第六十九話
凌馬が避難民たちを狙う盗賊たちを片付けて戻ったときには、既にウィリックたちも避難民たちと合流をしていた。
「パパ!」
「凌馬さん!」
事の成り行きをウィリックたちに説明されていたのだろうミウとナディは、凌馬が戻ってくると馬車から飛び出してきて抱き付いてくるのだった。
「ミウ、ナディ心配をかけたな。」
「パパ、無事で良かった。」
「いいんです。凌馬さん。」
凌馬は二人の頭を撫でて落ち着かせると、今回の件について凌馬の意思を説明するのだった。
「二人とも。今回の件について、俺はウィリックに手を貸すことに決めた。色々あって、俺なりにけじめをつけなくてはいけなくなったんだ。二人には迷惑を掛けてしまう。すまない。」
凌馬はそう言うと頭を下げる。
「ミウはいいよ。パパならそう言うと思ってた。パパは優しいから。」
「ええ、凌馬さんは私たちを気にすることありません。それに、私も彼らを放ってはおけないと思っていましたから。」
二人からそう言われて、気恥ずかしいやら嬉しいやらで二人に感謝をするのだった。
「それとミウ。リリアという少女を俺たちの馬車に乗せることになる。あの子と仲良くしてやってくれるかい。」
「うん! お友達ができてミウもうれしい。」
ミウを抱き上げてお礼をいうと、件の少女のところへと向かう凌馬たちであった。
「ああ、リリア・・・無事で良かった。お母さん心配したんだからね。」
「ママ、ごめんなさい───。」
親子はそう泣きながら、抱き合って再会を喜んでいた。
「すまなかった。今回は俺の油断から、あなたのお子さんを酷い目に合わせることになった。許してほしい。」
「凌馬殿が謝ることはない。今回の件は全て俺たちに責任があるんだ。謝るのは俺たちのほうだ。すまない。」
二人に頭を下げられて、混乱したのはリリアの母親の方だった。
「そんな、リリアがご迷惑をお掛けしたのに謝罪をしていただくことは何もありません。この度は娘がとんでもない迷惑をお掛けしてしまいました。ほらリリアも謝って。」
「ごめんなさい。」
お互いに謝罪をしあって、なんだかおかしなことになってしまったが、とりあえず凌馬は二人に提案をした。
「リリアちゃん。もしよかったらうちの馬車に乗っていかないか。家にも娘が居てね。仲良くしてくれたら嬉しい。」
「リリアちゃん。私はミウっていうの。お友だちになってくれる?」
ミウがリリアに手を差し出していた。
「うん、ミウお姉ちゃん。」
リリアは嬉しそうにそう答えると、ミウと手を繋いでいた。
「ミウちゃんのお友だちなら、私も。私はユーフィー、よろしくねリリアちゃん。」
「ユーフィーお姉ちゃん。」
二人と手を繋いだリリアは、二人の案内で相棒たちの方へと向かっていく。
どうやらリリアに自分たちの家族を紹介するようだ。
「そんな、ご迷惑では・・・。」
リリアの母親にそう言われたが、凌馬は自分のわがままなのでそうしてほしいとお願いすると凌馬の提案に頭を下げて「よろしくお願いいたします。」と受け入れてもらえた。
「リリアちゃん。この子たちはカイとソラ。」
「きゃっ、おっきいねミウお姉ちゃん。」
少し怯えるようにしていたリリアだったが、「ふたりともいい子だから大丈夫だよ。」とミウに撫でられて嬉しそうに尻尾を振っているふたりの様子に、リリアも恐る恐る体を撫でていく。
「うわ~、凄くふわふわで気持ちいい。」
リリアがふたりの毛並みに抱き付いていくと、『く~ん。』とリリアに顔を擦り寄せるカイとソラ。
「うふふ、くすぐったい。」
どうやらカイとソラにも打ち解けてくれたリリアであった。
「リリアちゃん、この子はイシュム。この子もカイとソラのお友だちだよ。」
「イシュム、私はリリア。よろしくね。」
「グルルル。」
リリアがイシュムの首に抱きつくと、喉をならして喜んでいた。
三人がそうして仲良くお友だちになっている様子を、その保護者たちが微笑ましく見守っていた。
特に、ユーフィーの姉はこんな短期間にふたりの友達が妹にできて大層喜んでいた。
そうして、新たに馬車に同乗者を増やした凌馬はウィリックのもとに向かう。
「ウィリック、おまえも俺の馬車に乗れ。」
「はっ? いきなりなにを。」
ウィリックが疑問を口にするが、凌馬は気にせず続ける。
「お前、俺に何でもするって言ったよな? あの子が一番懐いているのはお前だからな。おまえの意思など関係ない。これは決定事項だ。」
「きっ、汚いぞ!」
凌馬の聞く耳を持たないという態度に、いつものウィリックに戻っていく。
「ふん、やっともとに戻ったな。おまえに敬語で話されるのはなんだか気持ち悪かったからな。」
「人がせっかく敬ってやろうとしていたのに・・・。」
「それが気持ち悪いと言っているんだよ。俺に対して敬語など不要だ。俺もおまえとは対等に話したいと思っている。」
「・・・・・・分かった。あんたがそういうのなら凌馬と呼ばせてもらうからな。」
「ああ、それで構わん。」
そうして、凌馬とウィリックの中で協定が出来たのだった。
「さて、それでは第九十三回ゲーム大会を開催する!」
「やったー。」
「今度こそ私が勝つからね、ミウちゃん。」
いきなりの凌馬の宣言に、ミウとユーフィーは拍手で応えて他の人はポカーンとしていた。
「おいっ、一体なんのことだ?」
「ふっ、これより我が家恒例のゲーム大会が始まるんだ。優勝商品はこのケーキ! 皆、優勝を目指して全力で戦うんだ。」
『わー!』
なんかよくわからないが、みんなが盛り上がるように声を上げると凌馬はゲームの説明を初めての人にし始める。
「何でこんなことを。こんな遊びに興じている場合じゃない。」
「えー、お兄ちゃんやらないの?」
ウィリックの言葉にリリアが悲しそうな顔をする。
「ふっ、逃げるのか? この程度のことから逃げるような腰抜けにこの国を救うことが出来るだと?」
「なんだと。よーし、それならこてんぱんにのしてやる。覚悟するんだな。」
「やったー。」
ウィリックの参加にリリアが喜ぶと、凌馬はしてやったりという顔をしていた。
ゲームは大富豪。
運と実力の両方を必要とする頭脳ゲーム。
「やったー、いちばーん。」
「あ~、また負けちゃった。」
「あっ、上がりです。」
「私も!」
次々と女性陣が上がっていくなかで、最後まで残ったのは凌馬とウィリックだけであった。
「くそっ、なんだこのゲームは。全然いいカードが来ないじゃないか。」
ウィリックは愚痴をこぼしていた。
「ふっふっふっ、やはりこうなったか。」
凌馬はそうキメ顔で語った。
「なにを言っている?」
「ふっ、家の女性陣はなミウを筆頭として、この世界に愛されているのだよ。カードを配れば全てのクズカードが俺のもとに集まってしまうんだ・・・。」
そう、凌馬はゲームを行うとことごとく敗北をしてきたのだった。
ミウたちが世界に愛されているのか、はたまた凌馬が世界から嫌われているのか分からないが、本当にことごとくだ。
「しかし、俺と同じく可愛くないガキが居れば、相対的に俺の運の差も縮まるというもの。カードが互角ならば経験の差で俺が勝つ!」
実に大人げなかった。
「くっ、汚いぞ凌馬!」
「何とでも言え。大貧民は貴様にこそふさわしい。俺は貧民としておまえに勝つ!」
めちゃくちゃ底辺の争いであった。
「お兄ちゃん頑張って!」
「パパ、がんばれー!」
『この勝負俺が勝つ!』
リリアとミウの声援を受けたウィリックと凌馬の真剣勝負が、今始まった───。
「だーはっはっはっ! 若造がこの俺様に勝とうなど百万年早いわ!」
「くっそー! もう一度だ。もう一度勝負しろ!」
・・・とてもこの国の未来を託せるような二人ではなかった。
だが、これも凌馬の気遣いであった。
ウィリックはこれから、最大の試練が待っている。
最悪、彼は最大の禁忌を犯すことになるかもしれない。父親殺しという業を───。
そうなれば、彼はもう二度と心から笑うことはできなくなってしまうかもしれない。
だから、せめてその時までは彼に楽しい思い出を作って欲しかったのだ。
「はーっはっはっ! 大貧民は皆にカードを配るのが役目だ。ほら早くしろ! 大貧民が!」
「てめぇ、覚えていろよ! 必ず貴様を大貧民にしてやる!」
《いや、本当に彼のためなんだよね? そうだよね? 信じているからな凌馬。それは本当は演技でやっているってことを・・・。》
「負け犬の遠吠えが心地よいわ!」
「うるせー、早くやるぞ。」
周囲があきれた様子で、二人の醜い争いを見ていたという───。
結局、優勝者はまたもやミウであった。凌馬は、敢闘賞という事でリリアやユーフィーたちにもケーキをご馳走した。
「うわぁ、美味しいねミウお姉ちゃん。」
「う~、またミウちゃんに勝てなかった。」
「今度またみんなで遊ぼうね。」
三人の少女は、和気あいあいといった雰囲気で楽しそうにしていた。
「おい、俺にもくれよ。俺も頑張っただろ。」
可愛くない男が凌馬に催促してくる。
「しょうがないな。お前には特別にこれをやろう。」
凌馬がそれをウィリックの口に押し込む。
「~~~!!!!!!」
ウィリックがあまりの辛さにしばらく声もなく悶えていた。
「おー、声もでないほど感激してくれるとは、俺も嬉しいぞ。」
「うらけるな(ふざけるな)! ひさまよふも(貴様よくも)!」
「残念賞だろ。悔しかったら俺に勝ってから文句を言え。」
「あら、ウィリックがいらないなら私がもらってもいい?」
「ははうえ、やめ───。」
ポリポリポリポリ───。
「美味しいわね、これ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
《・・・・・・・・・・・・。》
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