を向けた。


 足を開き、右手に持った拳銃をまっすぐ向ける。

 左腕は綺麗に伸びないので、あくまで衝撃を抑えるように支えるだけ。

 目線をまっすぐ、両目で対象を見つめ、一呼吸。


「『フライクーゲル』――『フォイア』」


 霊子弾は狙い通りに射出され、霊子で出来た薬莢が排出される。


 弾丸は綺麗に頭を撃ちぬいた。

 ヘッドショットによってキサキは意識を失い、ほどなくして霊子体が消失。ゲーム終了となった。




 20対4。



 鏑木チームの勝利。




 ※ ※ ※




「やりましたわねコウヤ! わたくしたちの勝利ですわ!」

「初勝利だ! やったなテン! 俺たち、最強のバディだぜ!」


 霊子庭園が解けるやいなや、ハイテンションでタッチしあうクズ二人。


 昨日、チハルに作戦を聞いた時には、得点ガン無視の作戦だったため、勝利はほとんど諦めて嫌がらせに徹しようという話だったのだが、思いの外こちらに有利な条件が多く、見事に勝ってしまった。

 どんなものでも、勝ちは勝ちである。


 嬉しそうに胸を張りながら、冗長したテンカが尊大に告げる。


「ま、全てはわたくしの実力あってのものですわね! 存分に讃えてもよくってよ」

「いやいや。俺があのカエル魔法を一発で成功させたのがでかいだろ。魔力ばかみたいに食うくせに、すげぇ難しいんだぞあれ」

「それを言うなら、わたくしは序盤、中央エリアにあるフラッグを一つも取らせず、なおかつあの弾幕娘に一撃も喰らわずに、最速でモノリスを破壊したんですのよ。もっとわたくしを褒めなさいな、さあもっと」

「オープニングで言うんなら、俺だってタカミさん相手に陽動頑張ったんだぜ。しかも射撃点まで取った。俺のことだって褒めろよ」

「なんですって?」

「なんだ、やるか?」


 ついさっきまで勝利の喜びを分かち合っていたというのに、いつの間にか仲間割れを起こそうとしているコウヤとテンカだった。


 そんな二人に、ゆらりと、幽鬼のような出で立ちで近づいてくる二人の姿があった。


「……楽しそうね、二人共」

「……勝負に勝って、随分嬉しそうだね」


 地を這うような低い声に、言い争っていた二人は、ビクリと身をすくませる。

 恐る恐る振り向くと、そこには、まったく目が笑っていない笑顔を浮かべた二人が居た。


「勝負は三回勝負だよね、タカミ」

「そうね。トーナメントなら別だけど、公式試合でも、プロリーグのレーティング戦では、三回勝負の二本先取が通常ルールね」

「だったら後二回戦えるのかー。嬉しいなぁ」


 まったく嬉しそうにない棒読みで、キサキが告げる。

 這い寄るようにして近づく、名状しがたき威圧感を持つ二人に対して、コウヤは顔をひきつらせながら言う。


「は、はは。何言ってんだよ比良坂。こっちはあと一回勝てばいいんだぜ? 二回も試合ができるなんて、決めつけんなよ」

「んー? そんなこと無いよ」


 何を言ってるのかなぁ、と言った調子で、キサキは首をかしげる。

 そして、真顔でこう言った。



「一点だって取らせるわけ無いじゃん。だから、あと二回、楽しも?」

「…………」





 結局。

 その後二試合したが、その結果は完封だった。



 100対0

 10対0



 前者のゲームは、ラストフェイズまでしっかり試合をした挙句、全てのフラッグ、クレー、エネミー、ファントムポイントをキサキが奪取した。


 続く後者のゲームでは、ラストフェイズまで試合を長引かせながら、延々とちまちましたプレイヤーアタックを繰り返され、最後の最後にメテオレインを打ち込まれて、終了となった。


 なお、どちらのゲームでも、テンカはタカミから執拗に攻撃を受け、終始涙目で逃げ回るはめになっていた。



 結論。

 この二人は怒らせたらまずい。





 第二章『雪原の神霊とバディ戦』 終


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