灯を見送る

下を向いて

唇を噛んでいた


いま、前を向く気にはならなかった

現実いま、前など見てしまったら


悲しむ暇などないと思い知らされてしまうから


茫然自失とは、このことだと体験してから分かる

幼子が火を熱いと感じ、危機と怯えを覚えるように

体験して初めてわかる痛みが、熱が、心が

簡単に灯を消して、火花舞う


最後の光が今にも消えそうだった

新しいマッチも、薪もない

なんとも四面楚歌な状態で

どんな言葉も耳に、頭に、心に

残らず風だけが、響き合う


考えるのをやめたのか、と言われた

そうじゃない、と俺は答えた

……考えられないのだ

思考がまとまらず、転んでちらかした紙束のように

どれがどの順番だったのか、考えられないほどに


下を向いて

舌を噛んでいた


できれば、生きていてほしかった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る