第36話

 ゴゴゴゴゴ・・・・・・。

 ヤマタノオロチがその姿を露にする。


(ちっ、やはりかなり巨大な奴だな。ここに居ては戦いづらいか。)

 凌馬はそう判断すると、教会の外へ向かい広場に出てヤマタノオロチと対峙する用意を始める。


「取り敢えず、周囲に被害が及ばないように結界を張るか。『超聖結界進入禁止!』」

 凌馬がそう唱えると、教会の敷地内全てを覆う結界が姿を表した。


 バキバキ、ドガン!

 ついに、ヤマタノオロチが教会を破壊するとその巨体が姿を表した。


「おー、凄いデカいな! 流石は伝説の魔物だ。パッと見全長三~四十メートル程か? まるで巨大怪獣大決戦みたいだな。これほんとどうしたもんかな?」

 凌馬は呆れた様子でそう呟いた。


「クックックッ、漸く自分の置かれた状況が解ってきたか? しかし、もう遅い。今さら俺様から逃れることなど出来ないぞ。」

 ヤマタノオロチは、凌馬をまるで蟻を見るように目を細めて見下ろすとそう宣言してきた。


「まあ、すぐに逃げるつもりもないがな。適当に時間稼ぎだけさせてもらうか。」

 凌馬は聖剣をヤマタノオロチに向けると、不敵に笑っていた。


「減らず口を。ならばその思い違いを教えてやろう!」

 ヤマタノオロチが凌馬へと攻撃を開始する。



─その頃、ミウたちは─


「ミウ様、ナディ様。すぐに避難できるように門の近くまで移動したいと思います。私に離れずに付いてきてください。」

 ムラサキはそう言うと、一同を先導する。


「凌馬さんは本当に大丈夫でしょうか?」

 ナディは、心配そうな表情で教会のほうを振り返っていた。


「パパなら大丈夫、だってパパは世界で一番強いもん。」

 ミウはナディの手を握り、見上げながらそう話しかけていた。

「そうよね。ミウちゃんのパパだもんね。」

 ナディがミウに笑顔でそう告げると、ミウも嬉しそうに笑った。


「そうです。凌馬様は例えどんな相手だろうと、お二人との約束を破るような方ではありません。私たちは、凌馬様が戻って来たとき直ぐに動けるように準備をいたしましょう。」

 ミウたちは、そうして南門の方へと向かっていく。


─ターニア─

「直ぐに城に伝令を! 伝説の魔物ヤマタノオロチの復活を確認。皇都の外には魔物の群れが接近中。直に国民の避難誘導と退路の確保の為の増援をと。」


「はっ!」

 伝令の教会の兵士は、そう答えると城へと走り出した。


「ターニア様、私は兵を率いて外の魔物の討伐に向かいます。お前たちはターニア司教の指示に従い一般人の避難を手伝うんだ。」

 聖騎士ギルはターニアにそう告げると、兵士の半分を率いて南門へと向かう。


「ありがとう、ギル。そちらは任せましたよ。貴方たちは直に教会周辺から優先して避難誘導をします。」

 ターニアは、残った兵士に指示を出すとそれぞれの担当場所へと散っていった。


 ミウたちが南門の近くに到着した頃には、門の周辺は避難してきた人たちで埋め尽くされていた。


「おい! どういうことだ。早く門を開けろ。化け物がやって来るだろうが!」

「早く開けろよ! 責任者出てこい!」

 門の近くでは混乱が起きていた。


「今、街の外には魔物の大群が接近中です。討伐が済むまでは外に出ることはできません。」

 門番たちが必死に混乱する国民を押し止めていた。


「ミウ様、ナディ様。しばらくここでお待ち下さい。私が外の魔物を駆除してきます。」

 ムラサキは凌馬に渡された武器の確認をして、後をカイとソラに任せて外へと向かおうとする。


 ミウは、地面を見つめるとナディの手をきつく握り締めた。

「ミウちゃん?」

 ナディは、ミウの様子が変なことに気が付き声をかける。


「ナディお姉ちゃん・・・・・・。」

 ミウは、ナディの顔を見上げそして何かを決意したような顔をしてナディから手を離した。


「ムラサキ、私も行く。」

「そんな、危険です。魔物たちは私一人でも大丈夫です。ミウ様はどうかここでお待ち下さい。」

 ムラサキはミウを止めようとするが、ミウは首を振る。


「パパやムラサキが頑張っているのに、只待っていることなんて出来ない。」

 ミウは人目の無いところへと移動をする。


「ミウちゃん?」

 ナディたちはミウのあとに続いて行くと、ミウはナディを一度振り向いて僅かに躊躇していたが、、やがてドラゴンへと変身をする。


「ミウちゃん、あなた・・・・・・。」

 ナディは口にてを当てて驚いていると、ドラゴンのミウはナディをしばらく見つめていたがやがて街の壁の外へと飛んでいく。


「ミウ様、お待ち下さい。カイ、ミウ様の後を追いますよ。ソラはナディ様の護衛を頼みます。」

『ワン!』

 ふたりは了承の返事をすると、ムラサキとカイは民家の屋根の上に飛び乗るとそのまま壁を飛び越していった。


 一人残ったナディは、ソラと共に壁の外を心配そうに見つめていた。


(ナディお姉ちゃんに嫌われちゃったかな・・・。でも、私もナディお姉ちゃんのために何かしたい。私だってパパの娘なんだから!)

 ミウは空中で魔物たちの様子をうかがっていたが、やがて意を決して攻撃を始める。


(お姉ちゃんを助ける邪魔をしないで!)

 スゥ、ゴオオオオオオーーーーー!

 ミウのドラゴンブレスが魔物たちに襲いかかる。


『グワアアアアアーーーー! 』

『ギャイン、ギャイン!』

 魔物たちはいきなりのミウの攻撃に、驚き慌てふためいていた。


 少しして、ムラサキとカイがミウに追い付く。

「ミウ様! カイ、ミウ様に近付く不届きものは容赦せずに殲滅しますよ!」

『ワオーン!』


 ミウと合流したムラサキとカイも攻撃を始める。

 ムラサキは凌馬から渡されたSIG SAUER P226とH&K MP5、そして、新たにパンツァーファウスト3をアイテム袋から取り出した。


 バババババババ! バシュー、ドオーーーーン!

 ムラサキによる現代兵器の殲滅攻撃に、魔物たちは更なる混乱に叩き落とされる。


「アオーーーーーン!」

 カイは雄叫びを上げると、氷のブレスを放ち周囲を極寒の地獄へと変えていき、次々に魔物たちに飛びかかりその命を奪っていく。


「なっ、なんなんだこれは? 一体何が起こっている?」

「あれはドラゴンなのか? どうして魔物同士で戦っているんだ?」

「あっちには巨大なオオカミまでいるぞ。」

「あそこにいるのは人なのか? 一体あの攻撃はなんなんだ? とても人間にできることとは思えない。」


 壁の上に控えていた兵士たちは、現実離れした光景にただ見ているだけしか出来なかった。


「この音はなんなんだ? 外で何が・・・。」

「もう駄目だ。この世の終わりだ・・・・・・。」

「ママー!」

 外から響いてくる音に、避難してきた人達は混乱と絶望に落とされていく。


「皆落ち着け! これから我々が外に討って出る。退路が確保出来次第避難を開始する。それまでの辛抱だ。」

 聖騎士ギルは各所から集めてきた兵士たちを率いて南門に来ると、状況を確認して直ちに指示をだしていた。


 壁の上から外の様子を見たギルは、凌馬と共にいた魔導人形とオオカミ型の魔物を確認してこれが凌馬の差し金であると理解して、戦いに参戦することを決めた。

「いいか、今外で魔物と戦っているものたちは我々の味方だ。彼らの攻撃に巻き込まれないように、周囲の安全を確保するぞ!」


『オオオオーーーー!』

 兵士たちは雄叫びをあげて士気を高めると、門が開き攻撃を開始した。皆、己の守るもののために死力を尽くすように。


 こうして、皇都周辺の魔物たちとの戦いは幕を開けた。

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