エピソード16 仲間を助ける為ならば
「それで、アーシェはどこ?」
クーガさんの風の魔法でひとまずボブさんのいるところまでやってきた。
ボブさんのいるところ。それは路地裏ということしかわからない場所。
「今妖精のチェリーちゃんに尾行してもらってる。でも相手は相当な手練れ。下手したらチェリーちゃんもアーシェもやられるくらいのね。」
「そんなのわかってるわよ。」
真面目な表情でそういうと
「ちーとシエルに国の方を任せるって伝えて。あと、あーからはなにか聞いてない?あの子に今回の黒幕を探してもらってるんだけど」
「あーからは何もきてないわね。……というか、私の勘だとアーシェをさらったそいつが今回の黒幕だと思うのよね」
「偶然ね。私も同じこと思ってたわ。まあ、同じ敵を追ってるんだから会えるでしょう。とりあえずそこはわかってるのよね。連れてって」
「わかったわ。こっちよ」
てっきり先ほどのように風の魔法でその場所へ行くのだと思ってた僕だけど、「何いってるの。魔法でいったらバレちゃうでしょ」とクーガさんに一蹴されてしまった。
そうして暫く歩いていくと、先ほどとなんら変わらないような路地裏についた。
「この先、反応はそこから来てる。」
「わかったわ。ここはあたしとアルに任せて。あんたは、ちーとシエルを手伝いにいってあげて。」
「了解」
そういうとボブさんはクーガさんと拳を付き合わせ、その後僕の方を見てまた拳をつきだす。
僕も、慌てて拳を付き合わせる。
すごい……。
仲間、みたいな……。
胸があたたかくなる。
「さ、この先にいるっていうならはやく行きましょ。どうせ、相手は私らが今の時点でアーシェが捕ったことに気づいてるとも思ってないだろうし。ここで追い討ちをかけることもできないだろうと思ってるでしょうね。それか、ゼウス派だと知ってるんだろうし、私らが人を殺さないと知って甘く見ているのよ。ま、最も相手が今回の黒幕と決まったわけじゃないけれど。アーシェを捕らえたんだもの。そいつの可能性は高いわよね」
「はい」
クーガさんの早口でまくしたてるその言葉に頭がついていかず、ただ、そう返事をする。
それで、どうやってアーシェさんを助けるのだろう。
そう思って尋ねようとしたらクーガさんからバッと口を塞がれる。
今は静かに、というように。
すると耳に入ってくる会話。
「こいつ……私が……したところを見たのよ」
「……ならば、殺すか?」
これは……。
直感的に悟る。
僕たちの探していたひとだ。
「好きに、そうしなさい。私はひとまず帰るわ。あの子にしっかりと恐怖を刻みこめたみたいだしね」
そう聞いた瞬間、ああこの人逃げる気だな、とは思った。
けど、まさか、軍師であるクーガさんが、いつも冷静なクーガさんが、いきなり飛び出していくとはおもわなかった。
きっと、もう、許せなかったんだと思う。
昔のことも、今の仲間を傷つけたことも、みんな。
僕も慌てて物陰から飛び出ると……。
驚愕した様子のクーガさんがいた。
そしてその目の前には縛られて地に足をついた様子のアーシェさんと、そのすぐ側にいでたつ一人の男性。
「プラウド……」
そう呟くクーガさん。
プラウド……。
それって、昨日クーガさんが話していた昔の話にでてきた、団長であり国王だったクラウドさんを殺した、クラウドさんの弟さん……だよな。
兄の首をもって紫炎の業火にはいったという……。
呆然として動けずにいるクーガさんを見かねて、慌てて前に出る僕。
目の前で縄で縛られ、意識を失っているのかぐったりした様子のアーシェさんをみて胸が痛む。
「久しぶりだな。クーガ」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるプラウドさん。
その姿をみて忘れかけるけど、この人、元々はすごく物静かな人で、あの日のことも嘘みたいだったとみんないってたな。
今僕がみているこの姿からは逆に物静かだったというその姿が思い浮かばない。
「こいつも……」
そいうと素早い動作で懐から鋭いナイフを取り出す。
そしてそれを一切の躊躇いなくアーシェさんの垂れていた顔をあげさせ、その露わになった白い首にあてがう。
よく見るともう、刃が入ってるように見える。
けれど、血が流れていないから、刃がはいってるわけではない……のかな。
そして僕は、この場でどんな行動をとればいいんだろう。
そう、惑ってしまう。
本当ははダメだってわかってる。
こんな時に惑うなんてもってのほかだって。
でも……。
「……さよならだ」
そんな掛け声とともに、いよいよ、グサリと刃をいれる、プラウド。
人が殺される。
そんな場面、見るのは初めてで。
息も止まって、うまく喋ることもできずに、ただ、見ていた。
けど……。
「なっ……」
プラウドが刃を抜き終えた瞬間、アーシェさんは消え去る。
……どういう……ことだろう。
呆然としてその様を見ていると
「甘くみてもらっては困るな」
凛と張った、よく見知った人の声が聞こえてくる。
「かの者に伝えよ。わしに恐怖を刻みこめた?笑わせるな、とな」
振り返った。
いた。やっぱりいた。
予想していたその人がいつもみたく、自信満々で。
いつだって、根拠もなさそうで根拠があるような、不思議なその人が。
「お前……誰だ!」
自分の思う通りにならなかったことが相当怒りの琴線に触れたのだろう。
怒りでプルプルと震えるプラウドさん。
「お主に名乗る名はない。」
そういうとこれみよがしにあっかんべーをするカヤ。
それって作戦の一部……なのかな。
というか、こんな挑発的な行為、作戦でなきゃ困るんだけれど……。
「お主らの作戦など筒抜けじゃからな。事前にアーシェの偽物を仕込んでおいたのじゃよ。そうすれば貴様らと接触する機会ができるからの。気づいてないようじゃがそれは高度な幻影のアーシェに過ぎない」
「……くそがっ!」
最後にそう叫ぶと、早々にその場を去るプラウド。
幻影と言われたアーシェさん?は確かにもう消えている。
幻影だったのか。それにしても現実味があって怖かったな。
「追いかけますか?」
近くにいるクーガさんに顔を向ける。
クーガさんは
「……今はいいわ。」
と一言僕の方を見て伝えるとカヤの方を見やる。
「それにしても、カヤちゃん、よく復活できたわね。あなたが動くことができなくなったと聞いて、もう二度とやるまいと思っていた軍師まがいなことをやらせてもらったけれど……。やっぱり難しいわね。私には無理だわ」
「迷惑をかけてすまない。……負けてられないと思ったのじゃ。本物のアーシェは城から逃げ出す際に窓を割って外に出たそうでな。顔に怪我を負ってある。誰かを騙すにはまず、味方から、ということでお主らには黙っておったのじゃが。早速アーシェを治療してやってはくれんだろうか」
「わかったわ。ボブに伝えて、そこからちーに伝えてもらうわね。」
「あと、お主はやはり軍師に向いておるよ。見ておったんじゃ。お主がアルに宣言させたことも聞いていた。お主は広い視野と、機転の良さを持っている。それこそわしにはないくらいのすごいものをな。じゃから、無理だなどと決めつけないでおくれ。共に知恵を絞ろう」
「……ありがと、カヤちゃん。」
「わしは本音しかいわんからな。お礼はいらんぞ。あと、アル」
急に話を振られて、慌てて背筋をピンと伸ばす僕。
「よくがんばったな。素晴らしい活躍だったぞ」
そういわれて、ほんとにそうだろうかなんて思いながらも
「ありがとう」
と答える。
「それにしたってカヤちゃんは強いわね。」
にいっと笑ってそういうクーガさんに、カヤもにいっと笑いかえす。
この二人、なんだか、どことなく似てる。
「おうともさなのじゃ。恐怖で動けなくなったというのも、作戦のうちじゃし、な」
声音から察するに作戦のうちというのは嘘みたいだ。
恐怖で動けなくなった……って。
このカヤが、そんなことになってたのか……。
「さあ、行こう」
そういうカヤの声には強さだけじゃなくて、ちゃんと弱さもあるような気がした。
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