01 異世界転生編 第1話

(ここはどこだ?)

 凌馬は、眠りから覚めるように意識を取り戻すと、周囲を見渡す。

 どこか広い廊下に立っていることを認識した凌馬は、周りに沢山の人がいることに気がつく。


(あれ? 俺どうしてこんなところにいるんだ? 確か会社を辞めて家に帰る途中・・・・・・!)

 全てを思い出した凌馬は、体をチェックするが怪我等は特になかった。


 とりあえず状況を確認するため、近くにいる人に話し掛けた。

「あのー、すみません。ここって一体どこなんですか?」

 凌馬は声を掛けたが、誰も返事をしてくれない。


「あのー!」

 凌馬が大声で話し掛ける。

「うるさい! 順番が来るまで静かに並んでなさい。」

「は、はいっ!」

 叱られた凌馬は、廊下に並んでいる人の後ろに行くと、とりあえず順番とやらが来るまでに待つことにした。


 何時間またされたのか、ようやく凌馬の番が来て扉の中へと案内される。

「はい、如月凌馬さんですね。中にお入りください。」

 いろいろと聞きたかったが、また叱られるのは嫌だと思いおとなしくいうことを聞く。


 中に入ると、そこには長く白い髭を生やしたお爺さんが高そうな椅子に座っていた。

「えーと、次は如月凌馬じゃな。」

「あっ、はい。あのお聞きしたいんですがここはどこですか?」

 凌馬はお爺さんに尋ねる。


「おお、説明がなくてすまないな。ここは死後の世界で、これからお主の処遇について決める場所なのじゃよ。わしはお主たちのいうところの神と呼ばれる存在じゃ。」

「神様───、死後の世界って───、やっぱり俺は死んだんですか?」

 凌馬はお爺さんに確認をする。


「それはもう、ものの見事にな。隕石に衝突して死ぬなんてなかなかないことだぞ。宝くじの当選確率よりも低いんじゃからな。」

「いや、そんな確率に当たっても嬉しくねーよ!」

 凌馬は心の底から叫び声を上げた。


 しばらくして落ち着きを取り戻した凌馬は、今後のことについて説明を受ける。

「でじゃな。お主は死ぬ前に女の子の命を救った。これはとても徳の高い行いじゃ。それゆえにお主には二つの道が用意されておる。」

 神様は説明を始める。


「一つは、もう一度もとの世界で新しい命として生まれ変わる。もう一つは、こことは違う世界で幾らかの特典を得て転生する。この場合、意識はお主のままじゃ。さて、どうする?」

「おー、テンプレ来たこれ!」

 お約束だった。


 凌馬は異世界についていろいろと質問をして、特典について尋ねた。

 すると、一冊のカタログのようなものを取り出すと凌馬へと渡す。


「それは、異世界に転生したときに選べるジョブの一覧じゃ。その中から、一つだけ好きなものを選んで転生することが出来る。」

「マジか、こんなにたくさんあるのか。悩むなー。」

 凌馬は、カタログの中を見ると黙々と読み進めていく。


 キーーーーーーーーン!

 凌馬たちのいる部屋が光輝く。

「あなた! これはどういうことですか!」

「な、何でお前がここに? 今は仕事中じゃぞ。」


 神様の奥さんと見られる人が光の中から出て来て、神様に問い詰めていた。

 しかし、カタログを見るのに夢中の凌馬は全く気付いていなかった。この男、一度集中すると一切の外部情報を遮断してしまう能力を持っていた。


「これよ! あんたまた若い女と浮気してたわね! 今日こそは許さないわよ。こっちに来なさい!」

 写真を取り出した奥さん。そこには腕を組んで歩く神と若い女性が写っていた。

 奥さんは神様を捕まえると、そのまま他の場所へと転移を始めてしまう。


「これには訳があるのじゃ。それに今は仕事中で・・・。」

「いいから来なさい!」

 キーーーーーーーーン!

 そして二人は居なくなった。


 ようやくジョブの当たりを付けた凌馬は、顔を上げて神様に話し掛ける。

「よし、やっと決まったよ。あれ、神様?」

 辺りを見渡すがそこには凌馬だけしかいなかった。


 その時、入口の扉が開く。

「神様、後が支えています。早く終わらせてください───────ってあのジジイ逃げやがったな! こちとら今日は合コンで残業出来ないってのに!」

《この秘書、御年二万三千歳。若手が次々結婚していくなか、今年こそと結婚相手をさがしているお局様・・・。》


 バキバキドゴン!

《び、美人秘書様であります。》

「あなた、あのジジイがどこに行ったか知ってる?」

「い、いえ、なんか気がついたら居なくなってました。」

 凌馬は、怯えながら秘書の問いに答えた。


「ちっ! 使えないわね。とりあえずあなたは異世界転生するのね。ならこっちよ。」

「えっ、あのまだジョブが・・・。」

 凌馬の言葉も聞かずに、秘書は奥の部屋の扉を開ける。


 扉の向こう側は、漆黒の空間が広がっていた。

「はい、さっさと入って!」

「あ、あの、まだ聞きたいこととかあるんですが・・・。」

 凌馬は秘書に何とか説明を求める。


「向こうに行ったらステータスと唱えれば分かるから。それと向こうは魔王とか魔物が蔓延ってるから気を付けて。後は自力で何とかしなさい!」

 秘書は凌馬を扉の中へと蹴ると、凌馬の体は漆黒の闇へと落ちていく。

「ひでーーーーーー!」


 こうして、凌馬の異世界転生が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る