第39話
「凌馬様、ターニア様が面会を求めにやって来ました。」
「そうか、部屋に通してくれ。」
ムラサキからの報せにそう答えた凌馬は、ターニアがやって来るのを待つことにした。
ミウは今、ナディと同じ部屋でカイとソラと共に過ごしていた。
あの事件から数日が経ち、漸く街も落ち着きを取り戻してきた。
教会の連中に落とし前を着けさせるための用意も整って、そろそろいろいろ終わらせようと考えていた矢先であった。
「凌馬さん、暫くぶりでしたね。顔を出すのが遅れてしまい申し訳ありません。」
部屋には入るなりそう告げてきたターニアに、凌馬は椅子に座るように勧めるとムラサキにお茶を頼む。
同伴してきたターニアの部下ルイスにもそう促したが、相変わらずの無表情で断られるとターニアの背後に立っていた。
「それで、どう言った用件で?」
ターニアに訪問の内容を問うと、お茶を一口口にしてから話始めた。
「実は、凌馬さんにこの国の国王から報奨を授けるために是非城に来ていただきたいと、そのための伝令を顔見知りの私にその任を頂きまして。」
このシュリオン聖教皇国は教会と強い繋がりがあり、国王の王妃は教会の関係者から娶られる習わし。
そうして、教会の影響力を維持してきたのであった。
それに元を正せば、国王は初代聖女ミネルバの血縁者であった。
「だが、ターニアさんは教会を破門された身だろ。どうしてそんなことに?」
「実は、事件の真相は国の上層部と教会の一部の者たちには知れ渡っており、封印していたはずの魔物が下した判断という事で一連の破門されたものたちは教会に復帰することになりました。ただ・・・・・・。」
ターニアが言いよ淀んでいることの意味を理解した凌馬。
「教会に元々残っていた者たちとの間で、軋轢が出来ているんだな。」
「はい・・・。」
その言葉に、ターニアは俯いて答えた。
「ですが、この問題は教会の者たちで解決しなくてはいけないこと。今日の用件とは直接は関係ありません。それでどうでしょうか?」
ターニアは懇願するように凌馬へと返答を求める。
(本当は関わりたくはないんだけどな。やつらを潰すためには仕方ないか。それにそろそろ良い頃合いだろうし・・・・・・。)
凌馬は一拍置いてから答える。
「それで何時行けば良いのですか?」
「来ていただけるのですか? 良かった。それでは明日十時頃お迎えに上がります。」
ターニアは胸を撫で下ろしてそう答えると、部屋を後にしていった。
「ムラサキ、そう言うわけで明日はちょっと出てくる。ミウとナディたちを頼むな。」
「お任せください凌馬。必ずやお二人をお守りしてみせます。」
ムラサキの返事にお礼をすると、ムラサキの魔石を新品に交換してからその事を告げにミウたちの居る部屋へと向かった。
そして、明日はみんなで楽しんできてくれと伝えて、ムラサキにその費用を渡すとその日は部屋でゲームをして過ごしていた。
翌日───。
「凌馬様、お迎えが来ました。」
「そうか、じゃあ二人とも行ってくる。」
凌馬はミウとナディにそう告げる。
「パパ、いってらっしゃい。」
「凌馬さん、気を付けて下さいね。まだ、何があるか分かりませんから。」
二人の言葉に手をあげて答えると、ターニアの待つ馬車へと乗り込んだ。
「それにしても、凌馬さんに来ていただけるとは正直思いませんでした。」
ターニアが凌馬にそう告げてきた。
「まあ、あまり気が進まないのは正直なところですが、このままと言うわけにも行かないですしね。」
凌馬はターニアにそう答えると、馬車の外をぼんやりと眺めていた。
街はあんな事件があったとは思えないほど、落ち着きを取り戻していた。
最も、凌馬たちのお陰でほとんど被害が無かったのだ。
流石に犠牲者はゼロではなかったが、一般人の被害はほとんどなかった。
直接的な被害は教会のみだろう。ヤマタノオロチとの戦闘で瓦礫の山と化していた。
そんな教会の前を通過していく馬車。
そこでは、兵士や信者たちが瓦礫の片付けを行っていた。
「もののみごとに粉々だな。」
その一端は凌馬にもあるのだが、どこか他人事のように呟く。
「しょうがありません。ヤマタノオロチが復活したのです。むしろこの程度の被害ですんだのが奇跡です。凌馬さんにはなんと感謝をすればよいか。」
ターニアは笑顔でそう答えた。
「別に俺は俺の都合で勝手にやっただけだしな。」
凌馬は、感謝を言われることなどしていないと言うように答えると、再び外を眺める。
その様子に苦笑するターニアだったが、特に何も言うことはなかった。
やがて、馬車は城に着くと使用人の案内で控え室えと通されることになった。
ターニアは一足先に報告に戻っていった。
「これが皇都の城か・・・。随分とまあ立派なこって。」
凌馬は通ってきた通路や、控え室の内装を見ただけでもこの国の財政が豊富なのが見てとれた。
やがて、凌馬を呼びに来る使用人の後について国王の謁見の間へと案内される。
室内に入る前に礼儀作法の説明をされた凌馬。
「冒険者ランクS、如月凌馬殿ご来場しました。」
「入れ。」
合図と共に扉が開かれる。
凌馬は謁見の間に入ると、部屋の真ん中で止まりそのまま佇んでいた。
「ぶ、無礼者! 国王様の御前じゃ、頭を下げぬか。」
謁見の間に居た複数の人達の中から、かなり歳を召した爺さんが凌馬に対して告げてくる。
その様子をハラハラした表情で見ているターニア。
この場には、国王、臣下、近衛兵の他に教会のお偉いさんたちも集まっており、皆凌馬の態度に大なり小なりなにか思うところがあるようだった。
「何か勘違いしているようだが、別に俺は国王に頭を下げに来たわけではない。俺は俺の言いたいことを言いに来ただけだ。それに、別に臣下でもない俺が何故頭を下げなきゃならない。そもそも、こんな事態になったのもここに居るやつらが無能だったからだろうが。」
凌馬の発言に、皆一様に激昂しそうになる。
「よい! この者は我が国の救世主じゃ。それに、呼び出したのはこちらの都合ゆえ、こんなところで言い争うのはよさぬか。」
国王はそう言うと、凌馬に対して頭を下げてきた。
(ほう!)
凌馬はてっきり全員を敵に回すつもりで言ったのだが、この国王はなかなかどうして結構強かな奴だと少し感心していた。
最も、こんなクズどもに好きにさせていた時点で凌馬からの評価は最低に落ちていたので下がりようはなかったのだが。
国王の言葉に一応落ち着きを取り戻した謁見の間。ターニアもかなり冷や汗をかかされていた。
「それで、凌馬殿には是非恩賞を授けたいのだが、どうだろう?何か望むものはないか?」
凌馬を品定めするような目で国王が尋ねてくる。
(俺を値踏みする気か? 面白い。なら遠慮なくやらせてもらおうか。)
凌馬は国王を見て目を細めて少し考える仕草をしてから、やがて口を開いた。
「俺が望むことは三つだ。一つ、今回聖女として生け贄にされたナディの身をこちらで保護することを認めてもらう。」
何を言い出すのか皆ハラハラした様子で見ていたが、何だそんな事かと拍子抜けされる。
「それは別に構わないが、魔物が倒された今となってはそれは恩賞にはならないような気がするが?」
国王の発言は最もなことで、そもそも生け贄が必要ない今ナディという少女には重要性など無いのだ。
「別にそれならそれでいい。」
「それではほかの願いは?」
国王の質問に凌馬は告げる。
「二つ目は孤児院の扱いだ。今回の件で蔑ろにはせず、国もきちんと関わって今まで通り運営をする事。この件が守られない場合は、また何か災厄が起こるかもしれない。ヤマタノオロチなんぞ比較になら無いほどのな?」
周囲がざわめく。明らかな凌馬による脅迫であった。
「わかった。王の勅命で持って必ず守らせよう。いいな!」
周囲にそう王が告げると、皆頭を下げていた。
「さて、では最後の一つとは?」
これまで、凌馬に直接のメリットらしいものが無かったことで、その言葉を聞いた凌馬がなんと言うか皆の注目が集まっていった。
「教会の教皇にはターニア司教になってもらう。異義は認めない。」
凌馬の要求に、教会関係者たちは目を見開いて驚いていた。
特に、当の本人であるターニアは凌馬と周りの注目を浴びてオロオロしていたのだった。
(さて、一気に畳み掛けるとするか。)
凌馬だけがそんな中、不敵な嗤いをしていたのだった。
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