第48話 正田宅(8)
多分、私を庇おうとしているのだろう。
「ほら、ばばぁが、そう言ってんだよ! 趣味や嗜好のための金は使えるんだろ!?」
雅仁さんが胸をそらせ、勝ち誇ったように言う。
かちんときた。
ふざけんな。お前のために使う金が、なんで
「私、息子に眼鏡を買ってやりたいんです」
震える声で、正田さんが言った。
嘘だ、と思う。
多分、その金額をまるまるむしりとられるのだろう。
「わかりました」
私は胴に抱きつく正田さんにそう言う。そして顔を上げ、雅仁さんを見た。
「では、眼鏡の見積もりを取ってきてください」
「はぁ!? なんでそんなもんがいるんだよっ!」
雅仁さんがまた吠えるが、首を横に振る。
「正田さんが眼鏡を買うとしても、私は同じことを言います。見積もりをまず取り、金額を決定させてください。そうすれば、その金額を私は下ろしてきますので、そのお金で眼鏡を購入し、領収書を提出してください」
「おい、ごらぁ。大人しくしてたらなぁ」
再びまた雅仁さんが凄むので、その言葉を中断させてやる。
「四日前、正田さんを連れて信用金庫に行きましたよね」
途端に雅仁さんが口を閉じ、瞳を揺らせた。私はたたみかける。
「正田さんに、『通帳を無くしたから再発行して欲しい』と言わせましたね。申し訳ありませんが、正田さんの通帳は再発行できない契約を信用金庫と行っています」
雅仁さんは、ぎゅっと口唇を一文字に引き絞るが、細かく震えているのが見える。
「社協にすぐ連絡が来ました。いいですか」
私は、上がりかまちに置かれた一万円を指差す。
「このお金は、正田えい子さんのものです。貴方のものではありません。眼鏡が欲しければ、自分のお金で購入してください。いえ、貴方に支給されている生活保護費から購入を検討してください」
正田さんは、すでに私から離れ、上がりかまちで
「正田さん。この通帳を見て確認してもらえますか?」
正田さんはゆるゆると首を縦に振る。私はバッグから通帳を取り出して正田さんに見せると、またバックに仕舞って今度は領収書を取り出した。
「ここにサインをしてください。印鑑、ありますか?」
目を見て尋ねると、再び縦に振って、洗いすぎて生地の薄くなったエプロンのポケットから印鑑を取り出した。領収書とボールペンを差し出すと、震える指でサインをし、印鑑を押す。
「正田さん。もし本当に、息子さんに眼鏡を、と思われるなら先ほど申し上げたように、見積もりを取ってください。取り方がわからないなら、一緒に眼鏡屋に行きましょう」
そう声をかけたが、正田さんは頷かなかった。
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