第6話

 馬車に揺られること数時間。凌馬は馬車の中で考え事をしていた。

(さてと、どうしたものか? このまま逃げるのは容易いが、その場合は村の人たちが腹いせで何をされるか分からないからな。やっぱりあれしかないか!)


 凌馬は、今後の動きを考えてその時を待つことにする。

 馬車はようやく領主の館へと着き、手錠をされていた凌馬は馬車から下ろされると留置所のような地下室へと連れていかれた。


「明日から、貴様には精々働いてもらうからな。今のうちに休んでおくがいい。おい、しっかり見張っておけよ。」

 領主はそう言うと、留置所から引き上げていく。


 唯一の救いは、手錠を外された事くらいだった。

 しかし、その場には見張りの兵士とミックを捕らえていたハンズが残っていた。


「貴様もバカだな。村人など見捨てて一人で逃げていれば、こんなことにはならなかったのに。」

 ハンズがそう凌馬に話しかけてきた。


「そんな事をして助かっても嬉しくはないからな。まあ、弱者を虐げて私腹を肥やす事しか考えない奴等には分からないだろうがな。」

 ハンズに言い返す凌馬。何故かその言葉に笑顔を見せると、ハンズは「よく見張っておけよ。」と言い残して去っていった。


 凌馬は、夜が来るのをひたすら待っていた。

(あんなヤツをこのままのさばらせておけば、今回は良くても何れあの村に危害を加えるのは目に見えている。要は俺がやったとばれずに殺れば良いだけの事。)


 凌馬は、あの領主をこのまま生かせておく気などなかった。

 ミックとジェーンに手を出しておいて、見逃してやるほど凌馬はお人好しでもバカでもなかった。


如月凌馬


ジョブ

忍者三無忍、七方出

 火遁の術? 風遁の術? 実際の忍者が、そんなもん使えると思っているのか? 大体目立ちすぎなんだよ! 最近の若いもんは直ぐに目立ちたがりやがって。忍びとは本来は目立たずに仕事をこなしてこそ一流なんだよ! 分かったらそのキラキラした目で俺を見るのは止めろ。

暗殺術御命ちょうだい ○気配遮断私メリー貴方の後に


○能力値

 力    2500

 魔力   2000

 素早さ  6000

 生命力  3000

 魔法抵抗 2500


「──────いや、なげーよ。何で俺がスキルの愚痴聞かされにゃならねーんだよ。大体、職業についての説明何にもされてねーじゃねえか!」

 凌馬はついにスキルにツッコミを入れてしまった。


「もう何でもいいや。さて、問題は見張りにばれずにどうやって領主のところへ行くかだが・・・。」

 凌馬が見張りを見ると、机に伏せたままイビキをかいて眠っていた。


「・・・・・・うん、助かったから良かったんだけど、これほんとに大丈夫なのか? 敵ながら何か心配になってくるレベルのザル何だけど。」

 凌馬は、敵に対してそんな不安を感じていた。


 凌馬が『気配遮断』を使うと、目の前にいるのに気を抜くと認識できないレベルにまで気配をなくしてしまう。

(さて、とっとと片付けるか!)

 凌馬は外へと飛び出すと、夜の闇へと消えていく。


「クックックッ、あの小僧を利用してこの国の窮地を救うことができれば、見返りに姫様との婚姻を得てワシもついに国王へと手の届く位置まで行くことが出来る。」

 領主は下衆の笑みを浮かべると、ワインを飲みながらそんな言葉をこぼしていた。


(そんなことさせるわけねーだろうが。貴様のようなやつが国王では、早晩この国は滅びてしまうわ。)

 別にこの国がどうなろうが知ったこっちゃないのだが、あの村の人たちが困る状況を見過ごすことなど出来ない凌馬。


 凌馬は領主の背後に立つと、忍び刀を領主の首に当てる。

「な、なんだ!」

「声を出すな、動くな、目を閉じろ。今すぐ殺すぞ。」

 ゾッとするほどの殺気のこもった声で、淡々と告げていた。


 明らかにプロのその所作に、領主はピクリとも動けなくなってしまった。

「お前のようなヤツが国王になどと笑わせる。民草を思いやれぬヤツが頭にいては、この国の未来など知れたもの。このようなことになったのも、全て自らの行いの結果だと知れ!」


 凌馬の告げた言葉に、尿を漏らしながら命乞いをする。

「ひいいい、たっ助けてくれ。お金ならいくらでも払う。な、なんなら女たちも用意しよう。だから、命だけは・・・。」


 そのみっともない姿に、呆れ返る凌馬。

「それらも全て領民から搾取したものだろうが。国のため等と嘯いて搾取したあげく、私腹を肥やすなど万死に値する。もういい、おとなしく死ね!」


 凌馬の刀が首を掻っ切ろうとする直前、制止する声がかかる。

「そいつはちょっと待ってくれないかな。こっちにも色々と事情があってね。」

 声を掛けてきたのはハンズであった。


「おお、ハンズ。ちょうど良いところに来た。この反逆者を直ぐに捕らえるのだ!」

 領主は性懲りもなく、ハンズにそう告げていた。


「分かってますよ。領主ラモン、あなたを国家反逆の罪で逮捕します。弁明は裁判で述べるが良いでしょう。」

 ハンズの言葉に領主が怒り出す。


「何を言っている。わしを誰だと思っているのだ!」

「ですが、あなたが言ったのですよ。反逆者を捕らえろと。ここにいる反逆者はあなた以外に居ないではないですか。証拠の方も粗方集まりましたし。」

 ハンズの言葉に驚愕を隠せない領主。


「お前は何者だ?」

 凌馬はハンズに問い掛ける。

「ご紹介が遅れましたね。私は、メリーナ第一王女にお仕えしていますヴィルターと申します。お見知りおきを。呼び名についてはこれからもハンズでお願いします。」


 それを聞き領主が叫び出す。

「なっ、貴様わしを謀ったのか。」

「人聞きの悪い。私はメリーナ様に言われて、あなたのお手伝いをしていただけですよ。そうしたら、たまたま不正の現場を目撃してしまった。なら、国に報告するのは当然の事でしょう。でなくては、私まで国家反逆者になってしまいますよ。」


 ハンズの言葉に言い返せない領主。

 そこへ一人の身なりの良い女性が部屋に入ってきた。

「ラモン卿、あなたの悪事は私がしかと確認させていただきました。国がこのようなときに、領民を虐げて私腹を肥やすなど言語道断。厳しい処分を覚悟してください。」


「そ、そんな、何でこんなところにメリーナ様が・・・。メリーナ様誤解です。私は国のためを思って、今回の事に及んだのです。私もこんなことはしたくはなかったんですよ。」

 メリーナの登場に驚きながらも、この期に及んでなお言い訳をする領主。


 その言い訳に聞く耳を持たないメリーナは、凌馬へと話はじめる。

「あなた方には、大変ご迷惑をお掛けしました。でも、どうか剣を引いてはいただけませんか? この者は私の名において必ずや公正に処分することを約束いたします。」


 凌馬は美人のお姫様にそう乞われて、刀を握る手から力を抜く。

 その様子を見て、メリーナとハンズはホッと胸を撫で下ろしていた。


「だが断る!」

 凌馬がそう告げると、その場の時間が止まった。

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