第六十八話
突然現れた凌馬によって、男たちに振り下ろした剣を止められたウィリック。
「離せ! こいつらが・・・、こいつらがリリアを!」
ウィリックが怒りを抑えられないように凌馬へと吠える。
「落ち着くんだ。あの子なら大丈夫だ。既に怪我の治療は終わっている。間もなく目を覚ますだろう。お前はあの子の側に付いていてやるんだ。あの子も顔を知っているお前が側に居れば安心するだろう。」
ガランガラン!
凌馬からリリアの容態は大丈夫だと説明されたウィリックは、剣を地面に落としたことも気にせずリリアの元に駆け寄っていた。
「う、う~ん。あれ、ここは?」
リリアが目を覚ますと、キョロキョロと辺りを見回していた。
「リリア、大丈夫か? どこか痛いところはないか?」
「お兄ちゃん? ううん、どこも痛いところはないよ。」
リリアの様子を見て、無理をしていることはないと分かるとウィリックが怒鳴る。
「このバカ。あんな無茶をして本当に殺されたらどうするんだ。お前の母親のことも考えろ。」
安心したためか、なんかだんだん腹が立ってきてしまったウィリックはリリアを責めてしまう。
「お兄ちゃん、泣いてるの?」
リリアは、そんなウィリックの目から涙を流した跡をみてそう尋ねる。
「べっ、別に泣いてなんかいねえよ。そんなことより、お前は自分の行動を反省しろ。」
「だって・・・お兄ちゃんを助けたかったんだもん。」
そう言われると、ウィリックは気恥ずかしげな表情をして顔を背けてしまう。
「子どもがそんなこと気にするんじゃねえ。俺があんなやつらにやられるかよ。」
その言葉に、顔を伏せて落ち込んでしまうリリア。
ガシガシ!
突然リリアの頭を乱暴に撫でるウィリック。
「だが、ありがとうな。お前のお陰で、大切なことを思い出すことができたよ。」
その言葉を聞くと、リリアの表情はパッと明るいものになっていた。
そんな不器用なやり取りを、凌馬やルドレア、アメリーナたちは遠巻きから微笑ましそうに見ていたのだった。
「たっ、助かった。」
ふと、凌馬の近くで地面に伏していた男がそう言葉をこぼす。
すると、それまでの優しい目から男たちを射殺さんばかりに睨み付ける凌馬。
「助かっただと? 何を勘違いしてやがる。俺があいつを止めたのは、お前らのようなクズどものためにあいつの手を汚してほしくなかったからだ。」
凌馬はゴミどもの勘違いを正す。
「それにな───、俺の前で俺の庇護下にあった子どもに手を出しておいて、あっさり殺してやるほど俺はそこまで優しくはないぞ。おまえたちにはそれにふさわしい末路を用意してやる。今この場で殺されなかったことを後悔するほどのな!」
凌馬の放つ濃密な殺気に、意識が遠のいてしまう男たち。
凌馬はブチギレていた。
彼はなんだかんだと言いながらも、あの避難民たちが領主の元に着くまでは自分が守るべき者たちであると考えていた。
そして、その対策もそれなりに取ってはいたのだ。勿論、不可抗力で傷つく者たちも居るだろうことは想定していた。
しかし、今回のことは凌馬の油断から招いたことであった。
避難民たちを付け狙うやつらが居たことには気付いていた。
だが、手を出してきたところでカイやソラ、ムラサキにクレナイが居れば瞬殺する事も可能であり、そのときに対処すればよいと考えていたのだ。
下手に戦闘をして避難民の混乱を招きたくなかったのと、魔物たちの襲撃の時には壁がわりにでも利用しようとも考えていた。
だが、リリアは一人森の中に入りみんなからはぐれてしまい、それによって彼女は傷付くことになってしまった。
ウィリックが居なければ、最悪命を落としていたことも考えられる。
凌馬は、己の力を過信してしまい油断してしまったことを激しく後悔していた。
そして、リリアに対して大きな借りを作ってしまったと思っていた。
「俺の油断が招いた結果は、俺自身の手でけじめをつけなくてはならない。」
凌馬は今回の帝国の件に関わる覚悟を決めた。
少なくともあの子が安心して暮らせる国になるまでは───。
凌馬が一人考え事をしていると、ウィリックが凌馬のもとに近付いてきて突然膝をつくと頭を下げてくる。
「凌馬殿。今までの無礼を許してください。それと勝手なこととは承知していますが、どうかこの俺にこの国の暴走を止めるための力を貸しては下さいませんか。お願いします!」
ウィリックがしているのはまさに土下座であった。
「ウィリック!」
「ウィリック様っ!」
「お兄ちゃん?」
突然のウィリックの行動に、アメリーナやルドレア、リリアが驚きの声を上げていた。
「お願いします。もうこれ以上、俺たちのせいで無垢の民たちを傷付けさせるわけにはいかないんです。それに、姉上と誓ったんです。この国を、民を守ると。もし、願いを聞いていただけるのでしたら、どんなお礼でもします。俺の命が望みなら、あなたに差し上げます。だからどうか力を貸してください!」
それは、今までのウィリックであったら絶対にあり得ない事であった。
誰かのために、平民の人間に恥も外聞もなく頭を下げるなど、それも自分の命を懸けてまで。
あまりのことに、周りの人間はなんの反応もすることが出来なかった。
「ウィリック、貴方・・・。」
アメリーナは、ウィリックの変わりように驚くと共にどこか嬉しそうな表情をしていた。
それは、彼が子どもの頃のどこまでもまっすぐなウィリックと同じ顔をしていたからだった。
「正気か? おまえが死んだらこの国はどうなる?」
「私が居なくとも、凌馬殿が代わりにこの国を納めてくれるのならばなんの心配も要らないでしょう。きっと俺なんかよりも上手くこの国を纏めてくれるはずです。」
凌馬は、彼の言葉の真偽を見定めてそれが本気であることを悟った。
「別に俺はこの国のトップなんぞに興味はないし、お前の命など欲しくはない。だが、お前にも借りができてしまったからな。力を貸せというのならば手を貸すこともやぶさかではない。」
「本当ですか!」
ウィリックが頭を上げると、凌馬にそう問い掛ける。
「一つだけお前に確認をしておきたい。お前の願い、それがどういう事か本当に理解しているのか?」
凌馬はウィリックにそう告げる。
「はい、勿論分かっています。もし、父上を説得することが出来ない場合は・・・・・・、皇帝ムーランス七世は俺の手で始末をつけます。」
その目には覚悟を決めた者の強い意志が宿っていた。
もうひとつ、凌馬がこの件に関わろうと考えを変えたのは彼にあった。
今までの彼からは考えられないほど、今のウィリックは凌馬から見てもこいつになら賭けてもいいと思わされた。
(どうやら、俺の目は節穴だったようだな。これが、あのガキだとはな。まるで別人じゃないか。彼の姉、シンディの人を見る目は確かなものであったようだな。)
凌馬は自分自身まだまだ未熟者であると思わされた。
「ならば、お前を皇帝のもとまで連れていってやる。お前を邪魔するものは、俺が蹴散らしてな!」
こうして、ムーランス帝国の動乱はこの時点で大きく流れを変えていくのであった。
「アメリーナさんは、みんなと先に避難民たちのところに合流していてくれ。俺は少しやることがあるんでな。それと念のため護衛をつける。」
ゴーレムの集団を召喚すると「何があっても彼らを守れ。誰一人傷つけさせるな!」そう凌馬は厳命を下す。
凌馬の矜持に懸けてこれ以上、誰も傷つけさせるわけにはいかなかった。
「わかりました。それではウィリックと団員の皆さんと先に戻っています。」
アメリーナたちは、流星旅団たちと合流をすると馬に乗って駆け出していく。
「さてと、それではこっちもけじめをつけにいくかな。」
凌馬は気絶した二人の男を掴むと、その場から消える。
「ちっ、あいつら遅えな。なにやってやがるんだ。それに討伐隊はまだか?」
盗賊たちのリーダーはイライラしていた。
がさがさ。
茂みの音がなり、彼の部下が顔を出す。
「やっときたか。様子はどうだ?」
「あ・・・あ、ばけ・・・も・・・の。」
ドスン!
部下の男はそのまま地面に倒れ伏してしまう。
「なっ、なんだ一体?」
盗賊たちは一斉に剣を抜くと、警戒を高めていた。
「どうやらおまえたちで最後のようだな?」
「だっ、誰だてめえ? よくも俺の部下を・・・。」
ゾクッ!
突然現れた男にリーダーは吠えようとしたが、その男の殺気に言葉が続かなかった。
「怒っているのか? だがな───、ブチギレてんのはこっちの方なんだよ!」
「ぎゃあああああ!」
凌馬の姿が消えたかと思うと、盗賊たちの手足の腱が容赦なく次々に斬られていき、どんな薬や魔法を使っても二度と回復が出来ない状態にされていく。
次々と仲間たちが芋虫状態にされ、盗賊のリーダーは恐怖と混乱で声を出すのがやっとだった。
「な、なんだおまえは? 何者なんだ───?」
「お前らにとっての死神だよ。」
『ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──────。』
その日、百人を超す一つの盗賊団は消滅し、犯罪奴隷に落とされた彼らは自ら命を絶つ自由すら奪われその後の
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