第27話
「おはようミウ。」
「おはようパパ、カイとソラもおはよう。」
「ワンワン!」
大型のテントで一夜を過ごした凌馬は、朝食の用意をすることにした。
「ムラサキ、見張りご苦労様。後は大丈夫だから、ムラサキは少し休んでいてくれ。」
「分かりました。何かご用があればお呼びください。」
ムラサキを少し休ませると(必要はないのだろうが、凌馬の気持ち的に)、ミウと共に朝食を作り始める。
カイとソラには、朝の散歩を兼ねて周囲の警戒をしてもらうことにした。
そして、朝食を済ませた一行はテントを片付けたあと再び出発する。
さらに数日が経ち、凌馬たちはようやくシュリオン聖教皇国国境まで辿り着いた。
それまでに何度か魔物と遭遇したのだが、馬車を操縦しながらムラサキのH&K MP5が炸裂したり、カイとソラによって瞬殺されていった。
最も、獣型の魔物についてはカイとソラを見ただけで逃走してしまい戦闘回数自体少なかったが。
凌馬の活躍がめっきり減ってしまっていた。
ミウは今、ソラの背に乗りカイと一緒に馬車と並走していた。
「と、止まれ。お前たちは何者だ?」
レスラント王国の国境兵に、そう言って止められた凌馬たち。
馬車の御者は魔導人形、見た目は二匹のオオカミ型の魔物を引き連れ、その背には女の子が跨がっている。
(うん! どう考えても不審な一団だよね。)
凌馬はそんなことを考えながら、馬車から降りると国境兵に対応する。
「私たちは旅の者です。こちらの二匹は、私たちがテイムしていますので危険はありません。シュリオン聖教皇国には、人探しのために向かっています。これが冒険者カードです。」
凌馬の渡したカードを見た国境兵たちは、途端に態度を一変させた。
「こ、これは失礼をいたしました。どうぞお通り下さい。お気をつけて。」
国境兵に簡単な検査をされた後、そう言われた凌馬。
世界に、二十人と居ないとされるランクS冒険者だったのだ。無理もなかった。
Sランクともなると、下手な貴族よりも影響力を持つとされているため、何か粗相でもあろうものなら自分の首が飛びかねない(物理的に)。
「お勤めご苦労様です。」
凌馬がそう言って国境兵を労うと、ほっとした表情と共に凌馬にそう言われたことが嬉しかったらしく、敬礼で見送られていた。
無事に検問を通過して、シュリオン聖教皇国の国境兵にも同じような対応をされた凌馬たちは、ついに国境を越えることが出来た。
「さあ、ようやくシュリオン聖教皇国に来られたな。ここに何かヒントでも見つかればいいんだけどな。」
凌馬はそう言って、馬車に戻ってきたミウの頭をなで始める。
くすぐったそうにしながらも、凌馬に甘えるミウ。
「カイとソラには本当に助けられたな。これからもよろしく頼むな。」
凌馬はカイとソラを労うためにスキルを発動する。
如月凌馬
ジョブ
・
いやん! きゃ・わ・い・い! 私のテクニックで極楽に行かせてア・ゲ・ル!
○トリミング ○マッサージ
カイとソラにトリミングとマッサージを決行する。
「キューン、キューン。」
ふたりとも気持ち良さそうにして、顔が少しだらしないような感じになる。
「パパ、私も。」
「えっ、ミウもか? じゃあ変身してご覧。」
そう言って変身したミウの体もマッサージをする。
「みゅう・・・。」
あまりの気持ちよさに、ミウはそのまま眠ってしまっていた。
(このスキルは色々と危険かもしれないな。みんなを骨抜きにしてしまうかもしれない。)
凌馬は、特別な時以外はあまり多用しないようにと決意した。
旅は続き、今凌馬は馬車の前をカイとソラと共に走っていた。
最近、運動不足のきらいがあったためマラソンのようなことをしていた。
「パパ、頑張ってー!」
ミウは、ムラサキと一緒に御者席に座ると応援をしていた。
凌馬は手を振って応えると、気合いを入れ直していた。
「しかし、地球にいた頃は運動嫌いだった俺がこんなことをしているなんてな。あの時だったら考えられん。」
染々と感慨に耽っていると、カイとソラが『ワンワン!』と何かを知らせるように吠えた。
「どうした、向こうに何かあるのか?」
凌馬に肯定を示すふたりに、馬車を止めさせると屋根の上に飛び乗り双眼鏡を使って前方の様子を伺う。
凌馬の目に入ってきたのは、馬車を魔物が襲撃している様子だった。
しかし、馬が殺られているだけで、外で戦っている人影が見つからなかった。
「まずいな。ムラサキ、少しスピードを落としてこの先に向かってくれ。ソラは馬車の護衛を頼む。カイ、俺と共に前方の馬車を救いに行くぞ。」
凌馬が指示を出すと、皆、了解をしてカイは凌馬の後へと続いていく。
凌馬はかなりの高速移動をしていたが、カイは余裕でついてきていた。
(流石カイだな。スピードはサムライの俺よりも確実にあるな。)
凌馬とカイは、一分足らずでその場所へとたどり着く。
凌馬は馬車を守るように立ち回ると、カイに指示を出す。
「カイ、構わん、蹴散らせ。」
「アオーン!」
カイは、遠吠えを上げて周囲を威嚇し始める。
凌馬とカイは、馬車の周囲の魔物を殲滅し始める。
「グルルルルル!」
そんなカイの前に、一回り大きな群れのボスと見られる魔物が姿を現した。
全長三メートルとカイよりは僅かに劣るが、それでもボスとしてのプライドが退くことを許さなかったようだ。
カイのほうも受けて立つと言わんばかりに、唸り声を上げて牽制をし合っていた。
勝負は一瞬で決まった。
飛びかかってきた相手の攻撃を冷静に躱したカイは、相手の喉元に食らい付くとそのまま首をへし折った。
「アオーーーーーーン!」
カイの勝利の雄叫びに、周囲の魔物は一目散に散り始める。
「よくやったカイ!」
凌馬はカイの頭を撫でると、馬車に人がいないかの確認をする。
「誰か中に居るか? 魔物は追い払ったから出て来ても大丈夫だぞ。」
「本当ですか?」
中からは、女性の声が聞こえてきた。
馬車の扉を開けると、中からは十代後半から二十代前半と思われる銀髪ロングの女性が一人居た。
(ヤバい、めっちゃ可愛い。胸はDだな・・・。)
童貞男のスケベな視線が突き刺さる。
そんな事とは知らず、女性は凌馬に話し掛けてくる。
「助けていただいてありがとうございました。お陰で使命を果たすことが出来ます。」
なんの事か分からなかったが、とりあえず自己紹介をする。
「それは良かったです。申し遅れました。私の名は如月凌馬、冒険者をしております。こちらは相棒のカイ。他にも仲間が居りますが、急いで駆け付けたので合流までもう少し時間が掛かりそうです。」
凌馬は精一杯格好をつけて、カイの事を『相棒』等と呼び少し恩着せがましくそう説明した。
「わざわざ危ないところをありがとうございました。私の名前はナディと申します。とある事情で皇都を目指しておりましたが、魔物の襲撃に遭いこのようなことに。」
ナディは、馬車と死んでしまった馬たちを見てそう答えた。
「他に誰か居なかったのですか? 少なくとも御者は居たのでしょう?」
凌馬はそう問いかけた。
「予想以上の数の魔物たちの襲撃で、皆散り散りに逃げてしまったようです。」
ナディは少し悲しそうな表情でそう答えた。
「安心して下さい。私と仲間たちでお送りしますよ。どちらにしても、馬がいなくては馬車も動きませんし。」
凌馬の言葉に笑顔で「ありがとうございます。」と言われ、凌馬は小さくガッツポーズしたのはナイショだった。
こうして、新たな供を連れての旅が始まった。
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