第五十一話
翌朝、魔道具がきちんと作動しているかことを確認した凌馬は、皆で朝食を取りながら窓の外を眺める。
「さて、ようやく今日から自由な旅に戻れると思ったんだけど、まさかの雨とはな。」
「折角カイたちに乗って行けると思ったのに残念。」
『キューン。』
ミウを慰めるように鳴くカイとソラだったが、ふたりも残念そうであった。
「どうしましょう凌馬さん。」
「う~ん、まだそれほど強く降ってないし取り敢えず行けるところまで行ってみるか。」
あまり時間を掛けて、トラブルに巻き込まれるのは避けたいのが本心だった。
出発前にユーフィーに挨拶をしたいとミウに言われたので、昨日の流星旅団のテントまで行ったが既に引き払われた後であった。
「ユーフィーちゃん、昨日は出発は十時頃って言ってたのに・・・。」
「きっと予定が繰り上がったんだな。なに、これで最後って訳じゃない。」
ミウが落ち込んでいたので、頭を撫でながら慰める。
「ミウちゃん元気を出して。」
ナディはミウと手を取ると、ミウも元気を出すように微笑んでいた。
こうして、この街にはもう用がなくなったので出発することになった凌馬たち。
馬たちに雨具を着せて、馬車を走らせる凌馬。
なぜ凌馬が御者をしているのか。それは、こんなやり取りがあったからである。
「今日は久し振りに俺が御者をするよ。最近ずっとムラサキたちに任せきりだったし。」
「そんな、凌馬様がそんな事をなさる必要はありません。」
当然のように止めてくるムラサキ。
「まあまあ、たまには二人ともゆっくりしてくれよ。それにミウと一緒に馬車を走らせるのは、俺たちにとっては大切な時間だったんだ。ミウも退屈してるし、たまには変わったこともしないと長い旅だしな。」
「パパ、私が手綱持って良い?」
「ああ、勿論。」
「あっ、私もしてみたいです。ミウちゃん、私にも教えてくれる?」
「うん!」
ミウもナディも刺激を求めているようで、そうして今日はムラサキとクレナイには休んでいてもらい凌馬たちは御者席に座っていた。
御者席は雨や日除けの為の屋根があるが、横風などで濡れる可能性もあるため凌馬たちも雨具を着ける。
「カイとソラもお揃いだね。」
『ワンワン!』
みんなでお揃いの青色の雨具を着れて、機嫌が良くなったミウ。
なぜカイとソラが雨具を着けているかというと、雨で視界が良くない状況で万が一ということが起きないように馬車の護衛と、こちらが本命なのだが最近の運動不足の解消のためであった。
「カイ、ソラ、周囲の警戒は任せたぞ。進行方向を重点に先行してくれ。」
「カイ、ソラ。気を付けてね。」
『ワンワン!』
タッタッタッタッタ───!
ミウたちに見送られながら、カイとソラは雨の中を駆け出していく。
「さて、念のため後方にはゴーレムの偵察を飛ばしておくか。」
凌馬の手から飛び立つゴーレム。
「それじゃあ出発しよう。」
「馬さん、今日はよろしくね。」
『ヒヒーン!』
ミウが手綱を引くと、馬車はゆっくりとスタートする。
「ミウちゃん、馬車の操縦上手ね。」
「パパと二人のときは、いつもここに座って教えてもらってたから自然に覚えたの。」
「ミウはもともと筋が良かったし、動物たちと仲良くなる資質もあってあまり教えることも無かったけどな。」
凌馬はミウと出会った頃のことを思い出しながら、あれからそれほど経っていないのにずいぶん昔のような感じていた。
『あめあめふれふれ かあさんが じゃのめでおむかえ うれしいな────。』
昔のように、凌馬はミウに歌を教えると馬車を走らせながら歌っていた。
端から見たらどう見てもこの三人は親子のそれなのだが、『リア充爆発しろ』等と言う輩はこの場には居なかった。
「ねえ、パパ。じゃのめってなに?」
「ああ、蛇の目っていうのはな傘のことなんだけど、その模様が蛇の目に見えるからそう呼ばれていたらしい。」
「傘って何ですか?」
ミウの質問に答えた凌馬は、ナディからさらに質問が飛んできた。
「おお、そうか。そういえばこの世界には傘なんて見なかったけど、存在しないのか? 確かにあれは完全に雨を防ぐことは出来ないし、両手が使えないことはこの世界では魔物に対しても無防備になりかねんしな。傘って言うのはこれだよ。」
凌馬は、マジックバッグから地球産の傘を取り出して二人に見せる。
「面白い形をしていますね。持ち歩ける雨避けの屋根なんですね。」
「ねえ、パパ。私もこれほしい。」
「ああ、ちょっと待ってな。」
ミウが傘に興味津々だったので、凌馬は新たに子供用の可愛らしい傘をミウに渡す。
「わあー、かわいい。ありがとうパパ。」
「どういたしまして。」
「良かったねミウちゃん。」
ミウは貰ったばかりの傘を早速開くと、クルクルと回しながらその柄を眺めていた。
その後、馬車の操縦をナディに交代して先を進んでいた凌馬たち。
「見た目以上に難しいんですね。」
「お姉ちゃん、この子たち賢いからあんまり手綱は引かない方がいいよ。」
「ミウの言う通り。ナディ、あまり力まない方がいい。基本的には、進路がそれたり障害物がある時にそれを彼らに教えて上げるんだ。」
「はい。」
ナディは、凌馬たちのアドバイスを元に操縦をしばらく続けていた。
ゴロゴロゴロゴロ。
そうこうして、凌馬たちが目的の山道のある山へと近づいていると、進行方向の雨雲が濃くなっていき遠くで雷鳴が響いていた。
「不味いな。この分だとここもまもなく土砂降りになりそうだ。」
凌馬はそう言うと、ナディと操縦を代わり今日の野営場所を探すことにした。
上空の偵察により、丁度よい空き地を見つけるとムラサキたちを呼んで野営の支度をする旨を伝えた。
『ワンワン!』
「お帰り、カイ、ソラ。」
「ご苦労様、ミウとナディはカイたちとお風呂に入っていてくれ。体を冷やして風邪を引いたらいけないし。」
「すみません、お先に入らせてもらいますね。」
「ふたりともお風呂に入ろうね。」
ナディとミウはそう言うと、カイとソラとともに馬車の中へと戻っていく。
『凌馬様、御配慮いただきありがとうございました。』
ムラサキとクレナイが凌馬に礼を告げると、仕事へと戻っていく。
二人が馬の世話と雨避けの支度をしている間に、凌馬は夕食の準備をすることにした。
「今日は趣向を変えてホットケーキでも作るかな。ミウもナディも甘いものが大好きだし、たまにはいいよな。」
二人が喜んでくれるように、食事にも気を配れるできるパパなのである。
「ふんふふんふーん───。」
鼻唄をしながら次々と料理をテーブルへと並べていく。
準備が整った頃にミウたちがお風呂から上がってきた。
「すみません凌馬さん。お風呂先に頂きました。」
「うわー、良い匂い。パパこれなに?」
ナディに気にしないように伝え、ミウの質問に答える凌馬。
「これはな、ホットケーキと言ってまあ、おやつみたいなものなんだが、たまには良いかなと思ってな。」
サイドにはサラダ、ホットコーヒーを添え(ミウはオレンジジュース)てある。
「ケーキ!」
以前出したことのあるケーキの同類であることを伝えると、ミウは顔を輝かしていた。
「ふたりにはちゃんとお肉を用意してあるからな。」
『キュ~ンキュ~ン。』
カイとソラの頭を撫でながら、良いところの骨付き肉を用意した皿を示す。
食べ方をレクチャーした凌馬は、サクッとシャワーを浴びてみんなで夕食を取ることにした。
─ユーフィー─
ガラガラガラガラ──────。
流星旅団の馬車に乗り、イシュムと共に流れる景色を眺めていたユーフィー。
「ミウちゃん・・・。」
「グルルル───。」
落ち込んでいるように見えたイシュムは、ユーフィーを気遣うように喉をならしていた。
「大丈夫だよ、イシュム。ありがとう。私たちにはやらなければいけない使命があるもんね。」
「ガウ!」
ユーフィーとイシュムは、そうして馬車に揺られながら目的地を目指して進むのだった。
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