エピソード10 前進
「……なるほどのう……。お主らの話はようくわかった。わかった上で言わせてもらう。お主らはアホか」
「なっ……」
「はあ?」
カヤの言葉に怪訝そうに返される声。
その中に新しい声があることに気づく。
「慌てて駆けつけてきたら、昔話してる上にアホって。」
「聞き捨てならねえな」
「クーガさん……。ちーくんさん……」
振り返ると二人がいて、とても怖い顔をしていた。
カヤ……やめようよ、といいたくなる雰囲気の中、カヤは変わらずに口を開く。
「まず、先に言っとく。わしはお主らの一万倍はアホなアホじゃ。大切な者らを守れなかったうえ、その場から逃げ出し、終いには記憶まで失くした、大バカ者の中の大バカ者なのじゃ。」
そんな、何気ないようにも聞こえる声音の言葉に、驚く。
カヤにも……クーガさんたちと同じような過去が……。
「じゃからこそ、言わせてもらう。おぬしらにはわしほどのアホになってもらいたくはないし、上のアホじゃからこそわかることもあるのじゃ」
カヤのいうアホは、謙遜とかそんなものじゃないって聞いてて思う。
カヤの言葉はいつだって本気だ。
「一人を立てすぎるな。心が追い込まれてしまうぞ。そのクラウドとやらのことじゃがな、話を聞く限りかなり自分を追い詰めていたように感じる。弟に殺された云々も、弟に頼んで殺された気すらするぞ。」
「……あ……あんた、なにいって」
「まだ話は終わっておらぬ。おぬしらは結局クラウドを立てすぎたのじゃ。ある程度平等でないと話は進まぬ。そして、ぬしらは敵を見誤っておるじゃろう。確かに宣戦布告したのは紫炎の業火じゃ。しかし、主らの国を滅ぼしたのも、その宣戦布告をしてきた本当の主も、紫炎の業火とは全く無縁の者とみえる」
「はあ?……あいつらの裏に誰かいるっていいたいわけ?」
「いかにも。 そして主らは実に情けない」
「なっ」
「現実から目を背けすぎじゃ。幹部がそれではどうにもならん」
「あんた、さっきからいい加減に」
「クーガ。お主なら意味がわかるのではないか?」
「……そうね」
口元に手を当て、険しい顔でそういうクーガさん。
そんなクーガさんの様子を受けてかブーイングしていたみんなが黙り込む。
その様子に、クーガさんに対する信頼の厚さが感じられる。
「あのあとすぐに、なんとか態勢を立て直し攻め込むことが上策であったこと。そして、クラウドに……無理させてたってことも。どっちもわかるわ」
「クーガ」
諌めるようなシエルさんにクーガさんは冷静な瞳を向ける。
「シエルも……みんなも……薄々勘付いてたんじゃないの」
そんなクーガさんの言葉に、みんな黙り込む。
と、そこでカヤがポンポンと手を叩く。
「わしからの指摘は以上じゃ。さ、もうどうしようもない過去の話は忘れよう」
「はあ?あんた、いい加減自分勝手すぎやしない?大体、あんたからいいだしたことなのに」
閉じかけていた口をまた開き、険しい顔をカヤに向けるシエルさん。
「うむ。最もじゃな。しかし、わしがこの話をしたのはあくまで過去の過ちを知り、それを未来に活かして欲しいからじゃよ。真っ向から見ないととわからんじゃろ。そして、お主らは今その事実を真っ向から見た。そして考えた。これで、同じようなことがこれから起こることはない。そうすればお主らが同じことを繰り返し悩むこともない。」
そんなカヤの言葉に、驚く。
そんなことまで考えていたのか……。
「……正直、さっきまでのお前は俺らを挑発しようとしてるようにしか感じなかったんだが」
そういうちーくんさんは、初めて見た呆れ顔。
「そうかの。にしても、時間がないぞ。ここにアルフレッドとあーとくるとき、あーのその魔導研究の一つであろう変化の鷹をつかってきたのじゃが、あれは敵に確実にバレたじゃろうし」
「……ちょっと待って。あー、あんた今の話ほんと?鷹使ってここまできたって」
身を乗り出してそういうシエルさんにあーちゃんさんは近くにあった椅子に座り足をぶらぶらさせながら
「んー?そだよ。だってその方が早いし、途中で迷っちゃったからさあ」
という。
そんなあーちゃんさんの言葉のすぐあとに、五人分のため息が漏れる。
「あー、あれだけ注意しろっていったのに」
「え?ああー、そっか!敵に見つかるからやめろって言われてたんだよね。いやあ、新しい団長が見つかって嬉しくて」
そんな、何気ない言葉に胸があたたかくなる。
僕の存在を嬉しく思ってくれる人がいるんだ。
「まあ、終わったことじゃ。とりあえず、今の時刻を知りたい」
「今は夕刻だよ。」
小さな窓の外をみやり、そう答えるアーシェさん。
「そうか。では、明日の朝には攻め込もう」
そんなカヤの言葉に、シエルさんが悲鳴に近い声を上げる。
「あんた、正気?戦をおこすんでしょ?そのための準備に必要な時間がどれだけか」
「うむ、知っておる。しかし今はそんな悠長にしてられん。敵の虚をつき、なおかつやつらの魔の手から逃れるにはそれしかない。あーの姿を確認したのならこの小屋やあの酒場のことを認識されている可能性は高い。そして、あーの姿を確認したかどうかじゃが、皆殺しがモットーのやつらのことじゃ。四六時中目を光らせているはず。見つかった可能性が高い。」
「……なるほど。口だけで使えねえやつではねえんだな。」
ぼそりとそういうちーくんさん。
「わしとアルフレッドを仲間に加えるか、軍師団長としてくれるかはこの際どうでも良い。今はただ自分たちの最善を尽くすべきじゃ。お主らはやつらの魔の手から逃げ、かつやつらの虚をつき、やつらの支配地を攻め勝ち取り雪辱を果たし、わしとアルフレッドもまた新しい居場所を得るために頑張ろう」
「……図々しいあんたのことだから、もう勝手に自分のこと黄昏の平野団の軍師って決めつけてるのかと思った」
クーガさんが、初めて険しい顔をくずし、クスリと笑いながらそういう。
「流石にそこまで空気の読めないことはせん。それに、信を得ずに勝手に軍師というなど、そんなの独りよがりにすぎん」
「それ、あんたがいう?」
そのあとに、自然と笑いが起きる。
僕も、自然と笑ってた。
笑い終えたあとのみんなの顔はどこか晴れやかだ。
「そうじゃ。あと一つ。わしの思想のことじゃが」
カヤがバッと手を上げて、真面目な顔をして語り出す。
「わしは世にも稀なゼウス派の派閥のものじゃ。……というか、派閥云々の前にわしは誰一人死なせたくないし、殺したくもない。」
「死なせたくないし、殺したくもないって……」
「それじゃあ戦なんてできない。そういいたいのじゃろ?しかし、本当にそうだろうか」
カヤは殊更に真剣な瞳をしてそういう。
「死なせなくては勝てないのか?殺さなくては勝てないのか?いんや、違う。それはそういう道があるというだけで、殺さない道も確かにある。その道を勝利に繋げるのが、わしの信念じゃ」
そんな言葉の後、暫しの珍幕が流れる。
「……クラウド……あいつの理想も、あんたと似てる。方法は違うけど。あいつも極に願っていた。人が殺されないこと。大切な人が死なないこと。そのために戦ってた。全然違うけど、でも、似てる」
そんな言葉にカヤはニイッと嬉しそうに笑ってみせた。
「そうか」
そういって。
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