第28話
「あなたがミウちゃんね。私はナディ、よろしくね。」
「よろしく、ナディお姉ちゃん。この子の名前はソラ、そっちの子がカイって言うの。」
ナディに自己紹介したミウは、カイとソラの紹介もする。
『ワン!』
「こちらこそよろしくね。カイさんとソラさんね。」
一通り自己紹介が済んだところで、凌馬がもうひとりの仲間を紹介する。
「後は、この御者をしているのがムラサキだ。見ての通り魔導人形で、御者から戦闘まで何でもこなせる頼りになる俺たちの仲間だ。」
「ムラサキと申します。ナディ様、どうかよろしくお願いいたします。」
ムラサキにそう言われて、少し驚いた様子を見せたナディ。
「いえ、こちらこそお世話になります。でも、驚きました。本当に人間とあまり変わりがないのですね。」
「まあ、ムラサキは少し特殊な個体だからね。そこらの魔導人形とは違い、遥かに優秀なんだ。」
凌馬は、少し自慢げにナディに説明をする。
「すごいですね。凌馬さんって一体どういった方なのですか。普通、個人で魔導人形を持ったり、カイさんやソラさんのような存在を簡単にテイムなんて出来ませんよ?」
そんなことを言われたが、凌馬は言葉を濁して誤魔化していた。
「そんな事より、そろそろ出発しましょうか。また、魔物たちが来ないとも限りませんし。馬車は一応あのままにしておいたほうがいいかな。散っていった人たちが戻らないとも限らないし。ナディの荷物はそれだけかい?」
凌馬の質問に、ナディは肯定するとムラサキに馬車を出すように指示をする。
「そうなんだ。ミウちゃんも大変だったのね。」
ミウは、母親を探す旅をしていることをナディに話していた。
凌馬は、ミウの事についてはドラゴンであること以外は本当の事を話していた。
ミウの本当の父親ではないこと。誘拐されてきたこと。何処かに居るミウの母親を探すために、国をまたいで旅をしていること。
ナディはそんなミウのことを、可哀想に感じていたのだろう。
「ううん、パパやみんなが居るから寂しくないよ。」
ミウの見せた笑顔が嘘ではないと分かったナディも、つられて笑顔になっていた。
「ナディお姉ちゃん、チョコレート食べる?」
「チョコレート?」
ミウはマジックポーチからチョコレートを取り出すと、半分に分けてナディに渡した。
「貰って良いの?」
「うん! とっても美味しいよ。パパから貰ったの。」
そう言ってチョコレートを食べ始めるミウに続いて、ナディも一口口に入れる。
「────。」
ナディは、今まで食べたことの無い甘さに驚愕する。
「美味しいでしょ?」
「本当、すごく美味しい。こんなもの食べたこと無い。でも、これって高いものじゃない?」
ナディの質問に凌馬が答えた。
「それは俺の国の食べ物でして、決して高いものではありませんよ。子供のお小遣いでも買える代物です。」
「これが子供のお小遣いで・・・。凌馬さんの国ってどんな所なんですか? さぞや豊かな所なんでしょうね・・・。」
ナディが染々とそんなことを聞いてきた。
「ここからは遥か遠くにあって、もう戻ることも難しいですね。まあ、ミウやカイたちも居るし戻ろうとも思ってはいませんが。」
凌馬は、本心からそう思っていた。
そして、次にナディの事についても聞くことにした。
「私は元々孤児でして、孤児院で暮らしていました。訳あって、皇都で役目を与えられたため、向かっていたところだったんです。」
ナディの話を聞いて、ミウは親がいないと知ってフィリーアたちのことを思い出したのだろう。
ミウはナディを慰めるために、体に抱き付いていた。
そんなミウの心を知ったのか、笑顔を見せながら「ありがとう。」と言ってミウの頭を撫でていた。
お互いのことを知り、心を許していくミウとナディ。
仲の良い姉妹のような関係になってくれればなと、凌馬は二人を見ながら思っていた。
ナディを皇都に送り届けた後も、しばらくは情報収集のために留まる予定なので当分は一緒に居られるかなと考えて、今後の予定を経てていく。
馬車はその後、何事もなく野営ができそうな場所まで辿り着く。
「今日の移動はここまでにしようか。」
凌馬がそう言うと、いつも通りの準備に入りカイとソラにはおやつを与えてから周囲の警戒をしてもらった。
「私も食事の支度を手伝います。」
「ありがとうございます。それでは、スープとサラダをお願いします。ミウ、ナディお姉ちゃんの手伝いをしてくれるかい。」
凌馬がミウに頼む、「うん、ナディお姉ちゃん一緒にやろう。」と言って並んで準備をしていた。
(うん! こうして見ると本当の姉妹のようだな。)
凌馬は、二人を見ながらもメインの料理に取り掛かるとする。
(今日は、ミウの大好物のハンバーグの日だからな。今日はせっかくだから、いつもと違って煮込みハンバーグにするかな。)
凌馬は、そう考えて準備をする。
やがて、周囲を見回っていたカイとソラが戻ってきて、異常がないことを凌馬に伝える。
「ご苦労さん。もう、夕食になるからもう少しだけ待っててくれ。」
凌馬がそう言うと、テーブルの前でお座りをしながら待つふたり。
尻尾を激しく振っていて、夕食が待ち遠しいという事が見てとれた。
凌馬は苦笑しながらも、ようやく煮込み終わったハンバーグを各皿によそっていく。
「すごく良い匂いですね。これはなんですか?」
「ハンバーグだよ、ナディお姉ちゃん。でも、いつもと少し違うみたい。」
ミウがナディに答えながら、煮込みハンバーグを見て首を傾げていた。
「ああ、これは煮込みハンバーグって言って、いつもの焼いたものとは違うがこっちも美味しいぞ!」
凌馬の説明に、目を輝かせているミウ。
我慢ができないという感じで、凌馬を急かすミウに促されるように、テーブルに料理を並べていく。
全ての準備が整ったので、早速夕食にすることにした。
「パパ、これも美味しいね。」
「本当です。すごいです凌馬さん。」
ナディは、驚いた表情で凌馬に告げてきた。
「いや、ナディの作ったスープもとっても美味しいよ。」
スープを一口飲んだ凌馬は、ナディにそう答えた。
「私は、いつも孤児院で作っていましたから。」
「それじゃあ、ナディが居なくなって孤児院も大変だな。皇都での用事が済んだら戻るんだろう? もしよかったら、俺たちがまた街まで送るよ。ミウもそれでいいかな?」
「うん、いいよ。ナディお姉ちゃんと一緒に居られるなら。」
ミウも賛成をしてくれた。
「あっ・・・、いえ、皇都では長くなりそうなので・・・。それに、早くミウちゃんのお母さんを安心させるためにも時間をかけさせるわけにもいきませんし。」
ナディにやんわり断られてしまった凌馬。
(まあ、情報収集で時間はあるし直ぐ別れるわけでもないし、目的を果たせばまた会いに来れば良いか。)
そう考えた凌馬は、ナディに頷いて了解をするとその後はテントで過ごすことにした。
テントの天井にはLEDのランタンを吊り下げているため、日が暮れてきた時間でもかなりの明るさだった。
「このランタンはすごく明るいですね。まるで昼間のようです。」
この世界では、明かりは蝋燭の火か魔導具によるもので魔導具の中でも高級なものでなければここまでの明るさにはならない。
基本的に庶民は、暗くなったら早々に眠りについたりしているのだ。
「これも私の国の道具でして、燃費も良いんですよ。」
「パパ、絵本読んで?」
ミウが凌馬におねだりをしてくる。
「もしよければ、私が読みましょうか? 絵本の読み聞かせはいつも小さい子にやっていましたから。ミウちゃんも私で良い?」
ナディの提案に折角だからお願いをすることにした。
「ナディお姉ちゃんが読んでくれるの? やったー!」
テントの中では、真ん中にミウを挟んで左右に凌馬とナディが寝転がり、ナディの隣にカイとソラが寝そべっていた。
絵本を取り出したミウはナディに手渡すと、ナディは読み聞かせをする。
ミウはそんなナディの優しい声を聞いているうちに、やがて眠りへと誘われていく。
「ミウちゃん寝ちゃいましたね。」
「ナディの読み聞かせが上手かったからかな。話の続きは明日になりそうだな。ご苦労様、ナディ。今日は助かったよ。」
「いえ、そんな。私の方が助けられたのですし。」
ナディはそう答えた。
「そろそろ俺たちも寝るとするかな。」
凌馬はそう言うと、ランタンの明かりを落としていく。
「凌馬さん、お休みなさい。カイさんとソラさんもお休み。」
『くーん。』
「お休み、ナディ。」
そうして、凌馬たちも眠りに就くのだった。
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