第38話

「今─────、なんて言った・・・・・・?」

 凌馬はあまりの怒りに、逆に自分が冷静になっていくのを感じていた。


 凌馬は何人も侵入することも出ることも赦されぬ結界を張ると、外と内は完全に隔絶された世界となった。


「今更ナニヲ・・・」

 バシ!ドゴ!ザシュ!スドーーーン!

 凌馬は目にも止まらぬ早さで、ヤマタノオロチの体を殴り、蹴り、斬り付けと今までのお返しとばかりに繰り返し攻撃を始める。


「ゴボァ! ナ、何ダコノ力ハ?」

うるさい・・・・、良いから貴様は黙って死ね。」

 バシュ!バシュ!


「ギイャアアアアーーーー!」

 八つの頭の内二つを切り落とされたヤマタノオロチ。

 ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!・・・・・・。


 それでも、なお体を斬り付けることをやめない凌馬。ただ、淡々と作業のように繰り返す凌馬は、端から見たら猟奇殺人者の様相を呈していた。


「止メロ、止メテクレ!」

 ヤマタノオロチは悲鳴を轟かせながら懇願するも、凌馬が止まることはなかった。


「テメエは決して触れてはならねぇものに触れた・・・。今の俺を止めることは、例え神であろうが不可能だ。」

 凌馬の瞳を見たヤマタノオロチは、それが真実であることを悟らされてしまった。



パパ全てを超越せし者

 その者、娘のためならば神をも殺せし最凶の戦士。ステータス測定不能。ただし娘を守る状況のみ転職可能。

 なに? ケン君? パパはそんなこと許しませんよ!


絶対不可侵領域パパは許しません

 その結界は何人も侵入できぬ。男が接近して来た場合、パパ鬼神の怒りが襲うだろう。


最強を超えし者娘に何してやがる!

 てめーの敗因はたったひとつのシンプルな答えだ。てめーはパパを怒らせた。


○能力値

 力    計測不能

 魔力   計測不能

 素早さ  計測不能

 生命力  計測不能

 魔法抵抗 計測不能



 凌馬の封印されし職業が全てを物語っていた。最早勝敗は決していた。

 凌馬はそれから執拗に何度も何度も何度も何度も何度も何度も、この世のものとは思えぬほどの拷問をヤマタノオロチに行っていた。


 しかし、その様子も音も全てを遮断された結界内ではそれを知るのは凌馬とヤマタノオロチだけであった。


「ギャアアアアアアア!」

「グエーーーー!」

「嫌ダ・・・モウ嫌ダァ!」

「モウイッソ殺シテクレェ!」


 遂に殺されることすら懇願するヤマタノオロチに、凌馬は己の拳をオーラで包むと漸く終わらせることにした。

「地獄で己の所業を悔い改めるんだな。」


「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラーーーーー!!」


 ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!


 ヤマタノオロチの体は、欠片も残さない程に粉々になると魂すらもこの世から永遠に消滅をしてしまった。

 その様子を感情の無い表情で見ていた凌馬だったが、やがて空に飛び上がると皇都の外へと飛んでいく。


─皇都外周辺─

「お前たち、踏ん張れ。もう少しで退路が確保出来る!」

 聖騎士ギルの掛け声に、必死に応えようとする兵士たち。


「キュウ、キュウ。」

(もう少し頑張らないと。)

 ミウは、かなりの疲労が見られたがそれでもナディや皇都の人達のために堪えていた。


「ミウ様、あまり無理をしないでください。後は私とカイだけでも何とかしてみせます。」

「ガウガウ!」

 ムラサキとカイは、ミウを庇うように立ち回っていた。


「キュウ。」

(パパが戻ってくるまで私が頑張らないと!)

 ミウはなお戦おうとするも、その時皇都の方から一人の男が飛んできた。


 バシッ!

 凌馬はミウを抱き抱えると、優しくその体を撫でていた。

「よく頑張ったなミウ。後はパパに任せて休んでいなさい。」

「パパ!」

 ミウは、変化をすると凌馬の体へと抱き付く。


「ムラサキ、ミウを連れてナディの所に戻っていろ。後は俺がやる。」

「承知しました凌馬様。ミウ様、さぁナディ様のもとに戻りましょう。」

 ミウは凌馬から名残惜しそうに離れると、ムラサキのもとに向かう。


「パパ、みんなをお願いね。」

「パパに任せておけ。」

 凌馬はミウに親指を立てて了承すると、周囲の敵と味方の位置をすべて把握する。


「お前たちはその場から動くな!」

 凌馬は味方に結界を張るとそう指示を出す。


「凌馬か? ヤマタノオロチのほうはどうした?」

「安心しろ、すべて終わらせてきた。もうこの下らない騒動を終らせることにした。」

 凌馬はギルにそう答えると、手を突きだして魔法を発動する。


「ホーリーレイ!」

 そう唱えた瞬間空には無数の光が現れ皇都の空を埋め尽くしていた。

 そして、凌馬が腕を下に振り下ろしたのを合図に次々と魔物たちに光の雨が降り注ぎ、その急所を次々に貫いていくと体ごと消滅していく。


 その光景は皇都内の人たちからも観測され、まるで神の奇跡を見ているように祈りを捧げていた。

 凌馬が合流してから一分足らずで、皇都周辺の魔物たちは全滅していた。


 そのあまりの出来事に、ギルや兵士たちは凌馬に魅入られていた。

「これは、神の奇跡か?」

 誰かの呟きを残して、凌馬はもう用はないとミウたちの元へと帰っていってしまった。


 こうして、皇都崩壊の危機は一人の男の手によって救われることとなった。

 その時の光景をすべての人たちが見ており、この国の救世主の存在がシュリオン聖教皇国の国民に知れ渡るのに、そう時間は掛からなかった。



「やあ、待たせたね。」

「凌馬さん、大丈夫ですか。」

 ナディは、凌馬の服がボロボロになっていることに驚いて駆け寄ると凌馬の無事を確認する。


「大丈夫だよナディ。もうすべて終わったから。」

 凌馬はナディの顔を見つめて、笑顔を見せていた。


 ナディは目に涙を浮かべて、手を口に当てると信じられないというように目を見開いた。

 思わず、凌馬の体に抱き付くと凌馬も優しくナディの体を包んでいた。

「凌馬さん・・・。ありがとう。」


 暫く涙を流しながら凌馬に体を預けていたナディだったが、やがて体を離すとナディは少し恥ずかしそうに俯いてしまう。


「っ!」

「凌馬さん?」

「大丈夫だ、少し目眩がしただけだ。力を使いすぎたかもしれないな。」


《流石に今回ばかりは負担が大き過ぎたか。だが──────。》


 凌馬は手を上げて、問題ないと言うようにナディに答えていた。


 ふと、ミウが凌馬の体に隠れるようにしているのに気が付いたナディ。

「どうしたんだミウ?」


 凌馬も様子がおかしいと思いミウに問いかけると、ミウは顔を出してナディの様子を覗いていた。

「どうしたのミウちゃん?」


 もじもじしながら、やがてミウは口を開く。

「ナディお姉ちゃん、ミウのこと嫌じゃない?」

 最初はなんのことか分からなかったが、ナディはミウの言わんとしていることを理解した。


「ミウちゃん、おいで。」

 ナディはミウに視線を合わせるように屈むと、両手を開いてミウを抱き寄せる。


「お姉ちゃん・・・・・・。」

「ミウちゃん、ごめんね。私のためにいろいろ辛い思いをさせちゃったね。でも、ミウちゃんのこと嫌いになんかなるわけ無いじゃない。私はミウちゃんのこと大好きだよ。今までよりももっとね。」


「お姉ちゃーん!」

 ミウはナディに力強く抱き付いていた。

 そんな様子を凌馬は微笑ましく見つめていた。


(良かった。これでほんとにミウを理解してくれる人が出来て。)

 それから、暫くその様子をみんなで見守っていたが、今日はみんな疲れたことから宿に戻って休もうと言う提案に反対意見はなかった。


 宿はあんな騒動もあり色々とゴタゴタしていたが、流石は高ランク冒険者御用達の宿。

 すぐに通常の営業を再開していた。


 夕食を食べ終え、今凌馬の目の前ではミウとナディが二人仲良くカイとソラに戯れているところだった。

 今までよりも、一段と仲良くなった二人を微笑ましく眺めている凌馬。


 まるで、本当の家族の団欒のような時間であった。

 ふと、ナディがミウに話し掛ける。


「ミウちゃん、一緒にお風呂に入りましょうか?」

「うん、お姉ちゃん行こー。」

「凌馬さん、ちょっといってきますね。」

「ああ、ゆっくりしておいで。」


 凌馬が二人に手を振って答えると、ミウはナディの手を繋ぎ護衛のムラサキを連れて宿の温泉へと繰り出していく。


(はぁ、それにしても今日は疲れたな。取り敢えず魔物の問題には片がついたが、後は教会の腐った連中どもだな。)

 一件落着したとはいえ、凌馬があの連中を見逃すはずはなかった。


 ミウたちがいない間に、『無職からの脱出』を発動するとひとり今後のことについての下準備を行っていた。

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