偽善

『とても良いことをしている』

そう思われることが何よりも好きでした。

他人のためではなく、私の心の均衡を保つための自己満足ではありましたが、

それでも誰かが「ありがとう」と声をかけてくれる、その快感に酔いしれていました。


だけれども、時代が移ろいゆく中で私の行為は『いけないこと』になったのです。

なぜ! と叫びたい気持ちを堪えて、私の自己満足は終わりました。

私が私である姿を失ったのです。他に縋る宛もなく、友と会話しても満たされぬ心。

いつからか『いけないこと』をやるようになりました。

そうしたら訴えられました。それでもやめられませんでした。

誰も褒めてはくれません。最初は褒めてくれた人も次には私を断罪しました。


もう私は分からなくなりました。この行為が何を満たしているのか。

いいえ、これは『とても良いことをしている』のです。

だから止めません。誰に何を言われようと『とても良いことをしている』のです。

ほら、私がやらないと皆こまるでしょう? みなこまっているのでわたしがやるのです

ほらほらほらやってあげればよろこぶでしょう? あれあれあれなんでほめてくれないの


……大家に不動産、役所から警察

……彼女は繰り返します。『悪いことではない』と。

……みな口々に言います。

……歳だしね、頭やられちゃったのよ。可哀想な人。

……迷惑だしいなくなってよかった。ああいう人は施設か何か隔離しちゃえばいいのにね。

……聞いた? 他の周りのゴミ収集所からもゴミ持ってきてまとめてたんですって。

……開けて新しい大きい袋に入れ替えて中身はボケているから人には話さなかったらしいけど。

……でも嫌よねえ、あれでしょ。細かく分けて嘘までついてゴミ貰ってたんでしょ?

……あとあれよ、人の庭にはいって木々折ったんですって?

……そうそう大家の家族だからってねえ。迷惑よねえ。

……聞いた? なんか被害妄想も入っていたらしくて。注意しても駄目だったらしいのよ。

……ざまあみろ。


『とにかく迷惑な人がいなくなってよかった』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る