第29話
「おはようパパ。」
先に目覚めていたミウは、ナディと共にカイとソラと外で遊んでいたようだ。
「おはようミウ、ナディ。カイとソラもおはよう。」
「おはようございます凌馬さん。」
凌馬は挨拶をして「起こしてくれれば良かったのに。」と言ったが、「お疲れのようでしたので。」と気を使われてしまった。
凌馬たちは、朝食を済ませると皇都に向かって出発をする。
「移動中は退屈だから新しい遊び道具を用意したよ。三人いれば遊べるだろう。」
凌馬はそう言って、カードの束を取り出す。
「これは何ですか?」
ナディが質問してきたため、説明をする。
「これはUNOと言って遊び方は──────。」
凌馬は二人に遊び方をカードを使いながら行う。
「まあ、実際に遊びながら覚えた方が早いから、早速やってみるか。」
凌馬が親となりカードを配り始める。
「よしっ、UNO。」
凌馬が宣言すると、ミウから「はい、パパ。」と言ってワイルドドロー4を出してくる。
「おお、ミウ。パパに何て事を。」
四枚カードを引かされた凌馬。
「やったー、いっちばーん。」
ミウが最後の一枚を出して、万歳をしている。
『ワンワン!』
カイとソラもミウのことを祝福するように鳴くと、ふたりに抱きつくミウであった。
「あの、ごめんなさい。」
そう言って、ナディにワイルドドロー4を出された凌馬。
「オーマイガー。」
そのまま、ナディが二番に上がり凌馬は最下位となってしまう。
落ち込んだ凌馬を、ミウとナディが慰めてくれる。
そんな楽しんでいる所を、カイとソラが反応する。
『グルルル!』
カイとソラが威嚇するような声を出し、凌馬になにかを伝えてくる。
程なくして、ムラサキが凌馬に告げてきた。
「凌馬様お邪魔して申し訳ありません。敵が接近中です。」
「俺たちも出た方が良いか?」
「いえ、こちらで対処可能です。」
ムラサキがそう答えたので、凌馬は再びゲームを開始する。
「あの、凌馬さん。良いんですか?」
ナディが凌馬に尋ねてくるが、凌馬は笑いながら「安心して下さい。大丈夫ですよ。」と告げた。
そんな言葉通り、ムラサキはサイレンサー付きの銃で魔物たちを一掃してしまう。
「ご心配掛けました。もう大丈夫です。」
「ご苦労様、ムラサキ。」
そう言うと、再び馬車が動き始める。
ナディはあまりにあっさりと魔物たちを対処されたことと、凌馬たちが当然のようにしていた事に驚いていた。
「大丈夫ですよ。ムラサキは優秀ですし、それにカイとソラの索敵能力は俺を越えています。このふたりが対処行動をしないということは、その必要がないと判断しているのです。少しでも危険があれば、ふたりがすぐに対処しますし万一の時は私も出ますので。」
やはり、凌馬たちは並みの実力者ではないと改めて感じたナディ。
そして、そんなやり取りがあっても安心しきっているミウを見ると、これまでに危険な目に逢わないようにされてきたのだと感じていた。
事実、凌馬たちに奇襲を仕掛けるのはかなり不可能に近かった。
まず、ムラサキは暗視スコープ、赤外線サーモグラフィー、望遠、魔力サーチという機能が付いており接近するものがあればまず見落としはない。
カイとソラは、聴力と嗅覚が鋭く気配察知の索敵範囲は最大三キロほどの能力を有する。
凌馬も、索敵はカイやソラ程ではないが集中すれば二キロ程ならば可能であった。
そんなこともあったが、凌馬たちの旅は順調に続いていた。
その日も、何時ものようにゲームをしたりミウとナディがカイとソラに乗って遊んでいたりとほのぼのとした時間が流れていた。
「あははは、ナディお姉ちゃんこっちこっち!」
ミウはソラの背に乗り、見晴らしの良い草原の道を駆けていく。
「待ってー、ミウちゃん。カイさん、もっと速く走れる?」
「わん!」
カイは任せてというように答えると、ソラに乗っているミウの元まで速度を上げて近付いていく。
「きゃー、ソラ。ナディお姉ちゃんに追い付かれちゃうよ。」
それを聞きソラも、速度を上げて逃げ始める。
「おーい、危ないからあんまり無理はするなよー!」
凌馬は、馬車の屋根の上から二人の様子を眺めながら流石にそろそろ危ないかなと思い注意を促す。
「はーい。カイさんありがとうね。」
「ごめんなさいパパ。ソラもごめんね。」
『クゥーン。』
ふたりとも気にしないでと答えているようだった。
そんな楽しい時間もしばらくして、草原を抜けた辺りでムラサキからの言葉で終わりを迎えていた。
「凌馬様、前方二キロ先より馬に乗った一団がこちらに向かってきます。統一された鎧から、何処かの勢力に所属する兵士たちだと思われます。」
ムラサキから報告があった。
「そうか、一応対応だけはしておくか。ミウとナディは馬車に戻ってくれ。そうしたら、カイとソラは頼めるかな。」
凌馬が何を言わんとしているのかを察したカイとソラは、二人を降ろすと左右に別れて森の中へと消えていく。
「何もなければそれに越したことは無いんだがな。」
凌馬としては、国や貴族というものに信用はしていない。
もちろん、メリーナのような例外もあるのだが、基本的に権力を持った者というのは経験上、横柄な輩が多かったので接するときには常に警戒は怠らない。
むしろ、魔物たち相手の方がぶちのめすだけで対処ができるので気が楽ではあった。
最も、敵対してきたなら誰であろうが最終的にはぶちのめすのだが、平和的に行けるならそれに越したことはないだけだった。
「ムラサキ、少し広いところに馬車を止めてくれ。ミウとナディは馬車の中で待機するように。ムラサキ、二人の護衛を頼む。万が一の時は銃の使用も許可する。それ迄は、剣を装備していてくれ。」
「了解しました。」
「うん、パパ」
「はい。」
凌馬の指示に、三人が了承をする。
馬車が止まると、凌馬は外に出てひとり一団が来るのを待ち構えていた。
やがて、凌馬の肉眼からもはっきりと姿をとらえることが出来る。
(八人か。他にはどうやらいないようだな。それにしても、何か慌てているようだな。)
馬たちの体力から考えて、どう考えてもペースが速すぎていた。
あれでは馬が潰れてしまうかもしれないと思うと、凌馬は馬に同情してしまう。
一団が凌馬たちを見つけると、ペースを落としてこちらへとやって来た。
(無視して行ってくれれば良かったのに・・・。)
凌馬は心の中で溜め息をついて、一団に対応をする。
「お前はどこからやって来た?」
凌馬に対して、かなり横柄な態度で聞いてくる。
「隣国のレスラント王国から。」
「貴様、無礼な態度を!」
後ろに控えていた兵士が声を荒げる。
「良い、控えろ。」
「は、はい。」
質問をしてきた兵士に止められて、引き下がる。
「俺はシュリオン聖教教会所属の聖騎士ギル。少し尋ねたいことがある。」
(成る程、教会所属か。この国ではさぞや権力を持っていそうだな。それでこれか・・・。)
凌馬は内心で納得しながら、ギルに先を促した。
「実は、我が教会の重要人物が馬車で皇都に向かう途中行方不明になってな。レスラント王国から来たのならば、なにか知らないか?」
「その人物の名前は?」
凌馬は、ナディじゃない事を祈りながらも聞き返す。
ギルが一人の兵士に説明するように促した。
「名前はナディと言う、二十代の女性です。」
兵士がそう述べてくる。
「ナディ、ちょっと良いか? どうもナディの事を探している一団のようなんだが。」
凌馬は馬車に戻るとナディを呼び出した。
馬車からナディを連れ出すと、「あっ、あの方で間違いないです。」と兵士が声をあげる。
「ナディ様、救援が遅れて申し訳ありませんでした。ここからは、この聖騎士ギルが護衛に付きますのでご安心ください。貴殿の名前はなんと言う。」
ギルが凌馬に名を尋ねる。
「凌馬。如月凌馬、冒険者だ。」
「如月凌馬か。大義であった。報奨については皇都の教会から出るだろう。さあ、ナディ様こちらへ。」
ギルが、ナディへと手を差し伸ばしてそう告げた。
「おい、何を勝手なことを言っているんだ。ナディは、俺たちが皇都に連れていくと請け負ったんだ。護衛を失敗した輩が、横からしゃしゃり出てくるんじゃねーよ。」
凌馬の発言に場の空気が凍りついた。
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