2‐2 凸凹バディ(仮)結成!



 ソーサラーシューターズ。バディ戦。



 魔法士が一人でプレイするシングル戦と違って、こちらは、魔法士とファントム、双方が参戦するタッグ形式の試合である。


 試合の流れ自体はシングル戦と同じで、オープニングフェイズ、メインフェイズ、ラストフェイズの三つにわかれている。


 それぞれ撃ちぬく的も同じだが、その他、細かいルールが大きく違う。



 まず、フィールドの形状が少し異なる。

 全形は、直径二百メートルの円形なのは変わらないのだが、更にその中に、直径百メートルの円がある。

 いわゆるドーナッツ型のフィールドであり、ドーナッツ部分の外周エリアと、穴の部分の中央エリアのニブロックにわかれている。



 ゲーム開始時、プレイヤーは外周エリアのどこかに、ファントムは中央エリアに配置される。

 最初のフェイズでは、プレイヤーは中央エリアには入れず、代わりにファントムだけが、中心エリアに配置される。



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○オープニングフェイズ 三分

 固定されたフラッグを射撃する。


 得点の内訳。


・中心エリア 一点フラッグ 十五個。

・外周エリア 一点フラッグ 十五個。

 合計三十点。


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 このフェイズにおいて、外周エリアと中央エリアの間には霊子シールドが張ってあるため、プレイヤーは中央エリアに進入することができない。

 プレイヤーは設置されたフラッグを、外周エリアから狙うことになる。

 シングル戦と違い、バディ戦においては、オープニングフェイズが終了すると、フラッグは全て消滅する。


 オープニングフェイズの終了条件は二つ。


・制限時間(三分)が経過する。

・中心部のどこかに置かれたモノリスを破壊する。


 条件を満たすと、メインフェイズに移る。



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○メインフェイズ 四分間

 飛来するクレーを射撃する。


 得点の内訳


・ノーマルクレー(通常の魔力弾で破壊)一点

・強化クレー(一定以上の威力が必要) 二点

・属性クレー(特定の属性付与が必要) 三点


 合計五十点。

 各プレイヤー、二十五点ずつを任意に選択する。


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 このフェイズに入ると、外周エリアのシールドが外れるため、プレイヤーも中央エリアに入ることができる。

 外周より飛来するクレーを、魔力弾によって破壊する。


 クレーの内訳は、それぞれ、ノーマル、強化、属性の三種類。


 プレイヤーは事前に、試合中に飛来するクレー二十五点分の内訳を決めることができる。


 ここがシングル戦と大きく違うところであり、得点源の一部の設定を自分で決めることが出来る。これにより、戦略に幅が出る。


 自身と相手プレイヤーの分を合わせて、五十点分が、四分の間、ランダムでフィールドに向けて射出される。


 終了条件は、クレーの打ち出しが終了した時。



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○ラストフェイズ 三分

 出現するエネミーを射撃する。


 得点の内訳


・小型エネミー(大型犬程度の四足歩行エネミー) 二点

・中型エネミー(体長一メートルの飛行エネミー) 四点

・大型エネミー(全長三メートルの巨大エネミー) 十点

 合計二十点。


 各プレイヤー、十点の中で任意に選択。


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 最後のフェイズは、動きのあるエネミー戦である。


 これも、事前に十点ずつの内訳を、プレイヤーが決めることができる。


 エネミーは強化クレー以上の強度があるので、単発では破壊することはほぼ不可能である。

 終了条件は、制限時間が終了するか、エネミーが全部破壊された時。





 最終的に、この三フェイズの合計得点で勝敗が決する。




 全てのフェイズにおいて、得点を得ることができるのはプレイヤーの魔力がこもった攻撃だけである。

 仮にファントムが的を破壊しても、それは得点にはならない。


 故に、ファントムは完全にサポートを目的とした動きをする必要がある。



 また、全フェイズ中に共通のルールが、主に四つ存在する。


○ペナルティ……自身の魔力攻撃や、ファントムの攻撃が相手プレイヤーの霊子体に傷を負わせた場合、一回ごとにマイナス十点がペナルティとしてかせられる。


○特殊得点その1……ファントムポイント。試合中、相手ファントムを射撃することに成功した場合、プレイヤーに十点が加点される(初回のみ)


○特殊得点その2……霊子弾。配布された『霊子弾フライクーゲル』で相手プレイヤーを射撃した場合、十点が加点される。ただし、この弾丸で相手ファントムを撃ってしまった場合は、マイナス十点となる。


○ゲーム終了条件……プレイヤーの霊子体が完全に崩壊した場合、ゲームは終了となり、その時点での得点で勝敗が決まる。




 ※ ※ ※




「と、こんな所だが……」

「なるほど。よくわかりましたわ」


 バディ戦のルールを読み込みながら説明をすると、テンカから、非常に頼りになる答えが返ってきた。


「要は、わたくしがあの乳女をボコボコにしている間に、下僕がせっせとポイントを稼いでくれば良いということでしょう? 楽勝ではありませんの」

「……お前のその溢れんばかりの自信は、一体どこから来るんだよ」


 頭が痛くなりながら、コウヤは仮契約をしたばかりのテンカのステータスを見る。

 バディ戦では、それぞれファントムのステータスが公開される。


 例えば、こんな感じだ。



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冬空ふゆぞら天花テンカ

 原始『雪原』

 因子『氷雪』『棘』 因子二つ ローランク

 霊具『白雪湯帷子しらゆきゆかたびら

 筋力値F 耐久値E 敏捷値C 精神力E 魔法力C 顕在性D 神秘性C


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 ファントムのステータスを見るのは初めてなので、これだけを見ると、具体的な強さまでははっきりとは分からない。


 しかし。



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矢羽やばね鷹見タカミ

 原始『■■■』

 因子『狩猟』『弓矢』『鷹』『■■』 因子四つ ミドルランク

 霊具『■■■■■』

 筋力値C 耐久値D 敏捷値B 精神力C 魔法力E 顕在性B 神秘性C


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 このステータスを見ると、明らかにテンカのステータスが低いのが分かる。


 黒塗りの部分は、部外者には公開されていないデータである。

 ファントムのステータスを事前に公開し、対策を練ることが、ウィザードリィ・ゲーム全般のバディ戦において重要とされている。



 原始とは、そのファントムの能力の元となったもの。

 テンカの場合は、『雪原』の持つ概念を元に、能力を発揮している。


 因子とは、原始から派生したファントムの能力の具体的な形である。

 この一つ一つがファントムの持つ異能であり、多ければ多いほど、強力なファントムの証でもある。


 霊具とは、そのファントムの象徴となるもので、メイン武装。

 テンカの場合は、湯帷子ゆかたびら――つまり、彼女が着ている白い浴衣そのものが、彼女の武器でもあるということだ。


「と、まあ。この辺は話に聞いてるから分かるとして……」


 そういった情報はわかるものの、やはりステータスというモノを見慣れていないので、どういう特徴があるのか、うまく掴みづらい。


 とりあえず現時点でわかるのは、タカミはテンカの倍の因子を持っているので、単純に手数が多いと考えられるところだ。


 そう結論づけながら、コウヤは話を本題に移す。



「なあ、とりあえず作戦を考えようと思うんだが」

「作戦なんて、簡単ですわ。先ほども言いましたとおり、あなたはわたくしのサポートをしていれば良いのです」

「いや、これがマギクスアーツならそれで良いかもしれないけど、シューターズだぞ。俺がポイントを取らないと、勝てないんだが」

「だったら、せっせと得点しなさいな。わたくしのために」



 尊大な態度で言い切るテンカ。無い胸を張るその仕草に、長い黒髪がふさぁっと揺れる。


 どうやら、話を聞かない系らしい。

 この手の輩は、こちらが何をしようと、聞く耳を持とうとしない。


 この数ヶ月、その手の輩の対処には随分慣れてしまったコウヤは、深くため息をついた。「わぁったよ」と、そこで話を切り上げて、試合に集中することにする。


 細かいルールは違うが、結局は的を狙って撃てばいい競技である。

 ファントム同士の戦いは任せろと本人が言うのだから、自分も、魔法士同士の射撃戦で戦果を上げるとしよう。


 それに――と、目の前のポイント選択画面を見ながら思う。


 シングル戦との大きな違いは、このポイントの振り分けができる点である。

 これによっては、かなり戦略の幅が広がる。


 あるいは――キサキに勝てるのではないかと、そんな希望を抱く。



「よし、やってやりますわよ」

「はいはい……」


 生返事を返しながらも、コウヤは勝つための策を立て始めた。




 ※ ※ ※




 完敗だった。

 勝てるわけがなかった。



 オープニングフェイズには、目に見えるフラッグはすべて、長距離狙撃で撃ち落とされ、更にはテンカが流れ弾に当たり、ファントムポイントすらも取られた。


 続くメインフェイズにおいては、厭らしいことにキサキはほとんどのクレーを属性クレーでまとめてきた。属性攻撃なんていう器用な魔法はまだ使えないコウヤは、そのポイントをことごとく取りこぼした。


 そして最後、ラストフェイズに至っては、大型エネミーの一撃にあっけなく半身を持って行かれ、続くキサキの射撃によって、霊子体は完全に崩壊した。



 六十二対ゼロ



 唯一の得点というか、最後のキサキの一撃によるペナルティ十点だけが、相手に与えたダメージであり、それ以外は見事に完封された。


 なお、粋がっていたテンカであったが、こちらも散々だった。


 なんでも、試合終了まで、弓矢を持ったタカミに、延々と狙撃され続けたらしい。

 因子からも分かっていたことだが、どうやらタカミは、弓術を主体に戦うファントムらしい。

 延々と矢を射られ続けたテンカは、試合が終了した時、その霊体はズタボロになっていた。


「ひっぐ。み、認めませんわ。ひぅ。わたくしは、ひ、負けてなんか、ありませんのよ」

「あー。わぁったわぁった。分かったから、泣くなって」

「泣いてなんかありませんわ!」


 そう、涙目で言い張るテンカ。わかりやす過ぎる強がりだった。


 それに対して、勝った方のチームもまた、とても分かりやすかった。


「いえーい! 完封勝利! やー、やっぱ気持ちいいね! 久々にタカミと試合出来たし。ねえねえ、タカミも楽しかったでしょ?」

「そうね。ネズミを追い回すのも意外と楽しかったわ。でも、私はともかく、サキはもう少し手加減してあげるべきじゃない?」


 なんとも余裕な様子である。


 しかし、見事なまでに勝負にならなかった。


 無論、個々の能力の差はもちろんあるだろう。

 コウヤはキサキに一度も勝っていないし、テンカはステータス面でタカミに大幅に遅れを取っている。


 だがそれ以前に、チームワークに問題があった。


「なあ、お前さ」

「ひ、く。な、なんですの」


 ゴシゴシと目をこすりながら、テンカがこちらを向いてくる。


 初めは、尊大な態度ばかり取る面倒な女だと思っていたが、こうして悔しがって泣いている姿を見ていると、案外可愛いところもあるじゃないかと思えてくる。


 悔しがるということは、少なくとも一生懸命ということだ。


 コウヤは彼女を正面から見据えつつ、離れで談笑している敵のバディを指差しながら言った。


「あんな風に言われているけど、悔しいよな?」

「そ、そりゃあそうですけど……一体、何の話ですの?」

「俺は悔しい。あいつらを見返したい」


 だから――と、コウヤはニヤリを笑いながら言った。


「手を組もう。俺もお前に協力するから、お前も俺に協力しろ」


 ちょうどいいと思ったのだ。


 今のところ、テンカ自体には魅力も何も感じない。むしろ、面倒くさい女だとすら思っている。

 しかし、彼女はファントムだ。

 しかも発生したてのファントムなので、誰とも契約を結んでいない、フリーの状態である。


 この数ヶ月、久良岐魔法クラブに通っていて知ったのが、魔法士が一人前になるには、ファントムとの契約はかなり重視されるということだった。


 正式な契約のためには、魔法学府に通うなりして、資格をとる必要があるが、その前から、キサキのように内々に契約を結んでいるバディも、少なくないと聞く。


 ならば――ここで、ファントムと接点を持っておくことは、悪いことではない。

 そんな打算の元に行った提案であるが、そんなコウヤの言葉に、テンカは反射的に拒絶の言葉を返してきた・


「な、何を言ってますの!」


 高いプライドが邪魔をしているのか、彼女はふくれっ面で、ぷいと目を逸らしながら言う。


「あなたは所詮、代理でしかありませんわ。わたくしはもっと、実力と才能のある、素敵な殿方を求めてますの。あなたのような未熟で弱い羽虫レベルの魔法士なんて、願い下げですわ」

「未熟で弱いのはお互い様だろ。俺が羽虫なら、お前は井戸のカエルだ。大体、タカミさんに完敗するレベルのくせに、才能のあるパートナーがいいなんて、贅沢にも程があるだろ」

「ま、負けてませんのよ! あれは、ただ、油断したというか、あの乳だけがでかいパッパラパーが卑怯だったというか、とにかく、わたくしが負けたわけでは」

「じゃあ、悔しくはないのか?」


 コウヤのその一言に、うだうだと言っていたテンカは、「うぐ」と黙りこんだ。図星だったのか、それ以上言い訳を重ねようとはしない。


 彼女は言葉をこらえながら、むくれ顔で小さく、こくりと頷いた。

 その様子を見て、コウヤはそっと手をさしだした。


「改めて。俺は鏑木コウヤ。あの人間の方の女に巻き込まれて、シューターを目指してる」

「……わたくしは、冬空テンカですわ。本来は大災害規模のレイスでしたけれど、ファントムとしては生まれたてですの。期待はしませんが、せいぜいうまくエスコートしなさいな」



 差し出された手を、恐る恐るといった様子で、テンカの白い手が握り返す。


 雪のように冷たい、ひんやりとした手。

 その温度を感じながら、ようやく二人は、互いのパートナーと向き合った。




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