第3話

 凌馬は、その後迅速に食料を配り歩き全部の家に配り終わった頃には汗だくになっていた。

 協力して貰ったジェーンとミック(最初に助けた女の子と男の子)には自分の家に戻ってもらい、凌馬は村長宅で話をすることになった。


「この度は、この村を救っていただき有難うございます。本当ならなにかお返しをしなければならないのですが。申し訳ありません、この村には凌馬様にお渡しできるものは・・・。せめて村人の誰かを、凌馬様の奴隷としてお連れしていただきたく思います。」


 村長のダンは、土下座をするとそう言って凌馬に提案してきた。

「あー、いや、別にお礼をしてもらうためにやったわけではないので気にしないで下さい。」

「しかし、このままなにもしないわけにも・・・。」


 村長が引き下がろうとしないので、凌馬は話題を変えることにした。

「それよりも、どうしてこんなことになったのですか? 一体この村で何が起こったのですか?」


 村長はしばし躊躇したが、命の恩人の質問に答えぬわけにはいかないと話始めた。

 その説明を要約するとこうだった。


 ・年々領主に納める税が高騰していたこと。

 ・飢饉が発生して、冬を越すための食料まで臨時に徴収されたこと。

 ・この村で、育てていたいも類なども病気で全滅してしまったこと。

 ・村のお金も尽き、行商人なども来てくれなくなったこと。

 etc.


 説明を聞いた凌馬は、権力者の横暴により弱者が虐げられている現実を目の当たりにして、怒りに震えてしまった。

「この国のトップは何をやっているのですか?」

「国のお偉いさん方は、こんな辺境の村になど目を向けることはないでしょう。そのために領主様が、この地を納めているのですから。」


 どこの世界も、権力者ってやつは下にいる人たちの暮らしなど分かろうともしない。

 凌馬は地球にいた頃の自分の生活を思い出していた。


「事情はわかりました。取り敢えず、皆さんの健康状態を回復させるのが先です。今から炊き出しの準備をします。手伝える人は私のところに集めてください。」

「そんな、これ以上のことをしてもらうわけにはいきません。」

 村長の発言を止める凌馬。


「乗り掛かった船です。こんなところで止めるのなら、最初から助けたりはしませんよ。」

 凌馬を突き動かしているのは、元来の人の良さと地球に居たときから感じていた無能な権力者への反発によるものだった。


 この村には百人を越す村人たちが住んでおり、凌馬のところには十人を越す女性たちが集まっていた。

 皆凌馬に自分や家族の命を救って貰った恩から、進んで協力を申し出ていた。


 あまり多く集まると、反って動き辛くなるので他は会場の用意等をして貰った。

 大型のコンロと鍋を出し、水を大量に入れると火をつける。


「おおおお────!」

 捻っただけで火が着いたその様子を見て、村人たちは驚きの声をあげる。

「凌馬様、これは魔道具の類いなのですか?」


 凌馬は魔道具等知らないので、誤魔化すように「まあそんなものです。」と言っておいた。

 魔力をフル稼働で、大量のコンロと業務用鍋を出した凌馬。


 大量の炊き出しということで、凌馬が選んだのは豚汁とカレーであった。

 作り方の説明をして、カレーと豚汁をみんなに任せると凌馬は米を炊くことにする。


 昔ボランティアの炊き出しに参加したことのある凌馬は、業務用の鍋で米を大量に炊くことにする。

 鍋をいくつも並べて同時に米を炊く光景は、まるでどこかの軍団の炊き出しを彷彿とさせる。


 やがて全ての準備が終わるまでには、日も段々と落ちていった。

 会場の用意をしていた人たちは、篝火を焚いて周囲の灯りを確保する。


 大量の皿に炊きたてのご飯をよそうと、カレーを掛けて人々に渡していく。

 また、豚汁もサイドメニューとして配り歩く。


 皆初めて見る食べ物に手が止まっていたが、その美味しそうな匂いに一人が手をつけるとものすごい勢いで食べ始め、周囲もつられて食べ始めた。


「うめ~! こんなうめ~もの初めて食べた。」

「見た目がちょっとあれだったけど、そんなこと関係なくなるよね。」

「この豚汁ってやつも美味しいし、体も暖まるよ。」


 皆が口々に美味しいと話しているところを見て、凌馬も満足した様子だった。

「凌馬お兄ちゃん、すごく美味しいよ。」

「凌馬様、本当にありがとうございます。こんなことまでしていただいて。」


 凌馬のところにジェーンとミックがやって来て、凌馬に感謝をのべてきた。

「子供はそんなこと気にするな。いっぱい食べて寝て元気に育つことが、子供の仕事なんだから。」


 凌馬が笑顔で告げると、二人も笑顔で食べ始めた。

 炊き出しが終わり皆が凌馬の周りに集まると、口々に感謝を告げてきた。


「凌馬様、本当にありがとうございます。お陰様で、家の嫁や子供達にも笑顔が戻りました。俺に出来ることがあれば、何でも言ってください。」

「ずるいぞ。あの、俺も何でもしますの頼み事があれば是非!」


「凌馬様、今日は家に泊まってってください。家は母と私しかおりませんので。」

「あんたなに媚売ってんのよ。凌馬様、家には若い女の子がたくさんいますので是非家で泊まってください。」


 凌馬の争奪戦が始まろうとしていた。

「こらこら、お前たち。凌馬様が困っているじゃないか。恩人に対して失礼じゃろう。さぁ、散った散った。」

 村長の一声で、村人たちは納得がいかないが逆らえないため片付けを始める。


「本当に申し訳ありませんでした凌馬様。皆悪気はないのです。」

「いえ、皆に喜んで頂けて私も嬉しかったです。」

「そう言っていただけると助かります。今日は私の家にお泊まりください。大した持て成しはできませんが、精一杯させていただきますので。」

 村長にそう言われて、承諾をする凌馬。


「それではお世話になります。」

 そうして、村人たちの命を繋いだ炊き出しは無事成功したのだった。

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