もういいかい?

最初から決められた肩書きを持つ者として、私は後世に願いたい。

志半ばで倒れた者、完遂し旗を掲げし者、数多の事柄を受け止め沈んだ者

絶望のまま地に伏した者、ああ、切りがないな。

おそらく、よりは確約された忘却に寂しくはあれど、

いや私がないだけで名を残したい者など沢山居ような。


……忘れよ、とは言わん。ただ幸せでいてほしい。

その幸せに必要不可欠なモノがあったとして、

それを失い気が狂いそうな日々が待ち受けていようとも。

しばし悲しみに呑まれてもいいから、

「あなたのくるしみをとりのぞこう」なんぞの甘言に乗ってはならない。

お前の前に出た化生は『本当』の事を言っているだろうが、

所詮はまやかしであり、悲しみよりも長い苦しみの延長である事を知ってほしい。


幸せ、とは何かと。

なんだろうな。安寧、名声、富、伴侶、部屋、物、家族。

私にとって幸せはお前だな。お前なのだが肩書きを持つ私にとって、

お前の人生に入り込む術はない。私には肩書きに似合った事を成し、

似合った人生を送り、似合った片割れを用意される。だから、

『お前が生きている事が幸せである』と決着をつけた。

命を消費する上での盟約に近いな。俗に言えば『お前が生きていればいい』それだけだ。


不釣り合いと拗ねてくれるなよ。

確かに私は押し付けているし、お前の意思を尊重していない。

だけどなあ、だけども。これが精一杯の我が儘なんだ。

お前よりは長く生きるから、一日でも永くと、永遠のフレーズを言おう。

反対、反対だったらか。たらればは好きではないのだが。


……私は責めない。私を失って狂気に呑まれるお前が取る選択を。

私の為に取ってくれた代償を感謝はせど責めはしない。

世で言う悪い事なら、その時に決めて、その時に行動しよう。生き続けるのも終わるのも。

だから私は先ほど言ったように『決めた』んだ。

なぜならなあ、なぜなら、お前、私が狂気に呑まれて、

世を捻じ曲げたり破壊なぞしてみろ、魔法でお前が戻ってきたとしてもだ、

怒るだろう? ……な、怒るだろう。自分の事を考えろ、と。

だからだ。

添い遂げる事は出来んが、人生の一部と心の隅で生かしてほしい。


……

後世に願いたいのだ。肩書きを持つ者だとしても決めるのはお前だ。

お前が守るか破るか、進むか逸れるかの決定権を持つのはお前だからな。

肩書きに甘えるなよ。甘えすぎて心を壊さぬように生きてくれ。

私からは、それだけだから。おやすみ。


――一日、永く生きたぞ。もういいかい。

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