第4話

 翌朝、目を覚ました凌馬を起こしに来たのは村長の娘さんであった。

 気立てもよくて美人の彼女には、旦那さんと可愛い子供達がいた。

 べ、別に悔しくなんかないんだからね! と凌馬は思ったとか、思わなかったとか。


「凌馬様、お早うございます。朝食のご用意が出来ましたので、お呼びに来ました。」

 凌馬は布団から出ると、「ありがとうございます。」と告げて居間の方へと向かった。


 昨日は、炊き出しが終わったあと残りの魔力を使い移動販売車から食べ物や飲み物、保存食に調味料といった様々なものを村人たちに配り、皆に平伏される勢いで感謝をされた凌馬だった。


 お陰で、この日の朝はどの家からも笑い声が聞こえてくるほど明るい雰囲気になっていた。

「本当に、何もかも凌馬様のお陰です。凌馬様がこの村に来なかったら、夫や子供達共々天に召されていたことでしょう。」


 村長の娘は、目にうっすらと涙を浮かべながらそう語った。

 あまり人から感謝をされたことのない凌馬は、どうしたらよいのか分からなくなり「いやー、ほんとによかったよかった。」と頭を掻きながら答えていた。


 その様子が可笑しかったのか、娘さんも笑ってくれて何とか危機を乗り越えた凌馬は村長のもとへと向かっていく。

 用意された朝食を食べながら、凌馬は今日の予定について村長と相談していた。


「取り敢えず、一度この村の畑を見させてください。もしかしたら、なんとか出来るかもしれませんので。」

「本当ですか! こちらとしては願ってもないことですが・・・。」

 あまりに恩ばかり貯まっていき、なにもできないことに申し訳ない様子の村長。


「朝食が終わったら案内をお願いします。」

「わかりました。」

 凌馬はステータスを確認する。


如月凌馬きさらぎりょうま


ジョブ

無限の可能性ニート─状態─


(ふむ、やはり無職に戻っているな。これは、職業の選択は慎重にしないとな。ジョブチェンジが一日に一回だけという縛りはなかなかきついな。)


 朝食を済ませた凌馬たちは、問題の畑へと来ていた。

 凌馬はちょっと周囲の様子を見ると言って村長から離れると、『無職からの脱出シーカー・アフター・ザ・トゥルース』を発動しその中から職業のを選択する。


如月凌馬


ジョブ

お百姓さん一種、二肥、三作

 稲のことは稲に聞け、農業のことは農民に聞け。我らこそがこの国の根幹を支える屋台骨。農家なめたらいかんぜよ!

○土作り ○成長促進


 なんだこれ? とステータスを確認した凌馬は思ったが取り敢えずスルーすると、スキルの内容を確かめる。

(なるほど、土作りは土壌の状態を正常にする能力か。病気の原因も消えるから、これなら直ぐにでも作付けが出来るな。成長促進は、まんま作物の成長を促せるのか。一応村長に説明しとかないとな。)


 凌馬は自分の能力をあまり人には知られたくないため、村長にだけ話すと口止めをすることにした。

「村長、ちょっといいですか? これからすることは、誰にも言わず内緒にしてほしいのです。約束できますか?」


 凌馬にそう言われた村長は、真剣な表情をして答えた。

「凌馬様は、私たちの恩人です。その凌馬様が黙っていろと言われるのならば、何があっても誰にも話すつもりはありません。」


 その言葉を聞き、凌馬はスキルを発動する。

○土作り

 その瞬間、目の前の畑の様子が一変する。土は乾き色も悪かったのが、大地が甦るかのように土本来の色を取り戻す。


「こ、これは一体?」

 村長は、その様子を驚いた表情で見ていた。

「村長、畑に植える種などまだありますか?」

「はい、直ぐにお持ちします。」


 村長はそう言ってこの場を離れると、しばらくして戻ってきた。

「これがこの村最後のものです。」

「ありがとうございます。」

 凌馬は大切にその種を受け取ると、種類ごとに畑へと植えていく。


「よし、これでいいな。『成長促進』。」

 すると今度は、先ほど植えたばかりの作物がみるみると成長していく。

 あまりの出来事に、村長は声を上げることも出来なかった。


「凌馬様、あなたは一体? もしや、神の御遣い様なのですか?」

「そんな大層なものじゃありませんよ。これは俺のスキルなんです。まあ、かなり魔力を使うのでそう易々と使えるものでもないのですが。」


 凌馬は連続では使用できないと村長告げて、あまり大事にならないように保険を掛けておく。

「しかし、このスキルは素晴らしいですな。」

 畑を見つめる村長は、そんな言葉をこぼしていた。


「村長、みんなを呼んでいただいていいですか? これから堆肥の作り方や連作障害について説明します。」

「堆肥、連作障害ですか?」

「詳しいことはみんなが来てから説明します。」


 そうして、畑に村人たちを集めて貰った。

「なんだこれは! 畑に作物が実っているぞ。」

「土もすごくいい状態に戻っているし、村長これはどういうことなんですか。」

 村人たちは村長に問い掛けた。


「皆、落ち着くのだ。詳しくは語れんが、これも全て凌馬様のお力があってのことだ。これから凌馬様が、我らに農作についての知識を授けてくださるとのことじゃ。皆のもの、心して聞くのだ。」

 村長の説明に「凌馬様が・・・。」と口々に話始めるが、凌馬がみんなの前に立つと真剣な表情で話を聞くことにする。


 凌馬はまず堆肥の作り方の説明をした。まず日の当たらないところへ落ち葉や枯れ草を集めて、その間に乾燥した鶏の糞や油かすをのせて、またその上に落ち葉といった層を作り山のように盛っていく。

 そして、昨日予め用意したビニールシートを取り出すと覆い被せる。


 1ヶ月後には発酵して、温度が六~七十度まで温度が上がる。そうしたら、一度切返して外と中を入れ換えてまた山にしてビニールをかける。

 この行程を、夏場なら二~三ヶ月、冬場は五~六ヶ月繰り返したら完了。

 後は、畑の土に混ぜて使えば作物の成長を良くしてくれる。


 次に、連作障害について。

 同じ作物を同じ場所で作り続けると、成長が悪くなったり病気にかかりやすくなる。

 そのため、一度作った場所には他の作物を植えることにする。

 ただし、その組み合わせも色々とあり、植えて良いもの悪いものがあるため、堆肥の作り方と一緒に組み合わせ表を書き記した物を村長に手渡す。


「このようなことが・・・。この知識は一体どこから?」

「俺のいた国では、農業を携わる者ならば皆知っていることです。俺はその知識を話したに過ぎません。」

 村長の問いに答えた凌馬。


 村長は凌馬から渡された説明書きを、宝物のように受け取ると皆の表情も明るくなる。

「これで俺たち、もう飢饉に怯えなくて良くなる。」

「ああ、このような知識をあっさりとお教えくださるなんて、凌馬様は本当に凄い方だ。」

 村人たちがあちこちで凌馬を讃えていた。


 その後、集まった村人は作物の収穫作業を行うこととなった。

 子どもたちも集まって、皆が収穫のできる喜びを分かち合っていた。

 凌馬も、ジェーンやミックと共に沢山の作物を収穫して、お昼はまた村人たちと一緒に食べることとなった。


 皆はこれでもう大丈夫だと心から思っていた。

 しかし、波乱の足音がすぐそばまで来ていることに、この時は誰も気付けるものは居なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る