第五十二話
ピカッ、ドーーーーン。
『きゃあああ。』
雷雲が馬車の近くまで来ていたようで、雷が近くで落ちたようだった。
それに驚いたミウとナディが悲鳴をあげていた。
「二人とも大丈夫だよ。ここは俺が結界を張っているから万が一にも何かがあることはない。」
凌馬の言葉に、しかしそれでも本能が雷というものを恐れているようであった。
凌馬としては外界の情報を全て防いでも良いのだが、何でもかんでも危険なものから遠ざければ良いものでもないとも思っていた。
(これから先、何が起きるか分からないからな。二人には悪いがこれも試練だ。)
ピカッ、ドガーン!
「パパ!」
「凌馬さん!」
二人に抱き付かれて、役得という感じで二人の背中を撫でて落ち着かせる凌馬。
そんなこと言って絶対そっちが本心だろうがというツッコミはさておき、凌馬は窓の外から見える山の様子を目にしてなにか嫌な予感を覚えていた。
(なんだろう。妙な胸騒ぎがする・・・。またなにかトラブルが起こるというのか───。)
凌馬の直感は半ば確信に近いものを感じていた。
「カイ・・・、ソラ・・・。」
『クゥン。』
ミウは不安でふたりに体を寄せると、カイとソラはミウを安心させるために包み込むようにして守っていた。
その日は早めの就寝にしたのだが、ミウが布団の中に潜り込んでしまったので、凌馬も一緒になって布団に潜る。
「大丈夫。外はムラサキやクレナイがいる。ここにはカイやソラがいて、パパもいるんだ。何も悪いことは起きないよ。」
「前にも同じことがあった気がする・・・。」
ミウを安心させるために頭を撫でていると、やがて眠りへと落ちていく。
(なにか思い出しかけたのか・・・。でも今はゆっくりと休むと良い。)
「ごめんなさい凌馬さん。」
ナディの言いたいことを理解した凌馬。
「良いんだよ。誰にでも苦手なものはあるし、そういう一面があるのも女性として可愛いと思うよ。」
凌馬の言葉に顔を赤く染めて、布団に半分顔を埋めて告げてきた。
「あの・・・手を繋いでもいいですか?」
「ああ、もちろん。」
ミウを挟んで、布団の中で手を握り合う二人。
凌馬は雷に感謝した夜となった。
次の日の朝にはすっかり雨も上がり、昨日の様子が嘘のようであった。
道は雨に濡れて状態はよくないが、進めないわけではなかったのでムラサキには慎重な操縦をお願いしておいた。
「凌馬様、間もなく山道入り口になります。」
「ご苦労様ムラサキ。うん? なんかずいぶんと人だかりが・・・。」
山道入り口にはムーランス帝国の関所が存在しており、その周辺はちょっとした建物が立ち並んでいた。
「どうなっているんですか?」
「復旧の目処は?」
商人をはじめとして、複数のグループが関所の兵士に対して詰めかけているようだった。
「凌馬様、どういたしましょうか?」
「ここで止めてくれ。俺が行ってくるからみんなはここで待っていてくれ。」
凌馬はそう言い残すと、馬車から飛び降りて騒ぎの中心へと進んでいく。
「ですから、先ほどから言うようにここを通すことはできません。復旧については、今応援の使いを出していますので彼らが戻るまでは何もわかりません。」
「ちょっと失礼。先ほどここに着いたばかりの者ですが、何かあったんですか?」
凌馬が兵士に話しかけると、またかと言う顔をされてこちらを向いて説明を始めた。
「昨日の豪雨によって、山道が土砂崩れで通行できなくなっています。隊長が通行止めの判断を下して、近くの駐屯所に応援要請を出しました。復旧活動は応援が到着しだいになります。」
兵士は、朝から繰り返した説明を凌馬に告げた。
「それでは契約に間に合わなくなる。」
「直ぐにでも復旧してくれないか。なんなら人員はこちらでも出すから。」
商人たちは、自分達の都合のため直ぐにでも通れるようにしたいようだった。
「ですから、今は危険な状態で最悪また土砂崩れを起こしかねません。しばらくは誰も近付けないんです。先を急がれる方は迂回してください。」
「それではいつまでかかるか。それに迂回路は魔物たちの数も多いと聞いた。余計な損害が発生してしまうかもしれない。」
商人の雇った護衛も期間が延びればそれだけ費用はかさみ、魔物の遭遇が増えれば命の危険が増す。
それでも追加費用を払わなければ最悪、契約解除されてこの場から動けなくなってしまうかもしれない。
兵士が商人たちの対応をしているのを後目に、凌馬は皆の元に戻っていく。
「凌馬さん、どうでしたか?」
「ああ、どうやらちょっと不味いかな。」
凌馬は皆へとさっきの話の説明をする。
(さてと、少しばかり予定外の事態だな。復旧を待っていては、早くても十日くらいかかるか。かといって迂回路は山と森が邪魔をして一旦帝国の中心付近まで戻らないといけないのか。こちらを選んでも山道を越えた先に辿り着くのはやはり十日ほどか。だが・・・。)
凌馬が地図を見ながら考えをまとめているところに、ムラサキから話し掛けられた。
「いかがいたしましょうか? もしお許しを頂けるのでしたら、私とクレナイで直ぐにでも通れるように致しますが?」
「お任せ下さい凌馬様。」
ムラサキとクレナイは、凌馬からの判断を待っていた。
「いや、やはりここは迂回しよう。目立つ行為もしたくはないし、彼らに説明をしてもすんなりいかないだろう。冒険者証を見せれば話は別だが、そんなことをすればまた使い魔などを付けられ警戒されかねない。」
(それにクロという明確な敵がいる以上、派手に動きたくはないしな。少なくともあいつの目的を知るまでは──────。)
復旧にかかる時間が正確に読めない以上、確実性のある迂回を選択した凌馬。
魔物の類いについては、まったく心配がない凌馬たちだから取れる選択であった。
『かしこまりました。』
「というわけで、迂回することになった。余計な時間を掛けてしまうが悪い。」
「ううん、パパのせいじゃないよ。」
「そうです。凌馬さんが謝る必要ありません。それにみんなと一緒に居られることが大切なんです。」
そう言って、ナディはカイとソラの体を撫でていた。
ミウは早くカイやソラに乗りたそうにふたりに抱き付くと、ふたりも嬉しそうに鳴いていた。
そうして、迂回路を進み始める凌馬たち。
やはり先ほどの商人たちの噂通り、魔物の数は今までよりも多く感じられたのだが──────。
『アオーーーン。』
「お二人に近付くことは許しません。」
久し振りにミウやナディをその背に乗せたカイとソラ、そしてクレナイによって追い払われるか瞬殺されていった。
「あはは、早い早い。ねえカイ、あの岩飛び越えられる?」
「わん!」
任せてというように答えると、障害物の岩を軽々と飛び越えていく。
「えっ、ソラもいくの? ちょっと待って、まだ心の準備が・・・。きゃあああ────。」
どうやらテンションが上がりすぎたミウが、あのサーカスで見たユーフィーのことを思い出し真似をしたかったようだ。
それに巻き込まれたナディは、ソラにしがみついて悲鳴を上げていた。
「あはははは、ふたりともすごいすごい!」
ミウに誉められてふたりもご満悦の様子だった。
それを後方から眺めていた凌馬。
「しまった。ミウに真似はしないように釘を刺すのを忘れてたな。まあ、久し振りに楽しんでいるようだし水を差すのもなんだ。戻ってきてからでいいか。カイとソラなら大丈夫だろうし。ただ───。」
(ナディ、すまない。)
凌馬が心の中で謝っている最中も、ナディの悲鳴が響き渡っていた。
そんなこんなで、旅自体は順調に進んでいた凌馬たち。
その日も日が暮れてきたので、そろそろ野営場所を探そうかとしていたときにそれは起きた。
「───! カイ、お願い!」
突然ミウが叫びにも似た言葉を発する。ミウと心を通わせているカイにとってはそれだけで十分だった。
カイは躊躇うことなく馬車から離れてると、全速力で駆け出すのだった。
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