第35話
「お姉ちゃん!」
ミウはナディの体にしがみついて来た。
「ミウちゃん、ごめんね。」
ナディも凌馬から体を離すと、ミウに何度も謝りながら抱き付いていた。
(さて、これでひと安心だな。後は・・・・・・。)
凌馬は、教皇に向き直ると相手は凌馬を射殺さんばかりに睨み付けていた。
「え~い。兵士たちは何をやっておる。早くあやつらを取り押さえないか。」
ようやく正気に戻った枢機卿たちは、外に控えているはずの兵士たちを呼んでいた。
凌馬によって意識を刈り取られていた者たちは、十人ほどが意識を取り戻しており儀式の間へと集まってくる。
「そやつらを取り押さえよ。このままでは、儀式は失敗に終わりこの国は滅びてしまうぞ。」
教皇の言葉に、兵士たちは武器を構えて再び凌馬へと対峙する。
「凌馬さん・・・・・・。」
ミウに抱きついたまま、不安そうに凌馬に問い掛けるナディ。
「大丈夫だよ、ナディ。そろそろこの茶番も終わらせるとしようか。」
凌馬は聖剣に魔力を込めると、徐に儀式の間の中央に向けて降り下ろした。
聖剣から放たれた光の刃は、教皇の体を切り裂くとその体を吹き飛ばしていた。
「凌馬さん、何て事を。」
ナディは余りの出来事に、口に手を当てながら驚きの声を上げていた。
「教皇様! 凌馬さん、一体どういうつもりなんですか!」
「教皇様、おのれこの反逆者どもめ!」
ターニアや聖騎士ギルが、凌馬を問い詰めるように言ってくる。
「黙って見ていろ!」
凌馬は周囲を威圧すると、視線はそのまま教皇の体を捕らえてた。
「何を言っている? 貴様がしたことは・・・・・・!」
聖騎士ギルの言葉は止まり、信じられないものを見るように凌馬の視線の先を見つめていた。
「おのれ~、たかが人間風情が良くもわしにこんなことをしてくれたな!」
教皇は、体を二つに裂かれながらも立ち上がると憎しみの視線を凌馬にぶつけていた。
「きょ、教皇様。一体どうして・・・・・・。」
枢機卿の一人が、教皇のその様を見て自然と言葉がこぼれていた。
そしてその言葉は、この場にいたほとんどの者たちの疑問を代弁しているものであった。
「まだ分からねーのかよ! こいつは教皇でもなんでもない。お前たちが必死に封印していると思い込んでいた魔物その物だ。」
凌馬によって告げられた真実を、信じられないと思いながらも目の前の光景を見せつけられて否定する言葉も出てこなかった。
「クックックッ、アーハッハッハッ! その通りだ。俺様はこの結界に封印されているヤマタノオロチ。いやしかし、まさか外部の人間に見破られるとは思わなかったぞ。」
「お前の薄汚い気配を見れば、一発で分かったよ。たく、いろいろ覚悟を決めてきたってのに、まさか全てが茶番とはな。」
ヤマタノオロチの依代に向けて言い放つ凌馬。
「それでは教皇様は───?」
「恐らく、結界が崩壊しかけていたときにこいつの一部が誰かに乗り移っていたんだろう。そして、一番効率の良い歴代の教皇たちに乗り移っていき、生け贄を捧げさせて力を取り戻すように企んでいたって所か。」
凌馬が推察を述べると、ヤマタノオロチが答えた。
「ああ、その通りだ。流石の俺様も力が衰えたままでは、復活しても殺られる危険があるからな。こうして、生け贄から魔力を得ることで機会を伺っていたわけだ。今回の儀式でそれも終わるところだったのに、とんだ邪魔が入ってしまったが。しかし、まあいいだろう。後は、力ずくで吸収すればいいだけのこと。お前たちにも随分と世話になったからな。特別に最初の贄にしてやろう。」
ヤマタノオロチは、枢機卿を始めとした教会関係者たちに宣言をした。
「ひぃぃぃぃ──────。」
「たっ、助けてくれ──────。」
枢機卿たちは、この場から逃げようと入り口へと駆け出す。
しかし、その場には凌馬たちが立ち塞がっていた。
「何処に行く? これはお前たちが招いた事態なんだぞ。その責任は取って貰うぞ。」
「こんなこと知らなかったんだ。」
「私達はただこの国を守ろうとしただけだ。魔物への生け贄になどするつもりはなかったんだ。」
凌馬に必死に弁明をする枢機卿たち。
「そんな言葉で、今まで犠牲にさせられた者たちが納得するとでも思っているのか? 貴様らは、国を守るという結果だけを求めて犠牲を強いてきた。しかし、結局は魔物の復活を手助けしただけに過ぎなかった。結果が全てと言うのならば、貴様らは邪教徒の悪魔崇拝者と対して変わらん存在だ。その責任を負うのは当然だろう? もし、上からの指示をただ聞くだけでなく別の解決策を模索していれば、結界の異常にだって気が付けたかもしれないのに。」
凌馬の言葉に枢機卿たちだけでなく、ターニアたちも下を向いてしまった。
「凌馬さん───。」
ナディが凌馬に呼び掛ける。
「はぁー、もういい。とっととこの場から去れ。どのみちこの場に居られても邪魔なだけだしな。」
凌馬が道を譲ると、皆一斉に逃げ出していった。
(まあ、あいつらには後でたっぷりと責任は取ってもらうからな。)
「さて、こうなっては仕方ない。俺が出来るだけ時間を稼ぐから、ナディとミウはムラサキたちと避難していてくれ。ただ、町の外からは奴に引き寄せられたのか魔物たちの気配が近付いてきているようだからな。外への避難は俺と合流するまでは待っていてくれ。ムラサキ、カイ、ソラは全力で二人を守れ。全ての行動を許可する。」
「了解しました。」『ワン!』
皆からの返事を受けて、今度はターニアへと話しかける。
「ターニアたちは、兵士たちを率いて教会周辺から出来るだけ国民たちを避難させてくれ。一応、結界を張って時間稼ぎはするが何処まで被害が出るかわからんし、俺も命を懸けてまでは戦わないからな。出来るだけ早くしてくれよ。それから、脱出する方向の魔物の殲滅をして、脱出ルートの確保も頼む。」
凌馬の宣言に、「分かりました、よろしくお願いします。」と言って、兵士たちをまとめると指示を出し始める。
「ギル、お前もターニアの手伝いをしてくれ。お前の方が現場をまとめやすいだろ?」
「なっ、私だってあの魔物と───。」
ギルが凌馬の言葉を拒絶しようとする。
「ギル、お前の覚悟は俺の前に立ち塞がった時に十分に理解した。しかし、この場にお前の出来ることはない。お前の使命はこの国を、いや、国民を守ることじゃないのか? ならば、今は自分のできることをして一人でも多くの国民を守って見せろ。」
ギルは凌馬の顔を見つめるも、やがて俯いてしまう。
「凌馬殿、こんなことを頼める義理はないが、避難が済むまでどうか持ちこたえてくれ。」
ギルは頭を下げて凌馬に願いを告げる。
凌馬はギルに手を上げて答えると、ミウとナディに向き直る。
「凌馬さん、絶対に無理はしないでください。貴方が居なくなったら私は・・・・・・。」
凌馬は抱き付いてくるナディの頭を撫でる。
「パパ!」
ミウも凌馬に抱き付き、二人の美少女に抱き付かれた凌馬は今なら何でも出来るんじゃないかという全能感に支配されていた。
「さあ、二人とも早く行くんだ。」
みんなが部屋を出ていくのを見送った凌馬は、ヤマタノオロチへと向き直る。
「今生の別れは済んだかな?」
「わざわざ待っていてくれるとは随分と優しいじゃないか。」
凌馬はヤマタノオロチへと答える。
「何、どうせ全ては滅び去る運命だ。俺様が復活を遂げる祝いだ。せいぜい最期くらいゆっくりと別れくらいさせてやらないとな。」
「そいつはどーも。じゃあそろそろ始めようか?」
凌馬は、聖剣を肩に担ぐようにして告げた。
その瞬間、教皇の体は黒い煙に包まれ足元の結界は粉々に砕けていく。
「クックックッ! それではこの世界を恐怖と絶望の渦に陥れるとしよう。」
ついに、凌馬とヤマタノオロチの戦いが始まる。
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