第26話

 己のスキルがだんだん怖くなってきた凌馬だったが、今はそんなことを言ってはいられなかった。

 とりあえず、いつものようにスキルのチェックをしていく。


動物王国ゴロウキングダム

(範囲内にいる動物たちの状態を把握し、病気や怪我があった場合は治療を行うことができるか。これ、魔物にも有効なのかな?)


 迷ってもしょうがないので、試すことにする。

「これからお前たちの治療を行う。頼むから動かないでくれ。」

 凌馬は、オオカミの魔物たちにそう語りかける。


 適用範囲をオオカミの魔物二匹に定めて『動物王国』を発動した。

 その瞬間、優しい光が魔物の体を包み込む。

「クーン。」

 二匹の魔物は、どこか気持ち良さそうな鳴き声に聞こえる声を上げていた。


 光が収まると、二匹の魔物は凌馬とミウを見つめていた。

(何かしっぽ振ってるんだけど、どう見ても犬にしか見えないな。)

 とりあえず、二匹とも警戒を解いてくれたのか凌馬たちを見ても唸ったりしなくなった。


「パパ、この子達にご飯上げてもいい?」

「うん? あー、まあいいか?」

 念のためミウをいつでも守れるように備えて、ミウがご飯を与えるのを見ていた。


「はい、食べていいよ。」

 ミウは二匹に干し肉を取り出すと、口の近くに持っていく。

 パクパク。

 二匹は一心に干し肉を食べていた。どうやら、今まであまり食べることが出来なかったらしい。


 キーーーーーン!

 パッシブスキル『信頼の絆ほら、こわくない』が発動しました。

 魔物たちの体が光出すと、メッセージが頭の中で響いてくる。


「なっ、なんだ一体?」

 凌馬はそう声に出すと、目の前の魔物の雰囲気が変わっていることに気が付く。


 体に毛の色が、先程見た灰色よりも綺麗な銀色へと変わっていた。

 さらに、大きさも二メートル位から三.五メートルと明らかに大きくなっていた。


(さっきのメッセージってもしかして・・・・・・。)

 凌馬はおもむろにステータスを確認する。


如月凌馬きさらぎりょうま

二十六歳

使役聖獣ペット

○エンシェントウルフ

・オス

・メス


(おうっ。 やっぱりか。しかも種族までえらいことになってる~。これってやっぱり連れてかないとダメなのかな?)

 凌馬は、二匹がつぶらな瞳で見つめてくるのを見てため息をついた。


「パパどうしたの?」

「うん、何か二匹とも使役・・・は難しいな。まあ、ペットになっちゃったみたいなんだ。これは、連れていかないと駄目みたいだな。」

「ほんとう!」

 凌馬の言葉に嬉しそうにするミウ。


(まあ、ミウの寂しさが紛れるならこれも悪くないか。)

 凌馬はそう考えると、重要なことを決めなくてはと思い付く。

「とりあえず、名前がないと不便だよな。そうだな~、オスの方が『カイ』で、メスが『ソラ』だ。これでいいかな?」


 凌馬が二匹に問いかけると、『アオーン!』と遠吠えをする。

 どうやら気に入ってくれたようだった。


使役聖獣ペット

○エンシェントウルフ

・カイ(オス)

・ソラ(メス)

ボス(凌馬、ミウ)

○能力値

 力    4000

 魔力   4500

 素早さ  5500

 生命力  4000

 魔法抵抗 5000


 カイとソラのステータスを確認した凌馬は、冷や汗を浮かべていた。

(あれ、何か俺より強くね? ま、まあ俺はスキルとかたくさん使えるし? その気になれば勇者(笑)にもなれる。大丈夫だ・・・・・・たぶん。)


 凌馬がそんな事を考え込んでいると、ミウは早速カイとソラの頭や体を撫でたり、体に乗って遊んでいた。

「ミウ、そろそろ馬車に戻るよ。それと、ミウもカイとソラの飼い主になっているから、ちゃんとふたりの面倒を見てあげるんだよ。」


「はーい。カイ、ソラ。これからよろしくね!」

『ク~ン。』

 ミウがそう言うと、カイとソラは甘えるようにそう鳴いていた。


 ふたりが馬車に乗れるか心配だった凌馬だったが、ふたりは変身前のサイズに変われることを知ってほっと胸を撫で下ろしていた。

 流石に外をずっと付いてこさせるのは、少し心苦しいと思っていたからだ。


 そうして、新たに旅の仲間が増えた凌馬一行は再び馬車でシュリオン聖教皇国を目指して出発した。

 カイとソラは凌馬たちの言葉を理解できるらしく、こちらの指示に忠実に従ってくれていた。


「ふたりとも。この旅の目的はミウの母親探しだ。旅には危険が多いから、ミウのことを守ってやってほしい。」

『ワンワン!』

 ふたりの心強い護衛ができて、凌馬にとっても今回の件は喜ばしいものになった。


 今日は色々あって疲れてしまった凌馬は、湖が近くにあるのを見つけると昼食をそこで取り、本日の移動はここまでにすることにした。


「ムラサキ、馬たちの世話を頼む。」

「かしこまりました、凌馬様。」

 ムラサキはそう答えると、馬車から馬を放して餌やりと世話をしていた。


「じゃあ俺はご飯の用意でもするか。」

 凌馬はミウを起こさないようにして、外に出ると食事の準備をする。


 ミウは、先程まで馬車の近くをドラゴンになって飛び回り、カイとソラと一緒になって追いかけっこをして遊んでいたため、疲れきって眠りについていた。


「カイとソラはミウの面倒を見ていてくれ。これはご飯までのおやつだ。」

 凌馬はカイとソラに動物の骨を与えると、ふたりは嬉しそうにそれをかぶりついていた。


 ミウの寝ている隣で、カイとソラが見守るように寝そべって居るのを見ると、主人とペットというよりも妹の世話をする兄と姉の関係に見えるのは、凌馬の気のせいではないと思う。


 まあそれはさておき、サクッと昼食の用意をすることにした。

 昼は軽くチャーハンにスープ、サラダにする。


「ミウ、お昼の用意が出来たからそろそろ起きようか。」

「う~ん。あれ? パパおはよう?」

 ミウが目を擦りながらそんなことを言ってきた。


「ミウ、今は昼だよ。ご飯出来たからこっちにおいで。」

 凌馬はミウの手を引くと、昼食の料理が乗っているテーブルまで案内する。


「カイとソラは、お皿に乗っているお肉を食べてくれ。」

 凌馬が示した先には、小さいテーブルの上に皿が用意され生の骨付き肉が用意されていた。


『くぅ~ん。 ワンワン!』

「食べていいよ。」

 凌馬が許可すると、勢いよく食べ始めるふたり。

 凌馬はそれを見届けてから、ミウと共に昼食を取る。


 食事も終わった凌馬は、湖があるのでせっかくだから釣りをしようとミウに告げる。

「釣り?」

「そうだよ。この竿の針に餌をつけて魚を取るんだ。ちょっと見ててごらん。」


 そう言うと、凌馬は湖に向かって勢いよく竿を振り釣りを始める。

 何度かリールを巻いては、また餌を投げるを繰り返すと急に竿が撓り始める。

「きたきた!」


 凌馬は、ばらさないように慎重にリールを巻いては戻しを繰り返していくと、やがて五十センチ程の魚が釣れた。

「すご~い、パパ!」


 ミウに尊敬の眼差しで見られた凌馬は、鼻息を荒く「まあな。」と答えて魚を網の中に入れていく。

「今度はミウもやってみようか?」

「うん、やる~!」


 凌馬は、ミウの後ろから釣りのやり方をレクチャーしながらしばらく一緒に釣りをした。

「パパ、お魚さん来たよ!」


 ミウの竿に当たりが来たので、一緒にリールを引いて無事に釣り上げることが出来た。

「釣れた~。」


「すごいじゃないかミウ。初めてでこの大きさはなかなか釣れないぞ! これは今日の夕食にしような!」

 凌馬がそう言うと、「うん!」と元気よく返事をして来た。


 結局、釣り上げた魚は合計で十匹にもなり夕食はキャンプさながらに焚き火で直接焼いて食べた。

「おいし~い!」

「はは、自分で釣った魚だから格別だろ?」


 ミウは、一生懸命に魚にかぶりついて食べていた。

 カイとソラも、焼いた魚で良いか聞くと、了承の返事が返ってきたので少し冷ましてから与えることにした。


 何かムラサキだけ食事が出来ないのも可哀想だったので、お詫びでもないがちょっと高級な魔石を補充した。

「ありがとうございます、凌馬様。」

「いや、いつも仕事を押し付けて悪いな。感謝しているよ。」


 ムラサキは、そんな凌馬の言葉に「私は魔導人形ですので気になさらないで下さい。」と答えてきた。

 凌馬としては、ムラサキは魔導人形だが一緒に旅をする仲間だと思っていた。


 いつか、何かで恩返しがしたいと思いながら凌馬は今日の疲れを取るために就寝に就く。

 ちなみに、カイとソラが増えたため寝床は家族みんなで入れる大きさのテントを取り出して、この日から野営時はみんなで一緒になって寝ることになった。

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