第2話 真夜中のジャック


警察が執行台の事故を捜査し始めてから半日以上が経った深夜、

別件で都市銀行から日本銀行へ現金輸送の護衛ミッションが開始された。

交通機動隊が1台、輸送車に張り付く。

これは隊員にとって珍しくない任務であり、どちらかと言えば慣れている。

何故なら最近のテロは「大量虐殺」思考が強く、

現金輸送車は二の次のように平和だからだ。



「お前この仕事終わったら真っ直ぐ帰んのかよ?」


「嫁が待ってますからね~。一応結婚記念日なんで。」


「ちっ、なんだよ妻帯者は融通が利かねぇな。」



若い男が輸送車を運転し、

助手席に渋い顔をした先輩らしき男が腕を組んでドアにもたれかかっている。

いかにも酒好きそうなその男は飲み相手を失い拗ねていた。

順調に首都高に合流した2台は、地下へ潜るトンネルに吸い込まれていった。



「パキャ!!」


「わ!なんだ!?」



トンネルに入ったところで突然、

輸送車のフロントガラスに蜘蛛の巣状のヒビが入る。



「ぜ、全然前が見えません!」


「待て、今後ろに連絡する!」



運転手は視界を奪われ車が大きく左右に揺れた。

先輩らしき男が機動隊に連絡を入れようとしたその時――



「ガッシャーン!!!!」


「うわー!!!」



トンネル上部から何かがフロントガラスに突っ込んできた!

確認する間も無くその物体から光るものが助手席の男の喉を切り割く!

やっとその物体が黒ずくめの人間だと気付いた頃には

運転手も光るナイフで喉を切り裂かれ、輸送車をジャック!

防弾チョッキにヘルメットを被った2人は一瞬で殺された。

車は何度か左右に揺れたがすぐに体勢を戻す。



「おいおい寝ぼけてんじゃねーぞ、ったく。」



後ろの機動隊員からヤジが飛んでいる。

しかしフロントガラスにヒビが入ってからジャックされるまで約15秒!

大きな体にのっぺらの輸送車は割れたガラスを全て車内に散らし

後ろからは何も分かるわけがなかった。


輸送車はしばらく沈黙の後、突如猛スピードで走り出す!



「ん?動きがおかしい…?」



すぐ異変に気付いた機動隊の運転手はクラクションとパッシングで合図を送るが

何の反応もなくスピードを上げて引き離していく。

狭い首都高では横付けするにもなかなか上手くいかない。



「ダメだ!発砲許可をとれ!パンクさせろ!」


「こちら輸送車護衛隊、首都高〇〇線△△トンネル内で突然輸送車が暴走、

動きを止めて状況を調べるため、発砲許可願います。」



隊員の1人が上部に連絡、発砲する許可を申請する。

輸送車はトンネルを抜けてからも猛スピードで駆け続け、

最寄りの出口に向かった。



「くっ!こいつ、ラリっちまったのか?正常じゃねぇ!」


「――発砲許可が出ました!」


「出来る限り車体を近づけろ!あと応援も呼べ!」



観光バスほどの車幅を持つ輸送車は、銃弾を通さない頑丈な装甲に加え

後ろに窓がなく車内の状況が確認できない。

豹変した運転手が暴走しているのか、それともジャックされたのか…。

隙を突かれた隊員達は後手に回っていた。

しかし見逃すわけにはいかない。

公道では二次災害など危険が増幅するので高速道路上で止まらせるのが定石である。



「パァン!」


「キュキュキュキュ!!」


「どこ狙ってる!タイヤだぞ!」


「分かってます!」



車から身を乗り出して2人が発砲を試みるも輸送車は巧みに銃弾を躱す。

出口のある車線を陣取った輸送車は分離帯ギリギリでハンドルを切った。

食らい付くように後を追う機動隊。

暴走輸送車はETCゲートを破壊して公道に降り立ってしまった。

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