第3話 公道の結末


「まずい…状況が悪くなった!応援はまだか!?」


「今向かってるそうです!」



深夜の公道は幸い人通りも車通りも少ない。

エンジンをフル回転させて猪の如く走り抜けていくのは輸送車ぐらいで

見つけた応援部隊はすぐに進路包囲を仕掛けていく。



「北区から西区へ抜けてる…。

ホシは包囲しづらい広い国道をあえて選んで走っているように見えます。」


「だったら何だよ!早く目的を洗い出せ!」


「やってますよ!次はおそらくこっち…あれ!?」



張り付いて追走している機動隊員たちは焦りと混乱で集中力が切れかかっていた。

応援に駆け付けた警官が仕掛けたスパイクストリップに気付いた輸送車は

硬いボディーを振り回して道路を封鎖していたパトカーをぐしゃぐしゃにする。

目的の描けない軌道で走り続けしばらく都心部をぐるぐる回った後

不意に何の脈絡もない進路へ転回した。

その道の先にあるのは…警視庁本部!



「マズい!ホシは最初から本部が狙いだったんだ!」


「戻れ!道を固めてる場合じゃねぇ!」



暴走輸送車は時間をかけてパトカーや人員を公道に引っ張り出していた。

つまり、本庁には障害物代わりになるような物がない。

塀の弱い入口をめがけてスピードを緩めることなく全速力で突っ込んだ!



「ガッシャーン!!」



まるで戦車のように頑丈なボディは塀を破壊しガラス張りの正面玄関へ突入!

支柱にぶつかりながらフラフラと奥へ進み続け、

事務机やパソコンなど無差別に巻き込んで停止した。

ひん曲がった机で持ち上がった車輪が全力で回り続ける。

後を追って入ってきた警官の目には、血が飛び散った壁と

輸送車の前面からまっすぐ伸びる鉄筋が映った。

すぐに救急隊員が呼び出され駆け付けたが

巻き込まれた机の下から職員3名の遺体が見つかった。

おそらく即死だ。

鉄筋は衝突して崩れた支柱から飛び出たもので

黒ずくめの男の体ごと、現金が詰まった後ろのコンテナまで貫通している。

アクセルペダルが全開の状態で固定されていて

輸送車のジャックからすべて計画的な犯行だったことが分かる。


現場検証と事後処理の最中、警視庁本部では



「これはテロだ!」



と怒号が上がり、すぐに対策部が発足。



「場合によっては武力行使に出る必要が生じます。」


「正当防衛による武装許可を申請しろ!」


「かしこまりました!」



本部は総理に、簡単に言えばドンパチやらかす事を申請した。

深夜の対応に時間が掛かっている。

追ってテロ対策部は事件の黒幕を洗い出す作業に入った。





~~


「ハデに突っ込んでますね~。」


「おい、バリケードもっとデカイの無いのか?

マスコミが騒ぐぞ、こんなの見たら!」



輸送車の暴走で本庁に応援に来た●せき 刑事とその上司の●矢島やじま 警部。

塀にはブルーシートが張られているが奥が見えてしまい意味を成していない。

それほど現場は悲惨な状態で、死者の身元を確認する横で

牽引車が輸送車を引っ張り出している。

タイヤとボディーの間に挟まれた人もいた。



「輸送車を運転していたのは20代前半の男で、

腕に【鷲宮わしのみや】の紋章が入っていました。」


「鷲宮?ヤツはまだムショにいるはずだが…?」



2人が庁内へ入ると、鑑識が状況を報告しているところで

矢島は彼らに近寄って話に入っていった。



「ふむふむ、鷲宮の紋章が入った男が輸送車で本庁に突っ込んだ。

これを本部はテロだと踏んで対策部を設置。

いやこれだけだとまだ単独犯の線だってある…。

ヤツの所持品を見せてくれな――」


「悪いな、俺は臨時公安3課でテロ対策部隊の者だ。

お偉いさんにこの件を全て任された。

ここはもう俺たちの管轄だ、お前たち“地域課”は大人しくお茶でもしてな。」


「なんだよ、地域課だってお偉いさんを守れるんだぜ?」



矢島の問いが終わる前にガタイのいい男がイヤミ半分に立ち塞がった。

すぐさま切り返すが抵抗しても無駄なことは知っている。

手がかりは【鷲宮】のみ。

乗って来た車へ引き返し、関は何気無くスマホのロックを解除した。

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