エピソード14 辿り着きたくない答え

そうしたかったのにそうしたくなかった。


なんだかもうよくわからない。


グシャグシャで苦しくて吐きだしそうな胸の内。


でてきそうででてこない。


つっかかって何もでてこない。


胸をおさえてただ、悶え苦しむ。


涙は枯れて、もうでてこない。


すぐそばで燃えている城から流れてくる煙でもう息もほとんどできていない。


せっかく助けてもらったけど、もう、動く気力もない。



本当に……僕の家族はもう亡くなってしまったのか?……。


「おーい!アルくーーんっ」

遠くから不意に聞こえてくる、聞き覚えのある声。


顔を上げる気力もないまま俯いていたら、不意に後ろから何かに服を掴まれる感覚。そして次の瞬間には地から足が離れた。



「足くじいて歩けなかったのけ?」


僕のことを鷹の足で掴みながらその体には不似合いな鷹の翼で舞うあーちゃんさんがそうたずねてくる。


「……はい」


「そっか。つらたんだね」


「……はい」


改めて、この場所から自分の住んでいた場所を見てみる。


すごく大きくて、広くて仕方なかった。


大きくて広いくせに、逃げ場なんてのも一つもない。


そんな場所。


焼けたその跡をみていたら、本当にあそこにそれがあったのかという疑問のようなものが首を傾げさせてきた。


「……死んだ……って」

「ん?なんかいった?」

不意に声がでてしまって、慌てていえ、なんでも、なんて答えながら頭の中をある考えがまわる。


あの女の子は、父上や母上、兄妹たちが、死んだといった。


だけど、なぜそんなに明確にいうことができるんだろう。


火事で亡くなってしまった可能性はある。


でも、逃げ出した可能性だってある。

むしろ、王族なのだから、そちらの可能性の方が高いと思う。


じゃあ、なぜ?


そう思ったとき、一つの答えが導きだされるけど、でも、そんなはずはないと慌ててその考えを振り払う。そうしないと耐えられそうにない。


だって、ありえない。


彼女が僕の家族を殺したなんて……。


でも、どう考えてもそうなってしまう。


死んだ、なんてハッキリしたことが言えるのは……。

もちろん、目の前でその光景を見たという可能性もある。でもなぜか、直感的な何かが、彼女が僕の家族を殺した可能性を支持している。



「アルくん?アルくん?」


腹の奥底から、込み上げてくるものがあって、ああ、吐く、と思う。


慌てて押さえ込もうとするけど、押さえ込もうとすればするほどにそれは込み上がってくる。


それを見かねてくれたのか緊急着地してくれるあーちゃんさん。



着地したその場所は、城から少し離れた、大通り。


もうみんな逃げ出したようで大きな混乱も人だかりもない、だから、開けたその場所に僕を下ろしたのだろう。


なんて考える余裕ぐらいはでてくる。


けど……。


「アルくん」

不意に僕の頭に触れるあーちゃんさんの手。


それが妙に優しくてあったかくて、くすぐったくなる。


「おっとっと」

だけどその手はすぐに無造作で雑なものになる。

「危ない危ない。昔の癖だね、全く」

なんていってから

「体調は大丈夫かい」

そういって僕の顔を覗き込んでくるあーちゃんさん。


「はい、多分」

「そっか。とりあえずここで待ってな。ちーくん呼んでくるから」

「でも、そんな場合じゃ」

「そんな場合でもあるよ、今」

「……はい」

有無を言わさぬその感じにやがてそう答える。


「よし。じゃあ、アルくんはそこで待ってな。すぐ戻るからさ」

そういうとあーちゃんさんはさっとその場を離れる。


一人残された僕はなんとなく自分の手のひらを見つめた。


僕は……なにもしていない。


そして……。


見やるのは赤黒い炎が高々と燃え上がり煙がが溢れでて、もう、跡形もない城の姿。



僕は……間違ったのだろうか?


わからない。


わからないけど、ただ……。



ギュッと拳を握る。



僕は無力だ。


それだけはハッキリとわかった。





「よおーし!離すよお」

そんな間延びした声が聞こえてきてハッとして上空を見やれば、あーちゃんさんの鷹の足に首根っこを掴まれたちーくんさんとばっちり目が合う。

思わず目をそらしたら上空から

「おい、目えそらしてんじゃねえぞアルフレッド!」

なんて声が降ってくる。

その言葉に思わず身構えていたら、次の瞬間、べたっという嫌な音と共に、ちーくんさんが降ってきた。

「くっそ……」

顔を上げたちーくんさんはすごい顔。

「てめえ!もっと降ろし方ってもんがあるだろうがっ」

僕の方に怒っているかと思ったら、上空を見上げてあーちゃんさんに対してそう叫ぶ。

「てへへのぺろぺろ」

そういって、当事者ではない僕ですら、イラっとするような表情を浮かべるあーちゃんさん。

「……んで、お前はどこケガしてんだよ」

相変わらず鋭い瞳をこちらによこしてそういうちーくんさんに、そういえば僕ってどこか怪我してたっけ?と思う。

「アルくん、足挫いて動けなかったのさ。治療お願いねー。」

そんなあーちゃんさんの言葉が言い負えられてすぐ

「私はちょいとって、おお。チェリーちゃん」

なんていって自身の肩のあたりを見やるあーちゃんさん。

そしてその肩にはなにか、柔らかい光を放つなにかがいる。

「なにか、ボブからの伝達かい?」

そう光に向かってたずねるあーちゃんさん。

「……あれって……」

思わずそう呟く僕に、ちーくんさんは少し呆れた表情であーちゃんさんを見やりながら

「ボブのやつが情報伝達係ってのは知ってるよな?」

という。

「はい」

「でも、あいつ一人で全てを見聞きし、なおかつ全てに情報を伝えるなんて不可能だ」

「はい……」

「だから、あれだよ」

そういうと僕の足をしげしげと見つめ出すちーくんさん。


「その、あれって、あの光のことなんですか?」

「ああ。ボブは見かけによらず妖精使いってやつだからな」

「えっ?!じゃあ、あれは、妖精?!……」

「ああ。つうか、お前、これ本当に怪我してんのか?挫いてるように見えねえんだけど」

「え、あ……はい。」

そういえば、呆然として動けずにいたらあーちゃんさんがきて、「足を挫いて動けなかったのか」と聞かれて、「はい」なんて答えていた。

「 曖昧なやつだな。まあいいわ。足以外に怪我見つけた」

そういうといきなり僕の腕をガシリと掴む。

「ここ。切れてる」

そういわれて見れば、切り傷できていた。

でもせいぜい小指ぐらいの長さのそれほど深くはない傷。

あの窓から飛び出たときにやったんだろうか。


気がつかなかった。



「取り込み中ごめんよ。今クーくんからの伝言きた。アルくん連れてきてってさ。」

そう言ってこの状況には見合わない明るい笑顔を見せるあーちゃん。


「「ここから形勢逆転だな(よ)」」


そう力強くいう二人に不安に満ち満ちていた心が、少しだけ、落ち着いた……。

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