涙の先に

「で、あんたは、みんなとの会議では息巻いて勝つぞだのなんだの大きいこといってたくせに終わった途端にそれなのね」

「うっせえ……。つうか、お前は知ってんだろ。俺がどんだけ小心者か」

「……」

「おい。無視かよ」

「あんたの理想。誰も死なない世の中を作りたい。もうこんな思いを誰にもさせたくない。だから、その為にも、ポセイドン派として、団としてやっていく。」

「……ああ」

「その為には、奴らは討つべき敵よ。あんたはそんなガタイ良くて厳ついくせに人を傷つけるのが怖いんでしょう」

「……」

「傷つけることを怖がっていたら、何も変えられないのよ。理想を叶える為には、リスクが伴うの。それを回避してたら、いつまで経っても変わらないわ」


夜。クラウドの部屋。

クーガとクラウドは、二人で話し込んでいた。


「みんなあんたを慕ってる。あんたは、ただ、胸を張って立ってればいいの」


ベッドに突っ伏していたクラウドが顔をあげる。


「ありがとな……」

やがてポツリと、そうこぼす。


「……別に。あんたが弱気なこといってたらいつでもあたしがケツひっぱたくから。」

「そうだったな。お前もさ、あんまり気負うなよ。軍師なんて面倒なの押し付けて悪いな。けど、お前ほど知恵があって判断能力もあって実戦経験もあるやつ他にいなくてな。」

「いいのよ、そんなの。じゃ、そろそろおやすみ」

「ああ、おやすみ。……お前、あーにもそんな感じでいけたらいらいのにな」

「……なんかいった?」

「いんや、なにも。じゃあな、おやすみー」

「おやすみ」






紫炎の業火からの宣戦布告を受けた黄昏の平野団は、来たるその日、その場所に立ち並んでいた。


目の前にも、立ち並ぶ紫炎の業火の者ら。


裏もなにもない正々堂々とした戦だ。


「でも、だからって、本当に正々堂々いくわけにはいかないわ」


黄昏の平野団。本陣。

隊を率いる隊長たちが集い、最後の会議をしている。


「昨日いった作戦通り。みんな気を抜かないでいきましょ。大丈夫よ。実質私らの方が戦力は上。紫炎の業火に対抗できるのなんて私らぐらいだわ。ここで奴らを倒せば」

そこまでいって、大将席に座るクラウドを見やるクーガ。

「ん?ああ、大儲けだよな」

そんな言葉にクーガ、シエル、ちーがあからさまにため息を吐く。

これだからクラウドは、とみんながぼやくなか、クラウドは後ろを見た。

「大丈夫か?怖かったらすぐ逃げろよ」

そう、声をかけるその人は、

「……平気……」

短くそれだけ返す。

彼はクラウドの弟にして、クラウドにとって唯一の家族、プラウド。

弟の様子に心配そうな表情を見せたクラウドだが、すぐに前を向く。

「さあ、俺たちの理想への第一歩だ」

「「おう!!」」

そんなクラウドと仲間たちの言葉が高らかに響いた。









戦の優勢はすぐに定まった。

黄昏の平野団だ。

彼らは猛烈な勢いで天下の紫炎の業火を攻めたてた。

神格化までされた12の精鋭の生き残りたち。

あー、クーガ、ちー、ボブ、アーシェ、シエルたちの攻めは特に凄まじかった。

そして、クラウドという存在がみんなを強くしていた。

黄昏の平野団にいる者らはみな、彼を慕い、本気で彼の理想を叶えようとしているのだった。


そんな黄昏の平野団に、天下の紫炎の業火もなす術がないと思われた。

しかし……。







「怪我人あと五人くる。あと、あーが左翼、深くまではいった。この調子だとあと少しで中心までたどり着くわ」

本部に駆け込んできたボブがそういいながらお姫様抱っこしていた怪我人を下ろす。

するとすぐそこに駆け寄り、治癒術をかけるちー。

彼は治癒術のスペシャリストなのだ。

とはいっても絶え間ない怪我人の治療にさすがに疲れが見え隠れしてきていたが。

「ある程度の怪我の子は戦場の方でシエルが手当と治癒物を食べさせてあげてる。アーシェは右翼で少し苦戦中。敵の幹部にあたったみたい。クーガから本部への指示は今の所ないわ」

それを聞いたクラウドは重い鎧をガシャガシャといわせながら立ち上がる。

「わかった。そろそろ俺もでよう」

「……そうね。そろそろ頃合いかも。でも、無茶はしないで。ある程度は片付いてるから安心して進めるとは思うけど。じゃあ」

そういうとまた駆けていくボブ。

彼はいつも戦場ではこうして伝達係の任を務めていた。

彼がうまく立ち回り、情報を正確に伝えることも黄昏の平野団の強さに繋がっていた。

「プラウド、いくか」

「……はい……」

そうして、クラウドは弟と共に立ち上がった。










「今回は存外余裕かもね」

普段、当たり前のようにそこにある人の腕を獣の腕へと変化させ、来たる敵をバサハザと倒していたあーはそんなことを呟いた。


現に今、黄昏の平野団はあと少しで勝利するところにまできている。


勝利したら、宴をするかな。

みんなで楽しくどんちゃん騒ぎ。

久しぶりかもしれないな。


悲しいことが沢山あったけどやっと心から笑える時がくるのかな。



あーだけでなく、みんなが、黄昏の平野団のみんながそんなことを思っていた。


なのに……。




「ん?ボブ」

ボブの存在に気付き、一旦後ろに引くあー。

「どうしたの……なんか、顔青」

「クラウドが……」






クラウドが死んだ。



快進撃を続けていた黄昏の平野団にその一報が入った途端、攻勢は崩れ、彼らは紫炎の業火からの猛反撃にあう。




しかも、クラウドを、愛すべき団長を無慈悲にも殺したのは、弟のプラウドだった……。



その衝撃は、簡単に陣を立て直せるようなものではなかった。



そして、プラウドは実の兄を殺しただけでなく、後方、黄昏の平野団内部から次々と同じ城で暮らした者や元国民らを殺していった。


普段からおとなしく目立たない彼だったが、鬼ような勢いであったという。





黄昏の平野団はあっという間に追い詰められた。



多くの者が、命を落とした。



「逃げるのよ」

混沌とした中で、クーガは必死に考えて、そう、ボブに伝えた。


ボブももう何も考えられなくて、ただそれを伝えてまわった。



はやくこここから逃げること。

黄昏の平野団の基地であったあの古城には帰らないこと。

とにかく身を潜めること。


そしていつかまた集まってクラウドの理想を果たそう、ということ……。



今はただ、命をつなごうと、そう、伝えた。







そうして、戦は終わった。


逃げ切れた者。逃げ切れなかった者。

そんなの御構い無しに凄惨たる光景を残し、終わった。


そして、黄昏の平野団の者らの心に深い傷を残し、終わった……。









「くそが、くそが、くそが、くそがっ!!」「ちーくん、静かに。バレちゃうよ」

「もうバレたって構わねえよ。あのくそプラウドの野郎。クラウドから受けた恩義も忘れて」

「……とりあえず、カナンの街とズーテの街の方に、私の隊の子らは避難させたわ。でもどうせ紫炎の業火のやつらの手がすぐにまわるでしょうから。……クーガ、どうする」

「……敢えてやつらの支配地であるデメテル地方に潜り込む」

「いいんじゃない。虚をついてると思うわ」

「そうだね。情報をうまく回してこれ以上被害をださないようにしよう」


その言葉を最後に、なんとも言えない沈黙が辺りをつつむ。


なにも、言えなかった。

みんな。



本当は、クラウドや、仲間の亡骸を丁重に処置してあげたかった。



でも、そんなことも、できなかった。





そうして、彼らは生き残った仲間たちをデメテル地方に避難させ、自身らもデメテル地方へと移った。


彼らは特段強い力を持っていて敵にその存在を勘付かれやすいことが予想できたので、みんなとは別に行動することにした。


みんなの安全を見守りながら、片方は酒場で働き、片方は森の中の小さな小屋で過ごした。


クラウドのこと。

戦のことは、自然と、口に出してはいけない、禁句のようなものになっていた。


そんなもの、なかったように。


今この日を乗り越えたらまたクラウドに会えるかのように彼らは、過ごした。


偽りの日々を。

隠れ身の日々を。


そして集った。

新たなる団長と新たなる軍師を。

まるで無意識に救いを求めるように。


クーガは、もう、軍師であることを捨てた。


プラウドのことも自身が予想できていたらと何度も考えた。


プラウドは結果的に彼らを裏切り、クラウドの首を手に紫炎の業火にはいり幹部になったそうだった。



そんな考えるだけで腹立たしいことも、自身が軍師としてもっと考えていたら……。

クーガには、そう思えてならなかった。





そうして、そんな彼らの元に、予期せぬ来訪者が……カヤとアルフレッドが現れるのである……。

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