第42話

「実は俺はこの世界の人間じゃないんだ。」

 凌馬は、これまでに体験したことをミウやナディ、ムラサキたちに説明をする。


「そんなことが本当にあるなんて・・・。」

「パパはパパだよ。」

 ミウは凌馬に抱き付いてきたので、凌馬は頭を撫でながら皆の様子を伺っていた。


『ワンワン!』

「他の方とは少し違うとは思っていましたが、さすがは我がご主人様です。」

 カイとソラはミウに同意するように、ムラサキには何故か尊敬されるような感じになっていた。


「そうですよね。凌馬さんは凌馬さんです。そんな事で今までの凌馬さんが変わるわけではないですし。」

 ナディや皆に受け入れられた凌馬は、「ありがとう」と告げると、もうひとつの懸案事項を告げる。


「俺には敵がいる。それも、全力で戦っても勝てるかどうか分からない相手が・・・。」

 凌馬の言葉に一同が息を飲むのが分かる。


「凌馬さん程の力を持つものが、他にも居るのですか?」

「まさか、ご主人様。本当なのですか?」

 皆の問いに頷きで答える凌馬。


「ああ、だからナディ。俺達と共に行動することはかなりの危険が伴う。もし、ナディが元いた孤児院に帰りたいと言うのならば、そこまで送っていこうと思う。」

 凌馬の言葉に、ムッとした表情でナディは答えた。


「凌馬さん、本気で言っているのですか? 凌馬さんはあの時言いましたよね。共に歩んで行くと。あの約束を破るんですか? 私は凌馬さんやミウちゃんと一緒にいたいです。それが私の本心です。」

 ナディはそう言って、ミウの体を抱き締める。


「お姉ちゃん。」

 ミウも嬉しそうにナディに体を預けていた。


 ナディの決意を聞き、心を決めた。

「ごめんナディ、今回は俺が悪かった。そうだよな、ナディにあんなこと言っといて俺がそれを翻す訳にはいかないよな。」

 凌馬はナディに謝罪をすると、ある提案をする。


 ・無職からの脱出シーカー・アフター・ザ・トゥルースLV.4

 レベルアップにより新たな能力が解放されました。スキル『職業斡旋』。他の人の職業を設定、変更することができる。その人の適正にあったもののみ可能。

 効果は永続的だが、スキルで再び干渉するには一ヶ月のインターバルが必要。


 凌馬はスキルを発動すると自分の能力を説明する。


「職業斡旋ですか?」

 ナディが頭を傾げながらそう聞き返す。


「ああ、その人に合った力を引き出すことができるんだ。もちろん、ナディに直接戦わせることがないよう戦力は補充するが、最低限の力を持っていてもらいたいんだ。」

「分かりました。私も凌馬さんやミウちゃんに守られるだけなのは嫌ですから。」


 凌馬の提案に承諾したナディは、凌馬の力によって職業の設定をすることにした。

 職業の中でも、最も強力な聖女になるとナディは光に包まれる。


「凄い、力が溢れてくる・・・・・・。」


 ナディ

 聖女

 ○能力値

 力     200

 魔力   4000

 素早さ   200

 生命力   150

 魔法抵抗 6000


 もともと魔力の高かったナディは、その潜在能力を引き出されると今までにない力が湧き出してくるのが分かるようであった。

「これで私も足手まといではなくなるんですね。」


「ナディ、いくら力を得たといってもそれだけで強くなれる訳じゃない。力を振るうには相応の覚悟と責任が付いてくる。だから、焦らないでゆっくりと進んでいってほしい。」

 凌馬は、ナディにそう焦らずに成長するように忠告をした。


「はい、これからよろしくお願いします。凌馬さん、ミウちゃん。」

「お姉ちゃんと一緒!」

 ミウはナディに抱き付きながら喜び合っていた。


「後はナディの護衛だな。ミウにはカイとソラが居るが、ナディにも専属の護衛をつけたいと思う。」

 そう言うと、凌馬は新たな魔導人形を召喚する。


・クレナイ

 魔導人形(戦闘超特化型)

○能力値

 力    7500

 魔力   4000

 素早さ  6500

 生命力  5000

 魔法抵抗 5000


 戦闘特化型の魔導人形。ただし、その力ゆえに魔力消費は激しく燃費はかなり悪い。しかし、それを補って余りある力を有するハイレアな個体。


「皆、ナディの専属の護衛兼メイドのクレナイだ。宜しくしてやってほしい。」

「クレナイと申します。皆様よろしくお願いします。」

 クレナイは皆にお辞儀をして、ナディの側へと向かうと挨拶をして背後に控える。


「よろしくお願いします。クレナイさん。」

「宜しくね、クレナイ。」


「姉さん、ご指導よろしくお願いします。」

「ええ、ナディお嬢様のこと頼みましたよクレナイ。」

 クレナイとムラサキも互いの挨拶を済ませていた。


 もろもろの準備が終わった凌馬は、いよいよ皇都から離れることを皆に告げると、その日は最後の皇都観光を楽しむことになった。


「パパ、あっちで何かやってるよ!」

 ミウが指差す方向では、祭りさながらに出店がたくさん出ていた。

 皆、皇都が伝説の魔物から救われたことと、王宮からの発表で救世主に恩賞を与えたことが分かると、お祝いムードで祭りのような騒ぎになったのだった。


「おー、なんか賑やかで楽しそうだな。ちょっと寄ってみるか。」

「やったー。」


 ミウはその言葉にはしゃぎ出すと、凌馬とナディの間で両方から手を繋ぐと店を見て回ることになった。


「はい、いらっしゃい。あら、お嬢ちゃんパパとママと一緒で良かったねー。串焼きでも食べていくかい?」

 店の女主人に声をかけられて、その串焼きに目が釘付けになる。

 後ろに居たカイとソラの目も輝いていたことを、凌馬は気付いていた。


「?」

「そんな・・・、ママだなんて・・・(照)。」

 ミウはなんのことかわからない様子で頭を傾げ、ナディは照れているようであった。

 

 凌馬は敢えて何も突っ込まずに、機嫌良く女主人に注文を告げる。

「そうだな。折角だし買っていくか。それじゃあ二十本よろしく。」

「二十本とは、旦那流石だね。」

 女主人が早速串焼きを追加で新たに焼き始める。


 料金を払った凌馬は、串焼きを一本ずつミウとナディに渡し自分は二本取ると、残りはカイとソラに少し冷ましてから与える。


「ハフハフ。」

「うん、美味しいねミウちゃん。」

 ナディとベンチに座っていたミウは、一生懸命冷ましながら食べており、凌馬はカイとソラが食べやすいように串からはずして与えていく。


「ワンワン!」

 カイとソラは凌馬にお礼をしてから食べ始めた。


 そんな皆の様子を見ながら周囲を見ていた凌馬。

 街行く女性たちは綺麗に着飾っていて、かたやナディは少し質素な服装だった。


 最も、素材の良さから決して他に引けを取っている訳ではなかったが。

(俺としたことが、ナディのことを気づいてあげられなかったとは、男として失格だったな。)


 凌馬は、串焼きを食べ終わると皆を連れて服屋へと向かっていく。

「いらっしゃいませ。」


 その店は、皇都でもかなり有名な店であった。

「凌馬さん、ここのお店はかなり高いんじゃ?」

「大丈夫だよ。お金は俺が払うから、ミウもナディと一緒に気に入ったものがあったら買って良いからね。」


「ありがとうパパ、お姉ちゃんいこ!」

「あっ、ミウちゃん。」

 ミウに連れられて店の服を見ていくナディ。


 凌馬は店員を呼ぶと、白金貨を数枚渡して二人の気に入ったものやおすすめを持ってきてくれるように頼んだ。

 かなりの上客に、店員たちも張り切って二人に服を薦めていく。


「凌馬さん、どうですか・・・?」

 少し照れ臭そうにそう聞いてくるナディ。


「うん、とっても綺麗だよナディ。ナディは可愛いから何を着ても輝いちゃうな。」

「本当にお綺麗ですよお客様。この服を着こなせるのは、皇都広しといえどお客様くらいですよ。」

 凌馬の言葉に、店員たちもナディを持ち上げていた。


「パパ、私は?」

「ミウは可愛過ぎてパパ心配だよ。」

 凌馬はミウに抱き付いて、そんなことを言っていた。


 ミウも嬉しそうに「きゃー。」と声を上げて笑っていた。

 結局、一人十着以上のセットを購入した凌馬たち。


「本当にすみません、凌馬さん。こんなに高いものを。」

「ナディ、もうそれはなしにしよう。ナディは俺にとってもミウにとっても大切な家族のような存在なんだ。だから、そんなに畏まらないで欲しい。」


 凌馬の言葉にナディは目を見開くと共に、手を繋いでいたミウを見る。

「そうですね、ありがとう凌馬さん。ミウちゃんもありがとうね。」


 三人は、そうして今までよりも強い絆を感じていた。

 こうして、皇都最終日は過ぎていった。



─余談─


「そう言えば、クレナイの戦闘力も確認しておきたいな。」

 そう言った凌馬は、皆を連れて皇都から少し離れた草原に来ていた。


「よし、クレナイ。全力で来てくれ。俺は結界を張っているから遠慮は要らないぞ。」

 凌馬は、勇者に転職して『聖結界進入禁止』を発動する。


「それでは参ります、凌馬様。」

「おう!」


 ゴゴゴゴゴゴ!

 クレナイの体から迸るオーラ。

(あれ?)

 凌馬の直感が嫌な予感を告げていた。


「ハーーーー!」

 バリンバリン、ミシミシミシ・・・。


 凌馬の張った聖結界は、その二枚までが易々と破られると最後の一枚だけがなんとか耐えきっていた。


「流石は凌馬様です。私の全力でも触ることすら許されないとは。」

 クレナイは、凌馬の力に尊敬の念を抱いていた。

「はっ、ははは、まあな!」


(あっ、危なかったー。直感で追加の一枚を出さなかったらどうなっていたか・・・。それにしても、ミウといいクレナイといい、うちの女性陣はどうなってるんだ? まさか、ナディまで何てことはないよな・・・ドキドキドキ。)


 凌馬は、不吉な予感を振り払うようにして皆の元に戻っていった。

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