総一郎side

第146話 総一郎(1)

               ◇◇◇◇


「……コトちゃん?」

 いきなり言葉が途切れたから、僕は首をもたげて彼女を見降ろす。


 薄暗い寝室ではあったけれど、橙色の豆電球の中でも透き通るように白い彼女の肌は、はっきりと見えた。


 いつの間にか、というか。

 唐突に眠ってしまったらしい。

 僕の肘までしかない左腕を枕にして、小さな寝息を立てている。


「コトちゃーん」

 もう一度呼びかけたけれど、起きる気配はない。僕は苦笑いして、右腕を伸ばし、ベッドの端によれてくしゃったタオルケットを引き寄せ、彼女の体にかける。


 ほんの数十秒前まで、冴村さえむらさんが東日本大震災の災害ボランティアセンターに派遣された時の武勇伝を語っていたのに、「その時、冴村さんが融通の利かない行政にね」と言った後、眠ってしまった。


 冴村さんは、融通の利かない現地の行政担当者に何をしたんだろう。


 僕はくつくつと笑いながら、そっと左腕を抜いた。上半身を起こし、周囲を見回すと、枕が床に落ちてしまっている。手を伸ばして拾い上げると、何度か苦労してコトちゃんの頭の下に滑り込ませた。


 枕の上に頭を乗せてやろうと、結構体を動かしたと思うのだけど、コトちゃんは起きない。


 よっぽど眠かったか、疲れたのかな。

 そう思って、勝手に一人で顔を赤くする。結局、僕がなし崩し的に二回もしたからだ、と。


 一度終了した時、コトちゃんがかなり眠そうなそぶりを見せていたし、「シャワー行きたい」と言っていたにも関わらず、なんとなく彼女をどこにも行かせたくなくて裸で抱き合ってたら、なんとも言えない幸せな気持ちになった。


 しっとりとした肌とか、すべすべの背中とか、柔らかい胸とか。そんな彼女にずっと触れていたら、「すっごく、今、幸せ」。コトちゃんが呟き、それを聞いた途端、なんかもう、いつの間にか二回目が始まって、と……。


 結局、二回目が終わったあとは、コトちゃんは「明日の朝、シャワー行く」と言い、「明日が日曜で良かった」に続いてから、「月曜は冴村さんの講座の手伝いしなきゃ」と脈絡なく話し、「そう言えば冴村さんが、東日本大震災でね」と言った後、いきなり眠ってしまった。


「コトちゃーん」

 僕は彼女の隣に横たわり、同じタオルケットにくるまりながら、もう一度名前を呼ぶ。少し、瞼が痙攣したような気がしたけれど、やっぱり反応はない。


 僕は彼女の眠った顔を見た。


 卵形の顔で、笑うと右にだけえくぼができる。

 綺麗な弓なりの眉をしていて、それがすっきりとした一重の目に良く似合っていた。


 細身で、セミロングの髪をいつも、「いつかショートにしようと思うの」と真剣に僕に語る彼女。だけど、いつもふんぎりがつかない。顎のラインが出るのを気にしているらしい。


 僕はくすり、と笑う。可愛いのに。

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